前提

一人一台の車で月30件前後を回す電気工事会社の採用判断

ある中小の電気工事会社では、社員が一人一台の車で現場を回り、現場代理人として一人あたり月30件前後を確実にこなしていました。集合住宅の共用部に関わる工事が中心で、少額の案件を継続的に回せることが同社の強みです。

直近では一人を採用し、採用体制そのものも整え始めています。背景にあるのは、単純な事業拡大だけではありません。

社長の言葉では、「仕事が重なったときに、一人あたりの業務量がオーバーしてしまった」といいます。平常時には現在の人数で対応できても、複数の案件が重なると現場が回らなくなる状態でした。

この会社にとって採用は、売上を増やすためだけでなく、仕事量の波が来ても既存社員に無理を集中させないための体制づくりです。

一方で、受注が固まっていない段階から人を増やせば、給与や車両などの固定的な負担が先に発生します。仕事が増えてから募集しても、採用と教育には時間がかかります。この時間差が、中小建設会社の採用判断を難しくしています。

課題

平常時の人数で足りていても、繁忙時には一人あたりの業務量が限界を超える状態

人員不足は、常に仕事が回らない状態だけを指すわけではありません。平常時には問題が見えず、案件が重なった数週間だけ一気に負荷が高まる会社もあります。

今回の会社も、普段の施工体制が機能していないわけではありません。むしろ、月30件前後の案件を確実に回せる運営力があります。問題は、仕事が重なったときの余力がほとんどないことです。

余力がない状態では、新しい案件の相談が来ても、現在の現場を守るために受注を抑えざるを得ません。社長が「アクセルを踏みたくても踏めない」と感じていたのも、営業力より先に施工体制が上限に達していたからです。

採用を考える際に、年間平均や通常月だけを見ていると、「今の人数でも足りている」という判断になりがちです。しかし、その基準では繁忙時の負荷を捉えられません。

採用人数を決める基準は平常時の仕事量ではなく、受け続けたい繁忙時の仕事量です。

ただし、最も忙しい一日だけを基準にすると過剰採用になりかねません。見るべきなのは、忙しい状態がどの程度の期間続き、その間に誰へ、どの仕事が集中しているかです。

背景

人がいなければ受注を増やせず、受注が見えなければ人を増やしにくい構造

採用に踏み切れない原因は、判断が遅いからではありません。建設会社では、受注と採用の順番がかみ合いにくいことが大きな背景にあります。

仕事を取ってから採用を始めても、必要な時期までに入社してもらえるとは限りません。入社後も、すぐに既存社員と同じ件数を任せられるわけではなく、自社の進め方や取引先ごとの対応を覚える期間が必要です。

反対に、仕事が決まる前から採用すれば、人件費などの負担が先行します。少額案件を継続的に回す会社ほど、一件の大型案件で採用費用を吸収するのではなく、一定量の案件を安定して確保する必要があります。

この会社が今後増やしたいのも、一件数千万円規模の工事だけではなく、共用部のLED化、インターホン更新、防犯カメラ、受変電設備の改修など、数十万円から数百万円程度で継続的に発生する案件でした。

こうした案件を増やすには、施工できる人数が必要です。しかし、人数を増やすには、採用後に任せられる案件の見通しが必要です。

「受注してから採るか、採ってから受注するか」の二択ではなく、採用と案件づくりを時間差込みで並行させる必要があります。

繁忙時の超過分を既存社員の踏ん張りだけで吸収し続けると、会社として受けられる仕事量も増えません。社員の負荷を抑える採用と、将来の受注余力をつくる採用は、実際には同じ判断の中にあります。

解決

繁忙時の不足人数から逆算し、教育期間を含めて採用開始時期を決める進め方

採用時期を決めるには、最初に「何人採れるか」ではなく、「繁忙時に何人分が不足しているか」を整理します。

まず、直近で仕事が重なった期間を振り返り、次の項目を並べます。

  • その期間に一人あたり何件を担当していたか
  • 通常月と比べて、どの程度仕事量が増えていたか
  • 現場対応、書類、移動、調整のうち、何が限界になったか
  • 既存社員が無理なく担当できる件数はどこまでか
  • 同じ状態が年間に何回、何週間ほど発生するか

ここでは、「忙しかった」という感覚だけで終わらせず、通常月と繁忙月の差を見ます。一人あたり月30件前後を回す会社であれば、繁忙時の件数と残業、対応の遅れなどを照らし合わせ、自社にとっての上限を確認します。

必要人数は、繁忙時の総仕事量を、既存社員一人あたりが無理なく担当できる仕事量で割って考えます。

次に、その人数を「既存社員の負荷を戻すための人員」と「今後取りたい案件を受けるための人員」に分けます。両方を混ぜると、採用後に何を任せるのかが曖昧になるためです。

たとえば、採用の目的を次のように整理できます。

  1. 繁忙時に既存社員へ集中する業務を分担する
  2. 現在は体制不足で断っている案件を受けられるようにする
  3. 継続的に取りたい工事を担当できる人材を育てる

そのうえで、採用後に発生する人件費や車両などの負担を見積もります。大切なのは、入社直後から一人前の売上を前提にしないことです。教育中に担当できる業務と、単独で案件を任せられる時期を分けて考えます。

採用開始時期は、繁忙期の直前では間に合いません。募集から入社までの期間に加え、入社後の教育期間もさかのぼる必要があります。

「人が必要になる月」から、募集期間と教育期間を逆算した時点が、採用活動を始める目安です。

判断を一度で固定する必要はありません。毎月、受注見込み、繁忙時の負荷、採用後に任せられる仕事を確認し、採用人数を一人ずつ段階的に見直す進め方が現実的です。

採用に踏み切る判断軸は、次の四つにまとめられます。

  • 現在の人数では繁忙時の負荷を吸収できないか
  • 今後も受け続けたい案件が具体的に見えているか
  • 教育期間中の固定費を支えられるか
  • 入社後に誰が何を教え、いつから何を任せるかを決められるか

案件数だけでなく、既存社員の負荷、取りたい仕事、固定費、教育期間を一つの採用計画としてつなげることが重要です。

まとめ

仕事量に波がある建設会社では、通常月だけを見ても必要人数は分かりません。採用の起点になるのは、仕事が重なったときに一人あたりの業務量がどこまで増え、何人分の不足が生じていたかです。

一方で、繁忙時の最大値だけを見て人数を増やすと、平常時の固定費が重くなります。既存社員の負荷を下げるために必要な人数と、今後取りたい案件を受けるために必要な人数を分け、教育にかかる期間も含めて判断することが欠かせません。

採用のタイミングは、受注が確定した瞬間ではなく、将来の繁忙時に戦力化するための準備期間から逆算して決めます。

「人がいないから仕事を増やせない」と「仕事が見えないから人を増やせない」の間で止まるのではなく、繁忙時の不足人数を数字にし、採用と案件づくりを並行して進める。その整理ができると、アクセルを踏む時期も見えやすくなります。

自社に合う採用人数と時期を整理したい方へ

採用すべきか迷っている段階では、求人手法を決める前に、繁忙時の必要人数、今後取りたい案件、固定費、教育体制を一度つなげて整理することが大切です。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の人材課題を、現場の負荷や受注方針、組織体制まで横断して整理し、実行まで支援しています。「うちの場合は何人必要なのか」「何から整理すればよいか分からない」という段階でもご相談いただけます。

無理にサービスをご案内することはありません。ものづくりに集中できる体制をつくるための次の整理先として、気軽にお声がけください。

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