前提

複数部門で施工管理と社員職人を採用する首都圏の建設会社

首都圏で複数の施工部門を持つ、ある中小建設会社では、施工管理、社員職人、新卒、第二新卒、中途未経験者など、異なる人材を並行して募集していました。

求人媒体も一つではありません。求人検索サービス、採用サイト、公共職業紹介の求人票などに、それぞれ過去に作った募集要項が残っています。その結果、同じような職種でも、ある媒体では月給20万円台後半、別の媒体では30万円台前半からと、給与条件に差が出ていました。

社内から出たのは、次のような率直な声です。

「第二新卒の場合はいくらにすればいいのか、一覧がないと判断できない」

「専門卒、大卒、中途未経験、経験あり。それぞれの給与を決めないといけないですね」

この会社だけの特殊な悩みではありません。建設会社では、欠員が出るたびに以前の求人票を修正して募集することが多く、職種や対象者の区分を決めないまま給与だけを調整しがちです。

求人給与を揃えるには、媒体の原稿を直す前に、誰を・どの職種で・どの雇用条件で採るのかを社内で分ける必要があります。

課題

第二新卒も経験者も同じ給与欄に入れたことで起きた条件の不一致

大きな問題は、給与額そのものよりも、その金額を提示できる人の条件が決まっていなかったことでした。

たとえば「月給30万円台前半から」という施工管理求人があっても、それが建設業未経験の第二新卒にも適用されるのか、資格や実務経験を持つ人を想定した金額なのかが明確ではありませんでした。

一方、社員職人の募集では、施工管理とは給与の構造が異なります。施工管理には固定残業代を設けているものの、職人には固定残業代がなく、時間外労働が発生した場合は別の扱いになるという社内ルールがありました。さらに、職人は月給制なのか、日給月給制なのかという点も整理の途中でした。

こうした状態で過去の求人票を転用すると、次のような不一致が起きます。

  • 同じ職種なのに、求人媒体によって下限給与が違う
  • 総額だけが記載され、基本給と固定残業代の内訳が分からない
  • 給与に含まれる手当と、別途支給される手当が混在する
  • 未経験者と経験者の募集が一つになり、どの金額が誰に適用されるのか分からない
  • 求人票の金額と、面接後の提示額が異なる

実際に社内では、「募集した金額より低く提示してもいいのか」という疑問も出ました。応募者の経験や資格が想定に届かず、掲載した金額をそのまま提示できない場面はあり得ます。ただし、何の説明もなく金額を下げれば、応募者には「高い給与で応募を集めただけ」と受け取られかねません。

求人票の金額に幅を持たせる場合は、下限・上限それぞれに必要な年齢、経験、資格、役割を説明できる状態が必要です。

背景

過去の求人票と固定残業代を継ぎ足した結果、給与の根拠が見えなくなった状態

給与条件がばらついた背景には、求人原稿を作るたびに、別の媒体や過去の資料から条件を転用してきた経緯がありました。

「前に出していた文章もあれば、古い求人票もある。情報が錯綜している」

この言葉の通り、社内には複数の基準が並存していました。専門学校卒は月給20万円台後半、新卒施工管理には別の水準、経験者にはさらに高い金額という考えはあるものの、それらをつなぐ共通ルールがありませんでした。

また、月給20万円台後半という表記も、分解すると基本給20万円台前半と固定残業代数万円という構成でした。総額だけを見れば採用市場で見劣りしなくても、応募者が知りたいのは「残業代を含むのか」「手当は別に付くのか」「固定残業時間を超えた分はどうなるのか」という中身です。

社内でも、「残業代が入っているかどうかは、入社する側には大事です」という意見が出ています。給与を高く見せるために内訳を曖昧にすると、面接や入社条件の提示時に説明が難しくなります。

最低賃金の上昇も無視できません。基本給と固定残業代を混ぜて確認すると、最低賃金との関係が見えにくくなります。固定残業代を含む総額だけで判断せず、所定労働時間に対応する賃金と、時間外労働に対応する金額を分けて確認することが欠かせません。

さらに、新しく採る人だけ給与を上げれば、既存社員との逆転が起きる可能性があります。特に建設業では、入社年次、資格、施工経験、任されている現場の範囲が人によって異なります。採用競争力だけを見て初任給を決めると、既存社員が「経験を積んできた自分とほとんど変わらない」と感じることもあります。

給与基準がない状態では、採用市場、最低賃金、既存社員との公平性を一つの金額にまとめて判断することになり、求人を出すたびに社内協議がやり直しになります。

解決

年齢・学歴・経験・資格・職種を軸に給与テーブルを作る手順

最初に作るべきものは、複雑な人事制度ではなく、採用時に使える簡潔な給与テーブルです。媒体別ではなく、自社としての共通基準を一つ作り、各求人媒体にはその基準から転記する形にします。

1.採用区分を先に分ける

少なくとも、次の区分は分けて考えます。

  • 高卒、専門卒、大卒の新卒
  • 第二新卒
  • 中途未経験者
  • 建設業経験者
  • 職種経験者
  • 資格を持つ即戦力人材
  • 施工管理
  • 社員職人

ここで重要なのは、「経験者」という言葉だけでまとめないことです。建設業界で働いた経験があっても、施工管理経験者と他職種の経験者では評価が異なります。大工経験が2~3年ある人と、現場を任せられる人も同じではありません。

職種、建設業経験、実務年数、保有資格、任せられる役割を分けて評価すると、給与差の理由を説明しやすくなります。

2.新卒給与を起点に年齢と経験の幅をつなぐ

新卒採用を行っている会社では、高卒、専門卒、大卒の初任給が基準になります。18歳、20歳、22歳の基準が決まれば、第二新卒や20代前半の中途未経験者をどこに置くか考えやすくなります。

たとえば、専門卒の給与が決まっているなら、大卒との差をどう設定するかを検討します。そのうえで、同年代の中途未経験者に社会人経験をどこまで加味するのか、建築系の学歴や経験があればどの程度上乗せするのかを決めます。

年齢だけで機械的に上げるのではなく、次の順で見ると整理しやすくなります。

  1. 学歴区分による初任給
  2. 社会人経験
  3. 建設業での経験
  4. 募集職種での実務経験
  5. 保有資格
  6. 入社直後に任せられる役割

3.月給を基本給、固定残業代、手当に分解する

求人票に記載する給与は、総額だけでなく内訳を整理します。

項目

整理する内容

基本給

年齢、学歴、経験、役割に対応する基準額

固定残業代

対象職種、金額、対象時間、超過分の扱い

資格手当

対象資格と支給額または支給条件

役職手当

役割と支給条件

その他の手当

一律支給か、条件付き支給か、給与に含むか

固定残業代を設ける職種と、設けない職種は明確に分けます。施工管理には設けるが社員職人には設けないのであれば、同じ給与欄を流用してはいけません。

手当も、「各種手当あり」とだけ書く方法と、資格ごとの金額まで書く方法があります。具体的に書く場合は、その手当が月給に含まれているのか、別途支給なのかを揃えます。

給与総額を高く見せることより、何が含まれ、何が別途支給されるかを一読で分かるようにすることが、応募後の認識違いを減らします。

4.職人は月給制と日給月給制を混ぜない

社員職人の採用では、月給制、日給月給制、日給制のどれを採用するかが重要です。若手採用を考えるなら、休日数や収入の見通しを説明しやすい月給制が選択肢になります。一方、経験者で働く日数や稼ぎ方を重視する人には、別の設計が合うこともあります。

同じ「職人募集」の中に複数の働き方を入れると、給与の意味が分かりにくくなります。雇用条件が異なるなら、求人自体を分けた方が説明しやすくなります。

5.求人票と実際の提示額が違う場合の説明を決める

給与に幅を持たせる場合、面接担当者がその場で感覚的に金額を決めないようにします。面接前に、次の確認項目を揃えておきます。

  • 求人票の下限額を適用する条件
  • 上限額を適用する条件
  • 経験をどのように評価したか
  • 不足している経験や資格は何か
  • 入社後、何を満たせば昇給対象になるか
  • 基本給、固定残業代、手当の内訳

求人票より低い金額を提示する必要がある場合は、「当社ではこの経験・役割を基準に金額を設定しており、今回のご経験ではこの条件になります」と根拠を伝えます。応募者が承諾を判断できるよう、正式な労働条件は書面等でも明確にする必要があります。

掲載額と提示額の差は、説明の上手さではなく、事前に決めた評価基準で説明することが大切です。

6.最低賃金、採用競争力、既存社員との公平性で見直す

給与テーブルを作った後は、三つの視点で確認します。

  • 法令や最低賃金との関係に問題がないか
  • 同じ商圏・職種の求人と比べて応募を得られる水準か
  • 同程度の経験や役割を持つ既存社員との逆転がないか

採用競争力を高めるために給与を上げること自体は必要な判断です。ただし、新規採用者だけを切り離さず、既存社員の給与や今後の昇給にも影響するものとして確認します。

固定残業代の設定や賃金規程の変更を伴う場合は、社内判断だけで進めず、社会保険労務士などに確認することも必要です。

まとめ

建設会社の求人給与が媒体ごとにばらつくのは、入力ミスだけが原因ではありません。新卒、第二新卒、中途未経験者、経験者、施工管理、社員職人という採用区分が曖昧なまま、それぞれの媒体で給与を決めていることが根本にあります。

まず整えたいのは、次の三点です。

  • 誰に、どの給与を適用するかを年齢・学歴・経験・資格・職種で分けること
  • 月給を基本給、固定残業代、各種手当に分解すること
  • 最低賃金、採用競争力、既存社員との公平性を同時に確認すること

完璧な人事制度を一度に作る必要はありません。まずは採用で使う数パターンの給与基準を決め、それを求人媒体、面接、条件提示で共通利用するところから始められます。

給与基準が一枚にまとまると、求人原稿を作りやすくなるだけでなく、面接担当者も応募者に一貫した説明ができるようになります。

自社の給与区分と求人条件を一度整理してみませんか

「未経験者と経験者をいくらで分けるべきか」「施工管理と職人で給与の作り方が違う」「過去の求人票が複数あり、どれが正しいか分からない」という段階でも、整理は始められます。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、採用、組織、原価、現場、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。給与基準についても、求人媒体だけを見るのではなく、採用したい人材、既存社員とのバランス、面接時の説明方法まで含めて考えます。

「うちの場合はどの区分から決めればよいか」という相談でも構いません。状況を伺わずにサービスを勧めるような無理な営業はいたしませんので、次の整理先として気軽にお声がけください。

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