平日は大手ゼネコン案件、週末はプラント工事で年間を回す専門工事会社の現在地
ある専門工事会社では、平日は大手ゼネコンやサブコンの建築工事に入り、土日は請負のプラント工事を手がけています。既存のつながりから紹介もあり、現在の人員で1年間の仕事をおおむね回せている状態です。
社長は、無理に会社を大きくするよりも、自分の目が届く範囲で経営することを重視していました。
「これ以上人を増やすと、取引先も必要になるし、コスト管理も増えてきます。今は自分で見られる範囲がちょうどいいんです」
これは成長を諦めているわけではありません。売上を増やした先で、資金、人員、管理業務まで増えることを理解したうえで、いまの収益と負担のバランスを見ている判断です。
一方で、受注先を固定しすぎるつもりもありません。
「大手がいいというわけでもないんです。どこともうまく付き合っておかないと、仕事が切れるときがありますから。この辺のバランスですよね」
受注構成を考える出発点は、売上の最大化ではなく、現在の施工体制で年間を無理なく回しながら利益を残せる組み合わせを見つけることです。
大手案件の安定感だけでは仕事切れと収益性の両方に備えにくい受注構成
大手元請けの案件には、継続性や一定の仕事量を期待しやすい面があります。ただし、会社の知名度や案件規模だけで受注先を選ぶと、自社にとって本当に良い仕事かどうかが見えにくくなります。
この会社では、建築工事について「1日いくらという単価がある程度決まっている」と話していました。単価の見通しを立てやすい一方で、自社の工夫だけで利益を大きく伸ばせる余地は限られます。
大手の現場では、書類対応や入場条件も軽視できません。協力会社や配置する人員について、「この人は入れないでほしい」といった細かな条件が出ることもあり、受注後の管理負担が増えます。
反対に、プラント工事については「請負として売上は悪くない」と捉えていました。建築工事とは収益のつくり方が異なるため、両方を持つことで全体のバランスが取れています。
ただし、利益率の良い工事だけに寄せればよいわけでもありません。受注時期に偏りがあったり、限られた取引先からの発注に頼ったりすれば、予定していた工事がずれた際に人員が空いてしまいます。
大手案件は「安定」、請負工事は「利益」と単純に分けるのではなく、粗利、稼働時期、管理負担、取引先への依存度を合わせて評価する必要があります。
単価、入場条件、管理負担が異なる工事を経験則で組み合わせてきた経営
受注先と工事種別のバランスが難しいのは、案件ごとに良し悪しの基準が異なるからです。
大手案件は単価が一定で、年間の予定を組む土台になりやすい一方、書類や現場ルールへの対応が必要です。新しく取引を始めようとしても、実績や紹介がなければ入り込みにくく、入った後も人員や協力会社に条件が付くことがあります。
プラント工事などの請負案件は、内容によって売上や利益を確保しやすい反面、常に同じ量が発注されるとは限りません。施工の難しさや必要な人員も案件ごとに変わります。
この会社は、平日と週末で異なる工事を組み合わせ、紹介や既存の社長同士のつながりも活用することで、仕事量を平準化してきました。社長自身も「知っている範囲の中で1年間は回れる」と話しています。
ここで大切なのは、現状維持を何もしない状態と捉えないことです。複数の取引先と関係を保ち、異なる採算構造の工事を組み合わせているからこそ、現在の安定があります。
一方、営業を強めれば受注候補は増えますが、施工できる人員がいなければ引き受けられません。
「営業をやろうと思ったんですけど、結局、人がいないと仕事を取っても行けないじゃないですか。現状をいじるのはまだ難しいんです」
受注先の分散は、取引社数を増やせば完成するものではありません。自社が施工できる量と時期を基準に、既存案件を守りながら選択肢を持つことが本質です。
案件ごとの役割を決めて粗利と年間稼働を両立させる受注ポートフォリオ
受注構成を見直す際は、まず過去1年程度の案件を「取引先」と「工事種別」の2軸で並べるところから始めます。売上だけではなく、次の項目を同じ表にまとめると判断しやすくなります。
- 売上額、粗利額、粗利率
- 稼働した月と日数
- 必要な自社人員と協力会社
- 見積もり、入場、請求にかかった管理負担
- 現場ごとの書類や資格、入場条件
- 締め日、入金日などの支払い条件
- 継続発注の見込みと一社依存の度合い
- 自社の得意領域との一致
粗利率が高くても、社長や担当者の管理時間を大きく使う案件であれば、必ずしも優先順位は上がりません。反対に、粗利率は平均的でも、仕事が薄くなりやすい月を埋め、手離れよく継続できる案件には価値があります。
見るべき数字は案件単体の売上ではなく、「限られた人員と管理時間を使って、年間でどれだけ粗利を残せるか」です。
整理した案件は、たとえば次のような役割に分けられます。
- 年間稼働の土台になる案件
単価と発注量の見通しが立ちやすく、予定を組みやすい仕事です。大手案件がこの役割を担うことがあります。
- 利益を積み上げる案件
自社の得意領域が生き、請負として粗利を確保しやすい仕事です。今回の会社では、プラント工事がこの位置づけに近いと考えられます。
- 仕事の谷を埋める案件
繁閑差をならすために持っておく仕事です。年間を通じた稼働平準化に役立ちます。
- 将来の選択肢として育てる取引先
すぐに受注量を増やさなくても、紹介や小規模案件から関係をつくり、既存取引が薄くなったときに相談できる先です。
この役割分担ができると、「大手を増やすか、利益率の良い工事を増やすか」という二者択一ではなくなります。年間稼働の土台を残しながら、利益をつくる工事の比重を少しずつ調整できます。
新規開拓も、いきなり受注量を増やす必要はありません。既存取引を維持しながら、次の順番で進めると施工体制とのずれを抑えられます。
- 今後、仕事が薄くなりそうな時期を確認する
- その時期に対応できる工事種別を決める
- 必要な粗利率や支払い条件を設定する
- 入場条件や書類負担を事前に確認する
- 既存の紹介先から小さく接点をつくる
- 施工余力ができた段階で受注量を増やす
重要なのは、営業件数ではなく、自社に合う取引先との接点を切らさないことです。受注余力がない時期には情報交換にとどめ、余力が見えた段階で見積もりや具体的な案件相談へ進める方法もあります。
既存取引を守りながら、仕事が切れたときに相談できる先を複数持つ。この状態をつくることが、一社依存を避ける現実的な販路開拓です。
受注構成は一度決めて終わりではありません。月ごとの売上だけでなく、3か月から半年先の工事予定、粗利見込み、人員の空き、管理負担を定期的に並べて確認します。そのうえで、土台となる案件が不足しているのか、利益をつくる案件が不足しているのかを見極めます。
まとめ
大手元請けの案件には、単価や発注量の見通しを立てやすい強みがあります。一方で、書類対応や入場条件、配置人員への制約があり、取引先の知名度だけで収益性を判断することはできません。
請負のプラント工事など、利益を確保しやすい仕事にも、発注時期や仕事量の変動があります。どちらか一方へ寄せるのではなく、それぞれの役割を決めて組み合わせることが、安定性と収益性の両立につながります。
受注構成の良し悪しは、取引先の大きさではなく、粗利、年間稼働、管理負担、入場条件、支払い条件、自社の得意領域を含めて判断します。
現在の人数で無理なく回っている会社であれば、むやみに案件数を増やす必要はありません。まずは既存案件を役割別に整理し、仕事の谷と取引先への偏りを確認するだけでも、次に開拓すべき受注先が見えやすくなります。
自社に合う受注構成を整理するところから始めませんか
「大手案件をどこまで残すべきか」「利益率の良い工事を増やしたいが、施工余力が読めない」といった悩みは、営業だけを切り離しても整理しにくいものです。受注先、工事種別、人員、粗利、管理負担を一緒に並べることで、自社に合う販路拡大の進め方が見えてきます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、販路拡大、組織、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。「うちの場合はどう組み合わせるべきか」「何から数字を出せばよいかわからない」という段階でも問題ありません。
無理に新規開拓を勧めたり、営業を進めたりすることはありません。現在の受注構成と施工体制を確認しながら、ものづくりに集中できる形を一緒に整理します。