現場に出る3人を含む6人規模の内装工事会社で、社長が現場寄りの業務の7〜8割を担っている状態
三重県にある6人規模の内装工事会社では、代表者のほか、親族を含む社員と事務担当者が働いています。自社の現場担当は3人ほどです。施工は一人親方や協力会社にも依頼しています。
社長は代表になった後も、以前と同じように現場寄りの業務を担っていました。既存顧客への対応。見積もり。現場の確認。取引先の監督から出た指摘へのフォロー。こうした業務の多くを自分で処理しています。
「立場が変わっても、今までと同じ仕事をしているだけなんです。自分としての成長がないんですよね」
社長としては、今いる人材の教育や業務の見直しに時間を使いたいと考えています。しかし、現場を離れると細かな行き違いが気になります。任せ切れず、再び自分がフォローに入ります。
経営や人材育成の時間をつくるには、社長の努力量を増やすのではなく、現場との間に立つ人を置くための準備が必要です。
任せたい気持ちはあっても、社長の判断とフォローが必要な仕事が切り分けられていない状況
この会社の悩みは、単純な人手不足ではありません。社長が手放せない業務と、社員に任せたい業務の境界が曖昧なことです。
若い社員には、やりたい仕事と避けたい仕事が分かれる傾向も見られました。社長が現場へ行くと、取引先の監督から「実は……」と話を持ちかけられることがあります。そこで社長が強く注意すると、社内の雰囲気が悪くなるかもしれません。言わずに自分でフォローすると、同じことが続きます。
「取り繕って、取り繕ってやっている自分もよくないと思うんです。でも注意して、変な関係になるのも嫌で」
親族が社員にいることもあり、日常的な注意や指示には気を使います。普段は細かく言わず、限界を超えたときに強く伝える形になりやすい状態でした。
社長が現場の“絆創膏”になり続けると、その場は収まっても、社員が判断する機会と社長が経営に使う時間は増えません。
必要なのは、いきなり現場業務をすべて渡すことではありません。まず「この仕事を任せられれば、社長は教育や経営に時間を移せる」という業務を特定することです。
背中を見て覚える育ち方と、目的まで説明してほしい社員との間にある伝え方のずれ
社長自身は、親世代の背中を見ながら仕事を覚えてきました。必要な仕事があれば、得意不得意にかかわらず対応する。顧客から受けた仕事をきちんと納める。その姿勢が自然に身についています。
一方、今の社員には、同じ前提が共有されているとは限りません。
「僕自身は、背中を見て感じてくれよと思ってしまう。でも、なかなか難しいですね」
仕事の目的が伝わっていなければ、社員から見ると「なぜ自分がこの仕事をするのか」が分かりません。担当範囲だけを終えればよいと考えることもあります。社長には責任感の差に見えても、社員側には判断材料が渡されていない可能性があります。
ただし、社長が急に細かく指示を始めると、「今さらどうしたのか」と受け取られることもあります。家族や長く働く社員との間には、これまで積み重ねてきた関係性があるからです。
右腕人材に求められるのは、社長の代わりに強く注意することではなく、仕事の目的と社長の考えを日常の言葉に置き換えて現場へ伝えることです。
社長が全員と細かくコミュニケーションを取る組織から、社長が右腕と認識をそろえ、右腕が現場担当者をまとめる組織へ変えていく。その中間の役割が必要になっています。
社長業務を先に棚卸しし、任せる仕事と判断範囲から右腕人材の役割を具体化する進め方
右腕人材を置くときは、先に求人を出すのではなく、社長の業務を分けるところから始めます。
1.社長が担っている業務を「残す仕事」と「移す仕事」に分ける
最初に整理したいのは、社長が現在行っている仕事です。今回の会社であれば、次のような業務が対象になります。
- 既存顧客への対応
- 見積もりの作成や提出
- 現場の進捗確認
- 取引先の監督から出た指摘への対応
- 社員への日常的な声かけやフォロー
- 社員の教育と評価
このうち、社長にしかできない仕事を残します。それ以外は、「この二つを任せられれば教育に回れる」という単位まで絞ります。
右腕採用の出発点は、人が欲しいという話ではなく、社長が何を手放せば経営と教育に時間を移せるかを決めることです。
すべてを任せる必要はありません。既存顧客への一次対応と現場フォローなど、社長の時間を継続的に使っている業務から切り出す方が、役割を明確にしやすくなります。
2.経験年数ではなく、任せたい場面から人物像をつくる
経験者採用では、「資格保有」「業界経験10年以上」といった条件を並べがちです。しかし、それだけでは社長が必要としている右腕像までは伝わりません。
「経験者なら誰でもよい」という広い募集ではなく、100人に1人ほどの具体性まで人物像を絞る感覚が必要です。
たとえば、募集時には次の点を明らかにします。
- どの顧客対応を任せたいのか
- どの現場業務を引き継いでほしいのか
- 現場でどこまで自分で判断してほしいのか
- 社長へ何を報告してほしいのか
- 社長の考えを誰に、どのように伝えてほしいのか
- 将来、何人ほどの現場担当者をまとめてほしいのか
「社長が現在担っている見積もりと顧客対応を任せたい」「現場担当者の日常的な相談先になってほしい」と書かれていれば、候補者も自分に向けられた募集かどうかを判断できます。
右腕人材の採用では、経験の長さよりも、任せたい業務と必要な判断力が一致しているかを見ることが重要です。
3.社長の考えを伝える役割まで任せる
右腕は、単なる作業の代行者ではありません。現場と社長の間に立ち、なぜその仕事をするのかを伝える役割も担います。
社員が避けたがる仕事があれば、強く注意する前に、次の順番で説明します。
- なぜ顧客からこの仕事を任されているのか
- なぜ担当範囲だけでなく周辺対応も必要なのか
- その対応が顧客や次の仕事にどうつながるのか
- 会社として、どのような姿勢を大切にするのか
社長はまず右腕に対して、この考え方を伝えます。右腕は日頃のコミュニケーションを通じて、現場担当者へ伝えます。
社長が全員を直接動かすのではなく、右腕一人と認識をそろえる形に変えると、社長のコミュニケーション負担も整理できます。
4.権限移譲と評価を同時に進める
業務だけを渡し、判断基準を渡さなければ、右腕は毎回社長に確認することになります。反対に、すべて任せると、社長との認識がずれる可能性があります。
そのため、最初は任せる業務を限定します。社長が会社の考え方と仕事の目的を伝え、その後は右腕が同じ内容を現場へ伝える形へ移します。
評価も、経験年数や勤務態度だけでなく、任せた役割に沿って確認します。
- 任せた顧客対応や見積もりを担えているか
- 現場担当者の日常的な相談を受けられているか
- 仕事の目的を現場へ説明できているか
- 社長へ必要な情報を伝えられているか
- 現場で起きた問題を抱え込まず整理できているか
日常的な声かけは右腕が担当します。社長は評価面談などの節目で、「ここは任せられている」「次はここまで担ってほしい」と伝えます。
権限移譲は、仕事を丸ごと渡すことではなく、業務・判断範囲・報告先・評価基準を一緒に渡すことです。
社内に適任者がいれば育成する方法があります。いなければ、中途採用で外部から迎える方法もあります。社内の関係性だけでは役割整理が進みにくい場合は、外部の支援を入れて業務やコミュニケーションを整理する選択肢もあります。
大切なのは、採用ありきで決めないことです。社長が教育を担えるのか。既存社員の中に中間役を任せられる人がいるのか。社長業務の一部を担える経験者を外から迎える必要があるのか。現在の体制に合わせて選ぶ必要があります。
まとめ
社長が見積もり、顧客対応、現場確認、社員のフォローまで抱えていると、経営や人材育成へ時間を移しにくくなります。
ただ、人を一人増やせば解決するとは限りません。先に、社長の業務を棚卸しします。そのうえで、何を任せれば時間が生まれるのかを明確にします。
右腕人材には、業務を代行するだけでなく、社長の考えを現場へ伝え、日常的なコミュニケーションを担う役割が求められます。採用時も、「経験10年以上」のような広い条件ではなく、任せたい業務、必要な判断力、まとめてほしい相手まで具体化することが大切です。
社長が現場を手放す第一歩は、任せられる人を探すことではなく、何を、どこまで、なぜ任せるのかを言葉にすることです。
右腕人材を探す前に、自社で任せたい役割を整理するために
「うちの場合は誰を右腕にすべきか」「社長業務のどこから切り分ければよいか」と迷うこともあると思います。特に、親族や長く働く社員がいる会社では、役割だけでなく、これまでの関係性を踏まえた整理が必要です。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。右腕人材に任せる業務の棚卸しや人物像の具体化、入社後の教育・評価体制についても、自社の状況に合わせて一緒に整理できます。
まだ採用するか決めていない段階や、「何から整理すべきか分からない」という段階でも問題ありません。無理にサービスを勧めることはありませんので、次の整理先の一つとしてご活用ください。