複数現場を外注で回しながら直営部隊をつくりたい、岐阜県の少人数土木会社
岐阜県で土木工事を手がける、創業5期目の少人数企業があります。現在は3〜4現場が動いており、施工の多くを外注先と連携して進めています。
今後は直営部隊を増やし、民間工事に加えて公共工事にも対応できる体制をつくりたい。そのために求人媒体、採用ページ、動画配信など、さまざまな方法を試してきました。
実際に若手を採用できたこともあります。しかし、長くは続きませんでした。
社長はその理由を、応募数や待遇だけの問題とは捉えていません。
「自分一人では、ずっと一緒について教えることができないんです」
複数の現場を見ながら営業や経営も担う状況では、未経験者のそばについて育てる時間を確保できません。外注先に預けて「見て覚えてほしい」と伝えるだけでは、安全面にも不安が残ります。
この会社に必要だったのは、応募を増やす施策だけではなく、入社した人を安全に育て、定着につなげる受け入れ体制でした。
求人媒体を増やしても、教える人と育成手順が決まっていなければ定着しない状態
採用活動では、求人原稿やホームページなどの入口に目が向きやすくなります。しかし、入口を整えて人が入っても、社内の受け入れ方が変わっていなければ同じことが繰り返されます。
今回の会社では、未経験者や若手を採用した後の役割分担が明確ではありませんでした。
- 誰が日々の仕事を教えるのか
- 誰が危険な作業を止めるのか
- どの段階まで一人で行動させないのか
- 困ったときに誰へ相談するのか
- 社長が現場にいない日に誰がフォローするのか
こうした点が曖昧なままでは、本人も周囲も動きづらくなります。
特に建設現場では、「忙しいから、今日は外注先についていってもらう」という判断が、そのまま教育になるとは限りません。外注先の職人が高い施工技術を持っていても、新人教育まで担えるとは限らないからです。
相談者も、「人を育てられる人と、職人として仕事ができる人は別です」と話していました。
採用できないことと、採用しても定着しないことは別の課題です。後者を解決するには、募集前に教育担当者と育成の流れを決める必要があります。
社長への業務集中と若手との世代差が、現場任せの教育を難しくしている構造
受け入れ体制をつくりにくい背景には、少人数企業ならではの業務集中があります。
この会社では社長が、現場管理、受注対応、事業の立ち上げ、採用まで幅広く担っています。現場が3〜4か所に分かれて動けば、新人一人に付き切りになることはできません。
「危ないことは危ないと言える人がいないと、未経験者を一人では行かせられません」
この言葉には、単なる教育不足ではなく、事故や取引先からの信用まで考えた慎重さが表れています。未経験者を早く現場へ出せば人手は増えますが、教育担当者がいない状態では、かえって社長の確認業務が増える可能性があります。
もう一つの背景が、世代間のコミュニケーションです。同社では過去に20代の人材を採用しましたが、社長世代とは仕事に対する考え方や会話の前提が異なると感じていました。
年齢や経験が上の人を教育担当に置けば解決するわけでもありません。経験豊富な人であっても、若手の話を聞き、理解度を確かめながら伝えられるとは限らないためです。
教育担当者に必要なのは、施工経験だけではありません。
- 危険な行動をその場で止められる
- 作業の理由まで言葉で説明できる
- 相手の理解度に合わせて伝えられる
- 若手が質問しやすい関係をつくれる
- 社長へ状況を共有できる
こうした役割まで含めて考える必要があります。
また、退職した人が本当の理由を詳しく話してくれるとは限りません。既存社員も、会社への不満を正面から聞かれると答えにくいものです。そのため、社内の強みや離職につながる要因が見えないまま、採用活動だけが先行しやすくなります。
「人が来ない会社」ではなく、「人が入った後の動きが決まっていない会社」になっていないかを、募集前に確認することが大切です。
既存社員へのヒアリングから教育担当・育成手順・相談経路を順番に決める進め方
受け入れ体制は、立派な研修制度を一度に完成させる必要はありません。まずは、現在の会社で実行できる範囲を明確にすることから始めます。
1.既存社員に「過去・現在・未来」を聞く
最初に確認したいのは、経営者から見た会社像ではなく、現在働いている人が感じている会社の実態です。
ヒアリングでは、「会社の良いところと悪いところを教えてください」と直接聞くより、次の3点に分けると具体的な話を拾いやすくなります。
- 過去:なぜ会社を知り、何を理由に入社したのか
- 現在:どの仕事が楽しく、何を大変だと感じているのか
- 未来:今後どのような仕事を担当し、どう成長したいのか
この聞き方をすると、求人で伝えるべき強みだけでなく、入社後につまずきやすい点も見えてきます。
たとえば「社長が現場にいないと判断できない」「教える人によって言うことが違う」「質問する相手がわからない」といった声が出れば、それが受け入れ体制を整える起点になります。
採用広報に使う強みと、入社前に直すべき課題は、既存社員の声から同時に整理できます。
2.教育担当者を、施工能力だけで決めない
次に、誰が新人を見るのかを決めます。
今回の会社では、経験豊富な家族が将来的に加わる予定でした。ただし、その人が入社すれば自動的に教育体制が完成するわけではありません。
判断したいのは、次の役割を実際に担えるかどうかです。
- 日々の作業を教える主担当
- 主担当が不在のときの代替担当
- 安全上の判断をする人
- 仕事や人間関係の相談を受ける人
- 社長へ育成状況を報告する人
少人数企業では、一人が複数の役割を兼ねることもあります。それでも、役割を言葉にしておけば「誰かが見ているはず」という状態を避けられます。
教育担当を採用する場合も、「経験者」「番頭候補」といった広い条件だけでは足りません。施工経験に加えて、人に教える力、若手と会話する力、安全を守る判断力のどこまでを求めるかを分けて考える必要があります。
3.入社後の育成手順を節目ごとに決める
育成手順は、細かなマニュアルからつくるより、まず節目を決めるほうが動かしやすくなります。
- 入社直後に何を理解してもらうか
- どの作業まで同行を必須にするか
- 一人で任せる前に何を確認するか
- いつ社長や教育担当が面談するか
- 次の段階へ進む判断を誰がするか
特に安全に関わる業務では、「何となくできそうだから任せる」状態を避けなければなりません。任せられる作業と、まだ同行が必要な作業を共有しておくと、本人も質問しやすくなります。
育成計画は期間だけでなく、「何ができれば次へ進めるか」という確認基準まで決めることがポイントです。
4.相談先と定期フォローを、現場指導から切り分ける
現場で作業を教える人に、すべての相談対応を任せると負担が集中します。また、新人は指導担当者との関係に悩んでも、その本人には相談しにくいものです。
そのため、現場指導とは別に、社長や別の担当者が定期的に話を聞く機会を設けます。確認する内容は複雑でなくても構いません。
- わからないまま進めている作業はないか
- 危険だと感じた場面はなかったか
- 教える人によって説明が違っていないか
- 質問しづらいことはないか
- 次に覚えたい仕事は何か
問題が大きくなってから面談するのではなく、入社後の決めた節目で確認することが大切です。
5.受け入れられる人数と人材像を決めてから募集する
最後に、整えた受け入れ体制と採用活動をつなげます。
教育担当者が一人であれば、同時に何人まで安全に育てられるのか。未経験者を受け入れられるのか、一定の現場経験が必要なのか。ここを決めずに応募数だけを増やすと、入社後の負担が一気に高まります。
採用目標は「何人欲しいか」だけでなく、次の条件から逆算します。
- 誰が教えられるか
- どの現場で育てられるか
- どの程度の経験者なら受け入れられるか
- いつから一人分の戦力として見込めるか
- フォローに使える時間はどれくらいか
募集人数と採用条件は、欲しい人数ではなく、現在の会社が安全に育てられる人数から決めると定着につながりやすくなります。
まとめ
採用してもすぐ辞めてしまうとき、求人媒体や原稿だけに原因があるとは限りません。
今回のように、社長が複数現場と経営を一人で担い、教育担当者が決まっていない会社では、採用の入口を広げるほど受け入れ側の負担が増えることもあります。
募集を再開する前に整理したいのは、次の5点です。
- 既存社員が感じている会社の強みと働きにくさ
- 新人を教える主担当と代替担当
- 安全面を含む育成の節目と確認基準
- 現場指導とは別の相談先
- 現在の体制で安全に育てられる人数
採用と定着は別々の施策ではありません。受け入れ体制を整え、その実態を求人で正しく伝えるところまでを一つの取り組みとして進めることが重要です。
自社に合った受け入れ体制を整理したいときに
「教育担当にできる人が社内にいない」「採用を始めたいが、何から整えるべきかわからない」という段階でも、課題を分けて考えることはできます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の採用課題だけでなく、教育体制、組織づくり、現場運営まで横断して整理し、実行を支援しています。既存社員へのヒアリングや育成役の設計など、募集前に必要な準備から一緒に検討できます。
自社の場合はどこが定着を妨げているのかを整理するところからでも問題ありません。無理にサービスを勧めることはありませんので、今後の採用や教育体制を考える際の整理先としてお声がけください。