前提

年商5億円台の弱電工事会社が、集合住宅を次の受注先として検討する段階

兵庫県を拠点に、ハウスメーカーの通信設備工事やキャリア系工事を手がける、年商5億円台の専門工事会社があります。戸建て住宅の弱電工事を中心に、LAN配線や通信設備の設置などを関西一円で施工しています。

今後の売上拡大を考えるなかで、戸建てだけでなく集合住宅も受注候補に挙がりました。ただ、過去にアパート工事を2〜3棟経験した際には、採算面で手応えを得られませんでした。

社長の言葉は率直です。

「集合住宅は、工程がずれてずれてということが多いんです。1週間以上ずれることもあって、最低でも2〜3現場を同時に走らせないときついと感じました」

さらに、協力会社への支払いが先行するため、資金繰りにも厳しさが残ったといいます。

一方で、集合住宅を今後一切やらないと決めているわけではありません。「単価次第です。まず1〜2件やってみて、どういう形なのかを知りたい」という考えもあります。

集合住宅工事を受けるかどうかは、戸数や売上規模だけでなく、工程遅延を吸収できる施工体制と資金繰りまで含めて判断する必要があります。

課題

着工が1週間ずれるだけで、職人の待機と外注費の先払いが重なる収益構造

集合住宅工事で採算が崩れやすいポイントは、予定していた工事量ではなく、予定どおりに職人を稼働させられるかどうかです。

前工程が終わっていなければ、自社の職人や協力会社が現場に入れません。工程表では着工日が決まっていても、実際には数日から1週間以上ずれることがあります。

このとき、職人をその現場のために確保していると、次のような問題が生じます。

  • 入場できず、確保した職人に空きが出る
  • 別の現場へ振り替えられず、実働日数が減る
  • 工期が後ろ倒しになり、別案件の予定と重なる
  • 複数現場の調整が必要になり、管理負担が増える
  • 協力会社への支払いが、元請けからの入金より先に発生する

相談企業でも、「一つの現場だけを追いかけているときつい」という感覚が残っていました。遅延時にも職人を止めないためには、常時2〜3現場を動かし、人員を相互に振り替えられる状態が必要になるからです。

ただし、複数現場を同時に持てば、自動的に利益が出るわけではありません。施工管理や職人手配が複雑になり、外注費の支出も重なります。売上は計上される予定でも、入金までの間に手元資金が薄くなることがあります。

集合住宅工事の採算を左右するのは、1棟当たりの受注額よりも、工程のずれによる非稼働時間と、外注費を立て替える期間です。

背景

見積工事では利益を出せても、固定単価ではイレギュラーを価格へ反映しにくい事情

この会社では、現場ごとに内容を確認して見積もれる工事ほど、利益を確保しやすい傾向がありました。

「図面や工事内容があって、それを自分たちで見積もれるなら、予算を組んでしっかり利益を出せます。労務単価が固定で、金額を上げられない工事は利益率が上がりにくいですね」

現場には、工程変更や追加対応などのイレギュラーがつきものです。個別見積もりであれば、その可能性を原価や予備費に織り込めます。一方、「1戸当たりいくら」「ここまでの作業でいくら」と予算が固定されている場合、待機や再訪問が増えても請負金額へ反映できないことがあります。

集合住宅では戸数がまとまるため、受注時の売上は大きく見えます。しかし、同じ作業を連続して行えるという前提が崩れると、人員配置の効率も崩れます。前工程の遅れにより一部の住戸へ入れず、後日あらためて職人を手配することになれば、移動や段取りの負担が増えていきます。

また、施工エリアによって職人の確保状況が異なる点も見逃せません。この会社では関西圏では一定の施工体制を組める一方、別エリアでは案件の相談があっても職人不足で受けきれない状態がありました。

単発工事が多いと、専属に近い協力会社をつなぎ止めることも難しくなります。集合住宅が継続的に出るなら職人の安定稼働につながりますが、着工時期が読めなければ、仕事量があっても安定配置には結びつきません。

「戸数が多いから効率がよい」とは限らず、見積方式、工程の確度、職人を継続稼働させられる案件量がそろって初めて、集合住宅の規模が利益につながります。

解決

1〜2棟の試行で工程・支払い・人員振替を検証してから受注量を広げる進め方

集合住宅へ参入する際は、最初から受注量を増やすより、1〜2棟の小規模な試行で収支構造を確認する進め方が現実的です。

相談企業も、「図面からの見積もりなのか、決められた予算で施工するのか、具体的な数字を聞きたい」と話していました。まず押さえたいのは単価の高低だけではなく、その単価がどのような前提で決められているかです。

1.工程表ではなく、着工日の確度を確認する

工程表に日付が入っているだけでは、職人を確保する根拠として十分とはいえません。受注前に、少なくとも次の点を確認します。

  • 自社が入る前工程は何か
  • 前工程の完了を誰が確認するのか
  • 着工可否は何日前に確定するのか
  • 遅延した場合、いつまでに連絡が入るのか
  • 工期変更時に待機費や追加費用を協議できるのか

過去の現場でどの程度の遅延が発生しているかも、可能な範囲で聞いておきたい情報です。予定工期だけでなく、実際の着工日や完了日を確認できれば、工程の確度を判断しやすくなります。

工程確認で見るべきなのは工期の長さではなく、その日程を前提に職人を押さえられるだけの確度があるかどうかです。

2.遅延時に人員を振り替えられる現場を用意する

集合住宅の遅れを完全になくすことは難しいため、遅れたときの受け皿を先に考えます。

戸建てや小規模工事など、短期間で人員を動かせる案件があれば、職人の待機を減らせます。反対に、集合住宅一棟へ人員を固定し、入場できなければ仕事が止まる体制では、工程遅延がそのまま原価増になります。

確認したいのは、同時稼働できる現場数と管理可能な上限です。2〜3現場を並行させる必要があるなら、職人数だけでなく、現場間の調整を担う人の負荷も見ておく必要があります。

遅延リスクは、予定どおり進むことを期待して抑えるのではなく、職人を別現場へ振り替えられる状態をつくって吸収します。

3.支払いと入金の時差を先に数字へ落とす

外注費の支払日と、元請けからの入金日がずれる場合、利益が出る案件でも手元資金は一時的に減ります。複数棟を並行すると、その金額も重なります。

受注前には、次の条件を並べて確認します。

  • 協力会社への支払い条件
  • 元請けへの請求締日と入金日
  • 出来高請求が可能か
  • 材料費や追加工事費をいつ請求できるか
  • 工程遅延時に請求時期も後ろ倒しになるか

大切なのは、一棟分だけでなく、想定する同時稼働棟数で資金の出入りを見ることです。2〜3棟を並行するなら、外注費も2〜3棟分が先行する可能性があります。

粗利が確保できる案件でも、外注費の先払いが重なれば資金繰りは厳しくなるため、利益とキャッシュフローは分けて確認します。

4.見積方式と予備費の扱いを確認する

現場ごとの見積工事であれば、想定工数やリスクを価格へ反映しやすくなります。固定単価の場合は、どこまでが基本工事に含まれ、何が追加工事になるのかを明確にしておく必要があります。

特に確認したいのは、次のような費用です。

  • 工程変更による再訪問
  • 当日入場できなかった場合の待機
  • 施工範囲の変更
  • 当初図面にない追加対応
  • 他工程との調整で増えた作業時間

予備費を見積もりへ含められるか、追加費用を都度協議できるかによって、同じ単価でも実際の採算は変わります。

5.試行案件では予定原価と実績原価を比較する

最初の1〜2棟では、売上だけで採算を判断しないことが大切です。予定していた人工数、実際の人工数、再訪問回数、外注費の支払時期、入金時期を残します。

試行後に確認する項目は、次のように整理できます。

  • 予定着工日と実際の着工日の差
  • 予定人工と実績人工の差
  • 職人が待機した日数
  • 別現場へ振り替えられた日数
  • 追加工事として請求できた金額
  • 外注費を支払ってから入金されるまでの期間
  • 現場管理にかかった負担

この結果を見れば、単価を見直せば続けられるのか、複数現場の確保が前提になるのか、現在の施工体制では見送るべきなのかを判断できます。

集合住宅を受けるか否かを感覚で決めるのではなく、1〜2棟の実績から「自社が利益を出せる条件」を具体化してから受注量を広げることが重要です。

まとめ

集合住宅工事は、一律に儲からない仕事ではありません。ただし、戸数が多い、工期が長い、売上がまとまるという情報だけでは、採算性を判断できません。

確認したいポイントは、次の6つです。

  • 工程どおりに着工できる確度
  • 同時稼働できる現場数
  • 遅延時の職人の振替先
  • 元請けの入金条件と外注先の支払い条件
  • 個別見積もりか固定単価か
  • 待機や再訪問を吸収する予備費の扱い

相談企業が重視していたのも、「図面を見て見積もれるのか」「決められた予算内で施工するのか」という具体的な契約条件でした。ここを確認せずに受注すると、売上は増えても利益や手元資金が残らない可能性があります。

集合住宅工事の受注判断では、売上規模よりも、工程遅延を吸収できる体制と、遅延を織り込んでも利益と資金が残る条件を先に確かめることが大切です。

集合住宅工事の採算条件を自社の数字で整理したい方へ

集合住宅へ広げるべきか、戸建てを中心に据えるべきかは、会社ごとの職人配置、見積方式、支払い条件によって変わります。「うちの場合は何棟まで同時に持てるのか」「どの条件なら利益が残るのか」といった段階から整理していくと、受注判断がしやすくなります。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場体制、原価管理、資金繰り、人材確保、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。何から確認すべきかわからない段階でも問題ありません。無理にサービスをおすすめすることはありませんので、今後の受注方針を整理する場として気軽にお声がけください。

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