前提

営業統括から技術管理まで社長に集まるリフォーム会社の幹部採用

あるリフォーム・リノベーション会社では、次の成長を見据えて幹部候補を探していました。

社長が思い描いていたのは、単なる管理職ではありません。顧客の窓口に立つ。営業を統括する。工事や見積もりを理解する。社内から上がってくる相談に判断を返す。さらに、会社の先を見ながら事業を前へ進める。そんな人材です。

社長は現状を、こう話していました。

「今は全部、私のところへ聞きに来る。それを任せられる人がほしい」

一方、足元では設計業務にも明確な負荷がありました。施工図を社内の一人が担っています。外注しても修正が多く、かえって社内の手間が増える状態です。

「外に出しても修正ばかり入る。中に、きちんと図面を描ける人が一人ほしい」

必要な人材は確かにいます。ただし、ここで挙がっているのは同じ一人ではありません。

施工図を描く設計人材と、社長の意思決定を支える幹部人材では、任せる成果も必要な経験も異なります。

この違いを曖昧にしたまま「幹部」という一つの求人にまとめると、経歴のよい候補者が現れても、採るべきかどうかを判断しにくくなります。

課題

営業責任者、技術部長、事業推進を一人に詰め込んだ曖昧な幹部像

採用が進まない主な要因は、候補者がいないことだけではありません。会社が求める幹部の役割が広く、選考基準を置けないことにあります。

候補者の経歴を見ても、「少し違う」「幹部には難しそう」「一度会ってみてもよいかもしれない」と判断が揺れていました。経歴の良し悪しではなく、何を任せる採用なのかが固まっていなかったためです。

社長の構想には、少なくとも次の役割が含まれていました。

  • 顧客対応を含む営業統括
  • 工事の納まりや見積もりを判断する技術管理
  • 営業戦略を考える責任者
  • 社長の考えを具体化する事業推進
  • 社内から社長へ集まる相談や意思決定の引き受け

「営業統括や技術部長のような人がいて、その上か間にもう一人ほしい。戦略的なことも考えて、事業を進められる人です」

理想としては自然です。会社を伸ばす局面では、社長の右腕に多くを期待したくなります。

ただ、営業、技術、経営企画では、候補者が積んできた経験も仕事の進め方も違います。すべてを必須にすると、対象者は極端に少なくなります。反対に条件を広げると、建築実務を任せられない候補者まで集まります。

「優秀な幹部がほしい」という募集では、候補者像も面接で確かめる内容も定まりません。採用市場へ出す前に、役割を分解する必要があります。

背景

社長自身が営業、積算、工事を経験しているから生まれる高い期待値

役割が広がった背景には、社長自身の経験があります。

この社長は、若い頃に積算を経験し、見積もりや工事、設計に関する判断を重ねてきました。そのため、顧客との会話から見積もりの精査、工事の納まりまで、一連の流れを理解しています。

「見積もりは自分が一番できると思う。積算も工事もやってきたから、全部わかる」

社長の中では、それぞれの判断がつながっています。ところが、採用市場では設計一筋の人、営業管理に強い人、事業推進を得意とする人に分かれているのが一般的です。

実際、設計経験者に営業や見積もり精査まで任せられるかを検討した際には、「ほぼいない」「設計は設計にどっぷり」という認識が共有されていました。

もう一つの背景は、求めているのが大企業の完成された管理職ではないことです。

社長がイメージしていたのは、大企業のやり方をそのまま持ち込む人ではありません。30代後半から40歳前後で、社員と一緒に会社を引き上げていく人。これまでの段取りを前提にせず、「もっとこうした方がよい」と提案できる人でした。

「大手で固まったやり方を持ってくる人ではなく、みんなと一緒に引っ張り上げる人がいい」

さらに、将来は現在の事業領域だけにとどまらない構想もあります。だからこそ、目の前の建築実務を任せる人と、社長が描く方向を形にする人が、一つの人物像に重なっていました。

社長ができることを、そのまま一人分の採用要件にすると、“社長の代わりができる人”を探す求人になります。これでは採用難度が必要以上に上がります。

解決

社長が手放す意思決定を起点に成果、権限、実務範囲を分けるポジション設計

最初に決めたいのは、肩書ではありません。入社した人に、どの意思決定と業務を渡したいのかです。

「幹部」「右腕」「事業責任者」といった言葉から考えると、役割が広がりやすくなります。まず、現在社長へ集まっている仕事を書き出します。

今回のケースであれば、次のように分けられます。

  • 顧客の窓口となり、営業方針を決める
  • 工事の納まりや見積もりを確認する
  • 設計や施工図の品質を管理する
  • 社内から上がる相談に判断を返す
  • 社長の考えを施策や計画に落とし込む
  • 新しい事業や組織づくりを前へ進める

次に、それぞれを「建築経験がなければ任せにくい仕事」と「異業種の経験も生かせる仕事」に分けます。

施工図の作成、工事の納まり、積算や見積もりの精査は、建築経験への依存度が高い領域です。顧客との技術的な会話まで担うなら、同業または近い施工領域の経験が必要になります。

一方、社長の構想を計画にすること、社内の課題を整理すること、部門をまたいで施策を進めることは、必ずしも設計実務の経験だけで決まりません。事業推進や組織横断のプロジェクト経験を持つ人も候補になります。

建築経験を全ポジションの共通条件にせず、その経験が必要な意思決定だけを切り出すことが重要です。

今回の会社であれば、たとえば次のように分けて考えられます。

技術・営業統括を担うポジション

求める成果は、顧客対応から見積もり、工事判断までの精度を上げ、社長へ集中している技術判断を減らすことです。

建築経験は原則として必要です。施工領域が近い内装、改修、店舗工事など、どの会社のどの役割なら近い経験を積めるかまで具体化します。

事業推進を担うポジション

求める成果は、社長の考えを具体的な計画へ落とし、関係者を動かして実行することです。

建築知識は入社後に身につける余地があります。その代わり、曖昧な構想を整理した経験や、複数部門を巻き込んで仕事を進めた経験を重視します。

求人票には、少なくとも次の項目を明記します。

  • 入社後に実現してほしい成果
  • 本人に任せる意思決定と権限
  • 日常的に担う実務
  • 社長が引き続き担う仕事
  • 建築経験が必要な業務
  • 今回は任せない業務

特に「今回は任せない業務」が大切です。営業戦略を任せる一方で、施工図の作成までは求めない。技術管理を任せる一方で、新規事業の企画までは必須にしない。この線引きがあると、候補者も自分が活躍できるかを判断しやすくなります。

そのうえで、近い施工領域の求人を参照し、仕事内容や応募条件を見直します。候補者の出身企業や現在の役職まで具体的にイメージできれば、求人媒体だけでなく、直接声をかける採用も進めやすくなります。

求人票を先に書くのではなく、「どの成果を誰に任せるか」を決めてから募集を分ける。この順番が、幹部採用の停滞を解く起点になります。

まとめ

幹部採用が進まないとき、候補者の母数だけを増やしても、判断の迷いが残ることがあります。

今回の会社では、営業統括、技術管理、設計、見積もり精査、事業推進、社長の意思決定支援が、一つの幹部像に重なっていました。求めていたのは単なる管理職ではなく、社長が長年かけて身につけた複数の機能を引き受ける人だったからです。

整理の軸はシンプルです。

  • 社長が手放したい仕事を具体化する
  • 仕事ではなく、任せたい成果と意思決定で分ける
  • 建築経験が必須の役割を切り出す
  • 一人に任せる範囲と任せない範囲を決める
  • 近い会社、役職、施工領域から候補者像を具体化する

「何でもできる人」を探すより、「この成果を任せられる人」を探す方が、求人も選考も動かしやすくなります。

理想の幹部像を小さくする必要はありません。まず採用可能な役割に分け、会社の成長に合わせて権限を広げていく考え方もあります。

自社に必要な幹部の役割から一緒に整理する

「社長の右腕がほしいが、何を任せるべきか決めきれない」「建築経験と事業推進力のどちらを優先すべきかわからない」という段階でも、採用要件は整理できます。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。幹部採用についても、社長に集中している業務や意思決定を確認し、ポジション設計、採用要件、探し方へ落とし込んでいきます。

まだ求人票にできるほど固まっていなくても問題ありません。無理に採用や契約を勧めることはありませんので、自社の場合に何から整理すべきかを確認する場としてご活用ください。

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