年商4億円台を二人の中核人材で動かし、次の成長を目指す東海地方の専門工事会社
東海地方にある10名弱の専門工事会社では、改修工事を中心に年商4億円台まで事業を伸ばしてきました。次に見据えているのは、売上を8億〜9億円規模へ引き上げられる体制です。
同社の強みは、社長の高い現場対応力にあります。仕上げ工事の技術だけでなく、前工程の遅れを把握し、他業種や現場監督と調整しながら、工期・品質・安全を守って現場を収めてきました。営業から顧客との交渉、現場の段取り、追加工事の対応まで一貫して担えるため、顧客から厚い信頼を得ています。
もう一人の幹部も、建設業未経験から顧客対応や案件管理を任されるようになり、現在は社長とともに会社の中枢を担っています。
一方で、社内の状況を確認すると「二人が1か月、仕事をできなくなったら会社はどうなるか」という問いに対し、答えは「止まってしまうと思います」でした。
少人数で大きな売上をつくれることは強みですが、成長段階では、その強さを組織へ移す準備が必要になります。
営業・顧客対応・現場管理・判断が社長と幹部に集中し、採用と教育へ時間を使えない状態
同社では、社長と幹部の二人が多くの業務を動かしていました。社長自身も「二人でできてしまうところが面白い」と話しています。
実際、経験と判断力のある二人が直接動けば、案件は早く進みます。顧客からの相談にもすぐ対応でき、現場でイレギュラーが起きても、その場で着地点をつくれます。
しかし、二人が日常業務を抱えるほど、採用や教育といった将来の仕事は後回しになります。幹部からも「日々の業務で手いっぱいになり、採用に注力できていませんでした」という率直な言葉がありました。
ここで注意したいのは、人が足りないことだけが問題ではない点です。業務を整理しないまま採用すると、新しく入った人に何を任せるのか、誰が教えるのか、どこまで判断してよいのかが曖昧になります。その結果、確認や手直しが社長へ戻り、かえって負担が増えることがあります。
属人化した会社に必要なのは、最初から社長の代わりになる人を探すことではなく、社長の仕事を分解して、他の人が担える形へ変えることです。
社長の段取り力と対人対応が暗黙知のまま蓄積され、任せ方も個人の見極めに依存している構造
同社の属人化は、単に業務分担ができていないから起きたわけではありません。社長が長年の現場経験から身につけた仕事の進め方が、高度に個人へ集約されていることが背景にあります。
たとえば、仕上げ工事に入る前から前工程の業者へ働きかけ、朝礼や打ち合わせで予定を共有し、作業場所と時間を確保する。顧客との関係をつくりながら、納得できない条件は感情的にならずに交渉する。問題が起きれば、現場全体を見て必要な順番へ組み替える。こうした動きが、社長にとっては自然な判断になっていました。
ただし、周囲から見ると、その判断基準は簡単には見えません。「なぜ、その顧客への連絡を先にするのか」「どの段階で現場監督へ相談するのか」「どこまでなら担当者だけで決めてよいのか」が言葉になっていなければ、社員は社長へ確認するしかありません。
幹部が育った過程にも重要な手がかりがあります。幹部は「ここからここまでしかやってはいけない、という区切りがなく、何でもやらせてもらえたことが大きかった」と話しています。社長が仕事の範囲を狭く限定せず、挑戦させたことで成長しました。
これは有効な育成方法ですが、誰にでも同じ任せ方ができるとは限りません。社長が相手の適性を見極め、問題が起きれば自ら支えることを前提に成り立っているためです。
同社の課題は、仕事が社長に集まっていること以上に、「誰に、何を、どの順番で任せるか」という判断も社長の中にしかないことでした。
現在と将来の組織図を起点に、業務の棚卸しから採用後の育成までを一続きで設計する進め方
属人化を解消する際は、求人を出すところから始めるのではなく、将来の組織から逆算して進めます。今回のように売上規模を次の段階へ引き上げたい会社では、次の順番で整理すると実行しやすくなります。
1.現在の組織図と将来の組織図を並べる
最初に、現在の役職名ではなく、実際に誰がどの機能を担っているかを整理します。
- 新規案件や既存顧客への対応
- 見積もりや条件交渉
- 現場の段取りと進捗管理
- 協力会社への指示や調整
- イレギュラー発生時の判断
- 社員への指導とフォロー
そのうえで、目標とする売上規模になったとき、どの機能を何人で担う必要があるかを将来の組織図にします。
組織図は肩書を決めるためではなく、成長したときに不足する役割を見つけるために作ります。
2.社長と幹部の業務を棚卸しする
次に、二人が日常的に行っている仕事を書き出します。重要なのは、定例業務だけでなく、電話対応、確認、判断、差し戻しなどの細かな仕事まで含めることです。
棚卸しした業務は、次のように分けます。
- 現時点でも社長が担うべき仕事
- 基準を決めれば幹部へ任せられる仕事
- 手順を整えれば社員へ任せられる仕事
- 新たに採用する人へ任せたい仕事
「社長にしかできない」と感じる仕事も、実務・判断・顧客との関係づくりに分けると、一部を他の人へ移せることがあります。
3.暗黙知を判断基準として言葉にする
業務を任せるには、作業手順だけでなく、判断基準の共有が欠かせません。
同社の場合であれば、現場へ入る前に何を確認するのか、工程が遅れたとき誰へ働きかけるのか、顧客へ報告する基準は何か、といった内容です。社長の行動を細かく再現するのではなく、社員が迷いやすい分岐点を中心に整理します。
過去に社長自身が、困ったことを当時の上司へ報告し、「この場合はどうするか」を聞きながら成長した経験も参考になります。任せきりにするのではなく、報告を受けて判断の理由を返すことが、暗黙知を移す教育になります。
育成で引き継ぐべきものは正解だけではなく、正解へたどり着くための見方と考える順番です。
4.任せる仕事を難易度と影響範囲で切り分ける
入社直後から大きな案件を丸ごと任せる必要はありません。まずは、失敗した場合の影響が限定され、上司が途中で確認できる仕事から任せます。
判断軸は、次の三つです。
- 本人だけで完結できる範囲か
- 顧客や現場全体への影響がどこまで及ぶか
- どの時点で社長や幹部へ報告すべきか
任せる仕事と報告のタイミングをセットにすると、社員は動きやすくなり、社長もすべてを最初から確認せずに済みます。
権限移譲は「好きにやってよい」と伝えることではなく、任せる範囲と相談する境界を揃えることです。
5.不足する役割から必要人材を定義する
同社では、当初、求める人物像として「真面目」「元気」「愛嬌がある」「整理整頓ができる」といった言葉が挙がりました。いずれも大切ですが、そのままでは採用時の見極めが難しくなります。
そこで、将来の組織図と任せたい仕事をもとに、行動として定義します。たとえば、指示された範囲だけでなく周囲の工程まで確認できる、分からないことを抱え込まず報告できる、顧客や協力会社へ丁寧に働きかけられる、といった形です。
資格や建設業経験だけで絞るのか、未経験でも仕事への向き合い方を重視するのかも、任せたい役割によって変わります。
採用要件は「優秀な人」の条件ではなく、自社で任せたい仕事を担い、育っていける人の条件として定めます。
6.採用後の育成まで採用計画に含める
即戦力だけを前提にすると、採用できる人材の幅が狭くなります。特に、社長独自の顧客対応や現場の進め方が競争力になっている会社では、他社経験者であっても自社の仕事の流儀を学ぶ期間が必要です。
採用前に、入社後に誰が教えるのか、どの仕事から任せるのか、どの状態になれば次へ進めるのかを決めておきます。社長がすべて教えるのではなく、幹部や既存社員が担える教育も分けておくことが大切です。
採用人数を決めるだけでは組織は変わりません。任せる仕事、教える人、成長の段階まで設計して初めて、増員が組織力につながります。
まとめ
社長と一部の幹部で会社を動かせる状態は、小回りが利き、顧客の要望へ柔軟に応えられる強い経営モデルです。一方、次の売上規模を目指す段階では、その強みを個人のままにせず、組織で再現できる形へ変えていく必要があります。
進める順番は、現在と将来の組織図を作り、業務を棚卸しし、社長の暗黙知を判断基準へ変えることです。そのうえで任せる仕事を切り分け、必要人材を定義し、採用後の育成へつなげます。
属人化の解消は、社長を仕事から外すことではありません。社長が将来の組織づくりへ時間を使えるよう、日常業務の担い手を段階的に増やす取り組みです。
自社に合う業務の分け方と組織の形を整理したい方へ
「社長の仕事を棚卸ししようとしても、どこまで任せてよいか分からない」「採用したいが、必要な人物像を言葉にできない」という会社も少なくありません。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。現在の業務分担や将来の組織図、必要人材、教育体制を一緒に整理することも可能です。
まだ具体的な採用計画がなく、「うちの場合は何から考えるべきか」という段階でも問題ありません。無理にサービスを勧めることはありませんので、次の整理先の一つとして気軽にお声がけください。