前提

従業員が30名弱から20名弱へ減り、若手を採用しても定着しない住宅工事会社の現在地

愛知県で住宅工事とリフォームを手がける、従業員20名弱の会社があります。ホームページには以前の従業員数が掲載されたままでしたが、実際には退職が重なり、パートを含めても20名を下回る状態になっていました。

採用活動をしていないわけではありません。求人媒体や人材紹介会社を使い、年によってはパートを含めて3名ほど採用できています。それでも、入社後の退職が続き、人員不足が解消されません。

特に住宅工事部門では、20代の社員が抜け、現場を担うのは30代後半から50代が中心です。必要な施工体制を維持するだけでなく、将来の交代を考えると、若手を入れて育てる余裕も必要です。

社長からは、こんな言葉が出ていました。

「年齢が高くなっているので、下を育てるためにも、少し余裕を持って採用しておかないと交代ができません」

この会社の課題は、応募がまったく来ないことではなく、採用できた若手が戦力になる前に辞めてしまうことでした。

課題

退職理由が分からないまま次の採用を始めても、人員不足が埋まらない状態

直近では、入社から半年に満たない社員が退職代行を利用して辞めました。先輩社員について仕事を覚え、そろそろ一人で現場を担当してもらおうとしていた時期でした。

会社には詳しい退職理由が伝わっていません。

「代行を通していたので、理由は全然教えてもらえませんでした。寝坊が増えていた、ということはありました」

寝坊は表面に出た変化であって、退職の理由そのものだったかは分かりません。仕事への不安、先輩との関係、現場を持つことへの負担、休日や待遇への希望など、複数の要因が重なっていた可能性もあります。

別の若手社員職方は、「工場で働きたい」と退職しました。残業が少なく、休日が安定し、給与や賞与も見通しやすい働き方に魅力を感じたようです。その社員は独立志向が強くなく、会社員として大工を続けた先の収入やキャリアに限界を感じていました。

リフォーム部門でも、その年に採用した若手営業社員の退職が決まっていました。職種や部門は違っても、若手が入社後に離れていくという点は共通しています。

もちろん、すべての退職を防ぐことはできません。本人が新しくやりたいことを見つけたり、異なる働き方を選んだりする場合もあります。ただし、理由が分からないままでは、会社側で変えられることと変えられないことを切り分けられません。

退職理由を把握できていない状態では、求人を増やしても、同じ離職が繰り返される可能性が残ります。

採用費をかけて人を入れても、現場を任せる直前で退職すれば、採用にかけた時間だけでなく、同行した先輩の教育時間も十分に実りません。採用人数だけを見るのではなく、入社後に一人で現場を担えるところまでを一つの採用活動として捉える必要があります。

背景

社長に届かない本音と、先輩同行から現場担当へ移る間のフォロー不足

若手が定着しない背景を整理するうえで、最初に見るべきなのは、求人媒体の選び方よりも社内の実態です。

建設会社では、社長と社員の距離が近く見えても、退職につながる本音が社長まで届いているとは限りません。ある専門工事会社では、採用に向けて社員インタビューを行ったところ、社長が帰った後に複数の社員が怒鳴っており、それをきっかけに辞めた人がいることが分かりました。それまで、社長はその事実を把握していませんでした。

今回の会社で同じことが起きていると決めつけることはできません。ただ、退職代行を使われ、理由も確認できなかった事実を考えると、困りごとを退職前に言える関係や機会が十分だったかは、一度確認しておきたいところです。

社員の本音は、退職時に初めて聞こうとしても間に合わないため、在職中に拾える仕組みが必要です。

もう一つの背景は、育成の節目が社員本人からどう見えているかです。今回辞めた社員は、先輩への同行を終え、現場を任される直前でした。会社から見れば成長の証しでも、本人から見れば責任が急に重くなる時期だった可能性があります。

そのため、次の点を会社側だけでなく、本人とも共有できているかが重要です。

  • 入社後、どの順番で仕事を覚えるのか
  • 先輩への同行期間に何を身につけるのか
  • 一人で現場を担当する判断基準は何か
  • 現場を持った後、誰に相談できるのか
  • 将来、どのような役割や働き方を選べるのか

また、若手がいない部門では、教える側と入社する側の世代が離れやすくなります。50代の社員にとって自然な指示の出し方でも、20代には意図が伝わりにくいことがあります。反対に、若手が質問を控えている状態を、先輩が「理解している」と受け取ることもあります。

部門間の交流も、バーベキューや忘年会などの社内行事が中心で、日常的にはそれほど多くありませんでした。行事は関係づくりのきっかけになりますが、仕事上の不安を早めに拾う仕組みとは役割が異なります。

定着の問題は若手本人の相性だけでなく、育成の見通し、相談経路、教える側のコミュニケーションが重なって起きます。

解決

社員インタビューから育成計画、定期面談までを採用前に一つの受け入れ体制として整える進め方

次の求人を増やす前に、現在の社員が何を感じ、入社後の育成がどのように進んでいるかを整理することが先です。採用と定着を別々に扱わず、「誰を採るか」と「入社した人をどう迎え、育てるか」を一体で設計します。

1.社員インタビューで、社長から見えにくい実態を確認する

最初に、在籍社員へ個別に話を聞きます。会社の良いところだけでなく、仕事を続けるうえで困っていること、若手が質問しにくそうな場面、過去の退職者に見られた変化なども確認します。

社内の人には言いにくい話があるため、面談者や情報の扱い方にも配慮が必要です。誰が何を言ったかを追及するのではなく、共通して出てくる課題を整理し、仕組みの改善につなげます。

確認したい内容は、次のようなものです。

  • 入社前に聞いていた仕事内容と実態に差がないか
  • 仕事を教える人によって、指示や基準が変わっていないか
  • 分からないことを聞ける相手がいるか
  • 現場配属や独り立ちに不安を感じる場面はどこか
  • 会社で働き続けるうえで、見えにくい将来像は何か

社員インタビューの目的は不満探しではなく、退職者が言葉にしなかった理由を、在籍社員の声から構造として捉えることです。

2.入社から現場担当までの育成計画を見えるようにする

今回の会社では、「先輩社員につける」「そろそろ現場を持たせる」という育成の流れがありました。ここに、本人と先輩が確認できる節目を加えます。

たとえば、入社直後、先輩同行中、現場を任せる前、任せた後という段階ごとに、覚える業務、判断基準、相談相手を整理します。高度な教育制度を最初から作る必要はありません。まずは、現在行っている教育を言葉にするところから始められます。

現場を任せる判断も、在籍期間だけで決めるのではなく、本人の理解度と不安を確認します。会社が「もうできる」と思っていても、本人が「まだ何を相談してよいか分からない」と感じていることはあります。

独り立ちの前後に確認の場を設けることで、成長の節目が退職のきっかけになることを避けやすくなります。

3.定期面談を、辞めそうな人だけに行う対応にしない

面談は、問題が起きた人にだけ実施すると、呼ばれること自体が重くなります。月次など一定の頻度で、上司や担当者と話す機会を制度として設ける方が、相談への心理的な負担を抑えられます。

面談では、評価や注意だけでなく、次の内容を確認します。

  • 今、困っている仕事はあるか
  • 先輩の説明で分かりにくい点はないか
  • 次に任される仕事をどう受け止めているか
  • 体調や勤務面で変化はないか
  • 今後身につけたい仕事や希望する働き方は何か

記録は長文でなくても構いません。前回からの変化と、次回までに会社側が対応することを残します。聞くだけで終わらず、「誰が、いつまでに確認するか」まで決めることが大切です。

定期面談は退職を引き止める場ではなく、退職を考えるほど困る前に小さな違和感を共有する場です。

4.教える側のコミュニケーションも受け入れ体制に含める

若手向けの研修だけでは、受け入れ体制は完成しません。先輩社員や管理職にも、説明の仕方、任せ方、声のかけ方を共有する必要があります。

特に世代が離れている職場では、「見て覚える」「分からなければ本人から聞く」という進め方だけでは、若手がつまずいていることに気づきにくくなります。作業後に理解できた点を本人の言葉で確認する、質問する時間を先輩側からつくるなど、日々の関わり方をそろえていきます。

コミュニケーション研修を行う場合も、一度受講して終わりではなく、自社で実際に起きている育成場面と結びつけることが判断軸になります。

若手に会社へ合わせてもらうだけでなく、教える側も伝え方を変えることが、世代交代を進める土台になります。

5.整えた受け入れ体制を求人にも反映する

育成計画や面談制度を整えたら、それを求人票や採用ページにも記載します。「未経験歓迎」と書くだけでなく、誰が教えるのか、どのような段階を経て現場を担当するのか、配属後に相談する機会があるのかを伝えます。

ただし、求人で約束する内容と現場の実態が一致していることが前提です。採用上よく見せるために制度を掲げるのではなく、実際に運用できる内容を載せます。

この順番で進めれば、会社の働き方に合う人が応募しやすくなり、入社後の認識違いも減らせます。

受け入れ体制を整えてから求人へ反映することで、採用時の魅力づけと入社後の定着がつながります。

まとめ

若手が半年ほどで辞めたとき、すぐに新しい求人を出したくなるのは自然なことです。現場の年齢が上がり、将来の交代を考えれば、採用を止めるわけにもいきません。

ただ、退職理由が分からないまま採用人数だけを増やしても、人員不足の解消にはつながりにくくなります。まず確認したいのは、採用チャネルの数よりも、社員の本音を拾える状態になっているか、入社後の育成に見通しがあるか、現場を任せる前後に相談できるかという点です。

進め方は、次の順番に整理できます。

  1. 在籍社員へのインタビューで実態を把握する
  2. 入社から現場担当までの育成過程を言語化する
  3. 定期面談で小さな変化を継続的に確認する
  4. 先輩社員の教え方や声のかけ方をそろえる
  5. 実際の受け入れ体制を求人情報へ反映する

採用の成果は入社人数ではなく、入社した人が育ち、現場を担える状態まで進んだかで捉えることが大切です。

すべての退職をなくすことはできません。それでも、理由を把握し、会社で変えられる部分を一つずつ整えることで、次の採用を以前より確かなものにできます。

自社に合う受け入れ体制を、社員の声から整理するために

「うちの場合、何が退職につながっているのか分からない」「面談や育成制度を作りたいが、現場で運用できる形が見えない」という段階からでも整理できます。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を横断的に捉え、社員インタビュー、育成計画、定期面談、コミュニケーション改善など、採用後の定着まで含めた仕組みづくりと実行を支援しています。

ものづくりに集中できる建設業界へ向けて、まずは現在の退職状況や受け入れ方を一緒に棚卸しします。無理にサービスを勧めることはありませんので、「何から整理すればよいか分からない」という段階でも気軽にお声がけください。

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