前提

公共工事の入札情報を毎月250件確認していた社長の業務効率化

公共工事を第二の売上の柱にしたい、ある地域建設会社がありました。

課題は、入札案件の確認です。社長が毎月250件ほどの情報に目を通し、「この工事には入札したい」「この条件なら見送る」と一件ずつ判断していました。

そこで、入札情報の取得を自動化しました。さらに、社長が感覚的に使っていた判断条件を整理し、案件を自動で絞り込めるようにしました。その結果、社長が直接確認する案件は月25件ほどになりました。

一方で、すべての業務にシステムが必要なわけではありません。別の会社では、業務フローを整えたうえで、採用の日程調整などをリモート人材へ任せています。社内で抱える必要のない作業を切り出し、手放した状態でも回る形をつくりました。

「業務効率化というとDXを考えますが、全部をデジタル化する必要はないんですよね。外へ任せたほうが早い仕事もあります」

業務効率化の目的はシステムを入れることではなく、社長や社員が本来使うべき仕事に時間を戻すことです。

課題

システム導入から考えると社長に集中した仕事の流れが残る状態

社長や一部の社員に業務が集中している会社では、「何かシステムを入れれば楽になるのではないか」と考えたくなります。

ただ、業務の流れを整理しないままSaaSを導入しても、根本的な詰まりが残ることがあります。

たとえば、入力作業だけはデジタル化できても、最後の判断はすべて社長に戻ってくる。既存の帳票とシステムへの二重入力が発生する。例外対応が多く、一部の社員しか操作できない。こうなると、ツールは増えても社内の余白は増えません。

入札案件の例でも、情報を自動取得するだけでは不十分でした。社長が250件を確認し続けるなら、情報収集の手間は減っても、判断の集中は変わらないからです。

必要だったのは、社長の頭の中にある基準を整理し、システム側で事前判定できるところまで業務を組み替えることでした。

ボトルネックを確認する前にツールを選ぶと、詰まっている業務をそのままデジタル化するだけになりかねません。

背景

社長の時間配分と業務フローを見ないままDXの対象を決めてしまうこと

建設会社では、受注や施工そのものだけでなく、見積もり、協力会社との調整、採用、入札情報の確認、請求に関する事務など、さまざまな業務が社長へ集まりやすくなります。

社員へ任せたいと思っていても、進め方が言語化されていない。判断基準が社長の経験に依存している。そもそも、誰が何に時間を使っているのか見えていない。こうした状態では、任せる側も任される側も動きにくくなります。

そのため、最初に確認したいのは「どのSaaSがよいか」ではありません。

  • 社長は何に時間を使っているか
  • 社員を含めた会社全体のリソース配分はどうなっているか
  • どの工程で業務が止まっているか
  • その詰まりを解消すれば、どの仕事へ時間を振り向けられるか

この順番で見ていく必要があります。

「まず、どこをDXする必要があるのかを考えます。社長の時間配分と会社全体のリソースを見て、どこがボトルネックになっているかを整理するところからです」

ボトルネックが見えると、打ち手はDXだけではないと分かります。既存のSaaSで十分なこともあります。会社独自の判断を仕組みに落とすため、自社向けの開発が必要な場合もあります。手順を標準化して社員へ任せれば済む仕事もあれば、リモート人材へ外注したほうがよい仕事もあります。

「デジタル化するか」ではなく、「社内に残すか、仕組みに任せるか、外へ任せるか」を決めることが先です。

解決

業務の棚卸しからSaaS・自社開発・標準化・BPOを選ぶ進め方

業務効率化は、次の順番で進めると選択肢を比較しやすくなります。

1.社長と社員の業務を棚卸しする

まず、社長と社員が普段行っている業務を書き出します。業務名だけでなく、誰が担当し、どこで判断が入り、誰の確認待ちで止まるのかまで見ます。

特に確認したいのは、社長に集まっている仕事です。

「社長にしかできない判断」なのか。「これまで社長がやってきたため、そのまま残っている仕事」なのか。この二つを分けるだけでも、任せられる業務が見えやすくなります。

棚卸しでは作業量だけでなく、判断の所在と業務が止まる場所まで確認します。

2.ボトルネックを一つに絞る

課題をすべて同時に解決しようとすると、施策が大きくなりがちです。社長が目指す会社の姿と現状との差を見ながら、最初に解消する詰まりを決めます。

公共工事を伸ばしたい会社であれば、入札情報の確認が社長の時間を圧迫していることは、優先度の高いテーマになり得ます。一方、採用活動が止まっている会社なら、応募者との日程調整や求人票の更新を先に切り出したほうがよい場合もあります。

判断基準は、単に「時間がかかっているか」だけではありません。その業務を軽くしたとき、会社が目指す方向へどれだけ進みやすくなるかも合わせて見ます。

3.四つの選択肢を比較する

対象業務を決めたら、次の選択肢を比べます。

  • SaaS導入:既存サービスの機能と自社の業務が合っており、運用を大きく変えずに使える場合
  • 自社向けの開発:入札可否の判定など、自社独自の基準や繰り返し発生する判断を仕組みに落としたい場合
  • 業務の標準化と社内移管:手順や判断条件を整理すれば、社長以外の社員へ任せられる場合
  • 外注・BPO:採用の日程調整など、社内で持ち続ける必要がなく、業務フローを整えればリモート人材へ任せられる場合

BPOは、業務プロセスの一部を外部へ継続的に任せる方法です。ただ作業を依頼するだけではなく、どの情報を渡し、どの条件で処理し、どこから社内へ戻すかを決める必要があります。

「オンラインで対応できる人に任せれば、そもそもDXしなくてもよい業務もあります。業務フローをつくり、外部の人と連携すれば回せます」

最適な手段は、最も高機能なシステムではなく、対象業務を無理なく手放せる方法です。

4.小さく実行し、実際の流れを見直す

施策を選んだら、対象業務を限定して動かします。実行すると、棚卸しの段階では見えなかった例外や確認事項が出てきます。

そこで、業務フローを修正します。外注した業務が社長の確認待ちで止まるなら、確認条件をさらに明確にする必要があります。SaaSへの入力が増えたなら、既存帳票との役割分担を見直します。

一度決めた仕組みを固定するのではなく、定期的に「次はどの業務を軽くするか」を確認していく進め方が現実的です。

棚卸し、施策の選択、実行、業務フローの修正までを一つの取り組みとして進めることが大切です。

まとめ

社長や一部の社員へ業務が集中しているとき、DXは有効な選択肢です。ただし、必ずしも最初の答えではありません。

まず見るべきなのは、社長と社員の時間配分です。次に、業務の流れとボトルネックを確認します。そのうえで、SaaS、自社向けの開発、業務標準化、外注・BPOを比較します。

入札情報の取得は自動化し、社長の判断基準まで仕組みに落とす。採用の日程調整は業務フローを整え、リモート人材へ任せる。このように、業務ごとに手段が違っていても問題ありません。

DXありきで考えず、社長が本来向き合うべき仕事へ時間を戻せるかを基準に選ぶことが、業務効率化の出発点です。

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