前提

職人が最多12人まで増えたものの、専門に合う仕事を十分に用意できなかった北関東の建設会社

北関東でハウスクリーニングや内装、原状回復を手がけながら、新築住宅やリフォームにも取り組む建設会社があります。現在は兄弟2人で経営し、職人社員4人と協力会社で現場を回していますが、一時期は職人だけで12人ほど在籍していました。

当時目指していたのは、自社施工を強みにした事業拡大です。外注していた工事を内製化し、施工できる社員を増やせば、受注の幅も利益も広げられると考えていました。

ところが、実際には採用した職人の専門に合う仕事量を確保できませんでした。

「設備の職人として入ってもらったのに、クリーニングを任せる。塗装の職人に内装をお願いする。そんな状態になっていました」

会社として仕事を切らさないための判断だった一方、職人からすれば、希望して入社した職種と日々の作業が一致しません。結果として不満がたまり、退職が続きました。

さらに、未経験者を採用して先輩が教えても、少し仕事を覚えた頃に辞めてしまうことが何度もありました。オリジナル家具を製作できる経験者が退職した際には、自社製作そのものが止まり、従来6万円ほどで作れていた製品を外注すると18万円ほどの見積もりになったといいます。

この会社が直面したのは、単なる採用難ではありません。仕事量より先に固定人員を増やしたことと、特定の職人に技術や工程が集中したことが重なった問題です。

課題

人を増やせば受注できるはずが、仕事不足と低粗利で職人を生かせない状態

人を先に採るか、仕事を先に取るかは、建設会社にとって悩ましい問題です。仕事が決まってから採用しても間に合わない一方、人を先に抱えると、毎月の給与や社会保険料などの固定費が発生します。

この会社では、職人が多かった時期にも、それぞれの専門工事を十分に用意できませんでした。人数を維持するために専門外の作業を任せるようになり、職人の納得感と会社の採算がともに崩れていきました。

現在も、仕事がないわけではありません。大手管理会社からの原状回復工事は、施工できる人さえいれば増やせる状態です。ただし、1件あたりの単価が低く、職人1人が1日動いても売上が2万円に届かず、人件費を引くと利益が2,000〜3,000円程度しか残らない仕事もあります。

「人さえいれば仕事はもっともらえます。でも、できる社員を増やしても、1日で残る利益が数千円なら、人数を増やすほどよいとは言えません」

ここで見るべきなのは、受注件数や売上だけではありません。

採用の前に確認したいのは、その職人の専門に合う仕事が継続してあるか、その仕事から固定費と育成負担をまかなえる粗利が残るかの2点です。

仕事があることと、社員を抱えられることは別です。単価が決められていて価格交渉が難しい工事では、売上が増えても、人員増加に見合う利益が残らないことがあります。

また、「任せられる中堅が1人いれば回る」という状態にも注意が必要です。この会社の社長は、次のように話していました。

「任せられる人ができても、その人が辞めたら、またゼロからになります。もう社員個人に依存したくないんです」

一人の経験者を採用して現場を預けるだけでは、人への依存先が社長からその社員へ移るだけです。

背景

採用、育成、受注を別々に進めたことで、専門外作業と属人化が積み上がった経緯

最初のつまずきは、採用計画と受注計画がつながっていなかったことです。

自社施工を増やす方針自体は明確でしたが、「どの工種を月に何件確保すれば1人を雇えるか」「その工種でどれだけ粗利が残るか」までは整理されていませんでした。そのため、職人を採用した後に仕事を割り振ろうとしても、専門に合う案件が足りませんでした。

次に、育成を既存の職人へ任せる形が続きました。未経験者が常に2〜3人いる状態で、先輩が現場を進めながら教えるものの、教育の手順や到達基準は個人任せです。育ってきた頃に退職されると、教えた時間だけが負担として残り、また次の未経験者を一から育てることになります。

「素人の子が入って、何年かいる先輩が見る。でも、少しできるようになると、だいたい1年を待たずに辞めてしまう。これが何年も続いていました」

さらに、技術や取引情報が個人に集中していました。家具製作のように、経験者がいる間は自社で安く作れていても、退職後に同じ品質と価格で再現できなければ、事業そのものが止まります。

背景にある問題は、採用した人の能力不足ではありません。

  • 採用する職種に対応した継続受注がなかった
  • 専門外の仕事を任せざるを得なかった
  • 教育を担当者の経験と善意に任せていた
  • できる人に工程、原価感覚、取引先との調整が集中していた
  • 退職後に協力会社へ切り替えると、外注価格が合わなかった

「人が足りないから採る」という判断だけでは、採用後にその人を生かす仕事と利益、退職時に引き継ぐ仕組みが抜け落ちます。

現在、この会社は社員数を大きく増やすのではなく、経営者2人が受注と管理を担い、月に数回から半月程度協力してくれる外注先を組み合わせる体制を検討しています。過去の経験を踏まえると、まず固定人員を増やすより、仕事量と粗利を整えてから必要な工程だけを内製化する考え方が合っています。

解決

仕事量と粗利を先に確定し、社員と協力会社を工程別に組み合わせる施工体制

人に依存しない施工体制は、社員をゼロにすることではありません。継続受注、採算、役割分担、引き継ぎの順番を整え、誰か1人が抜けても施工を続けられる状態をつくることです。

1.採用前に「売上」ではなく、専門工事別の仕事量と粗利を確認する

採用判断では、会社全体の売上ではなく、採用したい職種に対応する案件だけを抜き出します。たとえば内装経験者を採るなら、クリーニングや新築を含む総売上ではなく、内装工事の件数、施工日数、粗利を確認します。

最低限、次の項目を過去6〜12か月分並べると判断しやすくなります。

  • その職種に対応する月ごとの案件数と施工日数
  • 材料費、外注費、移動費、手直し費を引いた後の粗利
  • 閑散月にも発生する固定的な仕事量
  • 現場を教え、確認する社員や経営者の工数
  • 主要取引先からの発注が減った場合に残る仕事量

この会社のように、売上が1万数千円で人件費がほぼ同額になる仕事を増やしても、採用余力は生まれにくくなります。反対に、100万〜200万円規模のリフォームや原状回復が継続し、工程を組み合わせて粗利を確保できるなら、社員を置く意味が出てきます。

「仕事があるから採る」のではなく、「その人の専門だけで稼働を埋め、閑散月を含めても固定費を回収できるから採る」と判断することが重要です。

2.社員と協力会社の役割を、人数ではなく工程で分ける

外注中心か内製中心かを会社全体で一つに決める必要はありません。工程ごとに分けた方が、固定費を抑えながら品質を保ちやすくなります。

この会社であれば、経営者側には受注判断、現地確認、見積もり、工程設計、品質確認を残します。協力会社には、仕様が明確で切り出しやすく、受注量によって増減する施工を依頼します。

社員化を検討するのは、次のような工程です。

  • 毎月安定して発生する
  • 品質が元請け評価に直結する
  • 複数の現場をまたいで段取りを判断する必要がある
  • 協力会社へ出すより内製した方が継続的に粗利を残せる
  • 社内に技術を残す必要がある

一方、発生頻度が不安定な専門工事や、一時的な繁忙への対応は協力会社の方が適しています。

社員は会社に残すべき判断と技術を担い、協力会社は受注量の変動と専門工程を補う、という分け方が現実的です。

3.未経験者ではなく、教育負担を吸収できる工程に経験者を置く

未経験者採用が悪いわけではありません。ただ、現場を教えられる人が不足し、経営者も受注やトラブル対応に追われている時期に未経験者を増やすと、既存社員の負担が先に膨らみます。

この会社でも「今の状態では未経験者を見るのは難しい」という認識がありました。その場合、採用するなら、クリーニングや内装、原状回復など、すでに継続案件がある工程の経験者が優先です。

ただし、経験者だからといって「何でもできる人」を求めると、再びその人へ仕事が集中します。採用時点で、任せる工種、判断できる範囲、経営者へ戻す判断を明確にしておく必要があります。

経験者採用の目的は、仕事を丸ごと個人へ渡すことではなく、既存工程の再現性と教育力を高めることです。

4.外注から内製へ移すのは、継続量と代替手段がそろってから

外注価格が高いからといって、すぐ社員を採用するのも慎重に考えたいところです。自社製作なら6万円だった製品が、外注では18万円になる状況を見ると、内製化したくなるのは自然です。

ただし、製作経験者を1人採用しただけでは、その人が辞めたときに同じ問題が起きます。内製化する前に、次の条件を確認します。

  • その工程の仕事が年間を通して見込める
  • 設備費、給与、管理工数を含めても外注より採算が合う
  • 作業手順と品質基準を社内に記録できる
  • 2人目、または協力会社が代替できる
  • 退職時に途中案件を引き継げる

条件がそろわない段階では、月に数回協力してくれる外注先を複数確保し、発注量を少しずつ増やす方が安全です。一定量を継続して出せるようになれば、協力会社とも価格や優先順位を相談しやすくなります。

内製化は人を採れた時ではなく、仕事量、採算、引き継ぎ先の3つがそろった時に進めるものです。

5.特定の職人が辞めても止まらないよう、現場情報を会社に残す

標準化というと大がかりなマニュアルを想像しがちですが、最初から分厚い資料を作る必要はありません。まずは件数の多い原状回復や内装工事から、現場ごとの情報を同じ形式で残します。

記録したいのは、次のような内容です。

  • 着工前に確認する項目
  • 作業の順番と標準的な所要時間
  • 使用する材料、道具、仕入れ先
  • 写真で確認できる完成基準
  • 手直しが起きやすい箇所
  • 元請けへの報告方法と提出物
  • 誰が単独施工でき、誰が補助を必要とするか

見積書、発注書、施工写真、完了報告、取引先との連絡履歴も、個人の携帯電話や記憶だけに残さないようにします。経験者には現場を任せるだけでなく、「次の人が再現できる形にすること」まで役割として持ってもらいます。

また、同じ工程を最低2人が理解する状態をつくります。社員同士だけで難しければ、社員と協力会社の組み合わせでも構いません。

属人化をなくすとは、全員を同じ技術水準にすることではなく、仕事の進め方と判断材料を会社で共有し、代わりに動ける人を用意することです。

まとめ

職人を増やしたのに仕事量が追いつかず、専門外の作業を任せ、退職が続く状態は、採用だけの問題ではありません。受注、粗利、役割分担、育成、引き継ぎが別々に動いた結果として起こります。

この会社のように過去に人員増で苦労した場合は、再び人数を増やすことから始める必要はありません。

先に確保すべきなのは、採用したい職種に合う継続案件と、固定費を吸収できる粗利です。そのうえで、社員に残す工程と協力会社へ任せる工程を分け、内製化する部分だけを慎重に選びます。

そして、経験者を採用する場合も、その人へ丸ごと依存するのではなく、作業手順、品質基準、原価、取引先とのやり取りを会社に残します。

仕事を先に整え、必要な工程だけに人を置き、技術を個人ではなく会社へ蓄積する。この順番が、人が辞めても現場を止めない施工体制につながります。

自社に合う採用と外注の境界を整理したい方へ

「仕事をどこまで確保してから採用すべきか」「社員と協力会社の役割をどう分けるか」「経験者が辞めても止まらない体制をどうつくるか」は、工種や単価、取引先、現在の人員によって答えが変わります。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。採用ありき、外注化ありきではなく、現在の仕事量と粗利から無理のない施工体制を一緒に組み立てます。

「うちの場合はどの工程を社員に残すべきか」「何から数字を確認すればよいかわからない」という段階でも問題ありません。状況を整理したうえで必要な選択肢をご案内し、無理にサービスをおすすめすることはありません。

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