自社職人がゼロで、一人親方への依頼を前提に現場を回している内装工事会社
ある東海地方の内装工事会社は、事務員を含めて6名ほどの体制です。現場に関わる社員はいるものの、自社で雇用する職人はゼロ。実際の施工は、一人親方や協力会社へ依頼しています。
内装工事は職種が多く、必要な職人をすべて社員として抱える会社は多くありません。この会社も、先代の頃から外注中心でした。
社長自身も「会社に入ってから、自分のところで職人を育てるという感覚がなかったんです。仕事は職人さんに頼むものだと思っていました」と話します。
仕事量に合わせて外注できる体制には、固定費を抑えやすい利点があります。これまで問題なく回ってきた会社も少なくないでしょう。
ただ、職人不足が進み、状況が変わってきました。一人親方は専属に見えても、仕事や条件によって別の会社の現場へ移ることがあります。材料不足などで現場が止まれば、稼働できる会社へ移ることもあります。
外注体制そのものを否定する必要はありませんが、施工の中核まで一人親方だけに依存すると、受注と人員配置を自社でコントロールしにくくなります。
仕事を受けても配置できる職人がおらず、次の世代へ施工体制を引き継げない状態
この会社が感じていたのは、単なる採用難ではありません。
既存顧客から仕事を増やせる可能性はあります。新しい取引先も開拓したいと考えています。しかし、案件を取っても施工する職人を確保できなければ受けられません。
「専属と言っていても、仕事があるところへ行くのは当たり前です。仕事が入ったときに、頼んでいた職人さんがいないこともあります」
さらに、事業承継を考えると問題は深くなります。会社を引き継ぐ人がいても、施工を担う人材と育成の仕組みがなければ、受注基盤まで安定して引き継ぐことは難しくなります。
一方で、自社職人を採用しようとしても、誰が教えるのかが決まっていません。社長は見積もりや顧客対応、現場のフォローなど、実務の7〜8割を抱えています。既存社員にも、新人を継続して教育した経験がありません。
問題の中心は「求人を出しても人が来ないこと」だけではなく、採用後に誰が、何を、どのように教えるかが決まっていないことです。
「職人は外へ頼むもの」と「背中を見て覚えるもの」が長く続いてきたこと
外注中心の施工体制は、経営判断の失敗ではありません。職人が十分にいて、必要なときに頼めた時代には合理的でした。
ところが、職人の母数が減ったことで、従来の前提が崩れています。特に地方では経験者の候補が少なく、条件のよい大手企業へ応募が集まりやすい傾向もあります。
ある地方の電気工事会社でも、自社職人を採用しようとしたものの、経験者の母数自体が少ないことが壁になりました。そこで、経験者だけを待つ採用から、未経験者や高校新卒を採用して育てる方針へ切り替えています。
しかし、未経験者を採ると、次は教育が課題になります。
建設現場では「見て覚えろ」「背中を見ればわかる」という教え方が長く続いてきました。経験を積んだ側には自然でも、高校を卒業したばかりの社員や異業種から来た社員には、判断基準が見えません。
できないと注意される。けれど、何を見て、なぜその作業をするのかは説明されていない。この状態では、本人の意欲だけで成長するのは難しくなります。
相談した社長も、「自分は親の背中を見て仕事を覚えました。今の若い人にも、背中を見て感じてほしいと思ってしまいます」と率直に話していました。
ただ、仕事の進め方にばらつきがあっても、強く言えば雰囲気が悪くなるかもしれません。家族や親族が働く会社では、これまでの関係性もあります。「言いたいけれど、言葉を選んでしまう」という迷いも生まれます。
未経験者採用を始めるなら、「見て覚える教育」から「目的と手順を言葉で伝える教育」への切り替えが必要です。
外注を残したまま教育担当を決め、自社職人を現場責任者へ段階的に育てる進め方
目指したいのは、一人親方との関係を一度に切り、自社施工へ全面転換することではありません。
現実的なのは、自社職人を少人数から採用し、一人親方や協力会社と組み合わせる体制へ段階的に移ることです。
進める順番は、次のように整理できます。
1.最初に「誰を採るか」ではなく「誰が教えるか」を決める
採用媒体や高校訪問を始める前に、教育担当を決めます。候補は大きく三つです。
- 社長が直接教える
- 既存社員や右腕候補が教える
- 協力関係にある一人親方へ教育を依頼する
判断軸は、技術力だけではありません。現場へ同行できる時間があるか。作業の目的を言葉で説明できるか。新人の質問を受け止められるか。この三点を見ます。
社長が会社の仕事や考え方を最も理解しているなら、最初の教育を担う方法があります。ただし、社長が見積もりや顧客対応を抱えている状態では続きません。その場合は、社長の業務の一部を担える社員や右腕候補を先に置き、社長が教育へ回れる時間をつくります。
社内に適任者がいなければ、信頼できる一人親方へ依頼する方法もあります。実際に、若手と現場へ同行して技術を教えてもらい、通常の施工費に教育担当分の手当を加える形で進めている会社があります。
一人親方へ教育を頼む場合は、善意に任せず、同行する期間、教える範囲、教育手当をあらかじめ決めておくことが大切です。
2.経験者が少ない地域では、未経験者と高卒人材を採用対象にする
経験者採用を続けても、地域に候補者が少なければ採用は安定しません。そこで、未経験者や高校新卒まで対象を広げます。
ただし、「未経験歓迎」と求人票に書くだけでは不十分です。自社で働く意味が伝わる材料を先に整理します。
実際に高卒採用へ切り替えた会社では、社員への聞き取りから会社の強みを洗い出しました。その内容をもとに求人票、ホームページ、会社案内、入社案内を整え、高校訪問で仕事内容や会社の特徴を説明しています。
社内では当たり前に見えることも、求職者には魅力になる場合があります。仕事の幅、現場で身につく技術、将来任せたい役割などを具体的に言葉にすることが必要です。
経験者が採れない地域では、採用条件を下げるのではなく、「未経験者を育てられる会社」へ採用設計を変える考え方が有効です。
3.入社後は作業だけでなく、仕事の目的から伝える
新人へ伝える内容は、施工手順だけではありません。
なぜこの作業が必要なのか。なぜ希望しない仕事も担当するのか。顧客から継続して仕事をもらうことと、自分の仕事がどうつながるのか。目的から説明します。
教育内容は、少なくとも次の単位に分けると整理しやすくなります。
- 現場で守る基本ルール
- 作業の目的と手順
- 完了と判断する基準
- わからないときの確認先
- 次に任せる作業と、そのために必要な技術
教える人によって内容が変わると、新人は迷います。社長、既存社員、一人親方の間で、最低限の教え方をそろえておく必要があります。
人を教えた経験がない社員が教育担当になる場合は、新人の入社前に、人の見方や伝え方を学ぶ機会を設ける方法もあります。実際に、新入社員が入る2〜3カ月前から、既存職人向けのマネジメント研修を始めた会社もあります。
4.自社職人の先に「現場を管理する役割」を置く
自社職人を増やす目的は、すべての施工を社員だけで行うことではありません。
まず自社職人として現場を経験してもらいます。その後、3年、5年という時間をかけて、現場の責任者や管理を担える人材へ育てます。その社員を各現場へ配置し、一人親方や協力会社とチームを組んで施工する形です。
この体制なら、外注の機動力を残せます。同時に、品質、工程、顧客対応の中心を自社に置きやすくなります。
成長の段階と評価も見えるようにします。「何ができれば給与が上がるのか」「いつ現場を任せてもらえるのか」がわからなければ、未経験者は将来を描きにくいからです。
採用のゴールを「職人を一人増やすこと」にせず、「自社の責任者として協力会社と現場を回せる人を育てること」に置くと、外注と内製の役割が整理しやすくなります。
まとめ
一人親方への依存から抜け出すことは、一人親方へ仕事を頼まなくなることではありません。
必要なのは、自社で持つべき役割を決めることです。施工のすべてを抱えなくても、現場の品質や工程を理解し、協力会社をまとめられる社員がいれば、受注の安定性は変わります。
進め方は一律ではありません。社長が教えられるなら、未経験者採用から始められます。社長に余力がなければ、既存業務を担う右腕候補を先に置く方法があります。社内に教育担当がいなければ、一人親方へ教育手当を付け、現場同行を依頼する方法もあります。
採用、教育担当、現場同行、評価、現場責任者への育成を一つの流れとして設計することが、段階的な内製化の出発点です。
まずは、自社に次の三点があるかを確認してみてください。
- 新人を教えられる人と時間
- 未経験者へ伝えられる会社の強み
- 職人から現場責任者へ進む道筋
足りないものが見えれば、採用を始める前に整えるべきことも見えてきます。
自社職人を育てる体制から整理したい方へ
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