社長が平日の現場に出続け、既存社員の独り立ちを優先している電気工事会社の現在地
首都圏近郊で電気工事を手がける、10名未満の専門工事会社があります。今後は対応できる現場を広げたい一方、社長は平日のほとんどを現場で過ごしており、採用や教育のためにまとまった時間を取りにくい状況です。
人事関連の業務には事務担当者も関わっていますが、現場には出ていません。そのため、採用実務を分担できても、現場教育まで任せることは難しくなっています。
現在、社長が優先しているのは、新しい人を一気に増やすことではありません。まずは既存社員が育ち、社長がいない現場でも仕事を進められる状態をつくることです。
「採用にめちゃめちゃ力を入れる段階というより、今は教育のほうを整えたい」という考えで、募集は続けつつも、採用のアクセルは緩めています。
社長が現場を離れられない会社では、採用数を増やす前に、既存社員だけで現場を回せる範囲を広げることが受け入れ体制の土台になります。
新人が入っても教える時間がなく、現場で放置しかねない受け入れ体制
採用したい気持ちはあっても、教育できる人がいなければ、未経験者の採用には踏み切りにくくなります。この会社でも、新人が入った場合に「教えるリソースが足りず、放置になる可能性がある」ことが懸念されていました。
ここで難しいのは、人手不足だから採用したいのに、採用すると教育のために既存社員の手が止まることです。とくに社長自身が主な教育担当になっている場合、次のような循環が起こりやすくなります。
- 社長が現場と教育を兼務する
- 教育時間を十分に確保できない
- 新人の独り立ちが予定より遅れる
- 社長が引き続き現場を離れられない
- 次の採用にも慎重になる
未経験者を採れば、短期的には現場の負担が増えます。一方で経験者だけを求めると、対象者が限られ、採用が長期化する可能性があります。
問題は応募が来るかどうかだけではなく、入社した人を誰が、どのくらいの期間をかけて、どこまで育てられるかが決まっていないことです。
2〜3カ月の育成目標と、実際には半年かかる現場とのずれ
教育体制を考えるうえで見逃せないのが、独り立ちまでの期間です。この会社では当初、2〜3カ月ほどで一定の仕事を任せられる状態を目標にしていました。しかし、実際には思うように進まず、「半年で育てばいいのかな」という見立てに変わっています。
もちろん、習熟の速さには個人差があります。数カ月で仕事が定着する人もいれば、半年たっても任せられる範囲が限られる人もいます。外国人材も在籍していますが、国籍だけで習熟期間を判断できるわけではありません。言葉の理解が影響しているのか、技術の習得に時間がかかっているのかを分けて見なければ、教育方法も定まりません。
もう一つの背景は、「独り立ち」の定義が曖昧になりやすいことです。社長がいなくても現場を進められる状態を目指していても、何ができれば独り立ちなのかが共有されていなければ、教える側と教わる側で認識がずれます。
その結果、社長から見れば「まだ任せられない」、本人から見れば「ある程度できるようになった」という状態になり、教育期間の見通しも立ちにくくなります。
育成が予定どおり進まないときは、本人の能力だけでなく、独り立ちの基準、教育期間の見積もり、言語面と技術面の切り分けができているかを確認する必要があります。
独り立ちの基準と教育担当を先に決め、受け入れ可能人数から採用する進め方
採用前にすべての教育制度を完成させる必要はありません。ただし、少なくとも「誰が教えるか」「何ができれば独り立ちか」「何カ月を見込むか」の3点は決めておきたいところです。
1.社長不在でも任せたい仕事を明確にする
最初に整理するのは、教育資料ではなく、独り立ちの到達点です。現場で任せたい仕事を洗い出し、一人でできる仕事、確認があればできる仕事、まだ任せられない仕事に分けます。
この区分があれば、「半年で一人前」という曖昧な目標ではなく、2〜3カ月時点で任せたい範囲と、半年時点で任せたい範囲を分けて考えられます。
教育計画は期間だけで決めず、社長不在でも任せられる仕事の範囲で区切ることが重要です。
2.教育担当と補助する人の役割を決める
教育が社長一人に集中すると、現場の繁忙に左右されます。既存社員の中から主に教える人を決め、社長は判断が必要な場面を補う形にすると、教育が止まりにくくなります。
事務担当者には、現場技術を教える役割ではなく、採用に関する連絡や教育状況の記録など、現場外で担える範囲を分けます。大切なのは、全員が何となく教える体制ではなく、誰がどこまで受け持つかを明確にすることです。
教育担当を決めるとは、一人にすべてを背負わせることではなく、現場教育と社内業務の役割を分けることです。
3.経験者と未経験者で採用要件を分ける
教育余力が少ない時期は、資格を持ち、一人で動ける経験者の優先度が高くなります。この会社でも、現時点では経験者、なかでも資格保有者を採用できるとありがたいという判断でした。
ただし、経験者であっても、自社の仕事を説明せずに任せられるとは限りません。採用時には、資格の有無だけでなく、入社後すぐに任せたい仕事を一人で進められるかを確認する必要があります。
未経験者については、半年程度の育成期間を見込んでも教育担当を確保できる時期に採用するほうが、本人にも現場にも無理がありません。
教育余力が少ない時期は経験者を優先し、未経験者は半年程度の育成時間を確保できるかどうかで判断します。
4.受け入れ可能人数から採用計画を組む
採用人数は、欲しい人数だけで決めるものではありません。同じ時期に何人まで教えられるか、既存社員の育成と並行できるかを基準にします。
受け入れ余力が小さい間は、募集を完全に止めるのではなく、経験者を中心に採用の窓口を残しておく方法があります。既存社員が社長不在でも動ける範囲が広がった段階で、未経験者の採用を増やしていけば、教育負担を抑えながら段階的に組織を広げられます。
採用計画は「何人欲しいか」ではなく、「同時に何人まで育てられるか」から逆算するほうが現実的です。
まとめ
新人を採用しても教える人がいない状況では、採用を急ぐほど社長と現場の負担が増えることがあります。先に整えたいのは、大がかりな研修制度ではなく、日々の現場で教育を回すための最小限の仕組みです。
整理する順番は、次のとおりです。
- 社長不在でも任せたい仕事を明確にする
- 2〜3カ月時点と半年時点の到達範囲を決める
- 教育担当と補助する人の役割を分ける
- 経験者と未経験者で採用要件を分ける
- 受け入れ可能人数から採用計画を立てる
採用と教育は別々に考えず、入社後に誰がどう育てるかまで決めてから採用のアクセルを調整することが、無理のない組織拡大につながります。
自社に合った教育・受け入れ体制を整理したい方へ
教育担当を置きたいと思っても、「任せられる社員がまだ育っていない」「独り立ちの基準をどう決めればよいかわからない」という会社は少なくありません。まずは現在の社員構成、社長が担っている仕事、育成に使える時間を整理するところから始められます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。「うちの場合は何から整えるべきか」という段階でも問題ありません。無理にサービスを勧めることはありませんので、次の整理先として気軽にご活用ください。