工場内の電気・設備工事を担いながら、社長自身が現場と営業を掛け持ちしている関東の専門工事会社
関東を中心に、工場内の電気工事や設備の接続、モーター整備などを担う専門工事会社があります。長く取引する工場で実績を積み、仕事量も安定しています。
一方で、将来を考えると、既存取引先だけに頼らず、別の食品工場やエンジニアリング会社とも接点をつくりたい。新しい工事を経験させ、社員の対応力も広げたいという思いがありました。
ただ、社長は現場にも出ています。会社の強みを説明できるのも、工事条件を見て対応可否を判断できるのも、実質的には社長です。
「会社として営業部隊をつくったほうがいいとは言われます。でも、今も自分が営業をやっているようなものなんです」
少人数の建設会社では、よくある状況です。昼間は現場が優先され、打ち合わせを入れられるのは19時以降。問い合わせや紹介があっても、初回訪問の日程が決まらず、営業活動が前に進みません。
問題は社長に営業力がないことではなく、営業の入口から技術判断までを社長一人が担っていることです。
営業担当を採用しても任せる仕事と評価基準が決まっていない状態
社長の時間が足りないと、「営業担当を一人採用しよう」という話になりがちです。しかし、採用の前に確認したいのは、営業担当に何を任せるのかです。
建設業の営業には、いくつか異なる仕事が含まれます。
- 開拓先の条件を決める
- 候補企業と窓口をリスト化する
- 電話などで接点をつくる
- アポイントを取得する
- 初回訪問で会社を紹介する
- 工事内容を聞き取り、対応可否を判断する
- 現地調査や見積もりへつなぐ
このうち、すべてに高度な技術知識が必要なわけではありません。アポイントの取得や会社紹介は営業担当でも進められます。一方、施工方法、必要人員、見積条件などの判断には、社長や技術者の同席が必要です。
ここを分けないまま求人を出すと、必要な人物像が曖昧になります。
「営業経験があればいいのか」「工事が分かる人でなければいけないのか」「採用して、本当に一人で動けるのか」。面接を始めても、判断材料がありません。
営業担当を採るかどうかより先に、営業工程のどこまでなら社長以外に任せられるかを確かめる必要があります。
狙う市場が広いままでは、アポイントを取っても技術と商圏がかみ合わない構造
営業が進まない背景には、社長の多忙さだけでなく、対象市場の広さもあります。
工場工事を増やしたいと考えても、工場であればどこでもよいわけではありません。自社の施工実績に近い業種なのか。電気工事や設備接続の需要があるのか。既存の取引構造と相性がよいのか。現場へ無理なく移動できるのか。確認すべき条件があります。
相談企業では、社長や技術者が車で動ける範囲として、拠点から90分圏内を一つの基準にできそうでした。その範囲にある食品工場、工場内に出入りするエンジニアリング会社、既存取引先に近い施工体制を持つ企業などへ絞れば、営業先の精度が上がります。
反対に、建設業や工場設備への理解がないまま企業リストをつくると、自社の施工領域とは関係の薄い会社が並びます。電話件数だけ増えても、見積もりや受注にはつながりにくく、社内の負担が残ります。
また、会社単位だけでなく窓口の見極めも必要です。同じ工場でも、設備、保全、調達などで担当部署が分かれている場合があります。一つの窓口で反応がなかったからといって、会社全体に需要がないとは限りません。
「いきなり営業担当を雇うほどではない。でも、一定期間は外の市場を試してみたい」
この段階で必要なのは、大きな営業組織ではありません。小さく市場へ出て、反応を確かめることです。
採用前に検証すべきなのは、誰を雇うかではなく、どの市場に、どの役割分担で営業すれば商談が進むかです。
90分圏内の候補企業に絞り、営業の入口と技術判断を分けて試す進め方
最初の一手は、対象市場を限定した営業テストです。社長がすべてを担当するのではなく、営業の入口と技術判断を分けます。
1.狙う市場を一つに絞る
まず、「新規案件を増やしたい」という表現を、営業リストをつくれる条件まで具体化します。
今回のような会社であれば、次のような条件です。
- 拠点から車で90分程度の範囲
- 食品など、既存実績を生かしやすい工場を持つ企業
- 工場工事を受注するエンジニアリング会社
- 電気工事や設備接続で協業できる機械・設備会社
市場を絞る目的は、営業先を減らすことではありません。自社の技術が必要とされる場所から検証を始め、営業活動の良し悪しを判断しやすくすることです。
2.アポイント獲得と初回訪問を社長から切り離す
次に、営業担当者や外部支援者が担う範囲を決めます。
アポイントの取得、会社概要の説明、施工実績の紹介、相手の工事ニーズの聞き取りまでは、必ずしも社長が行う必要はありません。初回訪問も、会社紹介と課題確認を目的にすれば、営業側で進められます。
技術的な質問や見積条件が出た段階で、社長や技術者へつなぎます。必要に応じて次回訪問へ同席してもらいます。
たとえば初回訪問では、「詳しい施工判断と見積もりは技術担当が確認します」と伝えたうえで、次の面談に必要な情報を持ち帰ります。これなら、社長の予定が空くまで初回接点そのものが止まる状況を減らせます。
営業側は接点づくりと情報整理を担い、社長や技術者は受注に必要な技術判断へ時間を使う役割分担が現実的です。
3.案件管理表に営業の経過を残す
営業テストは、結果だけでなく経過を社内に残すことが大切です。候補企業を一覧にし、少なくとも次の項目を共有します。
- 企業名と対象事業所
- 業種や施工領域との相性
- 担当部署と窓口
- 未接触、接触済み、アポイント、初回訪問、見積もりなどの進捗
- 相手が抱えていた工事上の課題
- 次に誰が、いつ、何をするか
- 社長や技術者の同席が必要な事項
特に、すぐ見積もりになりそうな会社、将来の候補として関係を続ける会社、現時点では対象外の会社を分けておくと、営業先の優先順位が見えます。
商談記録も重要です。「工事案件なし」で終わらせず、どの工事を誰に発注しているのか、どの条件なら相談が発生するのか、別部署に窓口があるのかを残します。
案件管理表と商談記録は、営業活動を社長個人の記憶から会社の仕組みへ移す土台になります。
4.検証結果を見てから採用要件を決める
一定期間動けば、自社に必要な営業人材が見えてきます。
アポイントは取れるものの技術説明で止まるなら、営業専任者より、社長に代わって技術説明ができる社員の育成が先かもしれません。初回訪問までは進むものの、その後の追客が抜けるなら、案件管理と継続接点を担う営業担当が必要です。
そもそも対象企業から反応が少なければ、採用ではなく、狙う市場や訴求内容を見直す余地があります。
採用時には、実際に検証した業務をもとに、「候補企業の開拓」「初回訪問」「案件管理」「技術者への引き継ぎ」など、任せる役割を具体的に示せます。入社後の評価もしやすくなります。
営業担当の採用は、営業テストで必要な役割が見えた後に行うほうが、採用要件と入社後の仕事をそろえやすくなります。
まとめ
社長が現場に出ている会社では、営業活動が夜間や空き時間に限られがちです。ただし、すぐに営業担当を採用すれば解決するとは限りません。
先に取り組みたいのは、対象市場を絞り、営業の入口と技術判断を分けて試すことです。拠点から90分圏内など現実的な商圏を決め、相性のよい工場やエンジニアリング会社へ接点をつくります。
アポイント獲得と初回の会社紹介は営業側が担い、技術説明や見積判断は社長や技術者が担います。その経過を案件管理表と商談記録に残せば、必要な営業人材と社内体制が見えてきます。
営業部門づくりは、採用から始めるのではなく、小さな営業活動を試して、成果が出る役割分担を会社に残すところから始められます。
自社に合う営業の役割分担から整理したい方へ
「社長以外にどこまで任せられるのか」「どの企業から当たればよいのか」「営業担当を採る段階なのか」がまだ固まっていなくても、整理は可能です。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の販路拡大や営業体制づくりを、対象市場の整理、候補企業の選定、アポイント獲得、案件管理の仕組み化まで横断して支援しています。営業担当の採用ありきではなく、自社に必要な役割と進め方を一緒に確かめていきます。
「うちの場合は何から試すべきか」という段階でも、次の整理先としてご活用いただけます。無理にサービスを勧めることはありませんので、状況を言葉にするところから気軽にご相談ください。