新人を採りたい一方で、教育に半年ほどかかり放置の可能性もある少人数の電気工事会社
ある地方都市の10名弱の電気工事会社では、戸建て住宅中心の事業から集合住宅にも対応できる体制を目指していました。新しい現場を受けるには人を増やす必要がありますが、社長は平日ほぼ現場に出ており、人事を担当する事務社員にも採用の実務経験はありません。
さらに、今いる社員が社長不在でも仕事を進められるよう、教育を優先している段階でした。新人が一人で動けるまでの目標は2〜3カ月でしたが、実際には半年ほどを見込む必要があります。
「採用を増やしても、教える人が足りず放置になるかもしれない」という状況です。そのため、即戦力となる経験者や資格保有者は歓迎したいものの、未経験者を積極的に増やせる状態ではありませんでした。
採用を考える前提として、何人採れるかだけでなく、入社後に誰が育て、どう評価し、どのように定着してもらうかまで確認する必要があります。
人を入れることがゴールになると、期待のずれと評価への不満が早期離職につながる構造
採用してもすぐ辞めてしまう会社では、採用活動と入社後の仕組みが分かれていることがあります。
求人では給与や休日、仕事内容を伝えていても、求職者がどのような働き方を望んでいるのか、自社がどのような働き方を期待しているのかが十分に整理されていません。その状態で採用すると、入社後に「想像していた働き方と違った」というずれが生まれやすくなります。
もう一つ見落としやすいのが評価です。現場で力を発揮している人が正当に評価されなければ、「頑張っても変わらない」という不満につながります。本人が納得できる評価や次の役割が見えなければ、他社への転職や引き抜きも選択肢に入りやすくなります。
採用時のミスマッチと入社後の不公平感は別々の問題に見えますが、根は同じです。会社が求める人物像、本人が望む働き方、評価される行動がつながっていないことから生まれます。
早期離職の原因を採用媒体や応募者だけに求めず、採用の入口、入社後の働き方、評価基準のつながりを見直すことが大切です。
社員が入社した理由と残っている理由を把握しないまま、全員に同じ働き方を求めている状態
採用・定着の設計は、経営側の想像だけでは進めにくいものです。まず確認したいのは、現在働いている社員の声です。
社員一人ひとりに話を聞くと、次のような情報が見えてきます。
- なぜこの会社に入ったのか
- 入社前に何を魅力に感じたのか
- 実際に働いてみてよかったことは何か
- 社長には直接言いにくい不満があるか
- 今も働き続けている理由は何か
- 今後、どのような働き方や役割を望んでいるか
外国人の職人を雇用している会社であれば、仕事の理解度だけでなく、言葉の違いが教育期間や評価への納得感に影響していないかも確認したいところです。「できない」と評価していたことが、実際には指示の伝わり方に原因がある可能性もあります。
社員インタビューの目的は、不満を集めることではありません。入社理由は求人で伝えるべき自社の魅力になり、定着理由は残したい社内制度や関わり方になり、不満は改善の優先順位を決める材料になります。
東海地方のある足場工事会社では、採用の入口を一つに絞らず、「しっかり働いて収入を増やしたい人」と「休日や私生活との両立を重視したい人」に分けました。入社時点から全員に同じ価値観を求めるのではなく、異なる志向を受け入れた形です。
さらに、年1回の面談で働き方のコースを変更できる仕組みを設けました。私生活重視で入社した人が、周囲の働き方や待遇を見て「もっと仕事に力を入れたい」と考えた場合、自分の意思でコースを変えられます。
この会社は、採用の間口を広げるだけでなく、入社後に本人の志向が変わることまで仕組みに組み込み、数年をかけて数十人規模の組織へ成長しました。
人の考え方は入社後も変わるため、採用時の希望を固定せず、定期面談で働き方を選び直せる仕組みが定着を支えます。
社員インタビューを起点に、採用コース、定期面談、評価基準を一本につなぐ進め方
採用・評価・定着を一体で設計するには、求人を出す前に社内の現状を整理します。順番は次のように考えると進めやすくなります。
1.社員インタビューで自社の実態を言語化する
最初に、現在の社員が入社した理由、仕事を続けている理由、不満、今後の希望を聞きます。社長が直接聞くと話しにくい内容もあるため、人事担当者が個別に聞く方法も考えられます。
回答は個人の評価に使うのではなく、共通点を整理します。たとえば、入社理由に「資格を生かせる」「早く仕事を任せてもらえる」が多いなら、それは採用で伝えるべき魅力です。一方、「何をできれば評価されるのか分からない」という声が多ければ、評価基準の整備が先になります。
2.働き方や志向に応じて採用の入口を分ける
全員に同じ働き方を求めず、自社で実際に用意できる選択肢を整理します。先ほどの事例であれば、収入や仕事量を重視するコースと、休日や私生活との両立を重視するコースです。
ここで大切なのは、魅力的に見せるためだけのコースをつくらないことです。それぞれについて、期待する働き方や待遇の考え方を社内で揃えておかなければ、入社後の不公平感につながります。
採用コースは応募者を増やすための表現ではなく、本人の希望と会社の期待を入社前に合わせるための約束です。
3.定期面談で希望の変化を確認する
入社時に選んだ働き方が、その後も本人に合い続けるとは限りません。年1回などの定期面談を設け、現在の希望、仕事への納得感、今後担いたい役割を確認します。
面談では評価結果を伝えるだけでなく、働き方のコースを変えたいか、次に何を目指したいかまで話せるようにします。会社側が一方的にコース変更を促すのではなく、本人が選べる状態にしておくことがポイントです。
4.評価基準と次の役割を見えるようにする
評価は、社長や上司の印象だけで決まる状態を避けたいところです。少なくとも、現在の役割で何を期待しているのか、何ができるようになれば次の役割に進めるのかを言葉にします。
評価基準をつくる際は、社員インタビューで把握した不満や希望と、会社が必要としている人材像を照らし合わせます。資格、技術、現場で担える役割など、自社で確認できる項目から始めれば、制度を複雑にしすぎず運用できます。
評価基準とキャリアの見通しがつながると、社員は「何を身につければ次に進めるか」を理解しやすくなります。
5.受け入れ可能な人数と採用時期を決める
採用の仕組みが整っても、教育する余力がなければ定着は難しくなります。新人を教えられる人は誰か、一人前になるまで何カ月かかるか、同時に何人まで受け入れられるかを確認します。
教育に半年ほどかかる会社であれば、一度に人数を増やすより、経験者を優先しながら少人数ずつ採用する方法もあります。採用数ではなく、半年後に戦力として残っている人数を目標に置く考え方です。
採用人数は応募数から決めるのではなく、現場が無理なく教育できる人数から逆算します。
まとめ
人を採ってもすぐ辞めてしまう問題は、求人の出し方だけでは解決しにくいものです。採用時に伝えた働き方、入社後の実態、評価される基準、将来の役割がつながっているかを確認する必要があります。
進める順番は、次のとおりです。
- 社員インタビューで入社理由、不満、定着要因を把握する
- 働き方や志向に応じた採用コースを設計する
- 定期面談で希望の変化とコース変更を確認する
- 評価基準と次の役割を見えるようにする
- 教育できる人数から採用数と時期を決める
採用・評価・定着を一つの流れとして設計することで、「入社して終わり」ではなく「入社後に力を発揮し続けられる組織」に近づきます。
自社に合った採用・定着の仕組みを整理したい方へ
採用コースや評価制度は、他社の成功例をそのまま取り入れれば機能するものではありません。社員が入社した理由、現場の教育余力、会社が今後必要とする人材を踏まえて、自社に合う形へ整える必要があります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の人材課題を、採用の入口だけでなく、社員インタビュー、評価、教育、定着まで横断して整理し、社内で運用できる仕組みづくりを支援しています。
「うちの場合は何から整理すればよいか」「今の人数でどこまでできるか分からない」という段階でも構いません。無理にサービスを勧めることはありませんので、今の状況を整理する場としてご活用ください。