元請けから増員を求められているものの、求人を出し続けても応募が来ない4名規模の電気工事会社
九州地方で電気設備工事を手がける、4名規模の会社があります。社長を含む全員が職人として現場に入り、店舗や工場、マンションなどの電気工事に対応しています。電気設備だけでなく、地中に配線を通す埋設工事まで自社で施工できることが強みです。
現在、特に人を増やしたいのが造船関連の電装工事です。現場にはすでに1名を配置していますが、元請けからは「人を増やしてほしい」と継続的に声がかかっています。会社としても、あと4名ほど採用し、5名程度の体制にしたいと考えています。
ところが、求人媒体、ハローワーク、高校求人を使って募集を続けても、思うように応募がありません。
社長の言葉は率直でした。
「求人はずっと出しています。でも、全然来ないんですよね」
募集条件は未経験者も対象で、資格がなくても入れる現場です。造船の現場では元請け側の指示役のもとで作業するため、入場後の技術指導にも一定の見通しがあります。
仕事があり、未経験者を受け入れられる現場もある。それでも採用できない場合、見直すべきなのは掲載先の数よりも、誰に何をどう伝え、入社までつなげるかという採用活動全体です。
「資格不要・誰でも歓迎」だけでは、応募者が働く姿を想像できない求人
未経験者まで間口を広げること自体は、職人採用において現実的な判断です。一方で、「資格不要」「未経験歓迎」「誰でも応募可能」という条件だけでは、求職者が応募を決める材料としては足りません。
求職者が知りたいのは、応募できるかどうかだけではないからです。
- 具体的にどのような現場で働くのか
- 毎日どこへ出勤し、誰と仕事をするのか
- 未経験者は最初に何を任されるのか
- 誰がどのように仕事を教えるのか
- 造船の電装工事と建築の電気工事はどう違うのか
- 資格や経験を身につけた先に、どのような仕事ができるのか
こうした情報が見えなければ、求職者は仕事内容を判断できません。特に造船関連の仕事は、経験のない人にとって現場のイメージを持ちにくい領域です。
「誰でも大丈夫」という表現は会社側の受け入れ姿勢を示せる一方で、応募者から見ると「自分に向いている仕事なのか」「本当に未経験でも続けられるのか」が分からないまま残ります。
採用対象を広げるほど、求人原稿では仕事内容、向いている人、教え方を具体的にする必要があります。
もう一つの課題は、求人が掲載で止まっていることです。この会社は高校にも求人を出していましたが、学校への訪問は行っていませんでした。求人票を届けることと、学校側に会社や仕事を理解してもらうことは別の活動です。
求人媒体、ハローワーク、高校求人は応募者との接点であり、それだけで採用活動が完結するわけではありません。
既存社員は以前からの仲間で、一般応募者の入社と定着には別の受け入れ設計が必要な状態
この会社では、求人から採用に至った実績がまったくないわけではありません。ただし、過去に採用した人は退職しています。一方、現在働いている社員は、社長が個人事業で動いていた頃から付き合いのある人たちです。
「今残っているのは、個人事業の頃からついてきてくれた人たちです」
この違いは、採用を見直すうえで重要です。
以前から関係のある人は、社長の人柄、仕事の進め方、現場の厳しさ、会社の状況をある程度理解したうえで入社できます。ところが、求人媒体や学校を通じて初めて会社を知る人には、その前提がありません。
入社前に聞いていた内容と現場の実態に差があれば、早期離職につながりやすくなります。逆に、仕事内容や働き方を事前に具体的に伝え、入社後の流れを整えておけば、一般応募者も会社になじみやすくなります。
また、現場で作業を教えられることと、会社として新人を受け入れられることも分けて考える必要があります。造船の現場には元請け側の指示役がいるため、作業上の指示は受けられます。しかし、次のような事項は雇用する会社側で整理しておく必要があります。
- 初日の集合場所や持ち物
- 現場のルールと安全面の説明
- 困ったときの相談先
- 社長や既存社員との連絡方法
- 入社後に確認する時期と内容
現場に指示役がいることは教育環境の一部ですが、入社後の不安を受け止め、定着を支える役割まで元請けに任せることはできません。
社長自身も複数の店舗工事などに入り、現場が重なる時期は忙しくなります。少人数の会社では採用専任者を置きにくいため、求人の更新、学校との接点づくり、応募者対応が後回しになりがちです。
採用できない原因が媒体だけにあるとは限らず、採用対象、求人内容、接点づくり、応募対応、入社後の受け入れが分断されている場合があります。
採用人数から逆算し、人物像・求人内容・接点・選考・受け入れを順番に整える進め方
少人数の建設会社が採用活動を見直す場合、最初から媒体を増やす必要はありません。まずは、現在使っている求人媒体、ハローワーク、高校求人を生かし切るための土台を整えます。
1.「誰でも」から一歩進め、採用したい人物像を決める
新卒か中途かに強く限定しない場合でも、仕事に合う人物像は言葉にできます。
例えば、今回のような仕事であれば、資格や電気工事の経験だけでなく、次の観点から整理できます。
- 造船関連の現場で働くことに抵抗がない
- 指示を受けながら作業を覚えられる
- 未経験から手に職をつけたい
- 決められた場所へ継続して通勤できる
- チームで行う作業に合わせられる
ここで大切なのは、理想を並べすぎないことです。「絶対に必要な条件」と「あれば望ましい条件」を分けます。未経験者を採りたいのに、経験者を前提とした条件や表現が残っていないかも確認します。
人物像は応募者を狭く選別するためではなく、どのような人に、何を伝えれば応募につながるかを決める基準です。
2.仕事内容と教育環境を、未経験者の目線で書き直す
求人原稿では、「電気工事作業員」だけで終わらせず、最初の仕事が想像できるところまで具体化します。
今回の会社で伝えられる材料には、次のようなものがあります。
- 造船関連の電装工事に携わること
- 資格がなくても始められる作業があること
- 現場では指示役のもとで作業すること
- 現在も社員が同じ現場で働いていること
- 建築分野では店舗、工場、マンションなどの電気工事も手がけていること
- 電気設備から埋設工事まで対応できる会社であること
教育については、「未経験でも大丈夫」と書くだけでなく、誰から指示を受け、どのような立場で現場に入るのかを説明します。同時に、入社後の相談先は自社側で明確にします。
仕事内容、初日の動き、教える人、相談する人まで見える求人は、未経験者が応募前に感じる不明点を減らせます。
3.高校求人は、求人票の提出から学校との接点づくりへ進める
高校求人では、求人票を出した後の動きも大切です。訪問できる学校を絞り、進路指導を担当する先生に会社と仕事を説明します。
その際は、単に「人が足りない」と伝えるのではなく、次の情報を簡潔に整理して持参すると話が伝わりやすくなります。
- 会社が行っている工事
- 高卒・未経験者が担当する仕事
- 配属を予定している現場
- 現場での指導体制
- 資格取得や仕事を覚える道筋
- 採用予定人数
工業高校だけに限定するか、普通科を含めるかは、「資格が必要な仕事なのか」「入社後にどこまで教えられるのか」を基準に判断します。資格不要で始められる現場があるなら、その事実を学校側にも具体的に伝えることが必要です。
高校求人では、求人票を置くことよりも、先生が生徒に説明できる状態をつくることが重要です。
4.応募から入社までの導線を短くする
応募が入った後の連絡が遅れると、他社へ先に決まることがあります。社長が現場に出ている会社ほど、対応方法をあらかじめ決めておくことが大切です。
最低限、次の流れを固定します。
- 応募を確認する担当者と確認時間を決める
- 最初の連絡で伝える内容をそろえる
- 面接候補日を複数用意する
- 面接で仕事内容と現場の実態を説明する
- 採否連絡の期限を応募者に伝える
- 入社日までに必要な準備を案内する
面接では会社が応募者を判断するだけでなく、応募者にも仕事を判断してもらいます。良い面だけでなく、通勤、勤務時間、現場の環境、最初に任せる作業などを伝え、認識をそろえます。
応募対応は社長の空き時間任せにせず、連絡、面接、採否、入社準備までの期限と担当を決めておくことが必要です。
5.4名の一括採用ではなく、受け入れられる単位で進める
現場として4名を必要としていても、採用活動まで一度に4名へ合わせる必要はありません。まず1名を採用し、求人内容と受け入れ方法を検証してから次へ進む方法もあります。
確認したいのは、応募数だけではありません。
- 求人を見た人数
- 応募した人数
- 面接に進んだ人数
- 内定を承諾した人数
- 入社した人数
- 入社後に続いている人数
応募がなければ人物像や求人内容、面接に来なければ連絡方法や日程、入社後に辞めるなら説明内容や受け入れ体制を見直します。
「何人応募したか」だけでなく、応募から定着までのどこで人が離れているかを見ると、次に直す場所が明確になります。
まとめ
求人媒体、ハローワーク、高校求人を使っても職人が来ないとき、掲載先を増やすだけでは状況が変わらないことがあります。
今回のように、仕事があり、元請けから増員を求められ、未経験者を受け入れられる現場もある会社には、すでに採用の材料があります。必要なのは、その材料を求職者が判断できる形に整え、応募から入社後までつなげることです。
見直す順番は次の通りです。
- 必要人数と採用したい人物像を決める
- 仕事内容と教育環境を具体的に伝える
- 高校や求職者との接点をつくる
- 応募から入社までの対応を固定する
- 入社後の相談先と確認機会を用意する
少人数の建設会社の採用改善は、媒体選びからではなく、「誰に来てほしいか」と「入社後にどう迎えるか」をつなげるところから始まります。
自社に合う採用の進め方を整理したい方へ
採用したい人数は決まっていても、人物像や求人内容、学校への伝え方、入社後の受け入れまでを社内だけで整理するのは簡単ではありません。特に社長自身が現場に出ている会社では、採用活動に使える時間にも限りがあります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の人材課題を、求人だけでなく教育体制や組織づくりまで含めて整理し、実行を支援しています。「うちの場合は何から見直すべきか」という段階でも構いません。状況を伺ったうえで整理するため、無理にサービスをおすすめすることはありません。
ものづくりに集中できる建設業界へ向けて、採用と定着の進め方を一緒に考えます。