急な受注で必要人数が変わる、地域密着型の設備工事会社
静岡県を中心に、衛生配管や給排水工事を手がける、ある設備工事会社のケースです。病院や高齢者施設などの大型施設にも対応しており、協力会社には配管経験だけでなく、大手設備会社の現場ルールや安全管理への理解も求めています。
現時点では、職人が明らかに不足しているわけではありません。ただ、今後の工事量を確認すると、経営者から返ってきたのは「これから急に入ってくるから、足りるかどうか分からない」という言葉でした。
建設業では、受注時期や着工時期がずれ、必要人数が短期間で変わることがあります。特に設備工事は、工程の進み方によって応援を入れたい時期が動くため、数カ月先の必要人数を正確に決めるのは簡単ではありません。
現在の人数が足りているかではなく、急な受注が入ったときに声をかけられる相手が何社いるかが、協力会社体制を見るうえでの重要な基準です。
職人が必要になってから探し始めても、相手も繁忙期で動けない状況
この会社では以前、知り合いの設備会社に「少し手伝ってほしい」と連絡したことがありました。しかし、返答は芳しくありませんでした。
「全然だめだった。向こうも忙しいから」
自社が忙しい時期は、同じ地域、同じ工種の会社も忙しくなりやすいものです。受注後に慌てて電話をかけても、すでに別の現場へ人を出している可能性があります。
紹介や建設業向けマッチングサービスも有効ですが、長く地域で仕事をしている会社ほど、表示される社名に見覚えが増えていきます。実際、候補企業を確認すると、「ここは知っている」「一緒に飲みに行くくらいの関係」「以前に電話したことがある」という会社がいくつも含まれていました。
ただし、名前や連絡先を知っていることと、必要なときに応援を頼めることは別です。
- 面識はあるが、協力関係について話したことがない
- 過去に断られたまま、その後の状況を確認していない
- 得意な工事や対応可能人数が分からない
- 会社同士の関係はあるが、現場のタイミングが合わない
こうした候補が多いと、名簿上の社数は十分でも、実際に頼める先は限られます。
「知っている会社の数」ではなく、「工種、人数、時期を相談できる会社の数」を増やさなければ、繁忙期の人手不足は解消しにくいままです。
紹介先の頭打ちと、求める条件を絞るほど小さくなる候補企業の母数
協力会社探しが難しい背景には、工事量の読みにくさだけでなく、求める条件の細かさがあります。
この会社が探していたのは、衛生配管を中心とする少人数の会社や一人親方でした。さらに、拠点からおおむね1時間圏内で、病院や高齢者施設の給排水配管を経験し、大型現場のルールにも慣れていることが望ましいという条件です。
近隣3県の約2,000社から条件を整理すると、候補は約1,000社まで減り、優先的に連絡したい会社は100社強になりました。そのなかでも、病院などの施工実績を公開情報で確認できた会社は10社前後にとどまりました。
ここで大切なのは、候補が少ないからといって、最初から条件をすべて外すことではありません。まず、何が必須で、何が調整可能なのかを分ける必要があります。
たとえば、次のように整理できます。
- 衛生配管の経験は必須だが、空調配管も扱う会社は対象に含める
- 1時間圏内を基本としつつ、まとまった工期なら対象地域を広げる
- 5名以下を理想としながら、10名程度の会社も候補に残す
- 病院の施工実績が確認できなくても、大手設備会社との取引実績があれば話を聞く
また、一人親方は法人よりも公開情報が少なく、施工実績や対応可能な現場をリストだけで判断できません。屋号と電話番号が分かっても、衛生配管が中心なのか、どの地域まで動けるのか、大型施設に入った経験があるのかは、直接確認する必要があります。
経営者が空いた時間に一社ずつ調べ、メッセージを送り、返事を待つ方法では、日常業務に押されて開拓が止まりやすくなります。必要になったときだけ動く形に戻れば、また繁忙期の直前に探すことになります。
協力会社開拓が進まない主因は、候補企業が存在しないことよりも、「誰に、何を確認し、次にいつ連絡するか」が社内の運用になっていないことです。
必要人数を社内で揃え、候補を優先順位別に管理する平時の開拓体制
協力会社ネットワークは、受注後の緊急連絡網ではなく、平時から更新する経営資源として整えると機能しやすくなります。進め方は、次の4段階です。
1.必要な協力会社像を社内で確認する
最初に行いたいのは、社員や現場責任者への確認です。この会社でも、社員が集まる機会に「いま協力会社は足りているのか」を聞くことになりました。
確認する項目は、少なくとも次の5点です。
- 今後予定されている工事と着工時期
- 自社の職人だけでは不足しそうな人数
- 衛生配管、給排水、空調などの対応工種
- 病院や高齢者施設など、必要な施工経験
- 現場までの移動範囲と応援を頼みたい期間
「職人が足りない」という大きなくくりのままでは、候補を選べません。「衛生配管を経験した職人が、来月から2名必要になる可能性がある」といった粒度まで揃えることで、連絡先と確認内容が明確になります。
協力会社探しの出発点は社外のリストではなく、社内で工種、人数、時期を揃えることです。
2.候補企業を優先順位別に分ける
約1,000社の候補へ無作為に連絡するより、条件に合う100社強から始めるほうが現実的です。優先順位は、公開情報と社内情報を組み合わせて決めます。
公開情報では、所在地、従業員規模、施工領域、主要取引先、施工実績などを確認します。社内では、既存の付き合い、過去の連絡履歴、地域で聞く評判などを重ねます。
そのうえで、候補を次のように分けます。
- 条件が合い、まだ接点がない会社
- 名前は知っているが、協力関係の話をしていない会社
- 過去に断られたものの、再確認する余地がある会社
- すでに十分な関係がある会社
- 評判や過去の経緯から、連絡を控える会社
既存の知り合いをすべて候補から外す必要はありません。以前は忙しくて断られた会社でも、時期が変われば話ができることがあります。一方、「一緒に飲みに行くほどの関係」で、すでに直接相談できる会社へ改めて新規開拓の連絡をする必要はありません。
公開情報だけで候補を決めず、経営者や現場が持つ地域情報を重ねて、連絡する相手と外す相手を分けます。
3.仕事が決まる前に、対応可能性を確認する
平時の連絡では、すぐに人を出してもらうことを目的にしません。まずは、得意工事や稼働条件を確認し、将来相談できる関係をつくります。
法人には、施工領域、大型施設の経験、対応人数、移動範囲、安全書類への対応などを確認します。一人親方には、これらに加えて、普段入っている現場や希望する働き方を一人ずつ聞いていきます。
協力するメリットの伝え方も重要です。単価は人によって希望が大きく異なるため、確認前に金額を強く打ち出すと、条件だけが先行します。また、自社の工事量が読めない状態で「継続的に現場を出せる」と約束するのも適切ではありません。
対応している工事、主な現場、今後も関係を続けたい意向など、実際に伝えられる内容から始めるほうが、無理のない関係をつくれます。
4.連絡結果を残し、候補リストを更新する
候補リストは、一度作って終わりではありません。連絡するたびに、次の情報を更新します。
- 最終連絡日
- 担当者や本人と話せたか
- 対応できる工種と地域
- 動けそうな人数や時期
- 大型施設の経験
- 再連絡する時期
- 見送り理由
受注の見込みが出た段階でこの情報を見れば、条件の合う相手から順に声をかけられます。つながらなかった会社や条件が合わなかった会社を整理し、新しい候補を加えることで、名簿が実際に使えるネットワークへ変わっていきます。
候補社数を増やすだけでなく、連絡履歴と対応条件を更新し続けることが、繁忙期に使える協力会社ネットワークをつくります。
まとめ
工事量を事前に読み切れないこと自体は、設備工事会社にとって珍しい問題ではありません。だからこそ、受注を正確に予測してから動くのではなく、予測できないことを前提に準備しておく必要があります。
まず社内で、必要になりそうな工種、人数、時期を確認します。そのうえで、距離、施工実績、会社規模、取引先などから候補を絞り、地域での関係や評判を重ねて優先順位を決めます。
名前を知っている会社でも、協力条件を話していなければ開拓余地があります。一度断られた相手も、時期を変えて確認する価値があります。一人親方については、公開情報だけで判断せず、直接話して得意工事や稼働条件を確かめることが欠かせません。
必要になってから探すのではなく、必要になる前に話せる相手を増やしておくことが、急な受注に対応できる体制づくりの中心です。
自社に合う協力会社の条件から整理したい方へ
協力会社を増やしたいと思っても、「何人必要になるかまだ分からない」「既存の知り合いと新規候補をどう分ければよいか判断できない」という段階はよくあります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の協力会社開拓をはじめ、現場、人材、組織、原価、デジタル活用まで、経営課題を横断して整理し、実行まで支援しています。候補企業の条件整理や優先順位づけなど、まだ方針が固まっていない段階からでもご相談いただけます。
無理に話を進めることはありません。「うちの場合は何から整理すればよいか」を確認する場としてご活用ください。