前提

6名規模の電気工事会社で、応募対応から面接まで社長が一人で担ってきた採用体制

九州地方にある、6名規模の電気工事会社の話です。創業から7期目前後。二次請けの工事が中心で、売上は約2億5,000万円です。大型案件の見通しはあるものの、自社の施工体制をつくるには人が足りません。

必要としているのは、現場を任せられる施工管理経験者が2〜3名と、電気工事士が4〜5名ほどです。未経験者も選択肢には入りますが、会社の次の成長を考えると、一定の経験を持つ人も採用したい状況でした。

一方、採用を担ってきたのは社長一人です。

「僕一人でずっとやってきました。営業から何からすべてです」

社員が増えたのは最近で、それまでは一人親方と連携して現場を回してきました。そのため、現場社員に一次面接や二次面接へ参加してもらう発想自体が、まだありませんでした。

案件はあっても、採用担当者がおらず、社長が応募対応から面接まで抱える状態では、採用人数を増やすほど社長の負担も増えてしまいます。

課題

費用をかけて外部へ任せても、採用の進め方が社内に残らない状態

この会社は、採用に取り組んでこなかったわけではありません。むしろ1年間、営業電話をきっかけにさまざまな手法を試していました。

求人検索サービスへの掲載。求人媒体の運用。検索時に上位へ表示させる施策。SNSを使った発信。提案を聞き、「それはよさそうだ」と思えば、実際に費用をかけて試してきました。

ただ、手元に何が残ったかと聞かれると、社長の答えは率直でした。

「残ったものは、掲載したものくらいですかね」

どの媒体が悪かったのか。応募が来なかった理由は何か。自社の何を訴求すべきだったのか。次はどこを直すべきか。そこまで整理されないまま、別の手法へ移っていたのです。

社長には、専門分野は詳しい人に任せたいという明確な考えもありました。

「僕は広く浅く知っておいて、問題を問題として捉えられればいい。専門分野は、その分野の人に相談して一緒にやっていく考え方です」

この考え方そのものに問題があるわけではありません。少人数の会社で、社長が求人原稿の修正や日程調整まですべて続けるのは現実的ではないからです。

ただし、外部へ「費用を出すので、あとは任せます」と預けるだけでは、支援が終わった後に採用活動も止まりやすくなります。

外部へ任せるべきなのは専門業務であり、採用の方針、判断基準、応募者から得た情報まで社外へ出し切らないことが大切です。

背景

一人親方との連携から社員組織へ移る過程で、採用の役割分担が未設計だったこと

採用が社長一人に集中した背景には、会社の成長過程があります。

この会社は、社長が長く一人で現場と経営を支えてきました。社員採用が本格化したのは最近です。そのため、「採用担当者がいない」というより、採用を組織で進める必要がこれまでなかった、と捉えたほうが実態に近いでしょう。

「今までは一人親方の人とずっとやってきたので、社員という存在がいなかったんです。現場の人に面接へ出てもらう観点は、頭にありませんでした」

加えて、社長自身も出張や現場対応、事務所移転などを抱えていました。採用を進めたい気持ちはあっても、求人原稿を見直し、応募者へ連絡し、面接を設定し、結果を振り返る時間を継続的に確保するのは簡単ではありません。

その状態で外部業者から新しい媒体や施策を提案されると、施策単位で判断しやすくなります。媒体への掲載自体は進んでも、次のような採用の土台はつくられないままです。

  • どの職種を、どの順番で採用するか
  • どのような人を自社に合う人材と定義するか
  • 他社ではなく自社を選ぶ理由をどう伝えるか
  • 応募者へ誰が連絡し、誰が面接するか
  • 面接後に何を基準として評価するか
  • 入社後の様子を誰が確認し、次の採用へどう反映するか

採用担当者を一人置けば、すべて解決するわけでもありません。経営者にしか決められないことがあります。一方で、経営者が手を動かさなくてもよい業務もあります。

社長一人に採用が集中する本当の要因は、人数の少なさだけではなく、経営者・社員・外部支援者の担当範囲が決まっていないことです。

解決

社長は方針と魅力の言語化に関わり、応募対応と改善運用は社内外で分担する設計

採用を任せられる体制に変えるには、社長が採用から完全に離れるのではなく、社長にしかできない仕事へ関わり方を絞ることが出発点になります。

社長が担うのは、採用方針と最終判断

社長が毎回の日程調整や定型連絡まで行う必要はありません。ただし、次の項目は経営判断とつながるため、社長が関わる必要があります。

  • 今後の受注計画に対して、どの職種を何名採るか
  • 経験者と未経験者のどちらを優先するか
  • 自社の仕事に合う人の考え方や姿勢は何か
  • 入社する人に、どのような役割を期待するか
  • 自社の将来像や仕事の魅力をどう伝えるか
  • 最終的に誰を採用するか

特に、会社の魅力は社長の頭の中だけに置かないことが重要です。社員や取引先にも話を聞くと、社長が当たり前だと思っていた強みが見つかることがあります。

「どこから手をつけて、どういう言葉をかけたらいいか、全くわからない」

そう感じる場合は、最初から完成された言葉を社長一人で考える必要はありません。社長、社員、取引先への聞き取りを通じて材料を集め、求人原稿や面接時の説明へ落とし込めばよいのです。

社長の役割は求人実務を抱えることではなく、採る理由、自社らしさ、採用基準を社内外と一緒に決めることです。

社内担当者と現場社員には、日常運用と現場目線を任せる

専任の人事担当者をすぐに採用できない会社も多いでしょう。その場合は、既存社員の中から採用窓口を一人決めるだけでも、社長への集中を減らせます。

採用窓口が担う業務は、応募の確認、返信、面接日程の調整、応募者情報の記録、選考結果の連絡などです。判断を伴わない業務から少しずつ移すと、引き継ぎやすくなります。

現場社員には、一次面接や職場説明への参加を依頼できます。実際の仕事内容、現場の進め方、入社後に覚えることは、社長だけで説明するよりも現場社員の言葉を交えたほうが伝わりやすくなります。

また、現場社員が面接へ参加すると、「一緒に働けそうか」という視点も増えます。社長一人の感覚だけで決めずに済み、入社後の受け入れにもつながります。

少人数の会社では、専任人事を置く前に、採用窓口を決め、現場社員が面接と受け入れに参加する形から始められます。

外部へ任せるのは、設計、言語化、初期運用と改善支援

外部の支援者には、自社だけでは進めにくい領域を任せます。社員や取引先への聞き取り、人材要件の整理、求人原稿の作成、媒体の選定、面接の進め方や評価項目の設計などです。

採用経験がほとんどない会社では、初回の応募対応からメールのやり取り、面接の段取り、面接への同席、評価まで一緒に進める方法もあります。実際、4名規模の専門工事会社では、最初の選考を外部と一緒に進めたことで、2回目以降は社長が自社で対応できるようになった例がありました。

重要なのは、外部が永続的に代行することではありません。最初は一緒に手を動かし、その過程で使った文章、質問、評価基準、対応方法を会社へ残すことです。

外部支援の成果は採用人数だけでなく、支援終了後も自社で応募対応、面接、評価、改善を続けられる状態になったかで判断します。

応募から定着確認までを一つの流れとして残す

属人化を減らすには、採用活動を次の流れで整理します。

  1. 採用する職種と人材要件を決める
  2. 自社の魅力と応募者へ伝える内容をまとめる
  3. 求人原稿と使用媒体を決める
  4. 応募確認、返信、日程調整の担当を決める
  5. 面接で聞く項目と説明する内容をそろえる
  6. 評価項目と採否の決定者を決める
  7. 入社後の状況を確認し、求人や面接へ反映する

各工程で、担当者と記録方法を決めておくことがポイントです。応募者への返信文、面接の質問項目、評価の記録、入社後に確認した内容が残っていれば、担当者が変わっても改善を続けられます。

入社後の確認も採用活動の一部です。求人や面接で伝えた内容と、実際の仕事にずれがなかったか。困っていることはないか。現場で受け入れられているか。そこで得た声を、次の求人原稿や面接時の説明へ戻します。

進め方としては、最初の1か月で社内外への聞き取りと課題整理を行い、2か月目に求人原稿や面接ツールを整え、3か月目から反応を見ながら改善を回す方法があります。その後、半年ほどかけて社内担当者へ運用を移していくと、無理なく定着させやすくなります。

応募対応、面接、評価、入社後の確認をつなげ、記録を次の採用へ戻すことで、採用は単発の施策から社内で改善できる仕組みに変わります。

まとめ

社長が一人で採用を担ってきた会社では、いきなり完全分業を目指す必要はありません。

まずは、社長が決めること、社内担当者と現場社員へ任せること、外部へ委ねることを分けます。そのうえで、応募対応から入社後の確認までの流れを文書として残します。

  • 社長は採用方針、自社の魅力、採用基準、最終判断を担う
  • 社内担当者は応募対応、日程調整、情報の記録を担う
  • 現場社員は面接と入社後の受け入れに参加する
  • 外部支援者は調査、設計、言語化、初期運用、改善を支える

「社長が全部やる」から「社長が重要な判断を行い、社内外が動ける」へ変えることが、少人数の建設会社における再現性のある採用体制づくりです。

自社に合う採用の役割分担から整理するために

採用担当者を置くべきか。現場社員には何を任せられるか。外部支援をどこまで使うべきか。会社の人数や採用経験によって、適した分担は変わります。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の人材課題を、採用だけでなく、現場での受け入れや定着、組織づくりまで含めて整理し、実行を支援しています。

「うちの場合は誰を採用窓口にすればよいか」「何から標準化すべきかわからない」という段階でも構いません。現在の進め方を確認し、社内に残す業務と外部を活用する業務を一緒に整理します。無理にサービスを勧めることはありませんので、次の採用へ向けた整理先として気軽にお声がけください。

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