前提

公共工事への参入と外注中心の施工体制からの直営化を同時に進める5名規模の土木会社

岐阜県で電力インフラ関連の土木工事を手がける、創業5期目の会社があります。現在は民間工事を元請けで受注していますが、稼働中の3現場は外注先を中心に回しています。

次の事業の柱として準備しているのが、公共工事です。入札参加に向けた申請を進め、まずは対応可能な案件を見極めながら、協力会社から見積もりを取り、施工を任せる形を想定しています。

一方で、会社として目指しているのは外注だけに頼る体制ではありません。

「人がそろえば直営で工事を進めたい。民間工事の直営化を進めながら、公共工事の売上もつくっていきたい」

この構想を実現するには、人材が必要です。ただし、必要なのは単に「土木経験者」ではありません。

  • 入札や事業要件を満たすための有資格者
  • 現場を任せ、若手を育てられる番頭役
  • 将来の直営部隊を担う若手未経験者

公共工事への参入と直営化を同時に進める会社では、必要な人材を一括して募集せず、事業上の役割ごとに分けて考えることが出発点になります。

課題

有資格者・番頭役・若手未経験者を同時に求めることで曖昧になる採用の優先順位

この会社が当初募集していたのは、施工管理の経験者でした。1級または2級の資格があり、現場を任せられる人を想定していました。

ところが、話を整理すると、施工管理経験者に期待している役割は一つではありませんでした。

公共工事では、資格者を確保して事業要件を整え、対応できる案件の幅を広げたいという狙いがあります。この役割であれば、必ずしも働き盛りの40代や50代だけが候補ではありません。豊富な経験と資格を持つシニア層も検討できます。

直営化では、現場を回すだけでなく、若手に危険な作業を伝え、仕事を教えられる人が必要です。こちらは、資格の有無だけでは判断できません。

さらに、将来を考えれば、新卒や第二新卒を含む若手も採用したいところです。しかし、若手だけを先に採用しても、現場で教える人がいなければ育成が進みません。

相談者も、そこを強く気にしていました。

「自分一人では、3つも4つもある現場を回りながら、ずっと新人について教えることができません。危ないことを危ないと言える人がいないと、未経験者を現場に出せないんです」

資格を持つ人、現場を任せられる人、人を育てられる人は、必ずしも同じではありません。三つの役割を一人に求めるほど、採用難易度は上がります。

「施工管理経験者募集」という一つの求人にまとめてしまうと、誰に何を任せたいのかが曖昧になります。候補者側も、自分が求められている理由をつかみにくくなります。

背景

外注で現場は動いていても、社内に教育担当者がいないため若手採用へ進めない状態

若手採用に踏み切れない最大の理由は、応募が来ないことだけではありません。採用後に安全を守りながら育てる体制がないことです。

現在の現場は、経験のある外注先に任せています。ただし、職人として仕事ができることと、新人を育てられることは別です。実際に、既存の外注先を社員として迎える選択肢も検討しましたが、番頭役や教育担当を任せられる人は見当たりませんでした。

「職人さんに新人教育までお願いするのは難しいです。人を育てられる人と、仕事ができる人は違います」

外国人材についても同じ課題があります。責任者や番頭役がついて教育できるなら選択肢になりますが、現在の体制では言葉や安全面の不安が残ります。事故が起きれば、本人だけでなく、元請けとして積み上げてきた信用にも関わります。

また、近く一級施工管理技士を持つ経験者が合流する予定です。その人が若手を見る構想はあるものの、一人に資格者、施工管理、教育担当のすべてを集中させれば、再び属人的な体制になります。

ここに採用の順番を考える重要性があります。

若手が必要だから若手を採るのではなく、若手を安全に受け入れられる状態をつくってから採る必要があります。

同時に、公共工事の受注準備も止められません。受注を先に増やすのか、人材を先に抱えるのかは会社によって異なりますが、少なくとも「採用できたら直営化する」という計画だけでは、いつまでも外注中心の状態から抜けにくくなります。

解決

受注要件、教育能力、安全管理、採用難易度の順に採るべき人材を分ける設計

採用の優先順位は、現在の事業計画に照らして三段階に分けると整理しやすくなります。

1.公共工事への参入を止めているなら、まず有資格者を確保する

資格者がいないために入札や事業拡大の選択肢が狭まっているなら、有資格者の確保が先です。

この採用では、年齢を必要以上に絞らないことがポイントです。働き盛りの有資格者は、現在の会社でも中心的な役割を担っていることが多く、転職市場では競争が激しくなります。

一方、会社が求めている役割が「資格と経験を生かして公共工事の体制づくりを支えること」であれば、シニア層まで対象を広げられます。常勤だけでなく、実際に任せる業務に合わせた働き方も検討できます。

ただし、資格を借りるという発想ではなく、担当業務、勤務実態、責任範囲を明確にしたうえで採用することが前提です。

今回の会社では、すでに有資格者の合流が見込まれています。そのため、次の採用では資格保有だけを最優先にせず、現場運営や教育を補えるかを重く見る余地があります。

2.直営化を進めるなら、若手より先に番頭・教育担当者を置く

直営部隊をつくるうえで先に必要なのは、作業員の人数ではなく、現場で人を束ねられる人です。

番頭役に求める条件は、資格の有無だけでは判断できません。少なくとも、次の役割を分けて確認する必要があります。

  • 現場の安全を見て、危険な行動をその場で止められる
  • 若手に作業の理由と手順を伝えられる
  • 協力会社や発注者と必要な調整ができる
  • 社長が不在でも、現場の状況を整理して報告できる
  • 20代の社員とも一方的にならずに会話できる

相談者が求めていたのも、単なるベテラン職人ではありませんでした。

「有資格者でなくてもいいので、経験があって面倒を見られる人がほしい。そういう人がいて初めて、未経験者を入れられます」

直営化の初期採用では、施工量を増やす人より、社長以外に現場と育成を任せられる人を優先したほうが組織を広げやすくなります。

有資格者と番頭役を一人で満たせれば理想的です。ただし、それを必須条件にすると候補者が極端に少なくなります。「資格者」と「教育できる現場責任者」を別々に採る判断も持っておくと、現実的な計画になります。

3.教育担当者の配置後に、第二新卒や若手未経験者を採る

若手採用は、直営部隊を長期的につくるために欠かせません。ただし、採用時期は教育担当者が現場に入れる時期と合わせます。

新卒採用は準備期間が長く、学校や保護者への説明も必要です。教育体制がまだ固まっていない段階では、まず第二新卒や若手の中途採用から始める方法があります。

採用前には、少なくとも次の点を決めておきます。

  1. 誰が日々の指導を担当するか
  2. どの現場から経験させるか
  3. 一人で任せない業務は何か
  4. 危険やミスを誰に報告するか
  5. 資格取得までどのように経験を積ませるか

これらが決まっていなければ、若手本人の意欲だけに育成を委ねることになります。

若手採用の成否は、応募数よりも「入社後に誰が、どの現場で、何を教えるか」を採用前に決められているかで変わります。

採用計画は、次のように一枚に整理すると判断しやすくなります。

採用区分

主な目的

最優先で見る条件

採用時期の判断軸

有資格者

公共工事の事業要件と対応範囲の確保

必要資格、実務経験、担当できる責任範囲

資格者不足が受注計画を止めているか

番頭・教育担当者

直営現場の運営と若手育成

安全管理、指導力、調整力、人柄

若手を受け入れる前に配置できるか

若手未経験者

将来の直営部隊づくり

素直さ、継続意欲、仕事への適性

教育担当者と配置現場が決まっているか

求人も、この三つを分けて作ります。仕事内容、求める経験、入社後の役割が違うためです。全員に同じ「施工管理経験者募集」を見せるのではなく、誰に、何を任せ、会社のどの段階を一緒につくってほしいのかを明確にします。

まとめ

公共工事への参入と直営化を同時に進める場合、必要な人材は一種類ではありません。

受注要件を満たす有資格者、現場と教育を担う番頭役、将来の戦力となる若手未経験者を分けて考えることが重要です。

基本的な順番は、次のように整理できます。

  1. 資格者不足が公共工事の計画を止めているなら、有資格者を確保する
  2. 直営化に向けて、現場運営と教育を任せられる番頭役を置く
  3. 安全に育成できる状態をつくってから、若手未経験者を採用する

ただし、すでに有資格者の合流が決まっている会社では、番頭役の採用を優先するなど、現在地によって順番は変わります。

「誰を採れるか」から考えるのではなく、「次の事業段階へ進むために、いま欠けている役割は何か」から採用順位を決めることが、公共工事と直営化を無理なく進める近道です。

自社に必要な一人目の役割から整理するために

公共工事を増やしたいのか、直営比率を高めたいのか、若手を育てたいのかによって、最初に採るべき人は変わります。有資格者と番頭役を一人に求めるべきか、役割を分けるべきかも、受注計画や現在の現場体制によって判断が分かれます。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。

「うちの場合は誰から採るべきか」「採用前に何を整えるべきかわからない」という段階でも、現在の受注状況や教育体制から一緒に整理できます。無理にサービスを勧めることはありませんので、次の組織づくりを考える際の整理先としてご活用ください。

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