国土交通省は、民間企業や自治体等で勤務経験を持つ技術系社会人経験者を対象に、令和8年度第2回の総合職(技術系)相当の選考採用試験を実施すると発表しました。課長補佐級と係長級の2区分で、国家公務員試験によらない採用です。対象分野には、土木、建築、営繕、建設機械・施工、道路、河川、砂防、上下水道、都市・まちづくりなど、建設業と重なる領域が多く含まれています。
発表内容 | 国土交通省 総合職(技術系)相当の社会人経験者採用 |
募集区分 | 課長補佐級、係長級 |
応募資格 | 課長補佐級:職務経験通算7年以上、係長級:職務経験通算2年以上 |
採用予定数 | 各十数名程度 |
受付期間 | 令和8年10月9日(金)~11月15日(日)24時まで |
採用予定日 | 令和9年4月1日(木) |
選考方法 | 書類選考、面接試験、論文試験 |
モデル給与例 | 課長補佐級:年収約739万円、係長級:年収約581万円 ※いずれも参考例 |
建設業の技術者が、行政側からも求められている
今回の募集は、単なる省庁の採用案内として流すには少しもったいない内容です。
国土交通省が求める分野には、土木、建築、営繕、建設機械・施工、道路、河川、上下水道、砂防、造園、都市・まちづくりなどが並んでいます。これは、建設会社や専門工事会社で働く技術者の経験とかなり重なります。
つまり、建設業の現場で培われた経験は、民間企業の中だけでなく、行政の政策立案や調査研究の場でも価値を持つということです。
これは前向きに見れば、建設技術者の市場価値が高まっているサインです。一方で、経営側から見ると、技術者の採用・定着競争がさらに広がっているとも言えます。
給与だけでなく「働き方」と「意味」が比較対象になる
受験案内では、参考として次のモデル給与例が示されています。
- 課長補佐級:31歳、本省補佐級想定で年収約739万円
- 係長級:25歳、本省係長級想定で年収約581万円
いずれも、超過勤務手当、扶養手当、住居手当、通勤手当は含まれていない参考額です。実際の給与は経歴等により算定されるとされています。
中小建設業が見るべき点は、金額そのものだけではありません。
勤務時間は1日7時間45分、原則として土日祝日は休み。年次休暇、特別休暇、介護休暇、育児休業制度なども案内されています。
つまり技術者から見れば、比較対象は「給与」だけではなくなっています。給与、休日、家庭との両立、社会的意義、専門性の活かし方がセットで比較される時代です。
現場で忙しい会社ほど、ここは見落としやすいところです。給与テーブルだけを見直しても、人が残るとは限りません。逆に、給与で大企業や行政に完全に並べなくても、仕事の面白さ、裁量、成長機会、社長や上司との距離感、地域への貢献が伝われば、選ばれる余地はあります。
中小建設業がまず確認したい3つのこと
今回の発表を見て、中小建設業がすぐに大きな制度変更をする必要があるわけではありません。ただし、採用・定着の観点では、次の3点は確認しておきたいところです。
1. 若手・中堅技術者に「この会社で伸びる道」が見えているか
今回の募集では、係長級は職務経験2年以上、課長補佐級は7年以上が応募資格です。
この年数は、建設会社でいえば、若手が一通り現場を経験し始める時期、中堅として任される仕事が増える時期と重なります。
この層に対して、社内で次のような道筋を示せているでしょうか。
- どの経験を積めば、どの役割に進めるのか
- 現場代理人、職長、施工管理、営業、積算、管理職などの選択肢があるのか
- 資格取得や教育に会社としてどう関わるのか
- 将来の処遇や評価は何を基準に決まるのか
人が辞める理由は、今の不満だけではありません。将来が見えないことも大きな理由になります。
2. 自社の魅力が「求人票の言葉」になっているか
国土交通省の採用案内では、職務内容、待遇、求める人材、選考日程、モデル給与例が明確に示されています。
中小建設業の求人でも、同じように「何を任せるのか」「どんな人に来てほしいのか」「入社後にどう成長できるのか」を言葉にする必要があります。
特に、建設業の魅力は現場にあります。完成した構造物が地域に残る。災害対応やインフラ維持に関わる。若いうちから責任ある仕事を任される。こうした価値は、社内では当たり前でも、求人票では伝わっていないことが多いです。
採用力は、会社の魅力そのものよりも、会社の魅力を言語化する力に左右されます。
3. 働き方の改善を「できる範囲」から進めているか
行政や大企業とまったく同じ制度を整えるのは簡単ではありません。
ただ、できることはあります。
- 休日取得の予定を現場ごとに見える化する
- 繁忙期と閑散期の差を前提に休み方を設計する
- 書類作成や写真整理の負担を減らす
- 直行直帰、クラウド、スマホ活用で移動と事務を減らす
- 家庭事情を相談しやすい雰囲気をつくる
大切なのは、完璧な制度を一気につくることではありません。「この会社は働き方を良くしようとしている」と社員が実感できることです。
人材の流出リスクではなく、採用市場の変化として捉える
今回のような社会人経験者採用は、建設会社にとって「人を取られるかもしれない」という話だけではありません。
むしろ、技術者のキャリアが多様化していることを示しています。民間企業、自治体、国、発注者側、受注者側、維持管理、政策、現場。人材はこれらを行き来する可能性があります。
その中で中小建設業が選ばれるには、会社の規模ではなく、その会社で働く意味、成長の実感、経営者との距離、現場の誇りをきちんと整えることが大切です。
中小企業には、大企業や行政にはない強みがあります。意思決定が速い。若手にも任せられる。地域の顧客と近い。仕事の全体像が見える。経営者の考えが直接伝わる。
この強みを、採用と定着の仕組みに落とし込めるか。そこが分かれ目です。
自社の採用・定着を一度整理してみる
今回の発表は、国土交通省の採用情報であると同時に、建設技術者のキャリア市場を映す材料でもあります。
「うちの給与水準はどう見られているのか」「若手に将来像を示せているのか」「求人票で会社の魅力が伝わっているのか」。こうした問いを、落ち着いて整理するよい機会です。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、採用、組織、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。ものづくりに集中できる建設業界へ向けて、建設企業の持続的成長を支援しています。
「うちの場合は何から見直すべきか」「採用と定着をどうつなげるべきか」という段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、考えを整理する相手が必要なときは、自然な壁打ち先としてご相談ください。