社長が現場と事務を一人で担いながら、3年後の売上拡大を目指す電気工事会社
岡山県を中心に電気工事を手がける、4名ほどの会社があります。電気工事に加え、建設現場向けの断熱資材の販売も行っています。
電気工事を担うのは本社だけです。営業拠点には担当者がいるものの、本社の実務はほぼ社長一人。社長自身が現場へ出て、帰社後に事務作業を進めています。
「遅い日は、夜中の2時くらいまでやっています」
この言葉からも、経営、施工、事務が社長に集まっている状況が伝わります。それでも会社としては、今後3年ほどで売上を現在の4,000万円前後から6,000万円規模へ伸ばしたいと考えています。
特に増やしたいのは、太陽光発電や蓄電池、電気給湯器など、住宅のオール電化に関わる工事です。地場の工務店や不動産会社との接点を増やし、一般家庭向けの施工実績を積みたいという構想があります。
一方、社員を先に増やす考えではありません。
「まずは工事の受注をメインで増やしたいです。仕事が入ってくるようになったら、採用も考えていきたいですね」
現在の固定人員だけで将来の施工量を支えるのは難しいものの、受注が読めない段階で採用を先行させるのも負担になります。小規模工事会社では、この成長順序をどう組むかが重要です。
採用を急げば固定費が増え、受注だけ増やせば社長の稼働が限界に近づく状態
仕事と人のどちらを先に増やすかは、単純な二択ではありません。
人を先に採れば、施工体制には余裕ができます。ただし、安定して任せられる案件がなければ、人件費や教育時間が先に発生します。入社した人に十分な現場を渡せず、育成が進まない可能性もあります。
反対に、受注を先に増やせば採用の根拠をつくれます。ただし、案件を取りすぎると、社長が現場、見積もり、工程調整、請求まで抱えることになります。受注は増えたのに、対応の遅れや手戻りで粗利が残らない状態にもなりかねません。
今回の会社では、社長が「受注後の施工は大丈夫です」と話していました。これまでのつながりで依頼できる協力会社がいるためです。
ここが大きなポイントです。
受注を先行させられるかどうかは、自社の人数だけではなく、変動する施工量を協力会社でどこまで吸収できるかによって変わります。
ただし、協力会社がいるだけで十分とは限りません。受注量が増えるほど、工程調整、施工品質の確認、顧客対応は増えます。その管理を社長一人が担うなら、現場を外注できても、社長の仕事は減らないことがあります。
受注と採用の順序を決める際は、「施工できるか」だけでなく、受注から引き渡しまでを無理なく管理できるかまで見る必要があります。
取引先の減少を補いながら新しい施工実績をつくるため、固定採用より受注確保を優先したい事情
この会社が受注を先に増やしたい背景には、既存取引先の変化があります。これまで取引していた企業のうち、1社から仕事を受けにくい状態となり、その減少分を補う必要が出ていました。
売上の多くを占める取引グループはあるものの、今後は電気工事をもう一段伸ばしたい。そのため、既存の法人案件だけでなく、地場の工務店や不動産会社を経由した住宅向け工事を増やそうとしています。
「法人には、すでに付き合っている工事会社があります。そこを切り替えてもらうのは簡単ではありません。入れたとしても、月に案件があるかないかだと思います」
こうした見立てから、太陽光発電、蓄電池、電気給湯器などの施工実績を増やし、継続的に案件が入る流れをつくろうとしています。
ただ、新しい販路は当初から受注量を正確に予測できません。問い合わせは来ても成約しない月があるかもしれません。季節や商品によって工事量が変動する可能性もあります。
この段階で固定人員を増やすより、まず既存の協力会社で施工量の増減に対応し、案件の入り方を確かめたいという判断には合理性があります。
一方で、社長はすでに現場と事務を兼務しています。途中で連絡対応が重なり、「一人なもので」と話す場面もありました。受注が伸びるほど、見積もり、現地確認、協力会社の手配、施工後の確認といった管理業務も増えていきます。
この会社の問題は、単なる人手不足ではありません。受注の再現性を確かめたい時期と、社長の稼働が限界に近づく時期が重なっていることです。
だからこそ、「受注が増えてから採用する」という方針だけでなく、どの状態になったら採用へ切り替えるのかを先に決めておくことが大切です。
協力会社で受注の変動を吸収し、受注残・外注比率・品質・社長の時間を基準に採用へ移る進め方
進め方としては、いきなり固定人員を増やすのではなく、協力会社を活用して受注実績を積み、その結果を見ながら採用へ移る形が考えやすいです。
「受注を増やしてから採用する」のではなく、「協力会社で受注を試し、採用に切り替える条件を確認する」と捉えると、次の判断がしやすくなります。
確認したい指標は、次の4つです。
1.受注残が継続して積み上がっているか
単月の大型案件だけで採用を決めると、その工事が終わった後に仕事が不足する可能性があります。
見るべきなのは、受注残が複数月にわたって続いているかです。太陽光発電や蓄電池など、今後伸ばしたい工事について、次の情報を月ごとに並べます。
- 問い合わせ件数
- 見積もり件数
- 受注件数
- 工事予定日
- 受注金額
- 案件ごとの予定粗利
受注件数だけではなく、粗利も確認します。売上が増えても、外注費や移動費、手直しの負担が大きければ、採用原資は残りません。
採用の根拠になるのは一時的な売上ではなく、一定の粗利を伴う受注残が継続していることです。
2.外注比率が上がり続けていないか
協力会社は、受注の変動を吸収するうえで心強い存在です。ただし、案件の大半を継続して外注する状態になると、採用したほうが収支を組みやすい段階に入っている可能性があります。
工事ごとに、自社施工と外注施工を分けて記録します。そのうえで、外注費を支払った後に残る粗利を確認します。
判断の目安は、外注そのものを減らせるかではありません。繁忙期や遠方案件では、採用後も協力会社が必要です。
見るべきなのは、毎月安定して発生する工事まで外注し続けているかです。安定案件を自社で施工した場合に、人件費や車両費、教育時間を含めても粗利を確保できるなら、採用を検討しやすくなります。
3.協力会社が増えても品質を管理できているか
受注量が増えると、複数の協力会社へ依頼する場面が出てきます。その際に注意したいのが、施工品質や顧客対応のばらつきです。
特に住宅向け工事では、施工だけでなく、訪問時の対応、養生、説明、完了後の確認までが会社への評価につながります。
最低限、次の項目は共通化しておくと管理しやすくなります。
- 着工前に確認する内容
- 施工中に残す写真
- 完了時の点検項目
- 顧客へ説明する内容
- 不具合や変更があった際の連絡先
社長が全現場を直接確認しなければ品質を保てない状態なら、受注拡大にも限界があります。採用を考える前に、協力会社でも同じ基準で施工できる形を整えておくことが必要です。
4.社長の稼働時間がどこで詰まっているか
採用判断では、売上や案件数だけでなく、社長の時間も確認します。
現場へ出た後、夜中まで事務作業を続けているなら、施工人数だけが不足しているとは限りません。見積もり、日程調整、発注、請求などが社長に集中している可能性があります。
1〜2週間だけでも、社長の時間を次のように分けて記録すると、採るべき人材が見えやすくなります。
- 現場施工
- 現地調査、見積もり
- 顧客対応
- 協力会社の手配、工程管理
- 発注、請求などの事務
- 新規取引先への営業
現場施工が大半なら、技術者の採用が候補になります。工程調整や品質確認が増えているなら、現場を管理できる人材が必要かもしれません。事務作業が夜間に集中しているなら、施工人員より先に事務を補う選択肢もあります。
「何人採るか」より先に、「社長のどの仕事を渡すか」を決めることが、採用後の体制づくりにつながります。
受注先行で進める場合は、月に一度、4つの指標を確認します。
- 粗利を伴う受注残が何カ月先まであるか
- 安定案件の外注比率が上がっているか
- 協力会社の施工品質を管理できているか
- 社長の稼働時間が営業や経営を圧迫しているか
このうち複数が継続して該当するなら、採用へ移るタイミングが近いと考えられます。反対に、受注量や粗利がまだ不安定なら、協力会社との連携を深めながら実績を積む段階です。
まとめ
小規模工事会社が成長するとき、受注と採用を同時に大きく動かすのは簡単ではありません。特に社長が現場と事務を兼務している会社では、固定費を先に増やすことへの慎重さも自然です。
今回のように信頼できる協力会社がいるなら、まず受注を増やし、施工量の変動を外部の力で吸収する進め方が考えられます。ただし、社長の負担や品質管理まで協力会社に任せられるわけではありません。
受注先行型の成長では、受注残、粗利、外注比率、品質管理、社長の稼働時間を定期的に見て、固定採用へ移る条件を先に決めておくことが大切です。
仕事が増えてから慌てて募集を始めるのではなく、受注実績を積む期間を採用準備の期間としても使います。任せる仕事、必要な技術、教育方法まで整理しておけば、案件量が一定水準に達したときに動きやすくなります。
自社に合う受注と採用の順序を整理したいときに
受注を優先すべきか、採用を始めるべきかは、売上目標だけでは決まりません。協力会社の体制、案件ごとの粗利、社長の役割、今後増やしたい工事によって順序が変わります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、販路拡大、人材確保、組織づくり、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。
「うちの場合は、どの段階で採用へ移るべきか」「まず何の数字を整理すればよいかわからない」という段階でも問題ありません。建設業界の経営者の懐刀として、ものづくりに集中できる体制を一緒に考えます。無理にサービスを勧めることはありませんので、状況の整理先として気軽にお声がけください。