建築工事とプラント工事を組み合わせ、社長の目が届く範囲で安定して回る専門工事会社の現在地
ある専門工事会社では、大手ゼネコンやサブコンにつながる建築工事と、請負で受注するプラント関連工事を組み合わせて経営しています。
建築工事は「1日いくら」という単価の幅がある程度決まっている一方、プラント関連工事は請負のため、条件を選べば収益を確保しやすい面があります。社長はそれぞれの特徴を理解しながら、仕事量と利益のバランスを取ってきました。
取引先が不足しているわけではありません。横のつながりから紹介が生まれ、現在の人員でも年間を通じて仕事を回せる状態です。
社長の言葉にも、足元の安定感が表れています。
「現状はちょうどいいバランスです。これ以上人を増やすと、取引先も必要になるし、コスト管理も増えてきます。自分で見られる範囲は、このくらいかなと思っています」
一方で、会社を大きくしたくないわけではありません。「その先に行きたい」という思いもあります。ただし、売上と一緒に資金、人員、取引、管理の悩みまで増やすことには慎重です。
この会社の現在地は、成長意欲がない状態ではなく、すでに安定している事業を崩してまで売上を追うべきかを見極めている段階です。
売上を増やすほど人員・取引先・原価管理が連動して増える成長の難しさ
中小建設会社の成長では、売上だけを単独で増やすことができません。受注を増やせば、施工する人が必要です。人を増やせば、その人数を継続して稼働させる取引先が必要になります。案件数や現場数が増えれば、見積もり、配置、原価、請求、入金まで管理項目も増えます。
この会社でも、営業を強める案を考えたことがありました。しかし、社長はすぐに供給側の問題に気づいています。
「営業をやってもらおうかと思ったんですけど、結局、人がいないと仕事を取っても行けないじゃないですか」
これは、営業施策が悪いという話ではありません。受注を増やす施策と、受注後に工事を回す体制の順番が合っていないと、売上拡大がそのまま経営負担の拡大になってしまうということです。
協力会社を増やす場合も同様です。大手の現場では単価や入場条件が決められており、品質や実績だけでなく、現場ごとの細かな要請にも対応する必要があります。新しい協力会社を入れれば、確認や調整の負担も社長に戻ってきます。
現在の知っている範囲で年間の仕事を回せるなら、無理に取引先や協力会社を増やさない判断にも合理性があります。
成長するかどうかの本当の論点は、売上を取れるかではなく、増えた売上を利益と余力に変えられるかです。
攻め続けた数年間を経て、設備投資と利益を見直す基盤整備への移行
社長が現状維持を選んでいる背景には、ここ数年、会社を前に進めるために攻め続けてきた経緯があります。
「去年、一昨年くらいまでは攻め続けていたんですけど、今は少し落ち着きました。会社の利益をよく見ながら、人のことも考えて、少し固めてみようかなと」
直近では設備投資も重なりました。トラックなどを購入し、「今年はいろいろ買いすぎたので、来年からは少し抑えようと思っている」と振り返っています。使える制度を調べる余裕がないまま支出が先行した点も、今後の資金管理を考えるきっかけになりました。
そこで、税理士にも単なる記帳や申告だけではなく、資金面の助言を依頼する方向で動いています。「アドバイス料を払うなら、もう少し経営を良くするところまで見てほしい」という率直な言葉からは、数字を次の意思決定に使いたい意向がうかがえます。
また、取引先は大手だけに寄せているわけではありません。
「大手がいいというわけでもないので、どこともうまく付き合っておかないと、仕事が切れるときがあります。この辺はバランスですよね」
建築工事とプラント関連工事、大手とそれ以外の取引先を組み合わせることで、仕事量と収益性の偏りを抑えています。このバランスが現在うまく機能しているからこそ、社長は拡大によって崩れるものも慎重に見ています。
攻めない時期は停滞ではありません。過去の投資と受注を利益に変え、次に動ける状態をつくるための基盤整備の時期です。
売上高ではなく五つの経営余力を確認し、攻める時期と整える時期を分ける進め方
会社を大きくするか、今の規模を維持するかを感覚だけで決める必要はありません。まずは、売上高とは別に、次の五つの余力を確認すると判断しやすくなります。
- 利益率の余力
工事の種類や取引先ごとに、売上ではなく粗利益がどれだけ残っているかを見ます。日当単価が決まりやすい工事と、請負で利益をつくりやすい工事を同じ基準で評価しないことが大切です。
- 受注余力
新しい案件を取ったとき、既存現場の品質や工程を崩さずに回せるかを確認します。「案件があるか」ではなく、「受けてもよい案件がどの程度あるか」で考えます。
- 人員と社長の管理余力
現場の配置、協力会社との調整、見積もり、書類、請求のうち、何が社長に集中しているかを整理します。人数を一人増やしたときに、社長の確認作業がどれだけ増えるかも見逃せません。
- 資金余力
採用費、車両、工具、外注費などが先に出て、工事代金が後から入る期間を乗り切れるかを見ます。直近で設備投資が重なった場合は、売上拡大より先に手元資金の回復を優先する選択もあります。
- 管理体制の余力
案件ごとの売上、原価、粗利益、入金予定を、社長が後から調べなくても確認できる状態かを見ます。人を増やす前に、現在の案件で数字を把握できる流れを整えておくと、拡大後の負担を抑えやすくなります。
五つのうち一つでも大きく不足しているなら、営業や採用を一気に強めるより、その不足を埋める時期と考えたほうが経営の整合が取れます。
進め方としては、最初に「何を増やしたいのか」を明確にします。売上、粗利益、手元資金、社長が現場を離れられる時間では、必要な打ち手が異なるためです。
たとえば、現在の人員のまま利益を増やしたいのであれば、受注量を増やす前に、工事別・取引先別の採算を比べます。条件の良い工事の比率を少し高めるだけでも、管理対象を急増させずに利益を伸ばせる可能性があります。
将来的に人員を増やしたい場合は、先に受注を増やすか、先に採用するかを二者択一で決めるのではなく、次の順序で小さく確かめます。
- 現在の人員で追加対応できる工事量を確認する
- 受けたい案件の工種、単価、工期、地域を絞る
- その案件に必要な人員や協力会社の条件を整理する
- 資金繰りと社長の管理工数を試算する
- 条件を満たす範囲だけで取引先開拓を試す
営業を始める場合も、アポイント数や見積件数だけで評価しないことが重要です。受注後に施工できる案件だったか、必要な利益率を満たしたか、社長の対応時間が増えすぎなかったかまで確認します。
また、「来年の夏以降にもう一度考える」といった時期の置き方も有効です。ただ待つのではなく、その時期までに確認する項目を決めておきます。
- 設備投資後の手元資金がどこまで戻ったか
- 工事別・取引先別の利益が把握できるようになったか
- 社長以外に任せられる管理業務が増えたか
- 採用または協力会社確保の見通しが立ったか
- 追加受注しても既存現場に無理が出ないか
成長の開始時期は、景況感や直感だけでなく、自社で決めた条件がそろったかどうかで判断できるようにしておくことが大切です。
まとめ
売上を伸ばしたい一方で、社長一人が見られる範囲を超えたくないという迷いは、矛盾ではありません。現在の仕事量、利益、取引先、人員のバランスが取れている会社ほど、それを崩すことに慎重になるのは自然です。
大切なのは、会社を大きくするか、現状を維持するかを今すぐ決めることではありません。
利益率、受注余力、人員と社長の管理余力、資金余力、管理体制を確認し、今が攻める時期なのか、基盤を整える時期なのかを切り分けることが先です。
売上を増やさなくても、工事の組み合わせや取引先構成を見直すことで利益を伸ばせる場合があります。拡大する場合も、採用、協力会社、営業、資金管理を一度に動かすのではなく、足りない余力から順番に整えることで、社長の負担を抑えながら前に進めます。
現状維持は、何もしないことではありません。次に攻めるときの条件を整え、会社が無理なく成長できる幅を広げる時間にもできます。
自社に合う成長の順番から整理したい方へ
「売上は伸ばしたいが、今の人数で受けてよいのか」「採用と取引先開拓のどちらを先に進めるべきか」「社長が管理できる規模をどう見極めればよいか」といった悩みは、会社ごとの工事構成や資金状況によって答えが変わります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、人材、取引先開拓、原価、資金、デジタル活用まで横断して整理し、必要な施策の実行まで支援しています。
何かを依頼する前提ではなく、「うちの場合は何から整理すべきか」という段階からお話しいただけます。無理に施策を勧めることはありませんので、次の成長に向けた判断材料を整理したいときにお声がけください。