高校新卒の採用が厳しく、建築系専門学校まで対象を広げ始めた首都圏の専門工事会社
首都圏のある専門工事会社では、高校新卒向けの求人票を整えた次の一手として、建築系専門学校の学生採用を検討していました。
高校生は学校推薦の影響が強く、採用できる人数も限られます。そこで、20歳前後で建築を学んでいる専門学校生まで対象を広げようという考えです。
「高校生向けの給与は決めました。ただ、専門卒はいくらにすればいいのでしょうか」
ここで判断が止まりました。高卒の初任給は20万円台前半に設定したものの、専門卒との差をどれだけつけるべきか。近隣企業では、専門卒に23万円台から26万円程度を提示する例も見られます。一方、自社には20歳前後で入社した未経験の中途社員もいます。
専門卒採用を始めるときは、求人票を作る前に「高卒」「専門卒」「同年代の中途未経験者」の給与を一つの表に並べる必要があります。
また、専門学校への求人提出方法も一様ではありません。紙の求人票を受け付ける学校もあれば、QRコードから企業側が求人情報を入力し、PDFを登録する学校もあります。学校の仕組みを確認せず、一律に郵送するだけでは求人が学生まで届かない可能性があります。
専門卒の初任給だけを上げると既存社員との賃金バランスが崩れる問題
専門卒採用で難しいのは、競合より高い金額を出すことではありません。採用市場で見劣りせず、既存社員にも説明でき、入社後の昇給につなげられる金額を決めることです。
この会社では、高卒を20万円台前半、専門卒を22万円前後とする案が出ました。専門学校で学んだ2年間を考慮し、月額で1万円前後の差をつける設計です。
ただし、周辺には専門卒へ23万円台後半を出す会社もあり、大手ではさらに高い初任給を掲げる例もあります。上を見ればきりがありません。だからといって、その数字に合わせるだけでは、自社の給与設計に無理が生じます。
特に確認したいのが、次の3点です。
- 同年代の中途未経験者より、専門卒だけが不自然に高くならないか
- 入社2年目前後の社員との給与差が小さくなりすぎないか
- 翌年度以降の高卒初任給が上がったとき、専門卒との差を維持できるか
一度、求人票に載せて採用実績ができると、初任給を簡単には下げられません。採用時だけ目立つ金額を置くより、会社が継続して運用できる水準から始め、毎年見直す方が現実的です。
初任給は単独で決めず、既存社員の給与カーブと翌年度の改定余地まで含めて設計することが大切です。
学生は初任給を見ながら、教員は資格取得や定着まで含めて就職先を見ている現実
専門学校生は、給与や休日だけで就職先を決めているわけではありません。学校や学科によって、学生の属性や就職指導の方針がかなり異なります。
建築系の専門学校では、資格試験が終わるまで就職活動を本格化させないケースがあります。「まず勉強して資格を取りなさい。就職先はその後でも紹介できる」という方針の学校もあります。そのため、秋から求人票を見始める学生もおり、9月や10月の求人提出が必ずしも遅いとは限りません。
一方で、教員の紹介が強い学校もあれば、学生が自分で企業を探す傾向の強い学校もあります。求人票を郵送すれば教員が学生へ渡してくれるとは限りません。企業側にデジタル登録を求め、学生がシステム上で求人を閲覧する学校も増えています。
さらに、毎年同じ会社へ就職者が出ている学校では、企業と教員の間に継続的な関係があります。OBが辞めずに働いていることも、次の紹介につながります。
「うちは教育の仕組みがあり、入社後に資格を取れます」と話せる会社は、初任給以外にも判断材料を提供できます。遠方出身者がいる学校なら、家賃補助や入居時の支援も選択肢になります。
学校側が見ているのは、求人票の金額だけではなく、学生を預けた後に育てられる会社か、長く働ける会社かという点です。
初任給だけを競い続けると、大手や採用力のある会社との比較になります。中小建設会社には、仕事を早く覚えられる環境、資格取得後の処遇、教員やOBとの距離の近さなど、別の打ち出し方があります。
初任給の給与表と学校別の接点づくりを同時に整える進め方
専門卒採用は、給与だけを先に決めるのではなく、入社後の成長モデルと学校への接点づくりを並行して進めると整理しやすくなります。
1.高卒・専門卒・中途未経験者の給与を並べる
最初に、年齢と経験が近い社員の給与を一覧にします。比較する対象は、少なくとも次の3区分です。
- 18歳の高卒新入社員
- 20歳前後の専門卒新入社員
- 20歳前後の中途未経験者
専門卒だから一律に高くするのではなく、学校で学んだ内容が入社後の仕事にどの程度つながるかも確認します。施工領域と関係する資格や基礎知識があるなら、その分を初任給へ反映しやすくなります。
今回のように高卒が20万円台前半であれば、まずは専門卒を22万円前後に置き、近隣企業の求人と比較する方法があります。残業代を含めて高く見せるのではなく、基本給や手当の内訳も明確にします。
初任給は「他社より高いか」だけでなく、「同年代の既存社員に説明できるか」「来年度も維持できるか」で判断します。
2.資格取得と技能習得後の昇給モデルを作る
入口の給与以上に重要なのが、その後の上がり方です。
たとえば、次の節目を自社の実態に合わせて整理します。
- 入社後に対象資格を取得したとき
- 一人で担当できる作業が増えたとき
- 現場で任せられる範囲が広がったとき
- 後輩へ基本作業を教えられるようになったとき
すべてを細かな評価制度にする必要はありません。まずは「何ができれば、いつ、どのように給与を見直すか」を言葉にすることが先です。
初任給を高く見せても、その後ほとんど昇給しなければ、仕事を覚えた頃の離職につながりかねません。反対に、入口が突出して高くなくても、資格や技能に応じて処遇が上がる道筋が見えれば、学生と教員の双方へ説明しやすくなります。
求人票には初任給だけでなく、資格取得や技能習得が昇給へどうつながるかを載せることが重要です。
3.近隣の専門学校を3〜5校に絞って調べる
最初から多くの学校へ同じ求人票を送るより、通勤圏内の3〜5校を選び、学校ごとの違いを確認します。
調べたいのは、次の項目です。
- 建築系学科の専攻内容
- 卒業生が就く職種
- 就職活動が本格化する時期
- 教員の紹介と自由応募のどちらが中心か
- 紙、PDF、学校独自フォームなどの求人受付方法
- 学内説明会や合同企業説明会の実施時期
採用対象にすべき学校は、知名度ではなく、自社の仕事に近い学びがあり、通勤や住居面でも入社後を描けるかで選びます。
学校によっては、施工管理志望が中心で、職人や技能職への就職者がほとんどいないこともあります。反対に、家族や知人が建設業に関わっており、現場仕事に抵抗の少ない学生がいる学校もあります。これは訪問して初めて分かる情報です。
4.求人登録から学校訪問へ段階的に進める
対象校を決めたら、学校指定の方法で求人票を登録します。紙の郵送でよいのか、QRコードから入力するのか、企業アカウントの作成が必要なのかを事前に確認します。
求人票を提出した後は、受理されたかを確認し、可能であれば学校を訪問します。訪問時は採用人数を伝えるだけでなく、次の点を聞いておくと次年度の準備にもつながります。
- 学生が企業選びで重視している条件
- 自社の職種に関心を持ちそうな学生の有無
- 教員が企業へ確認しているポイント
- 求人票を出す適切な時期
- 説明会へ参加するための条件
最初の訪問で紹介を得られなくても、学校の現状が分かれば無駄にはなりません。求人票の提出、訪問、次年度の再訪問と接点を重ねることで、教員にも会社の姿勢が伝わります。
学校採用は一度の訪問で結果を求めず、求人登録、教員との情報交換、説明会参加へ段階的に進める方が再現しやすくなります。
まとめ
高校新卒の採用が難しい中小建設会社にとって、建築系専門学校は有力な採用先の一つです。ただし、高校向けの求人票をそのまま流用するだけでは十分ではありません。
給与面では、高卒、専門卒、同年代の中途未経験者を並べ、社内のバランスを確認します。そのうえで、近隣企業の水準と自社の支払い余力を踏まえ、毎年見直せる初任給を設定します。
学校へのアプローチでは、学校ごとの学生属性、就職指導の方針、求人受付方法を確認します。まずは通勤圏内の3〜5校から始め、求人票の登録、学校訪問、教員との関係づくり、説明会参加へ進めていく形が取り組みやすいでしょう。
専門卒採用の軸は、入口の給与競争ではなく、「入社後に仕事を覚え、資格を取り、給与が上がる会社」であることを学校と学生へ伝えることです。
専門卒採用の給与設計と学校選びから整理したい方へ
専門学校採用を始めようとしても、「高卒や中途社員との給与差をどう決めるか」「どの学校から回ればよいか」「求人票に何を書けばよいか」と、整理する項目は少なくありません。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の人材課題を、給与設計、求人票、教育体制、学校へのアプローチまで横断して整理し、実行を支援しています。「うちの場合は何から考えるべきか」という段階でも大丈夫です。無理に話を進めることはありませんので、社内だけでは整理しにくい部分があれば気軽にお声がけください。