国土交通省は、令和8年8月分の「建設工事受注動態統計調査報告」を公表しました。建設業全体の受注高は9兆9,578億円、前年同月比8.6%増でした。元請受注高は6兆4,897億円、同3.3%増、下請受注高は3兆4,681億円、同20.2%増です。
公表資料 | 建設工事受注動態統計調査報告(令和8年8月分) |
公表日 | 令和8年10月13日 |
8月の受注高 | 9兆9,578億円 |
前年同月比 | 8.6%増、5か月連続の増加 |
元請受注高 | 6兆4,897億円、前年同月比3.3%増 |
下請受注高 | 3兆4,681億円、前年同月比20.2%増 |
公共機関からの元請受注高 | 1兆7,844億円、前年同月比2.2%増 |
民間等からの元請受注高 | 4兆7,053億円、前年同月比3.7%増 |
調査対象 | 建設業許可業者約48万業者のうち約1万2千業者 |
今回の数字でまず見たいのは、「全体が増えている」こと以上に、「どこが増えているか」です。下請、設備工事業、公共の一部、民間の土木・機械装置等工事。このあたりに動きが出ています。
受注全体は増加。ただし伸び方にはかなり差があります
8月の受注高は、前年同月比で8.6%増でした。5か月連続の増加です。
内訳を見ると、元請受注高は3.3%増にとどまる一方、下請受注高は20.2%増でした。ここは中小建設業にとって重要です。
仕事量が増えているように見える局面でも、増えているのが元請なのか、下請なのかで、経営判断は変わります。
下請受注が伸びているということは、現場の施工力、専門工事、協力会社ネットワークに仕事が流れている可能性があります。一方で、下請比率が高い会社ほど、単価・工期・支払条件・追加変更の取り決めを丁寧に見ないと、忙しいのに利益が残らない状態になりやすいです。
業種別では、設備工事業の伸びが目立ちます
業種別の受注高は次の通りです。
業種 | 受注高 | 前年同月比 |
|---|---|---|
総合工事業 | 5兆6,478億円 | 1.2%増 |
職別工事業 | 1兆3,335億円 | 21.0%増 |
設備工事業 | 2兆9,764億円 | 19.7%増 |
特に設備工事業は、24か月連続の増加とされています。元請受注高で見ても、設備工事業は1兆6,881億円、前年同月比28.7%増です。
これは、設備系の会社だけの話ではありません。
建築、内装、躯体、外構、土木の会社でも、現場では設備工程との調整が必ず発生します。設備工事が強い局面では、工程の組み方、職人の手配、納まり調整、引渡し前の検査対応にしわ寄せが出やすくなります。
設備工事の受注増は、周辺工種にとっても「工程管理の難易度が上がるサイン」として見ておきたい数字です。
公共工事は3.7%増。道路、教育・病院が大きな受注分野です
公共機関からの受注工事額は、1件500万円以上の工事で1兆6,622億円、前年同月比3.7%増でした。4か月連続の増加です。
発注機関別では、国の機関が4,503億円、同11.2%増、地方の機関が1兆2,119億円、同1.2%増です。
工事分類別で受注工事額が大きいものは、次の通りです。
工事分類 | 受注工事額 |
|---|---|
道路工事 | 4,023億円 |
教育・病院 | 2,394億円 |
その他 | 2,274億円 |
発注機関別・工事分類別では、都道府県の道路工事が1,420億円、市区町村の教育・病院が1,316億円、国のその他が1,311億円とされています。
中小建設業にとっては、ここが実務に近い見方です。
公共工事を見るときは、国全体の増減だけでなく、自社が入れる発注者、自社が施工できる工種、自社の地域で動いている予算を見ることが大切です。
特に、都道府県・市区町村の工事は、地域建設会社にとって営業・入札・協力会社体制に直結します。道路、教育・病院、上・工業水道、維持補修など、自社の得意領域と照らして確認したいところです。
民間は建築が減少、土木・機械装置等は増加。営業先の見直し材料になります
民間等からの受注工事では、建築工事・建築設備工事と、土木工事・機械装置等工事で動きが分かれています。
建築工事・建築設備工事、1件5億円以上の工事は、1兆5,593億円、前年同月比9.3%減でした。発注者別では、不動産業が3,946億円、同49.2%減です。
一方、土木工事及び機械装置等工事、1件500万円以上の工事は、1兆118億円、前年同月比25.0%増でした。工事種類別では、機械装置等工事が5,525億円と最も大きくなっています。
ここから言えるのは、民間工事を一括りで見ない方がよいということです。
住宅、事務所、工場・発電所、機械装置等工事では、発注者も、案件規模も、工期も、求められる管理能力も違います。自社の営業先がどこに偏っているかを見直すには、今回のような統計は使えます。
たとえば、民間建築の大型案件に依存している会社は、受注残と次の案件見込みを丁寧に確認したいところです。一方で、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業まわりの工事に関わる会社は、今後の引き合いの質と採算を見ていく局面です。
資本金3億円以下の法人でも受注は増加。忙しさを利益に変える管理が必要です
資本金階層別では、3億円以下の法人の受注高が6兆2,438億円、前年同月比16.6%増でした。内訳では、元請受注高が8.3%増、下請受注高が29.3%増です。
これは中小建設企業に近い層の動きとして、かなり注目したい数字です。
ただし、受注が増えているから安心、とは言い切れません。
受注増の局面では、粗利率、現場代理人の負荷、職人の稼働、外注費、資金繰りが同時に動きます。
特に下請受注が増えると、短期的には売上を作りやすくなります。一方で、追加変更の精算が曖昧な現場、人工が読みにくい現場、工程が詰まっている現場を取りすぎると、利益が残りにくくなります。
今月の数字は、景気感を見るだけでなく、次のような社内確認に使えます。
- 元請・下請別に、今期の受注残を分けて見る
- 公共・民間別に、粗利率の差を見る
- 工種別に、人手不足が出ている工程を確認する
- 大型案件と小口案件で、現場管理の負荷を分けて見る
- 受注額ではなく、完工時利益で案件を並べ直す
忙しい時ほど、数字の見方を変える価値があります。
中小建設業が今見るべきポイント
今回の統計から、中小建設業が見ておきたいのは次の3点です。
1つ目は、下請受注の増加を、自社の利益改善につなげられているかです。受注量が増えても、単価交渉や変更契約が弱いと、利益は残りません。
2つ目は、設備工事や機械装置等工事の伸びが、自社の現場にどう影響するかです。直接受注していなくても、工程調整や協力会社手配に影響します。
3つ目は、地域別・工種別の数字を、自社の営業計画に落とすことです。全国平均ではなく、自社の施工地域、自社の許可業種、自社が入れる発注者に引き寄せて見る必要があります。
国土交通省の資料には、地域別、都道府県別、発注者別、工事種類別のExcelも掲載されています。経営会議で使うなら、全国の増減率だけでなく、自社の商圏に近い地域の数字を1枚にまとめるのが現実的です。
自社の受注方針を整理する機会に
今回の受注統計は、建設市場全体としては増加基調を示しています。ただし、中身を見ると、元請と下請、公共と民間、建築と土木・機械装置等、総合工事と設備工事でかなり表情が違います。
中小建設業にとって大切なのは、「市場が増えているか」ではなく、「自社が利益を残せる領域で増えているか」です。
受注が増える局面では、営業、採用、外注先、原価管理、資金繰りがつながって動きます。「うちの場合はどの数字を見ればよいか」「受注はあるが利益が残りにくい」「元請を増やすべきか、専門性を深めるべきか」といった整理は、早めに言語化しておくと判断が楽になります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。無理な営業はいたしませんので、まずは自社の状況を整理する壁打ちとしてご相談ください。