大型工事に備えて人を増やしたい一方、今のまとまりは崩したくない少人数の建設会社
関西圏で建築工事を手がける、ある少人数の会社では、通常より大きな工事がすでに動き始めていました。既存メンバーでも対応できる見込みはあるものの、マンパワーには少し余裕がありません。新たに1〜3名ほど加われば、今後の受注にも対応しやすくなります。
ただし、採りたい人材像は資格や経験年数だけでは決まりませんでした。
「上に入ってもらうか、今いる人の下に入ってもらうかは、その人を見て決めればいい」
高いレベルで現場を任せられる人も候補です。経験が1〜2年程度でも、大きな案件に関わった人なら検討できます。資格保有も絶対条件ではありません。
一方で、社長が最も重く見ていたのは別の点でした。
「何より求めるのは、経験や能力ではないんです。会社に対する忠誠心です」
この会社では、現在のメンバーが同じ方向を向いて働いています。少人数だからこそ、一人の入社が現場の空気や意思決定に与える影響も小さくありません。
採用の目的は、単に人手を一人増やすことではなく、今のチームと一緒に仕事を進められる人を迎えることです。
「裏切らない人」という感覚的な条件を面接でどう見極めるか
難しいのは、「忠誠心」や「裏切らない」といった大切な感覚が、そのままでは採用基準になりにくいことです。
相談者も「面接でそこまで見抜けるかどうかはある」と話していました。これは少人数の建設会社に共通しやすい悩みです。
応募者が面接で「社長についていきます」「長く働きたいです」と話しても、実際の仕事ぶりまでは分かりません。反対に、口数が少なくても、約束を守り、必要な報告を欠かさず、周囲と着実に仕事を進められる人もいます。
経験や資格は履歴書で確認できます。しかし、次のような点は書類だけでは判断できません。
- 決めたことや期限を守ろうとする人か
- 指示の意図を確認し、行動へ移せる人か
- 問題を抱え込まず、早めに報告できる人か
- 自分と異なる進め方の人とも協力できるか
- 会社や現場の方針と違う意見があるとき、どう伝えるか
「忠誠心があるか」と直接尋ねるのではなく、日々の行動として何を求めるのかまで分解する必要があります。
基準が曖昧なままだと、社長の直感だけで合否を決めることになります。直感は大切です。ただ、判断理由を言葉にできなければ、面接ごとに見るポイントが変わり、入社後の評価ともずれやすくなります。
一人の進め方の違いが既存メンバー全体へ広がりやすい組織構造
この会社が相性を重視する背景には、今の組織が安定していることがあります。
「今もそういう人間で固めています。一人、不穏な人が入ると崩れ出すので」
社員の離職は多くありません。待遇面も理由の一つですが、経営側が社員を無理に引き留めようとしない距離感もあり、現在のメンバーとの関係が成り立っています。
少人数の会社では、一人が担う範囲が広くなります。施工管理として上に立つのか、既存社員の下で現場を覚えるのかが入社時点で決まっていない場合は、なおさら周囲との調整が欠かせません。
高い能力があっても、自分のやり方だけを優先する人が入れば、既存社員が調整役を担うことになります。報告の仕方や指示への向き合い方が違えば、小さな行き違いが続く可能性もあります。
反対に、経験が浅くても、分からないことを確認し、約束したことを実行し、周囲と情報を共有できる人なら、現場で役割を広げていけます。
少人数組織では、「入社時点の能力の高さ」だけでなく、「既存チームの中で能力を発揮できるか」が採用の重要な判断軸になります。
ここでいう相性は、社長の指示へ無条件に従うことではありません。指示に疑問があれば確認する。別の考えがあれば伝える。そのうえで、決まった方針に沿って動く。こうした仕事の進め方が合うかどうかです。
忠誠心を行動基準へ分解し、過去の事実と社員との接点から確認する採用設計
最初に行いたいのは、社長が求める「忠誠心」を、面接で確認できる言葉へ置き換えることです。
例えば、今回の会社であれば、次のように整理できます。
抽象的な条件 | 面接で確認する行動 |
|---|---|
裏切らない | 約束や期限を守り、難しい場合は早めに共有する |
指示に沿って動ける | 指示の目的を確認し、決まった方針を実行する |
会社を大切にする | 自分だけでなく、会社や現場全体への影響を考える |
周囲と合わせられる | 意見が違う相手とも情報を共有し、役割を調整する |
長く任せられる | 問題が起きた際に隠さず、解決へ向けて動く |
採用基準は、性格を評価する言葉ではなく、現場で確認できる行動として定めると判断しやすくなります。
面接では「どう思うか」より「過去にどう動いたか」を聞く
価値観を確認するときは、理想論を尋ねるだけでは十分ではありません。過去の現場で取った行動を聞きます。
質問例は次のとおりです。
- 「上司や元請けの指示に納得できなかった経験はありますか。そのとき、どう対応しましたか」
- 「約束した期限に間に合わないと分かったとき、誰へ、どの段階で伝えましたか」
- 「現場のメンバーと仕事の進め方が合わなかったとき、どのように調整しましたか」
- 「自分のミスや判断違いが起きたとき、どのように報告しましたか」
- 「経験のない役割を任されたとき、最初に何を確認しましたか」
回答を聞いたら、「その場には誰がいたか」「最初に何をしたか」「結果はどうなったか」と掘り下げます。抽象的な答えではなく、行動の順序まで確認するためです。
見るべきなのは、正解らしい話し方ではありません。応募者の説明に一貫性があり、自社が大切にする進め方と重なるかどうかです。
会社側の仕事の進め方も先に伝える
見極めは、会社が応募者を選ぶだけの場ではありません。応募者にも、自分が合う会社かを判断してもらう必要があります。
面接では、良い面だけでなく、実際の前提を伝えます。
- 少人数で、一人ひとりの動きが周囲へ影響しやすいこと
- 入社時点では、既存社員の上か下かを固定しない可能性があること
- 経験や能力に応じて役割を決めること
- 現場の方針が決まった後は、チームで足並みをそろえること
- 分からないことや問題は、早めの共有を求めること
ここを曖昧にすると、入社後に「思っていた会社と違った」というずれが起きます。
自社の価値観をきれいな理念だけで伝えず、日常の仕事で何を求める会社なのかまで説明することが大切です。
社長面接だけで決めず、既存社員との接点を設ける
少人数組織との相性を見るなら、既存社員との接点も判断材料になります。社長とは話が合っても、現場で一緒に働く社員とは進め方が合わないことがあるためです。
選考の途中で既存社員と話す機会を設け、応募者からも現場の進め方を質問してもらいます。その後、社員には「好きか嫌いか」ではなく、あらかじめ定めた基準で所感を聞きます。
- 話を最後まで聞いていたか
- 分からない点を確認していたか
- 自分の経験だけを押し通していなかったか
- 周囲と役割を調整できそうか
社員の意見だけで合否を決める必要はありません。ただし、社長とは異なる場面での振る舞いを確認できます。
入社後に確認する項目も採用時点で共有する
面接だけですべてを見抜くのは難しいものです。この会社でも、一定期間を設けて働き方を見たいという考えがありました。
その場合も、単に「しばらく様子を見る」だけでは判断が曖昧になります。採用時に伝えた基準を、入社後の確認項目としてそのまま使います。
- 朝礼や打ち合わせで決まったことを実行できているか
- 期限や約束を守れない可能性が出た時点で共有できているか
- 指示が分からないまま進めず、確認できているか
- 既存社員と必要な情報を共有できているか
- 意見が違う場面でも、決定後は役割を果たしているか
面接と入社後で同じ基準を使えば、「何となく合わない」という判断を減らしやすくなります。
まとめ
少人数の建設会社では、一人の採用が組織全体に与える影響が大きくなります。経験豊富な施工管理者であっても、仕事の進め方が合わなければ、既存メンバーへ負担が寄ることがあります。
一方で、経験が浅くても、約束を守り、早めに報告し、周囲と協力できる人なら、入社後に任せられる範囲を広げられます。
採用時に整理したいポイントは、次の4つです。
- 「忠誠心」や「相性」を、確認できる行動へ置き換える
- 面接では過去の具体的な行動を聞く
- 会社側の仕事の進め方も率直に伝える
- 既存社員との接点と入社後の確認項目を用意する
経験や資格は重要な判断材料ですが、少人数組織では「このチームでどう働く人か」まで見て採ることが、今の組織を守りながら人を増やす採用につながります。
自社に合う人材像を、面接で使える基準まで整理したいときは
「うちに合う人」は分かっていても、それを求人票や面接の質問へ落とし込むのは簡単ではありません。社長の感覚と既存社員が大切にしていることを整理すると、自社らしい採用基準が見えやすくなります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の人材課題を、採用だけでなく現場や組織の状況も踏まえて整理し、実行まで支援しています。
「うちの場合、相性をどう見極めればよいか」「何から言葉にすればよいか」という段階でも問題ありません。状況を伺ったうえで、必要な整理先を一緒に考えます。無理にサービスを勧めることはありませんので、気軽にお声がけください。