ハローワーク中心の採用から、教えられる職人と管理人材の確保を考え始めた東北地方の電気工事会社
東北地方で、照明更新や電圧変更、新築・改修など幅広い電気工事を手がける会社が、人員増強を検討していました。これまでの採用活動はハローワークが中心で、民間の求人媒体にはまだ本格的に掲載していません。
必要としているのは、単に現場へ出られる人ではありません。多岐にわたる工事を若手へ教えられる経験者と、工程や人員配置を担える管理側の人材です。
担当者からも、「現場で教えることができる職人側の人と、管理側の人がそれぞれ必要だと思います。ただ、ピンポイントで募集するのは難しそうです」という声がありました。
電気工事と一口に言っても、現場ごとに作業内容は変わります。初めて経験する作業もあり、誰かが常に一から教えてくれるわけではありません。そのため、採用人数を増やすだけでなく、施工品質や管理体制の強化につながる人材を迎える必要があります。
採用で先に決めるべきなのは掲載媒体ではなく、「誰に来てほしいか」と「その人が自社を選ぶ理由」です。
求人媒体へ掲載しても、他社と同じ言葉では自社の求人が埋もれる状態
建設業の求人では、「未経験歓迎」「資格取得支援」「アットホームな職場」「手に職がつく」といった表現がよく使われます。どれも間違いではありませんが、同じ地域の会社が似た言葉を並べれば、応募者から見た違いは小さくなります。
求人媒体が増えた現在は、求人を出すだけで見つけてもらえるとは限りません。先に掲載先を決めて広告費をかけても、原稿の中身が他社と同じなら、表示回数は増えても応募につながりにくいことがあります。
特に、経験者や管理人材のように採用対象が限られる場合、幅広い人へ無難に呼びかける求人は相性がよくありません。求める人物像が曖昧なままでは、応募が来ても必要な経験と合わなかったり、入社後に仕事内容や働き方の認識がずれたりします。
採用担当を兼務する社員が、媒体選定、求人原稿、応募対応を一人で抱えるケースも少なくありません。採用の軸がないまま試行錯誤すると、時間と費用を使ったものの、何が良くて何が悪かったのか判断できない状態になりがちです。
「多くの人に好かれる求人」より、「自社に合う一部の人が立ち止まる求人」を目指すことが、埋もれないための出発点です。
社長が気づいていない入社理由と仕事の誇りが、既存社員の中に残っている状態
自社の強みを考えるとき、経営側だけで話すと、待遇、休日、資格制度、安定性といった分かりやすい条件に寄りやすくなります。しかし、応募者を動かす材料は、既存社員が入社し、働き続けている理由の中にあることがあります。
ある東北地方の専門工事会社は、汚れやすく、一般には良い印象を持たれにくい仕事を担っていました。求人を掲載しても反応が乏しく、経営側も「どうせうちには来ない」と感じていた会社です。
そこで社員へ、なぜ入社したのか、なぜ続けているのか、仕事のどこに誇りや面白さを感じるのかを聞きました。すると、生活に欠かせないインフラを守る誇りに加え、「普通の会社では経験できない場所に入る仕事自体が好き」という声が見えてきました。
この会社は、仕事の特殊性を隠して万人受けを狙うのではなく、そのまま求人の中心に置きました。ほとんどの人が通り過ぎても、その特殊性に強く興味を持つ人へ届く表現に変えたのです。媒体を大きく変えなくても、求人の見せ方を変えたことで、継続的な採用につながりました。
ここで重要なのは、きれいなキャッチコピーを考えたことではありません。社員への聞き取りによって、会社の内側では当たり前になっていた魅力を発見したことです。
同じように、電気工事会社であれば、社員が魅力に感じている点は会社ごとに異なります。扱う工事の幅広さかもしれませんし、難しい現場を任されること、技術を磨けること、裁量を持って働けることかもしれません。経営側が弱みだと思っている特徴が、特定の人には入社理由になる場合もあります。
また、応募者は求人票だけを見ているわけではありません。地域での評判、現場での振る舞い、作業着の印象なども、会社の見え方をつくります。
東海地方のある専門工事会社では、地域から「近寄りにくい」という印象を持たれていました。そこで、社外での振る舞いや服装を見直し、会社としての見え方を整えました。さらに、働き方の異なる募集コースを設けたことで、採用の入り口を広げています。会社が成長した後にはユニフォームも統一し、地域からの見え方が「怖い」から「格好いい」へ変わり、高校卒業者の採用にもつながりました。
自社の採用力は、求人媒体の中だけではなく、社員の実感と地域からの日常的な見え方によってつくられます。
社員インタビューで強みを抽出し、人材別の求人メッセージと働き方へ落とし込む進め方
自社の強みは、会議室でキャッチコピーを考えるところから始めるより、既存社員の言葉を集める方が見つけやすくなります。進め方は、大きく四つに分けられます。
1.採りたい人材を役割ごとに分ける
最初に、「人手が足りないから現場社員を募集する」というまとめ方をやめ、必要な役割を分けます。
今回の電気工事会社であれば、少なくとも次の二つです。
- 幅広い工事経験があり、若手へ作業を教えられる職人
- 工程、人員配置、現場の進み具合を管理できる人材
この二者では、転職先を選ぶ理由が同じとは限りません。教えられる職人には、経験を生かせる現場や後進育成への期待が重要かもしれません。一方、管理人材には、任される範囲や会社の体制づくりに関われることが響く可能性があります。
この段階では、年齢などの表面的な条件だけでなく、入社後に任せたい役割まで整理します。求人原稿は、募集職種ではなく「入社後に担ってほしい役割」から逆算すると具体的になります。
2.既存社員へ入社理由と定着理由を聞く
続いて、経営者や採用担当者だけで強みを決めず、現在働いている社員へ聞き取ります。確認したいのは、次のような内容です。
- なぜこの会社へ入社したのか
- 入社前に気になっていたことは何か
- 実際に働いてみて良かったことは何か
- 他社との違いをどこに感じるか
- 大変でも続けている理由は何か
- 仕事のどこに誇りや面白さを感じるか
- どのような人なら、この会社に合いそうか
ポイントは、良い面だけを聞かないことです。仕事の大変さと、それでも続ける理由をセットで聞くと、求人で伝えるべき現実と魅力が見えてきます。
また、職人、管理担当、若手など、立場の違う社員へ聞くことで、役割別の魅力を整理できます。複数人から同じ趣旨の言葉が出れば、それは会社として再現性のある強みである可能性が高いでしょう。
3.強みを狙う人材向けのメッセージに変える
社員から集めた言葉は、そのまま並べるだけでは求人になりません。採りたい人材が「自分に関係がある」と感じられる表現へ変換します。
たとえば「さまざまな電気工事を経験できる」という特徴が見つかった場合も、誰にでも同じ伝え方をする必要はありません。
教えられる職人を狙うなら、幅広い経験を若手育成に生かせることを中心にします。管理人材を狙うなら、工事の幅が広いからこそ、工程や配置を整える役割が必要であることを伝えます。
求人では、魅力だけでなく任せたい役割も明らかにします。入社後の期待が具体的であれば、応募者も自分の経験が生かせるかを判断しやすくなります。
会社の特徴だけを語るのではなく、「その特徴が、採りたい人にとってどのような価値になるか」まで翻訳することが必要です。
4.働き方と地域からの見え方を求人メッセージに合わせる
求人の表現だけを変えても、実際の働き方と一致していなければ定着にはつながりません。社員への聞き取りで働き方への需要が分かれた場合は、募集の入り口を分ける方法もあります。
たとえば、勤務日数や収入を重視してしっかり働きたい人向けのコースと、標準的な勤務体系で生活との両立を重視する人向けのコースです。入社後も本人の希望や生活の変化に合わせて選び直せる仕組みがあれば、採用時の間口と定着の両方を考えられます。
ただし、コース名だけを二つ用意するのでは不十分です。勤務条件、給与体系、現場への入り方が実態として分かれているかを確認したうえで設計します。
地域からの見え方も同様です。作業着、現場や社外での振る舞いなど、普段の印象と求人で伝える会社像が一致しているかを見直します。特に地域採用や高卒採用では、求人票を見る前から会社の印象が形成されていることがあります。
実行順は、次の流れが進めやすいでしょう。
- 必要な人材を役割別に定義する
- 既存社員へインタビューする
- 入社理由、定着理由、誇り、独自性を分類する
- 人材ごとに求人メッセージを作る
- メッセージと実際の働き方にずれがないか確認する
- その人材に届きやすい媒体を選ぶ
- 応募状況を見ながら表現と入り口を見直す
媒体選びは最後です。自社の強み、狙う人材、働き方を先にそろえることで、掲載後の反応を検証しやすくなります。
まとめ
求人を出しても埋もれるとき、必ずしも掲載費用や知名度だけが原因とは限りません。他社と似た言葉を使い、誰に来てほしいのかが見えない求人になっていることがあります。
自社らしい採用メッセージの材料は、既存社員の中にあります。入社理由、定着理由、仕事の誇り、他社との違いを聞き、採りたい人材にとっての価値へ置き換えることが第一歩です。
そのうえで、異なる働き方を求める人に合わせて募集の入り口を設計し、地域からの見え方まで整えます。求人票だけを上手に見せるのではなく、実際の会社との一貫性をつくることが、応募後の定着にもつながります。
応募者に選ばれる強みは、新しくつくるものとは限りません。社員がすでに感じている魅力を見つけ、必要な人へ届く言葉にすることから始められます。
自社に合う採用の強みと打ち出し方を整理したい方へ
「社員に何を聞けばよいか分からない」「職人と管理人材で求人をどう分けるべきか」「うちの場合、何が強みになるのか」といった段階でも、採用の入り口は整理できます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。採用では、求める人材の定義、社員への聞き取り、求人メッセージや働き方の設計など、自社に合った進め方を一緒に検討します。
まだ採用を始めるか決めていない場合も、まずは何から整理すべきかを確認する場としてご利用いただけます。無理に採用施策や契約を勧めることはありませんので、自社の状況を整理したい段階からお気軽にご相談ください。