競合20社の相見積もりでも、最安値ではなく施工品質で残った東海地方の改修工事会社
東海地方で改修工事を手がける、10名弱の専門工事会社があります。年商は5億円弱。代表は塗装職人として新築工事の現場を長く経験し、現在は改修工事を中心に事業を展開しています。
過去に市況が大きく落ち込んだ際、ある工事では20社ほどの塗装会社が相見積もりに参加しました。同社の見積金額は安い側ではあったものの、最安値ではありませんでした。それでも発注側からは、同社が提示した金額より下の会社について、品質を維持できるか慎重に判断するという評価を受けました。
その理由は、感覚で価格を出していなかったことにあります。
「塗料一缶で何㎡塗れるのか、職人一人が平均して何㎡施工できるのか。そこまで数字にして見積もっていました」
価格競争の中で利益を守る出発点は、値下げを拒むことではなく、品質を維持できる最低金額を説明できる状態にすることです。
受注したい気持ちが先に立つほど曖昧になる、品質を守れる最低受注ライン
競合が多い案件では、「あと少し下げてもらえれば発注できる」と言われることがあります。新規の取引先であれば、まず一度施工して実力を見てもらいたいという気持ちも出てきます。
ただし、最低受注ラインが曖昧なまま値下げすると、材料の使用量や職人の配置、現場管理に無理が生じます。受注額は確保できても、自社が約束したい仕上がりを維持できなければ、次の受注にはつながりません。
特に仕上げ工事は、塗る作業だけで完結しません。前工程の進み具合を確認し、他業者と調整しながら作業場所を確保し、決められた工期の中で納める必要があります。同社も、朝礼や打ち合わせで工程を共有し、必要に応じて作業時間を調整することで、遅れのある現場を収めてきました。
見積もりに入れるべきなのは施工手間だけではなく、品質を成立させるための段取りと管理です。
安値受注から抜け出せない会社では、次の二つが混ざっていることが少なくありません。
- 施工そのものに必要な原価
- 受注するために求められた価格
発注側の希望価格を先に置き、そこから利益を逆算すると、現場条件が厳しくなるほど採算が崩れます。先に自社の施工条件から最低受注ラインを出し、その範囲内で価格を調整する順番が重要です。
塗料一缶の塗布面積と職人一人の施工量まで数値化していた見積もり
同社が価格競争の中でも利益を残せた背景には、材料原価と職人の生産性の可視化がありました。
材料費は、施工面積だけを見ても正確には出せません。塗料一缶で実際に施工できる面積が分かれば、必要数量を逆算できます。同様に、一人の職人が一日で施工できる平均面積が分かれば、必要な人工数も見えてきます。
基本となる考え方は、次のとおりです。
- 施工面積を、一缶当たりの施工可能面積で割って材料数量を出す
- 施工面積を、一人一日当たりの施工量で割って必要人工を出す
- 前工程、作業時間、他業者との干渉など、現場条件による差を調整する
- 打ち合わせや作業場所の確保など、施工を成立させる管理負担を加える
- 会社として確保すべき利益を加え、最低受注ラインを決める
ここで大切なのは、カタログ上の数値や職人の最速記録ではなく、自社が通常の品質を保ちながら再現できる平均値を使うことです。
同社の強みは、職人の施工速度だけではありませんでした。仕上げ工事の立場から前工程に入り込み、監督や他業者と調整し、工期内にきれいに納める管理力がありました。この管理力があるからこそ、生産性を高めながら品質も維持できています。
つまり、安い会社だったのではありません。施工量と管理方法を理解していたため、他社より低い原価で品質をつくれる会社だったのです。
原価と生産性を根拠に最低受注ラインを決め、初回案件から通常単価への道筋を設計する方法
安値受注から抜け出すには、すべての案件を一律に値上げするのではなく、見積もりと案件選別の基準を整える必要があります。
1.実績から材料使用量と施工量を拾う
最初に、完工した案件から数字を集めます。精緻な原価管理システムがなくても、まずは代表的な工種について、次の項目を確認すれば十分です。
- 実際の施工面積
- 使用した材料数量
- 投入した人工数
- 当初見積もりとの差
- 工程や作業場所によって生じた負担
一つの現場だけで基準を決めず、似た工事を複数並べて平均を見ると、自社の標準値がつかみやすくなります。
見積もり精度を高める第一歩は、細かな管理項目を増やすことではなく、材料と人工の見積もり差を把握することです。
2.最低受注ラインを「品質維持ライン」として決める
最低受注ラインは、赤字にならない金額と同じではありません。材料と人工を支払えるだけでは、現場条件の変化に対応する余白や、会社として継続するための利益が残らないからです。
判断基準は、その金額で、自社が約束する施工品質と管理水準を維持できるかです。
値下げを求められたときも、「高いから下げられない」ではなく、材料使用量、必要人工、現場条件を示しながら、「この管理と仕上がりを維持するには、ここが最低金額です」と説明できます。
3.初回取引の値引きには、出口を先に決める
同社は新しい取引先に入る際、条件によっては初回の利益を抑え、まず施工品質と管理力を見てもらう方法を取っていました。ただし、最低受注ラインを割る案件までは引き受けていません。
また、2回目以降に単価を上げる際には、初回は取引開始のために抑えた金額であり、通常は材料費などに必要な利益を加えることを率直に説明していました。
初回価格を設定するなら、見積提出時に次の点を明確にしておくと移行しやすくなります。
- 初回限定の条件であること
- 通常単価との差がどこにあるか
- 次回から通常単価になること
- 初回でも下回らない最低受注ライン
初回値引きは安売りではなく、実力を知ってもらうための期限付きの条件設計として扱う必要があります。
4.価格以外の評価項目を発注側に見せる
通常単価への移行には、初回工事で「仕上がりがきれいだった」だけでなく、管理面の違いを認識してもらうことが欠かせません。
同社が評価されたのは、前工程への働きかけ、打ち合わせでの情報共有、作業場所の確保、工期内に収める段取りまで担っていたからです。
見積書や施工後の報告でも、次のような価値を整理して伝えます。
- どのような工程調整を行ったか
- 品質を守るために何を管理したか
- 工期を守るためにどのような段取りを組んだか
- 発注者や現場監督の負担をどこまで減らしたか
最安値ではなくても選ばれる会社は、施工品質に加えて「現場を任せられる理由」を言葉にしています。
5.受注可否を価格ではなく条件で分ける
案件選別では、受注金額の大きさだけでなく、自社の品質を発揮できる条件があるかを見ます。たとえば、次の三つに分けると判断しやすくなります。
- 通常単価で、必要な施工体制と管理水準を確保できる案件
- 初回限定の条件を共有したうえで、最低受注ライン以上で試せる案件
- 最低受注ラインを下回る、または最安値だけを求められる案件
三つ目に当たる案件は、受注してから苦しくなる可能性が高いため、辞退も選択肢になります。同社の代表も、「一番安くやってほしいと言われたら辞退します。その金額では、いい仕事ができません」と話していました。
案件を断る基準は、相手との関係性ではなく、自社が責任を持てる品質と採算を両立できるかどうかです。
まとめ
安値受注から抜け出すには、交渉力だけに頼る必要はありません。塗料一缶で施工できる面積と、職人一人が一日に施工できる量を把握すれば、材料費と人工数の根拠ができます。そこに現場条件や管理負担、必要な利益を加えることで、品質を守れる最低受注ラインが見えてきます。
そのうえで、初回取引は期限付きの条件として設計し、施工品質と管理力を示した後に通常単価へ移行します。最低受注ラインを下回る案件は、無理に取らない判断も必要です。
適正利益を守る見積もりとは、高く売るための見積もりではなく、自社の品質を再現し続けるための見積もりです。
自社の最低受注ラインと案件選別の基準を整理するために
材料原価や人工数は把握できていても、現場管理の負担や通常単価への移行条件まで含めると、「自社の場合はどこを最低ラインにするべきか」と迷うことがあります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の収支管理や原価管理、案件選別の基準づくりを、現場の施工体制や今後の成長方針とあわせて整理しています。何から数字にすべきか分からない段階でも問題ありません。建設業の経営課題を整理し、ものづくりに集中できる体制づくりまで伴走します。
無理にサービスを勧めることはありませんので、自社の見積もりや受注基準を見直すきっかけとして気軽にお声がけください。