前提

複数の営業所と担当者が別々の表を使い、顧客リストの更新が営業活動に追いついていない状態

東海地方で複数の営業所を持つ、ある建設関連会社では、特定エリアの顧客に電話や訪問を行うため、営業対象リストの整備を進めていました。

ところが、確認を始めると、同じ顧客情報を扱うシートが複数存在し、「バージョン1」「バージョン2」「最新版」とされたファイルが並んでいました。さらに、共有済みのファイルよりも担当者の手元にあるシートのほうが新しい状態でした。

顧客名を見ても、正式な社名が入った列と、社名にコメントが付いた列が混在しています。役職情報についても、営業部長の印がない、積算部長ではない人に印が付いているなど、上から確認しただけで相違が見つかりました。

「見るたびに『ここが違う』となる。リストを更新して、また違うとなるのは避けたい」という状況です。

問題は入力ミスの多さだけではなく、どのデータを正しいものとして、誰が、どの時点で確認するのかが決まっていないことでした。

課題

22社と27社が併存し、営業対象の漏れをすぐに判定できない顧客リスト

この会社では、ある営業区分の対象企業が一方のリストでは22社、別の資料では27社となっていました。5社の差が、既存顧客を除外した結果なのか、単純な拾い漏れなのか、一覧を見ただけでは判断できません。

営業対象から既存の導入企業を外す運用自体は間違いではありません。ただし、対象外の会社を元のリストから消してしまうと、後から「この会社が入っていないのはなぜか」を確認できなくなります。そのたびに別の表を探し、担当者に確認することになります。

役職情報や会社名にも同じ問題があります。

  • 正式社名とコメント付きの社名が混在している
  • 同じ会社でも表記が異なり、同一顧客か判定しづらい
  • 社長、営業部長、積算部長などの役職情報に誤りがある
  • 訪問履歴のファイルには顧客コードがなく、機械的に結合できない
  • 修正版が増え、どれが最新版か分からない

営業担当者は、リストが完成するまで待ち続けるわけにもいきません。一方、不正確なまま電話を始めれば、すでに取引中の顧客へ新規提案として連絡したり、直近で訪問済みの会社へ事情を知らずに電話したりする可能性があります。

営業リストの精度が低いと、単なる事務作業の手戻りではなく、営業開始の遅れと顧客対応の行き違いにつながります。

背景

会社名を目で照合し、用途別の表へ転記する運用がズレを生んでいる構造

ズレが繰り返される背景には、会社名を軸にした目視確認と、用途ごとに表を複製する運用があります。

会社名は、株式会社の有無、略称、支店名、社内コメントなどによって簡単に表記が変わります。元データに取引先名の列が二つあり、担当者によって参照する列が違えば、同じ会社でも異なる名称が営業リストへ入ります。

一方、顧客ごとに固有の取引先コードがあれば、会社名の表記が多少異なっても同一企業として突き合わせられます。実際に、この会社でも「取引先コードで機械的に当てたほうがよい」という整理になりました。

もう一つの背景は、全顧客の一覧と、今回電話する企業の一覧が分けられていなかったことです。既存契約先や完全な対象外企業を営業リストから抜くと、元から登録されていなかったのか、判断して除外したのかが分からなくなります。

さらに、1月時点の情報を秋まで使っていたため、その間の導入状況や活動履歴の変化も反映する必要がありました。個別修正を都度続けると更新作業に区切りがつかず、途中のシートが新たな「最新版」として共有されてしまいます。

顧客データのズレは、担当者の注意力だけで防ぐものではありません。顧客を識別するキー、用途別リストの関係、更新の締め方が曖昧なままでは再発します。

解決

顧客コードを軸に正本を一つ決め、全顧客マスターから営業対象を切り出す運用

まず取り組みたいのは、すべての情報を一度に完璧にすることではありません。営業活動を止めないためにも、正本となるデータと更新ルールを先に決め、重要な項目から精度を上げます。

1.全顧客マスターと営業対象リストを分ける

全顧客マスターには、既存顧客や今回連絡しない企業も含めて登録します。そのうえで、営業対象かどうかを別の項目で管理します。

最低限、次のような区分があれば、除外理由を後から確認できます。

  • 営業対象
  • 既存取引・導入済み
  • 今回は対象外
  • 情報確認中

営業担当者へ渡すのは「営業対象」だけを抽出したリストです。ただし、元になる全顧客マスターから企業自体を削除してはいけません。

「載せるか消すか」ではなく、「全顧客を保持したうえで、今回連絡するかを判定する」形に変えることが、漏れの発見につながります。

2.会社名ではなく顧客コードで名寄せする

顧客情報を結合するときは、正式社名ではなく顧客コードを主なキーにします。役職情報、導入状況、訪問履歴、担当営業所なども、可能な限り同じコードにひも付けます。

今回のように活動履歴側にコードがない場合は、営業所や会社名で対象を絞り、最初の一度だけ目視で突き合わせます。その際に顧客コードを追記し、次回から機械的に結合できる状態にします。今後データを受け取る際も、顧客コードを必須項目にしておくと手戻りを抑えられます。

コードが付けられない企業は無理に推測せず、「確認中」として残します。誤った会社へ履歴をひも付けるより、未確認であることが見えるほうが安全です。

3.正本データと参照する列を一つに決める

「どのファイルが正しいか」だけでなく、会社名や役職について「どの列を参照するか」まで決めます。たとえば会社名は、コメント付きの取引先名ではなく、正式社名の列を採用します。

正本には、次の情報を明記しておくと運用しやすくなります。

  • データの基準日
  • 最終更新日時
  • 更新担当者
  • 確認責任者
  • 参照元となったデータ

最新版とは、ファイル名に「最新」と書かれたものではなく、基準日と更新責任者が確認できる正本データです。

4.旧版を残したまま運用しない

正本を決めた後は、バージョン1やバージョン2など、営業担当者が誤って使う可能性のある旧版を共有場所から外します。履歴として保管する必要があれば、通常の作業場所とは分けた保管フォルダへ移します。

同じシート内に修正版を増やし続ける方法も避けたほうがよいでしょう。シート数が増えるほど、どこへ修正を反映すべきか分かりにくくなるためです。

5.日々の修正と一括更新を分ける

役職の誤りなど、営業に直接影響する修正は見つけた時点で正本へ反映します。一方、一定期間に蓄積した導入状況や活動履歴は、基準日を決めて一括更新します。

更新後は、担当者が作業したデータをそのまま配布せず、確認責任者が次の点を見ます。

  • 対象企業数が前回から何社増減したか
  • 増減した企業と理由が説明できるか
  • 顧客コードが重複していないか
  • 営業対象外の企業が削除ではなく区分変更になっているか
  • 役職や担当者情報の空欄・不整合がないか

更新のたびに全件を目視するのではなく、「件数の差」と「例外」を確認する仕組みにすると、営業を止めずに精度を高められます。

まとめ

顧客リストの漏れや重複は、Excelやスプレッドシートを使っていること自体が原因ではありません。複数の表があっても、正本と用途が明確であれば運用できます。

反対に、担当者ごとに最新版があり、会社名を目視で突き合わせ、営業対象外の企業を元データから削除する運用では、修正しても同じズレが生じます。

整理の軸は次の五つです。

  • 全顧客を保持するマスターと営業対象リストを分ける
  • 会社名ではなく顧客コードで情報を結合する
  • 正本データ、基準日、更新担当者、確認責任者を決める
  • 旧版を通常の作業場所から外す
  • 全件目視ではなく、件数差と例外を確認する

22社と27社のどちらが正しいかを人の記憶で判断するのではなく、5社の差が生じた理由をデータ上で説明できる状態にすることが大切です。そこまで整えば、営業担当者はリストの確認に時間を取られず、顧客への連絡や訪問に集中しやすくなります。

自社の顧客リストをどこから整えるか迷ったときに

顧客情報が複数のファイルに分かれている場合、最初からシステムを入れ替える必要があるとは限りません。まずは、現在の表の役割、正本にするデータ、顧客コードの有無、更新責任者を整理するだけでも、改善の入口が見えてきます。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、営業活動や組織運用、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行を支援しています。「うちの場合はどの表を正本にすべきか」「営業を止めずにどう移行するか」といった段階からでもご相談いただけます。

状況の整理を目的としたご相談でも問題ありません。無理にサービスをおすすめすることはありませんので、次の進め方を考える場としてご活用ください。

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