販売開始から1年ほどで10棟前後を受注し、提携工場の設備と数名の技術者で一棟ずつ施工する現在地
ある建設会社は、新しい工法による住宅・建築物の販売を始めてから約1年。すでに10棟前後を販売し、企業からの引き合いも増えていました。オンラインでの打ち合わせは、ほぼ毎日入ります。
一方、製造から施工までを一度に何件も進められる段階ではありません。
部材をつくる設備は10台弱ありますが、自社工場の保有設備ではなく、すべて提携工場に置かれています。施工技術を理解する人材も数名です。一つの案件が動けば、そこに人手が集中します。
「需要はものすごくありますし、注目もされています。ただ、こちらの体制がまだ落ち着いていないんです」
目指しているのは、数年後に年間数百棟を供給できる体制です。しかし、現在は一棟ずつ丁寧に進めています。
引き合いの多さと、実際に受けられる案件数は別です。成長初期では、営業力より製造・技術・施工の処理能力が受注上限を決めます。
問い合わせを増やしても製造設備・技術者・施工会社が追いつかず、案件を同時進行できない状態
この会社が抱えていたのは、案件不足ではありません。受注後に必要となる製造設備、技術者、施工会社を同じ速度で増やせないことでした。
施工会社は、案件が決まってから現場の近くで探します。ただし、一般的な工務店ならどこでも対応できるわけではありません。届いた部材を使い、独自の工法に合わせて建物を完成させられる会社に限られます。基礎から内装までを一式で任せられることも重要です。
さらに、工法を開示する前の手続きや、施工内容への理解も必要です。そのため、すでに関係を築いている会社から探すと、現場の近くに候補がいないことがあります。
「将来は全国で必要になります。でも今は、一度に10か所、20か所を動かせるわけではありません」
全国の協力会社を増やすこと自体は、将来に向けて必要です。ただ、現在の施工件数に対して先にネットワークだけを広げても、依頼できる案件が足りません。関係を維持する負担も増えます。
営業を強化する前に確認したいのは、“何件売れるか”ではなく、“何件なら品質を保って完成まで運べるか”です。
提携工場の設備投資に半年ほどかかり、数名の技術者へ案件が集中する量産前の構造
量産を難しくしていた背景は、主に四つあります。
製造設備を短期間では増やせない
部材を製造する設備は高額です。海外製のため、発注から稼働まで半年ほどかかります。提携工場に導入してもらう場合は、その工場側で投資を回収できるだけの製造量も必要です。
「設備を買っても、数をさばけなければ採算が合いません。そこまで話し合ったうえで導入してもらう必要があります」
案件が増えてから設備を発注しても、すぐには生産能力を増やせません。一方、需要が固まる前に設備だけを増やすと、稼働率が上がらず、提携先の負担になります。
設備増強には、需要の見込み、稼働開始までの期間、投資回収に必要な製造量をセットで見る必要があります。
技術者が一案件に張り付いてしまう
独自工法を理解している技術者は、まだ数名です。一件の施工に人員を割くと、別の案件を同時に支援しにくくなります。
相談者は、この状態を「分身がまだできていない」と表現していました。技術者を採用するだけでは解消しません。施工手順や判断基準を言語化し、別の人が再現できる状態にする必要があります。
技術者数だけでなく、一棟あたりの支援工数と、一人が同時に担当できる案件数が成長速度を左右します。
施工会社の候補がいても、すぐ依頼できるとは限らない
建築一式の許可や住宅施工の実績があっても、独自工法に対応できるとは限りません。型枠やコンクリート施工の経験、基礎から内装までの対応範囲、工法への理解などを確認する必要があります。
現場が決まってから一社ずつ電話し、説明し、条件をすり合わせていては、着工までに時間がかかります。ただし、現在の施工数では全国一律に協力会社を開拓するのも早すぎます。
実証と量産がまだ同じ工程になっている
この会社は、意図的に受注を絞っていました。
「下地をつくるために、一度にお客様を受けないようにしています。一個ずつ丁寧にやっている段階です」
これは営業が弱い状態ではありません。施工方法、原価、品質、役割分担を一件ずつ確かめている実証段階です。
実証施工の段階で受注数だけを増やすより、各案件から得た知見を次の現場で再利用できる形に残すほうが、量産への近道になります。
一棟ごとの実証を標準化につなげ、処理能力に合わせて設備・教育・施工拠点を広げる進め方
最初に行いたいのは、現在の量産上限を一つの表にすることです。売上目標から逆算する前に、製造から引き渡しまでの各工程で「同時に何件まで扱えるか」を確認します。
整理する項目は、次の四つです。
- 製造能力:設備一台あたりの生産量、提携工場ごとの稼働枠、増設の所要期間
- 技術者能力:一棟あたりの支援工数、同時に担当できる件数、現場判断が必要な工程
- 施工能力:地域ごとの協力会社数、対応可能工種、稼働可能時期、事前手続きの状況
- 品質管理:施工手順、確認項目、合否基準、判断に迷った場合の連絡先
製造・技術・施工・品質のうち、最も小さい処理能力が、その会社の受注上限です。
たとえば、部材を月10棟分つくれても、技術者が月3棟しか支援できなければ、現時点の上限は3棟です。施工会社を増やしても、技術者の支援方法が変わらなければ全体の件数は増えません。
そのうえで、次の順序で量産体制へ移行します。
1.実証施工で判断事項を洗い出す
まずは現在のように、一棟ずつ確実に施工します。ただ完成させるだけでなく、現場で技術者に確認が集まった工程、施工会社が迷った点、予定との差が出た作業を記録します。
すべてを一度に標準化する必要はありません。毎回質問が出る工程から着手すると、技術者の負担を減らしやすくなります。
2.施工手順と品質基準を標準化する
実証で得た情報を、施工会社が使える資料へ変えます。図面だけではなく、作業順序、必要な技能、確認写真、検査項目まで揃えることが大切です。
ここで目指すのは、技術者が現場から完全に離れることではありません。常時張り付かなくても、重要な工程だけを確認できる状態です。
標準化の目的は資料をつくることではなく、数名の技術者がより多くの現場を支援できる状態をつくることです。
3.需要と施工条件が合う地域から協力会社を増やす
全国展開を目指していても、最初から全都道府県を埋める必要はありません。問い合わせが多く、輸送や施工の条件が合い、提携工場から対応しやすい地域を優先します。
この会社では、人口の多い都市部からの問い合わせが目立つ一方、積雪量の多い地域では補強によってコストが上がるという事情がありました。こうした工法上の条件も、地域選定に含めます。
協力会社は、社数ではなく次の条件で見ます。
- 独自工法に近い施工経験があるか
- 基礎から内装まで、どこまで一式で任せられるか
- 事前の教育や手続きに対応できるか
- 年間で何棟まで受けられるか
- 自社の品質基準に合わせられるか
協力会社開拓は全国の社数を追うのではなく、受注予定地域に“実際に動ける一社”を置くことから始めます。
4.案件見込みから逆算して設備を増やす
設備は、受注後に考えるのでは間に合いません。導入に半年ほどかかるなら、半年後の案件見込みから逆算して提携工場と協議します。
判断材料になるのは、問い合わせ総数ではありません。着工時期、地域、仕様、確度まで見えた案件数です。その案件数で設備の稼働率と採算が見込めるかを確認します。
一気に全国の提携工場を増やすより、一定量の案件が見える地域から設備と施工会社をセットで配置するほうが進めやすくなります。
設備投資は期待される市場規模ではなく、稼働開始時点で見込める具体的な案件量を基準に判断します。
まとめ
問い合わせが増えているのに受注を増やせないと、営業や協力会社開拓を急ぎたくなります。しかし、成長初期の建設会社では、その前に製造設備、技術者、施工会社、品質管理の上限を揃える必要があります。
今回の会社も、市場からの注目は十分にありました。それでも一件ずつ進めていたのは、量産に必要な下地をつくるためです。
実証施工で知見をため、施工を標準化し、教育できる形に変え、需要が見える地域から設備と施工拠点を増やす。この順序が無理のない量産につながります。
受注目標だけを置くのではなく、「半年後に何棟を製造でき、何棟を技術支援でき、どの地域で何棟を施工できるか」まで分解すると、次に打つべき手が見えやすくなります。
自社に合う量産・施工体制の順序を整理したい方へ
量産体制は、設備だけ、施工会社だけを増やしても整いません。案件見込み、提携工場、技術者、協力会社、品質基準を横断して考える必要があります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を整理し、施工体制や協力会社ネットワークの設計から実行まで支援しています。「うちの場合は設備と施工会社のどちらが先か」「まだ量産前だが、何を準備すべきか」といった段階でもご相談いただけます。
状況を伺ったうえで、無理にサービスをおすすめすることはありません。ものづくりに集中できる体制をつくるための次の整理先として、お気軽にお声がけください。