国土交通省は、中央建設工事紛争審査会の令和8年(2026年)度第2四半期の紛争処理状況を公表しました。
新規申請件数は11件でした。昨年同期比で4件増えています。前期からの繰越は35件。今期の終了は6件。次期への繰越は40件となりました。
中小建設業にとって特に見ておきたいのは、紛争類型で「工事瑕疵」が5件と最多だったことです。次いで、工事代金の争いが3件、下請代金の争いが1件でした。
公表日 | 令和8年10月15日 |
対象 | 中央建設工事紛争審査会の令和8年(2026年)度第2四半期の紛争処理状況 |
新規申請件数 | 11件(昨年同期比4件増) |
前期からの繰越件数 | 35件 |
今期の終了件数 | 6件 |
次期への繰越件数 | 40件 |
最も多い当事者類型 | 個人発注者から請負人への争い:6件 |
最も多い紛争類型 | 工事瑕疵:5件 |
制度の位置づけ | 建設工事の請負契約に関する紛争を、裁判によらず簡易・迅速・妥当に解決するための裁判外紛争処理機関 |
今回の数字で見るべきところ
今回の公表は、制度改正や補助金のように「明日から何かが変わる」というニュースではありません。
ただ、経営者としては見逃しにくい数字です。
新規申請11件のうち、工事瑕疵が5件。工事代金の争いが3件。下請代金の争いが1件。
つまり、紛争の入口は大きく分けると、品質とお金です。
現場では、よくある話です。
「そこまで含んでいると思っていた」
「いや、その仕様は聞いていない」
「追加分の金額が決まらないまま進んでしまった」
「引渡し後に不具合と言われたが、原因がどこにあるか分からない」
こうした小さなズレが、最後に大きな紛争になります。
今回の数字は、契約前、施工中、引渡し時の記録が経営リスクに直結していることを改めて示しています。
工事瑕疵が最多だったことの意味
紛争類型では、工事瑕疵が5件で最多でした。
これは、中小建設業にとってかなり身近なテーマです。
瑕疵をめぐる争いは、単に「施工が悪かったかどうか」だけでは終わりません。
実務では、次のような点が問われやすくなります。
- 当初の契約内容は何だったのか
- 図面や仕様書に何が書かれていたのか
- 変更指示は誰が、いつ、どのように出したのか
- 施工中の確認記録は残っているのか
- 完了検査や引渡し時の確認はどう行ったのか
- 写真や是正記録が残っているのか
ここで大事なのは、「ちゃんと施工した」だけでは会社を守り切れない場面があるということです。
もちろん、品質そのものが第一です。
ただ、それと同じくらい、品質を説明できる記録が必要です。
現場代理人や職長が一生懸命やっていても、写真がない。変更のメールがない。検査の記録が曖昧。そうなると、後から説明するのが急に難しくなります。
特に個人発注者との争いが6件と多くなっています。
個人のお客様は、建設工事の専門知識を持っていないことも多いです。だからこそ、専門用語を減らした説明、合意内容の書面化、引渡し時の確認が大切になります。
「伝えたつもり」を「確認できる状態」に変えること。
ここが、今後ますます重要になります。
工事代金・下請代金の争いは資金繰りの問題でもあります
今回、工事代金の争いは3件、下請代金の争いは1件でした。
件数だけを見ると大きく見えないかもしれません。
しかし、中小建設業にとって代金の争いは、利益だけでなく資金繰りに直結します。
職人の手配は済んでいる。材料も入れている。外注費も発生している。ところが、追加変更分の金額が決まっていない。請求しても認識が合わない。
こうなると、現場が終わってから経理と社長が苦しくなります。
見るべきポイントは、受注時の契約金額だけではありません。
変更・追加・手戻りが発生したときに、金額をどう確定するか。
ここです。
現場では、先に進めないと工程が止まる場面があります。
「とりあえずやっておいて」
この一言で進むこともあります。
ただ、そのまま終わると危険です。
少なくとも、誰から依頼があったのか。内容は何か。金額は別途協議なのか。見積提出済みなのか。承認はどこまで取れているのか。
このあたりを残しておく必要があります。
追加工事の管理は、現場管理であると同時に利益管理です。
紛争審査会という選択肢を知っておく
建設工事紛争審査会は、建設業法に基づいて国土交通省および各都道府県に設置されている機関です。
建設工事の請負契約に関する紛争を、裁判によらずに簡易・迅速・妥当に解決するための裁判外紛争処理機関とされています。
今回公表された中央建設工事紛争審査会では、手続別に見ると、今期の申請11件のうち、あっせんが2件、調停が8件、仲裁が1件でした。
中小建設業にとって大事なのは、万が一のときに、裁判以外の紛争解決手段があると知っておくことです。
もちろん、紛争にならないことが一番です。
ただ、相手との話し合いだけで解決できない場面もあります。そのときに、制度の存在を知らないと、選択肢が狭くなります。
日頃から顧問弁護士や行政書士、業界団体などに相談できる体制を持っておくことも有効です。
中小建設業が今確認したいこと
今回のニュースを、自社の経営に引き寄せるなら、確認したいのは次の5つです。
1つ目は、契約書や注文書・請書の運用です。
口頭受注が残っていないか。追加工事が書面に残っているか。発注者との合意内容が後から確認できるか。
まずここです。
2つ目は、変更指示の記録です。
現場では変更が起きます。問題は、変更が起きることではありません。変更の記録が残らないことです。
3つ目は、施工写真と検査記録です。
工事瑕疵の争いでは、後から見ても分かる記録が重要になります。完了後に見えなくなる部分ほど、写真や確認記録の価値が高くなります。
4つ目は、追加代金の決め方です。
見積提出、承認、施工、請求。この流れが崩れると、最後に揉めやすくなります。特に急ぎの現場ほど、簡単な記録でも残す仕組みが必要です。
5つ目は、下請・協力会社との合意です。
元請との関係だけでなく、下請・協力会社との関係でも、範囲、単価、支払条件、変更時の扱いを明確にしておくことが大切です。
どれも、特別な話ではありません。
ただ、忙しい会社ほど後回しになります。
だからこそ、今回のような紛争処理状況は、自社の契約・品質・原価の管理を見直す良いきっかけになります。
紛争を減らす経営は、守りの話だけではありません。利益を残し、現場がものづくりに集中できる環境をつくる話でもあります。
自社の契約・記録管理をどう整えるか考える
今回の公表を見て、「うちも追加工事の記録が弱いかもしれない」「写真管理は現場任せになっている」「契約書の流れを一度整理したい」と感じた会社もあると思います。
最初から完璧な仕組みにする必要はありません。
まずは、どの現場で揉めやすいのか。どの書類が抜けやすいのか。誰が確認すれば止められるのか。そこから整理するだけでも、会社はかなり守りやすくなります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。
契約・記録管理についても、「うちの場合は何から見ればよいか」という段階から一緒に整理できます。無理な営業はいたしませんので、必要なときの壁打ち先として活用してください。