経験者と未経験者を迎え、自社の電気工事部隊をつくり始めた10名弱の会社
九州地方で設備会社の二次下請けを中心に電気工事を手がける、10名弱の会社があります。社長が長く一人で現場と経営を担い、固定の協力会社と仕事を納めてきましたが、目標とする売上を考えると、自社社員による工事部隊が必要になってきました。
そこで前年から採用に力を入れ、担当者を含む5名ほどが入社。職人は経験者と未経験者が混在しており、年配の職人が若手に技能を教えています。担当者として採用した社員についても、取引先の現場で経験を積ませています。
「未経験でも全然いいんです。年配の職人がきっちり教えてくれるので。ただ、一人前になるまでに時間がかかります」
採用の入口は少しずつ整ってきました。一方で、会社が見ているのは今月や来月の人員だけではありません。
未経験者を採用する会社では、採用人数ではなく、3年後に何人がどの役割を担えるかまで考える必要があります。
採用できても戦力化まで時間がかかり、一人前になる頃には離職や独立も起こりやすい構造
建設会社の人材課題は、入社によって解決するわけではありません。特に電気工事のように、技能だけでなく安全、品質、段取り、取引先との関係まで覚える必要がある仕事では、未経験者が一人前になるまでに一定の時間がかかります。
相談企業でも、社長は「今やっておかないと、3年後、4年後の組織づくりがきつい」と感じていました。さらに、経験を積んだ職人については、隣の会社がよく見えたり、独立を考えたりすることも少なくありません。
「職人は一人前になると、すぐ独立したがることもあります。だから、ある程度は人数を入れておかないといけないと思っています」
確かに、将来の離職を見越して採用人数を確保する考え方は必要です。ただし、人数だけを増やしても、教えられる人や任せられる現場が足りなければ、育成が追いつきません。指導するベテランの負担が増え、教え方も人によってばらつきます。
本当の課題は採用数の不足だけではなく、入社した人が戦力になるまでの道筋が現場任せになりやすいことです。
売上目標から採用を急ぐ一方、指導役と育成の仕組みが追いつきにくい成長段階
この会社では、現在3億円弱の売上を、数年後には5億円に近づけたいという目標がありました。そのためには協力会社の確保に加え、自社の工事部隊と施工を管理する担当者が必要です。
一方で、単純に人を増やせば売上が伸びるわけではありません。社長自身も「人を増やしても、仕事をきっちり納めないと次の仕事がなくなる」と話しています。採用を進めながら、既存の取引先に対して安全と品質を守り、確実に施工を納める必要があります。
ここで難しいのが、育成に使える余力です。ベテラン職人は現場の中心でもあるため、教えることだけに専念できません。新人を複数名採用すると、現場で次のような状態が起こりやすくなります。
- 配属された現場によって、経験できる作業が変わる
- 指導する職人によって、教える順番や基準が異なる
- 本人も、何ができれば一人前なのかを把握しにくい
- 社長が現場の成長状況をつかみにくい
- 将来の役割や処遇が見えず、経験を積んだ後に転職や独立へ傾きやすい
相談企業では、担当者候補を取引先に預けて鍛えてもらうという動きもありました。外部の現場で経験を積めることは有効ですが、自社として何を身につけて戻ってきてほしいのかが曖昧なままだと、経験が本人の中だけに蓄積されてしまいます。
売上計画と採用計画だけでなく、誰が、いつまでに、何を教えるかという育成計画を同じ表に載せることが重要です。
3年後の必要人員から逆算し、技能段階・指導担当・面談評価を一つにつなげる育成設計
最初に整理したいのは、立派な研修資料ではありません。3年後の現場で必要になる役割と人数です。
たとえば、自社の工事部隊を一班つくりたいのであれば、その班を構成するために、職長を任せられる人、一定範囲の作業を単独で進められる人、補助を受けながら作業する人が、それぞれ何人必要かを整理します。
そのうえで、現在の社員を当てはめます。これにより、「あと5人採用したい」という人数目標が、「職長候補を何人育てるか」「未経験者を何人受け入れられるか」という育成目標に変わります。
採用計画は、将来の組織図と技能構成から逆算すると、必要な人数と育成の優先順位が見えやすくなります。
1.一人前を一つの言葉で済ませず、技能段階に分ける
「一人前」の基準が曖昧だと、教える側と教わる側で認識がずれます。自社で扱う工事に合わせて、技能を段階に分けると運用しやすくなります。
たとえば、次のような切り口です。
- 指示を受け、安全ルールを守って補助作業ができる
- 基本的な作業を、確認を受けながら進められる
- 一定範囲の作業を単独で納められる
- 後輩へ作業手順と注意点を説明できる
- 現場の段取りや取引先との調整を担える
すべての技能を細かく一覧化する必要はありません。まずは自社で受注量が多く、事故や手戻りを避けたい作業から基準をつくるのが現実的です。
技能段階を明示すると、新人は次に覚えることが分かり、指導者は何を任せてよいか判断しやすくなります。
2.「みんなで教える」から、主担当を決める
年配の職人が教えてくれる環境は、大きな強みです。ただし、全員が善意で教える体制だけでは、誰が成長を確認するのかが曖昧になります。
新人一人につき、育成の主担当を一人決めます。現場ごとの作業指示は複数の職人が行っても、成長状況を確認する人は固定する形です。
主担当の役割は、毎日付きっきりで教えることではありません。配属前に「今月経験させたい作業」を確認し、月末に「できるようになったこと」と「次に任せること」を整理するだけでも、現場任せから一歩進めます。
指導担当者には、通常の施工量と同じ成果を求めない配慮も必要です。新人教育を任せながら、従来どおりの作業量だけで評価すると、教える時間が負担になってしまいます。
3.定期面談では、悩みだけでなく技能と役割を確認する
面談は離職の兆候を探す場だけではありません。本人が身につけた技能を確認し、次の役割を共有する場です。
確認する内容は、次の4点に絞れます。
- この期間に経験した現場と作業
- 一人でできるようになったこと
- まだ不安がある作業
- 次の期間に経験したい作業と役割
社長が毎回すべての面談を行う必要はありません。指導担当者が短時間で確認し、要点だけを社長へ共有する形でも運用できます。
面談と技能確認をセットにすると、本人の不安解消と会社の戦力把握を同時に進められます。
4.技能段階を評価とキャリアパスにつなげる
職人が経験を積んだ後に離職や独立を考える背景には、収入だけでなく、「この会社に残ると次に何を任されるのか」が見えにくいこともあります。
技能段階に応じて、作業担当、後輩指導、職長、担当者候補といった役割を示し、それぞれに何が求められるかを共有します。独立を一律に否定するのではなく、社内で技能や経験を生かせる道も具体的に示すことが大切です。
評価制度も、抽象的な勤務態度だけではなく、現場で担える作業、後輩への指導、安全や品質への取り組みと結びつけます。これにより、本人は努力の方向をつかみやすくなり、会社も処遇を説明しやすくなります。
定着を支えるのは引き留めではなく、技能の成長が役割と評価に反映される見通しです。
まとめ
未経験者を受け入れる会社にとって、3年は長いようで短い期間です。必要になってから一人前の職人を探しても、経験者採用だけで計画どおりにそろえることは簡単ではありません。
相談企業が「今やっておかないと、3年後、4年後がきつい」と考えて採用を始めたことは、中長期の組織づくりに向けた大切な一歩です。次は、採用した人をどの役割まで育てるのかを具体化する段階です。
進める順番は、次のように整理できます。
- 3年後に必要な役割と人数を決める
- 一人前になるまでの技能段階を分ける
- 新人ごとに育成の主担当を置く
- 定期面談で技能と次の課題を確認する
- 技能を役割、評価、キャリアパスへつなげる
3年後の戦力は、採用人数ではなく、採用・育成・定着を一つの計画として回すことでつくられます。
自社に合った3年間の育成計画を整理したい方へ
「未経験者を何人まで受け入れられるのか」「ベテラン職人に負担をかけず、どう教える仕組みをつくるか」「評価制度をどこまで整えるべきか」など、育成体制は会社の人数や工事内容によって変わります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の採用、育成、定着、組織づくりを横断して整理し、現場で運用できる形まで支援しています。まだ課題が明確になっておらず、「うちの場合は何から整理すればよいか」という段階でも構いません。
無理にサービスをおすすめすることはありません。3年後の組織に必要な人材と、現在の育成体制を整理する場として、気軽にお声がけください。