前提

新しい施工領域へ進みたい一方で、社長が現場を抜けられない10名規模の電気工事会社

関東圏で電気工事を手がける、10名規模の会社があります。今後は特定の取引先への依存を減らし、集合住宅など新しい施工領域にも販路を広げたいと考えていました。

ところが、新しい現場を受けようとしても、実際に動ける人が足りません。社長自身も平日はほぼ現場に出ており、採用業務は人事専任ではない事務担当者と分担する想定でした。

一方で、すぐに未経験者を何人も採りたいわけではありません。いまは既存社員の教育を優先しており、新人が入っても十分に教えられず、放置に近い状態になる可能性があるからです。現時点で来てほしいのは、資格を持ち、ある程度一人で動ける20代から30代の経験者でした。

「まずは自分たちで、広告やSNSを使ってやってみたい。ただ、出すだけでは意味がないことも分かっています」

この感覚は、多くの中小建設会社に共通するものではないでしょうか。採用に大きな予算はかけにくい。それでも、人がいなければ受注の幅を広げられません。

採用媒体を選ぶ前に、「何のために、誰を、どのような条件で採るのか」を決める必要があります。

課題

広告やSNSを先に動かすと、応募が来ない理由を検証できない状態

求人広告を出しても応募が来ない会社では、媒体そのものより先に、採用の目的と対象が曖昧になっていることがあります。

この会社でも、「人が増えれば新しい現場へ進みやすい」という方向性はある一方、採用へのアクセルを強く踏む段階ではありませんでした。未経験者を採ると教育負担が増えるため、当面は経験者や資格保有者が優先です。

ここを整理しないまま募集を始めると、求人原稿には「経験者歓迎」「未経験者も可」「年齢不問」など、間口を広げる言葉が並びやすくなります。しかし、会社が本当に必要としているのが、一人で現場を任せられる経験者なら、広い募集が必ずしも有効とは限りません。

応募がなかったときも、原因を切り分けられなくなります。

  • 欲しい人が、その媒体を使っていなかったのか
  • 求人は見られたものの、仕事内容や条件が伝わらなかったのか
  • 会社を選ぶ理由が弱かったのか
  • 応募後の連絡や面接設定で離脱したのか

広告を掲載した事実だけでは、どこに問題があったのか分かりません。結果として「この媒体は使えない」「建設業には人が来ない」という判断になり、別の媒体へ移って同じことを繰り返してしまいます。

いま必要なのが経験者なのか、育成前提の未経験者なのかによって、求人の訴求も選ぶ媒体も変わります。

背景

求人媒体が小さな池に分かれ、欲しい経験者がいる場所を見つけにくい採用市場

建設業の採用では、求職者一人を複数社が取り合う状態が続いています。厚生労働省の求人関連データを見ても、建設技術者や技能者の確保は、全産業と比べて難しい水準にあります。

加えて、採用媒体の構造も変わりました。以前は大手求人サイトなど限られた場所に求職者が集まり、そこへ求人を載せること自体に一定の意味がありました。現在は求人検索サービス、特化型媒体、SNSなどが増え、求職者がいる場所が細かく分かれています。

大きな池が一つあるのではなく、小さな池がいくつもある状態です。会社が探している経験者がどこにいるのかを見極めず、広告費を先に投じても、対象の人に届かない可能性があります。

中小建設会社は、給与や休日だけで大手と競うことも簡単ではありません。だからこそ、条件を引き上げる前に、自社で働く意味を言葉にすることが重要です。

地方のある足場工事会社では、求人広告を増やす前に、地域からどう見られているかを見直しました。そのうえで、しっかり稼ぎたい人と、生活との両立を重視したい人に向けて、採用の入口を分けています。先に「誰に、何を伝えるか」を設計したことが、その後の採用拡大につながりました。

自社の魅力は、経営者だけで考えるより、既存社員への聞き取りから見つかることもあります。「なぜ入社したのか」「入社後に何を良いと感じたのか」を確認すると、求人原稿で伝えるべき材料が見えてきます。

媒体の乱立により、広告費の大きさよりも、欲しい人材がいる場所と自社が選ばれる理由を合わせる設計が重要になっています。

解決

採用目的と人物像を固め、無料施策から応募・面接・採用を小さく検証する進め方

限られた予算で採用を始めるなら、最初から高額な広告契約を結ぶのではなく、次の順番で整理すると動きやすくなります。

1.採用の目的を一文にする

最初に決めたいのは、採用人数ではなく、採用後に会社として何を実現したいかです。

この会社であれば、「集合住宅など新しい施工領域を受けられる体制をつくる」が上位の目的です。ただし、現状は教育に使える時間が限られているため、「すぐに大量採用する」ではなく、「既存社員の教育を進めながら、一人で動ける経験者との接点を増やす」が当面の採用方針になります。

目的が明確になると、採用の強さや時期も決めやすくなります。常に募集は出しておくものの、急いで人数を追わないという選択もできます。

2.求める人物像を現場の条件まで落とす

「良い人」「経験者」だけでは、媒体も原稿も選べません。少なくとも、次の項目を整理します。

  • 必須となる資格や施工経験
  • 一人で任せたい業務の範囲
  • 入社後に教育が必要な部分
  • 年齢よりも優先したい経験や働き方
  • いつまでに、何人必要なのか

条件を増やしすぎると対象者がほとんどいなくなるため、「絶対に必要な条件」と「入社後でも補える条件」を分けることがポイントです。

3.自社が選ばれる理由を既存社員の声から探す

次に、求職者へ何を伝えるかを決めます。給与や休日だけでなく、任される仕事、身につく技術、社長との距離、現場の種類など、実際に働く人が感じている価値を確認します。

既存社員には、「なぜこの会社へ入ったのか」「続けている理由は何か」「入社前に知りたかったことは何か」を聞きます。回答をそのまま美化するのではなく、共通して出てくる内容を求人原稿やSNSで使える言葉に整えます。

4.人物像に合う媒体だけを候補にする

媒体は知名度や営業提案だけで決めず、求める人物が利用している可能性から選びます。求人検索サービス、公共職業紹介、すでに保有しているSNSなど、媒体ごとの役割を分けて考えます。

経験者を求めるなら、その人が転職時にどのような情報を確認するかも重要です。仕事内容や給与だけでなく、現場の種類、資格の扱い、任される範囲が分からなければ、候補から外されることがあります。

5.無料施策で小さく試してから広告費を使う

自社で試すのであれば、求人検索サービスの無料掲載、公共職業紹介、既存SNSの活用など、費用を抑えられる方法から始めます。

ただし、複数の施策を同時に無計画で動かすと、何が効いたのか分かりません。人物像と訴求をそろえたうえで、媒体ごとに一定期間試し、反応を比較します。

自社で試すこと自体が問題なのではなく、目的、対象、検証方法を決めずに広告費を使うことが遠回りになりやすいのです。

6.応募・面接・採用の数字を分けて見る

採用活動は、採用できたかどうかだけで評価しません。少なくとも、次の流れを記録します。

  1. 求人を掲載した媒体
  2. 応募数
  3. 面接を設定できた人数
  4. 実際に面接した人数
  5. 採用に至った人数

応募が少なければ、媒体選定や求人の訴求を見直します。応募はあるのに面接へ進まなければ、人物像とのずれや連絡方法を確認します。面接はできても採用に至らなければ、条件や仕事の伝え方を見直す余地があります。

数字を分けておけば、採用できなかった場合でも、次に変えるべき場所が分かります。小さな検証を積み重ねることで、将来は社内でも再現できる採用の型が残ります。

まとめ

求人媒体が増えた現在は、とりあえず広告を出すだけでは、欲しい人へ届きにくくなっています。特に建設業の経験者採用では、対象となる人が少ないため、媒体選びの前段が重要です。

整理する順番は、次のとおりです。

  1. 採用後に実現したい会社の姿を決める
  2. いま必要な人物像を具体化する
  3. 自社が選ばれる理由を言語化する
  4. 対象者に合う媒体を選ぶ
  5. 無料施策を含めて小さく試す
  6. 応募・面接・採用の数字を記録する

採用は広告を出す作業ではなく、事業計画と現場の受け入れ状況をつなぐ設計です。

採用を急がない時期でも、この順序を整理しておけば、必要な人と出会ったときに機会を逃しにくくなります。まずは自社で試したい場合も、広告を選ぶ前に、採用目的と人物像を紙一枚にまとめるところから始めるとよいでしょう。

自社に合う採用の進め方を整理したい方へ

「経験者を採りたいが、どの媒体にいるのか分からない」「自社の強みを求人でどう表現すればよいか」「まず無料施策から試したい」といった段階でも、採用戦略は整理できます。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の採用課題を、現場の受け入れ体制や組織づくりまで含めて整理し、実行まで支援しています。うちの場合は何から考えるべきか、まだ採用へ本格投資する時期なのか分からない、といった相談でも差し支えありません。

無理にサービスを勧めることはありません。ものづくりに集中できる体制づくりに向けて、次の整理先としてご活用ください。

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