国土交通省は令和8年10月6日、近年の大雨の頻発化・激甚化を踏まえ、「アンダーパスにおける冠水事故防止に向けたガイドライン」を策定しました。令和8年8月の千葉豪雨などで、アンダーパスの冠水による人的・物的被害が発生したことを受け、排水設備だけに頼らず、「冠水する前に止める、入らせない」ための通行規制・進入防止・排水機能確保を組み合わせる方針が示されています。
発表日 | 令和8年10月6日 |
発表機関 | 国土交通省 道路局 環境安全・防災課 |
策定されたもの | アンダーパスにおける冠水事故防止に向けたガイドライン |
背景 | 大雨の頻発化・激甚化、アンダーパス冠水による人的・物的被害の発生 |
基本方針 | 予防的な事前通行規制、冠水時の速やかな通行規制、車両進入防止対策、排水機能の確保等を組み合わせた多重防御 |
重要な考え方 | 異常発生時にも安全側に移行できるフェールセーフ |
中小建設業への関係 | 道路維持管理、交通規制、排水設備、遮断機・赤色灯・道路情報板・水位センサー等の設置、災害時協力体制に関係する可能性 |
今回のポイントは「排水だけではなく、止める・入らせない」へ重点が移ったことです
今回のガイドラインでまず押さえたいのは、アンダーパス冠水対策を排水設備だけの問題として扱っていない点です。
もちろん、排水機能の確保は重要です。しかし国土交通省は、冠水事故を防ぐためにはそれだけでは足りず、次の対策を組み合わせる必要があると整理しています。
- 予防的な事前通行規制
- 冠水時における速やかな通行規制
- 車両進入防止対策
- 排水機能の確保等
- 異常発生時にも安全側へ移行するフェールセーフ
中小建設業の目線で見ると、これは単なる道路管理者向けの文書ではありません。道路維持、土木、電気設備、交通安全施設、警備・交通規制、排水設備の保守に関わる会社にとって、今後の発注内容や維持管理業務の考え方に反映されていく可能性があるテーマです。
特に、道路の維持修繕や災害対応に関わっている会社では、「雨が降った後に直す」だけでなく、危険が高まる前に止める運用をどう支えるかが、地域インフラを担う上での重要な論点になっていきます。
ガイドラインではリスクに応じた4つの区分が示されています
概要資料では、アンダーパスの冠水リスクに応じた通行規制・進入防止対策の考え方が整理されています。
区分 | 対象イメージ | 主な対応 |
|---|---|---|
1 | 特に高い冠水リスク箇所。人的・物的被害あり、幹線道路で冠水履歴あり等 | 予防的な事前通行規制、遠隔遮断機・道路情報板・赤色灯等。整備まで当面バリケード対応 |
2 | 高い冠水リスク箇所。幹線道路以外で冠水履歴あり等 | 冠水発生時に警告表示し、速やかに物理的な通行規制。手動遮断機、道路情報板、バリケード等 |
3 | 一定の冠水リスク箇所。内水浸水想定エリア内等 | 冠水発生時に警告表示し、速やかに物理的な通行規制。パトロール職員によるバリケード・カラーコーン設置等 |
4 | 注意喚起・監視等リスク箇所。内水浸水想定エリア以外等 | 冠水発生時に警告表示。赤色灯、パトロール強化等 |
ここで大事なのは、すべての箇所に同じ設備を一律に入れる話ではなく、個々のアンダーパスの状況を踏まえてリスクレベルを判断するという点です。
そのため、今後の実務では、単に「遮断機を設置する」「カラーコーンを置く」という作業だけではなく、現場ごとの交通量、冠水履歴、周辺地形、排水設備、迂回路、警察等との連携を踏まえた対応が求められやすくなります。
道路関係の仕事をしている会社にとっては、施工力だけでなく、現場条件を読み、運用まで含めて提案・実行できる力が価値になっていくと見ておきたいところです。
設備面では、遮断機・赤色灯・情報板・水位センサーなどが重要になります
ガイドライン概要では、車両進入防止対策として、次のような設備・資機材が挙げられています。
- 遠隔遮断機、自動遮断機
- 手動遮断機
- 道路情報板
- 赤色灯
- バリケード、カラーコーン等
- 監視カメラ、CCTV
- 水位センサー、水位検出器
- 路面標示、側壁標示、注意喚起看板
これは、土木工事だけで完結する話ではありません。電気、通信、交通安全施設、舗装、標識、維持管理、警備、パトロールなど、複数の業種・職種が関わる領域です。
中小建設企業としては、自社がどの部分を担えるのかを早めに整理しておくことが有効です。
たとえば、道路維持を担う会社であれば、豪雨時のパトロール、バリケード設置、カラーコーン設置、通行規制の補助、排水設備の点検などが関係してきます。電気・通信系の会社であれば、赤色灯、道路情報板、監視設備、水位センサーなどが関係する可能性があります。土木・舗装系の会社であれば、路面標示、側壁標示、排水機能の確保、現場条件に応じた改善工事が関係してきます。
重要なのは、「自社は道路工事の会社だから関係ある」ではなく、「自社はこの対策のどの機能を担えるか」まで分解して考えることです。
フェールセーフの考え方は、現場運用にも影響します
今回のガイドラインでは、異常発生時にも安全側に移行できるフェールセーフの考え方が示されています。
概要資料では、停電・設備異常時には早期規制を実施することが記載されています。つまり、機械やセンサーが正常に動く前提だけでなく、動かない場合、止まった場合、情報が取れない場合にどう安全側へ倒すかが問われるということです。
これは現場にとって非常に大きい考え方です。
設備を設置して終わりではありません。停電時、通信不良時、センサー異常時、夜間の豪雨時、担当者がすぐ現場に到着できない時など、実際の災害対応では「きれいな条件」はなかなかそろいません。
だからこそ、道路維持や災害対応に関わる会社は、今後、次のような点を発注者と確認する場面が増えるかもしれません。
- 誰が現場確認に向かうのか
- どの時点でバリケード等を設置するのか
- 通行規制時の人員配置をどうするのか
- 警察等の関係機関との連絡はどう行うのか
- 停電・設備異常時の代替手段は何か
- 解除の判断や作業手順をどうするのか
中小建設業にとっては、これは負担にもなり得ます。一方で、地域の道路を守る会社として、災害時に頼られる存在になる機会でもあります。平時の施工品質に加えて、非常時の段取り力、連絡力、現場判断力が、会社の信用に直結していきます。
災害時協定や地域住民・沿道施設との協力も論点になります
概要資料では、通行止めの実施にあたり、地域住民や沿道施設等からの協力体制の構築、災害時協定等の活用を検討することも示されています。
ここは中小建設業にとって見逃せません。
道路や河川、公共施設の維持管理を地域で担っている会社は、災害時に行政から協力を求められる場面があります。今回のガイドラインの流れを踏まえると、アンダーパスの冠水対策でも、資機材の設置、現場確認、通行規制補助、排水機能の確認などについて、地域の建設会社が関わる余地があります。
ただし、災害対応は気合いだけでは回りません。
夜間・休日の出動、豪雨時の安全確保、作業員の配置、連絡体制、資機材の保管場所、二次災害の防止など、事前に決めておかなければ現場が混乱します。
その意味で、各社が見ておきたいのは、「受けられる仕事か」だけでなく、「安全に受けられる体制があるか」です。
地域貢献として大事な仕事だからこそ、無理な出動や曖昧な役割分担にならないよう、発注者・関係機関との間で、対応範囲や判断基準を整理しておくことが大切です。
中小建設企業が今から確認しておきたいこと
今回のガイドラインを受けて、すぐにすべての会社が何かを変えなければならない、という話ではありません。ただ、道路関連の公共工事や維持管理に関わる会社は、次の点を確認しておくとよいです。
1つ目は、自社の受注領域とガイドラインの接点を確認することです。道路維持、排水設備、交通安全施設、電気通信、舗装、標識、警備など、自社がどこに関係するのかを洗い出しておきたいところです。
2つ目は、豪雨時の出動・連絡・安全管理の手順を確認することです。特に、夜間や休日に対応する可能性がある会社では、誰が判断し、誰が出動し、どの資機材を使い、どこまで対応するのかを曖昧にしないことが重要です。
3つ目は、資機材と人員の現実を把握することです。バリケード、カラーコーン、赤色灯、車両、無線・連絡手段などが実際に使える状態か。出動できる人員はいるか。安全教育は足りているか。ここは経営判断に直結します。
4つ目は、行政や元請との会話で、運用面まで確認することです。図面や数量だけでなく、通行規制時の動き、設備異常時の対応、解除判断、関係機関との連携まで確認できる会社は、今後ますます信頼されやすくなります。
今回のガイドラインは、アンダーパスという特定の場所の話に見えます。しかし本質は、気象リスクが高まる時代に、インフラを「壊れてから直す」だけでなく、「事故を起こさないように止める」方向へ移していくことです。
この流れは、道路以外の維持管理や防災工事にも広がっていく可能性があります。中小建設業としては、制度文書を読むだけでなく、自社の現場対応力、災害対応力、設備対応力を見直すきっかけにしたい発表です。
自社への影響を一度整理しておくと、次の動きが見えやすくなります
アンダーパス冠水対策は、道路管理者だけで完結するものではありません。現場に出る会社、設備を設置する会社、維持管理を担う会社、災害時に地域を支える会社が、それぞれの役割を現実的に整理しておく必要があります。
「うちは道路維持でどこまで関係しそうか」「災害時協定や緊急出動の体制を見直した方がよいか」「人員や資機材の準備をどう考えればよいか」といった段階でも、早めに論点を並べておくと、発注者や元請との会話がしやすくなります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。建設企業の持続的成長を支援する立場から、こうした制度・ガイドラインの変化を「自社の場合は何を見ればよいか」まで一緒に整理できます。
無理な営業はいたしませんので、まずは自社への影響整理や体制づくりの壁打ちとして、必要に応じてご相談ください。