原状回復、新築、リフォーム、店舗改装、家具販売を並行する北関東の建設会社
北関東で事業を営む、10名弱の建設会社があります。ハウスクリーニングから始まり、賃貸住宅の原状回復や内装工事へ領域を広げ、現在は新築住宅、リフォーム、店舗改装、家具販売も手がけています。
経営者とその弟が経営を担い、原状回復と内装は職人社員4名と協力会社で施工しています。家具店にも社員が在籍しており、過去には自社工場でオリジナル家具を製作していました。
「家具をきっかけに会社を知ってもらい、住宅やリフォームにつなげたかったんです」
家具と建築を一体で提案する構想には、一貫した狙いがありました。新築住宅も、紹介や期間限定のモデルハウスへの出展を通じて複数棟を受注した実績があります。美容室などの店舗改装、オフィス改装、中古住宅のリノベーションにも対応できます。
一方で、それぞれに実績はあっても、会社全体を安定させる中核事業には育っていませんでした。
複数事業を持っていることと、収益の軸が複数あることは同じではありません。まずは各事業が会社に何をもたらしているかを分けて見る必要があります。
売上が立つ事業はあっても、利益と次の投資を支える中核事業が見えない状態
この会社の悩みは、仕事がまったくないことではありません。むしろ、できる工事も取り組んできた施策も多くあります。それでも経営者から出てきた言葉は、「今はたぶん、軸がないんです」でした。
かつて軸に近かったのは、大手住宅管理会社から継続的に入る原状回復工事です。社員が多かった時期には、1社から年間数千万円規模の売上がありました。ただし、施工単価は発注側で決まっており、自社から価格を提案できる余地は限られていました。
一件あたりの工事は、職人が一日動いて2万円に届かないこともあります。人件費を差し引くと、一人一日あたりの利益が数千円程度にとどまる案件もありました。
「仕事はいくらでもあるんです。でも、できる社員を増やして回しても、一人あたりで残る利益が小さいんですよね」
新築住宅は一棟あたりの売上が大きいものの、安定して受注できる仕組みがまだ育っていません。家具販売も人は集まりやすい一方、家具から建築への送客は想定どおりに進まず、オリジナル家具を製作していた社員の退職後は自社製作も止まっています。
この状態で売上だけを比較すると、新築や大型改装が魅力的に見えます。しかし、受注が年によって変動する事業を軸にすると、集客費や人件費をどこまで投じてよいか判断しにくくなります。反対に、継続受注できる原状回復も、利益が薄ければ成長投資の原資にはなりません。
収益の軸とは、売上が最も大きい事業ではなく、一定の粗利を継続して生み、経営者が次の投資を判断できる事業です。
やりたい事業を増やす一方で、受注量、人員、単価のつながりを検証しきれなかった経緯
事業が広がった背景には、「他社と同じことをするのではなく、自社ならではの価値をつくりたい」という思いがありました。
2010年代後半には自社施工を強化するため、職人を十数名まで増やした時期があります。しかし、人数に見合う仕事量を確保できず、設備工事のために採用した人がクリーニングを行い、塗装職人が内装工事を担う状況も生まれました。
「塗装をやりたくて入ったのに、クロスはやりたくないと言われました。仕事を埋めるために別の工事をお願いしていたんです」
これは職人の意欲だけの問題ではありません。先に人を増やしたものの、各職種の稼働を埋める受注構造を用意できていなかったことが根にあります。
その後、職人を抱える形から別の収益源を模索し、家具店を開きました。家具を入口にして住宅やリフォームを受注し、自社製作の家具と内装施工を一体で提供する構想です。ただ、家具販売と建築受注の導線が十分に機能せず、建築と家具それぞれのトラブルや指示を経営者一人が抱える状態が5年以上続きました。
新築住宅でも、資料請求サイト、紹介サービス、追客システムなど複数の施策に投資しています。問い合わせや顧客との接触頻度は増えましたが、受注として成果が確定するまでには時間がかかります。
こうして見ると、個々の挑戦が間違っていたわけではありません。問題は、それぞれの事業に期待する役割が混在していたことです。
- 原状回復には、継続的な仕事量を期待していた
- 新築とリフォームには、売上と利益の成長を期待していた
- 店舗改装には、中規模以上の案件獲得を期待していた
- 家具には、差別化とBtoC集客の入口を期待していた
安定収益、成長、差別化、集客を一つの事業ですべて実現しようとすると、事業の評価基準が曖昧になります。各事業に担わせる役割を分けることが、軸を決める第一歩です。
六つの判断軸で事業を評価し、BtoBの安定収益から成長事業へ再投資する設計
最初に行いたいのは、事業を「続けるか、やめるか」と即断することではありません。原状回復、新築、リフォーム、店舗改装、家具販売を、同じ基準で一覧化することです。
評価する項目は、次の六つです。
- 粗利:売上ではなく、外注費、材料費、移動費、人件費を差し引いていくら残るか
- 受注の継続性:営業を止めても一定量が入るのか、毎回ゼロから集客する必要があるのか
- 価格決定権:自社で見積もりを組めるのか、発注側の指定単価を受け入れる取引なのか
- 必要人員:社員を増やさなければ回らないのか、経営者と協力会社を中心に対応できるのか
- 既存実績:すでに評価されている施工領域か、新たに実績をつくる必要があるのか
- 他事業への波及効果:その実績が新築、リフォーム、店舗改装、家具販売の受注につながるか
たとえば原状回復は、継続性と既存実績では高く評価できます。一方、指定単価の小口案件は、粗利と価格決定権に課題があります。そこで「原状回復を増やす」と一括りにせず、小口案件を絞り、100万〜200万円規模の改修やリフォームが継続して入る取引先を開拓する方向が考えられます。
実際、この会社が求めていたのも「一人で一日回って数千円を残す仕事を増やすこと」ではありませんでした。
「100万、200万円規模のリフォームや原状回復が、常にある状態をつくりたいんです」
ここで候補になるのが、建物管理会社、不動産会社、店舗やオフィスを管理する事業者などから受注するBtoB案件です。ただし、会社の知名度だけで候補を選ぶのではなく、次の条件を確認します。
- 自社の施工実績と近い工事が定期的に発生するか
- 見積もりによる価格交渉が可能か
- 一件あたりの粗利額を確保できるか
- 施工エリアと移動時間が採算に合うか
- 自社社員を大幅に増やさず、既存の協力会社で対応できるか
- その実績をBtoCの営業材料として活用できるか
過去には、年間を通じて案件が入る再販会社と取引したものの、金額が先に決められ、追加交渉も難しく、売上の割に利益が残らなかった経験もありました。継続発注があるだけでは中核事業になりません。「継続性」と「粗利」を必ずセットで確認する必要があります。
進め方としては、まず過去1〜2年の案件を工種別、取引先別に分け、一件ごとの売上、直接原価、投入日数、粗利額を整理します。そのうえで、六つの判断軸を5段階などで採点すると、感覚では見えなかった差が表れます。
その結果、次の三つに事業を分けます。
- 基盤事業:継続受注と粗利を確保し、固定費を支えるBtoB事業
- 成長事業:新築や元請けリフォームなど、時間をかけて受注を増やす事業
- 波及事業:家具販売など、差別化や見込み客との接点をつくる事業
この会社の場合、まずは中規模以上の改修・リフォームを継続発注するBtoB取引を基盤候補とし、そこで得た利益を新築住宅の集客や追客へ回す組み方が現実的です。家具販売は単独で収益の軸にするのではなく、建築提案の差別化や顧客接点として役割を定め直せます。
BtoBで固定費と投資余力を確保し、その利益を受注変動の大きいBtoCへ再投資する。この順序をつくると、複数事業が競合せず、互いを支える構造になります。
まとめ
事業を増やしてきた会社ほど、どれを残すかという判断は簡単ではありません。どの事業にも実績があり、始めた理由があるからです。
だからこそ、売上規模だけで軸を決めず、粗利、受注の継続性、価格決定権、必要人員、既存実績、他事業への波及効果で比較する必要があります。
今回のような会社では、原状回復をすべて縮小する、新築だけに集中するといった二者択一ではなく、BtoBの改修・リフォームで安定収益をつくり、その利益を新築や家具を入口としたBtoC集客へ回す設計が考えられます。
収益の軸を定めるとは、事業を一つに絞ることではありません。各事業の役割と投資の順番を決め、会社全体で利益が循環する形をつくることです。
自社の収益構造を事業別に整理したいときは
「売上はあるのに、どの事業を軸にすべきか判断できない」「BtoBを増やしたいが、どの取引先を狙うべきかわからない」という段階では、事業別・取引先別の収支を整理するところから始められます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、販路拡大、原価管理、人材、組織、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。自社の場合に何から確認すべきか、まだ考えがまとまっていない段階でも差し支えありません。無理にサービスを勧めることはありませんので、次の整理先としてご活用ください。