前提

高卒の若手も受け入れながら、社員職人の新しい働き方をつくろうとしている首都圏の建設会社

複数の施工部門を持つ首都圏のある建設会社では、若手職人を社員として採用するため、これまで明確でなかった給与と休日の条件を整理しようとしていました。

従来の職人採用では、日給制や日給月給制で経験に応じて単価を決め、技能を身につけたら独立する流れが一般的でした。しかし、これから採用したいのは、必ずしも最初から独立を目指している人ばかりではありません。

社内からも、次のような声が出ていました。

「社員職人として入るなら、もっと稼ぎたい人は途中で職人のコースに変えればいい」

「4年たったら独立する前提ではなく、会社に残って管理職になる道も考えたい」

若手職人の採用では、給与額だけでなく、安定して働く道、収入を伸ばす道、会社に残る道、独立する道を分けて示す必要があります。

課題

日給制と独立前提の育成だけでは、安定収入と休日を求める若手に選ばれにくい状況

若手職人を社員として採用する際に難しいのは、従来の職人の働き方と、若手が求める条件にずれがあることです。

現場では「仕事があるだけ働いて稼ぎたい」という人がいる一方、若い求職者には、毎月の収入が読みやすいことや、休日を確保できることを重視する人もいます。特に未経験者にとって、天候や出勤日数によって収入が変わる日給制は、入社後の生活を想像しにくい条件です。

相談先の会社でも、社員職人を初めて本格的に採用するにあたり、次の項目が定まっていませんでした。

  • 高卒・専門卒・大卒で初任給をどう分けるか
  • 20代の未経験者をいくらで採用するか
  • 建設業経験者や職人経験者をどう評価するか
  • 月給制と日給月給制のどちらを採用するか
  • 完全週休2日制を現場でどう運用するか
  • 入社数年後に、どのような働き方を選べるようにするか

専門卒の採用条件は月給20万円台後半で設定されていましたが、基本給、手当、固定残業代の内訳が求人ごとにそろっていませんでした。社員職人には固定残業代を付けず、時間外労働が発生した場合に別途手当を支給する運用もあり、他職種と同じ書き方では実態と合いません。

社員職人の採用条件は、既存の施工管理職や過去の求人条件を転用するのではなく、職人の働き方に合わせてつくり直す必要があります。

背景

給与の金額より先に、働き方と将来像の基準が社内でそろっていなかったこと

条件を決めにくかった背景には、社員職人という雇用区分の基準がまだなかったことがあります。

たとえば、未経験者の給与を決めようとしても、18歳の高卒者、20歳の専門卒者、22歳前後の第二新卒、異業種から転職する20代では、年齢も社会人経験も異なります。さらに、建築系の経験が2〜3年ある人と、資格も現場経験もない人を同じ条件にはできません。

社内でも、「どこでどれを設定したらいいのか」「パターンごとの給料を決めないと分からない」という率直な声が上がっていました。

もう一つの背景は、入社後の将来像です。従来は、数年間かけて技能を教え、一定の水準に達したら独立する考え方が中心でした。一方で、社員として長く働きたい人に独立だけを示しても、自分の将来を描きにくくなります。

若手にとっては、入社時の条件だけでなく、「4年目以降はどうなるのか」も重要です。最初の数年間だけ残業が少なく、一定期間を過ぎると急に働き方が変わる制度では、長期的な安心にはつながりません。

採用条件が決まらない本当の理由は、初任給の相場不足ではなく、入社後にどのような職人になってもらうかが未整理だからです。

解決

月給・休日・キャリアを一つの制度として設計し、本人が途中でコースを選べる仕組み

社員職人の制度は、全員を一つの働き方に当てはめるより、入口となる社員コースと、その先の選択肢を分けて設計すると整理しやすくなります。

1.未経験の若手は、月給制と完全週休2日制を基本にする

未経験者の入口では、生活の安定と技能習得に集中できる環境を優先します。月給制にして、完全週休2日制を明示できれば、職人の仕事に関心はあるものの、収入や休日に不安を感じている層にも届きやすくなります。

現場の都合で休日出勤が必要な場合は、代休を取る運用まで決めておきます。「完全週休2日制」と求人に書くだけでなく、休日出勤が発生した際に、誰が代休を管理するのかまで決めることが大切です。

若手向けの社員職人コースは、月給制、完全週休2日制、休日出勤時の代休を一つの組み合わせとして設計します。

2.初任給は、年齢だけでなく学歴・経験・資格でパターン化する

給与をその都度決めると、求人ごとに条件が変わり、面接時の説明も難しくなります。まずは次のような採用区分をつくり、それぞれの基準額を決めます。

  • 高卒の未経験者
  • 専門卒の未経験者
  • 大卒の未経験者
  • 第二新卒や20代の異業種経験者
  • 建設業経験者
  • 職人経験者・資格保有者

専門卒と大卒の差をどの程度設けるか、建設業以外の社会人経験をどこまで評価するかも、先に決めておくと運用しやすくなります。

給与表記では、基本給、固定残業代、資格手当、役職手当などを分けます。社員職人に固定残業代を設けないのであれば、他職種の求人から流用せず、その実態を明記します。制度変更を伴う場合は、労務を扱う専門家にも確認しておくと安心です。

初任給は一律に決めるのではなく、高卒・専門卒・大卒・中途未経験・経験者の基準を先にそろえます。

3.より稼ぎたい人には、日給月給や請負につながる別コースを用意する

すべての職人が休日の多さを最優先するわけではありません。技能を身につけた後、「もっと現場に出て収入を増やしたい」と考える人もいます。

その場合は、社員職人コースの条件を曖昧に変えるのではなく、日給月給制などの別コースに移れるようにします。さらに経験を積んだ先には、請負や独立を選べる道も考えられます。

求人の段階で複数の制度を一つに詰め込むと分かりにくくなるため、月給・完全週休2日制の社員職人求人と、日給月給で収入を伸ばす経験者向け求人は分けた方が伝わります。

安定を重視する社員コースと、働く日数や技能に応じて収入を伸ばすコースは、別の条件として提示します。

4.独立だけでなく、社内で管理職を目指す道をつくる

技能を身につけた後の進路を独立だけにすると、社員として長く働きたい人の受け皿がなくなります。現場の中心メンバーとなり、後輩を育て、管理職を目指す道も必要です。

キャリアの分岐は、次のように整理できます。

  1. 月給制の社員職人として技能を身につける
  2. 社員として現場をまとめ、管理職を目指す
  3. 日給月給などのコースに移り、収入を伸ばす
  4. 請負や独立を選ぶ

どれか一つを会社が押し付けるのではなく、技能や本人の希望に合わせて選べる状態をつくります。

社員職人の育成は独立をゴールに固定せず、管理職・高収入型・請負・独立から本人が選べる設計にします。

5.まず一つの部門で運用し、現場とのずれを直す

全社一斉に制度を変える必要はありません。若手採用の必要性が高く、休日を調整しやすい部門から始める方法があります。

最初に確認したいのは、次の点です。

  • 完全週休2日を実際に確保できたか
  • 休日出勤後に代休を取れたか
  • 月給と手当の説明に食い違いがなかったか
  • 技能が上がった際の昇給基準を説明できたか
  • 本人が将来のコースを選べる状態になっているか

運用結果を見ながら、ほかの部門へ広げていけば、現場に合わない制度を一気に導入するリスクを抑えられます。

社員職人制度は一つの部門から始め、休日取得、給与説明、技能評価の実績を確認してから広げます。

まとめ

若手職人の採用では、月給をいくらにするかだけを決めても十分ではありません。安定した収入と休日を求める人もいれば、技能を高めてより多く稼ぎたい人、社内で管理職になりたい人、将来独立したい人もいます。

大切なのは、これらを同じ制度に押し込まず、複数のコースとして整理することです。

月給制と完全週休2日制を若手の入口にし、その先に管理職、日給月給、請負、独立の選択肢を用意することが、社員職人の採用と定着を両立させます。

まずは、高卒・専門卒・大卒・中途未経験・経験者ごとの給与基準を並べ、休日の運用と入社後の進路を一枚にまとめるところから始めると、社内でも話し合いやすくなります。

自社に合う社員職人の制度を整理したい方へ

社員職人の制度は、給与だけを切り離して考えると、既存社員とのバランスや現場の休日運用で行き詰まりやすくなります。「うちの場合は月給制にできるのか」「完全週休2日をどの部門から始めるべきか」という段階から整理して構いません。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の人材確保や教育体制、組織づくりを、現場運営や原価とのつながりも含めて整理し、実行まで支援しています。何から決めるべきか分からない段階でも、無理にサービスを勧めることはありません。ものづくりに集中できる建設業界に向けて、自社に合う制度の形を一緒に考えます。

お問い合わせはこちら