前提

AIでのアプリ開発と配送・倉庫の利用支援が並行する建材会社

AIを使える環境が整っていても、社員全員の業務で活用が進むとは限りません。 建設現場へ資材を届けるある建材会社では、業務アプリの自社開発が進む一方、配送ドライバーや倉庫の一部では、AIの利用頻度が低い状態にありました。

同社は複数の拠点を持ち、パソコン利用者は150名ほどです。少人数の情報システム部門が、販売・購買・在庫を扱う基幹システムの管理から、パソコンの設置、ネットワーク、アプリの運用支援まで担っています。

デジタル活用が止まっている会社ではありません。社内では利用ガイドラインを設け、希望する社員がAIを使える環境を整えています。詳しい社員は、AIを活用してスマートフォンやWebの業務アプリまで作っています。

対象は、大きな基幹システムではなく、現場の身近な仕事です。注文を受けるための端末や、Excelをメモ帳のように使っていた社内の手続きを、通知も含めてWebで扱えるようにする取り組みが進んでいました。

一方で、共有カレンダーやチャットの使い方は、繰り返し案内を続けています。「アプリを作れる社員」と「日々の共有ツールの利用を支える必要がある社員」が、同じ社内にいることが出発点です。

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課題

開発を速めるだけでは埋まらない現場との習熟度の差

課題は、技術的にできることを増やす速度と、現場が使いこなせるようになる速度がそろわないことです。

担当者は、外部の専門人材を加えて推進を速める話に対し、こう話していました。

「今のスピード感がちょうどいいというか、これ以上速すぎると、ギャップが広がらないかなという部分もあります」

改善への要望に、少人数の担当部門だけでは応えきれない面はあります。それでも、開発力を足せば解決するとは考えていません。作れるものが増えても、利用する側が追いつけるかは別だからです。

また、配送や倉庫の社員を、ひとまとめに「デジタルが苦手」と見るのも実態と違います。倉庫でも、改善に関心を持つ社員はAIを積極的に使い、「こういうことができるのでは」と提案しています。

必要なのは、全員を一律の速度で進めることではありません。先行する社員の工夫を生かしながら、使う人の習熟度に合わせて導入範囲を決めることです。

背景

紙と個人の経験に残る仕事がデジタル化の前段にある事情

現場で共有したいのは、単なる予定や数字だけでなく、これまで個人の経験で補ってきた仕事の情報です。 そこが整理されないままでは、ツールを用意しても仕事の全体像は共有しきれません。

同社で身近な困りごとになっていたのが、資材配送の手配でした。大きな資材では、一つの注文でトラック一台を押さえる場合があります。車両の空き状況に加え、ドライバーの確保や、建物の上階へ搬入する対応も関わります。積み込みにも経験が必要で、担当者が休んだ場合の対応が課題になっていました。

トラックの状況を社内で共有するため、カレンダーを使った運用はすでに始めています。ただし、車両の予定が見えることと、誰がどの作業に対応できるかが分かることは、同じではありません。

こうした事情から、同社では紙で扱ってきた仕事や、口伝えで受け継がれてきた内容を洗い出し、標準化して共有する取り組みを進めています。

共有カレンダーやチャットの利用についても、担当者は「定期的どころではないくらい、アドバイスしています」と話します。環境を整えるだけでなく、使い続けるための支援にも手をかけているのです。

習熟度の差と、業務そのものの属人化は分けて整理する必要があります。 操作を覚えても、共有すべき内容が個人の中に残っていれば、仕事を引き継げる状態にはなりません。

解決

紙と経験に頼る仕事を整理し使い続けられる範囲からの改善

専門人材やツールを増やす前に、「何を共有するか」「誰が使うか」「使い続けられるか」をそろえることが先です。 同社の取り組みを手がかりにすると、改善は次の順序で考えられます。

紙や経験の中にある情報を、共有できる形にする

最初に整理したいのは、アプリの機能ではなく、今の仕事です。配送手配なら、トラックの空き状況、対応できるドライバー、積み込みや搬入で経験を要する点が対象になります。

確認する軸は、次の三つです。

  • 紙やExcel、個人の記憶に、どの情報が残っているか
  • その情報を、誰が分かる状態にする必要があるか
  • 担当者が休んでも対応するために、何を共有すべきか

すべての経験を一度に置き換える必要はありません。まずは、予定として共有できる情報と、作業上の知識として整理する情報を分けます。ツールを選ぶ前に共有内容をそろえると、カレンダーで足りる部分と、別の整理が必要な部分を見分けやすくなります。

共有カレンダーやチャットの利用支援を続ける

身近なツールが業務で使われる状態を整えることも、立派な改善です。AI活用が先に進んでいても、共有カレンダーやチャットの支援を飛ばす必要はありません。

案内を出したかどうかより、実際の予定共有や連絡に使えているかを見ます。利用が広がらない場合は、操作で困っているのか、何を共有するかが分からないのかを分けて確認したいところです。

同社のように繰り返し助言する取り組みは、開発とは別に確保したい仕事です。新機能を増やすことと、既存の機能を使えるようにすることを、同じ改善活動として扱います。

身近な仕事を小さくアプリ化する

アプリ化は、現場の使い道がはっきりしている範囲から進めます。同社が対象にしていたのは、注文受付や、Excelで扱っていた社内の手続きでした。基幹システム全体を作り替えるのではなく、日常の仕事を使いやすくする方向です。

倉庫などで改善案を出している社員の声も、その入口になります。ただし、提案した本人が使えることと、同じ仕事をする社員が使えることは分けて確かめる必要があります。

判断軸は、技術的に作れるかだけではありません。対象の仕事で使えるか、担当者以外にも共有できるか、利用支援を続けられるかまで含めます。開発の速さではなく、利用する社員が無理なく仕事を続けられる範囲で、次の導入を決めます。

外部の支援は、足りない役割を確かめてから選ぶ

すでにAIに詳しい社員がいるなら、専門人材を加えることが最初の答えとは限りません。足りないのがアプリを作る力なのか、業務を整理する力なのか、現場への利用支援なのかで、必要な支援は変わります。

社内でできていることを残し、不足する部分を補う。その順序で考えると、推進速度だけを上げずに済みます。外部の力を使う場合も、社内に知識が残り、社員が使い続けられる形を選びたいところです。

まとめ

建設業のDXは、先行する社員の技術力だけでなく、配送・倉庫を含む現場の利用が続くことで前に進みます。

AIでアプリを作れる社員がいても、共有カレンダーやチャットの利用支援は必要です。それは後戻りではなく、社内の習熟度の差を広げずに改善を進めるための取り組みです。

まず、紙や個人の経験に頼る仕事を洗い出します。次に、共有する内容をそろえ、身近なツールで使える状態を支えます。そのうえで、注文受付や社内の手続きなど、範囲を絞ってアプリ化を進めます。

「作れるから広げる」ではなく、「現場が使い続けられるから広げる」。この基準が、導入の範囲と速度を決める軸になります。

現場が使い続けられるDXに向けた業務の整理

「うちの場合、ツールを増やす前に何を整理すればよいか」という段階から、一緒に考えられます。

ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。DXについても、システムの導入だけを前提にせず、紙や経験に残る業務、社員の習熟度、社内で支援できる範囲から整理します。

社内に詳しい社員はいるものの、現場への広げ方に迷っている。共有ツールを導入したものの、利用支援まで手が回らない。そうした状況でもご相談いただけます。無理に導入や契約を勧めることはありませんので、次に整理することを確かめる場としてお声がけください。

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