現場は回っていても、社長・会長・相談役の意向が揃わない建設会社
日々の工事が回っていることと、会社として改革を決められることは別の問題です。 事業承継を終えて社長が交代していても、会長や相談役として残る旧経営者との役割が曖昧なままでは、会社の方向性を揃えるところで足が止まります。
ある社員十数名規模の建設会社では、社内の意識改革を進めるため、社員一人ひとりへの面談に着手していました。住宅関連の工事を複数の取引先から請け負い、取引先ごとに経営側の担当が分かれる一方、材料や協力業者への発注に関わる事務担当者は、両方の仕事を支えていました。
経営には現社長、前社長である会長、さらに以前の経営を担った相談役が関わっていました。相談役は会社にも顔を出しており、古くからの社員とのつながりも残っている状況です。
面談を進めると、相談役への信頼が厚い社員がいる一方、現社長や会長に対する不信感も聞かれました。改革への協力を求める以前に、経営側の関係と意思決定のあり方を確かめる必要が見えてきたのです。
なお、この時点では、相談役本人の認識や一部の社員の話は十分に確認できていませんでした。以下で扱うのも、改革が成功した事例ではなく、社員面談を通じて、先に整理すべき経営課題が見えてきた段階の相談です。
改革を望む会長と現状維持を望む社長の間で止まる最終判断
改革を進めたい人と、最終判断を担う人の意向が揃っていないことが、取り組みを止める大きな要因でした。
支援側が把握していた範囲では、会長は組織のあり方を変えたいと考えていました。一方、社長については「今のままでいい」という意向が伝えられていました。会長が改革の必要性を訴えても、最後は社長の判断に委ねられ、その先が進まないという構図です。
社員面談でも、社長に対して「社長として何も決めない」という趣旨の声がありました。ただし、これは社員から見た評価であり、社長本人が何を懸念し、なぜ判断を留めているのかまで確認できたわけではありません。
ここを分けずに「社員の意識を変えれば進む」と考えると、取り組む場所がずれてしまいます。社員に協力姿勢を求めても、経営側で何を変えるかが決まっていなければ、協力する対象そのものが定まりません。
さらに、相談役の影響力も残っています。支援側からは「誰の目を見ればいいんだ」という言葉も出ていました。社員にとっては、肩書き上の社長だけでなく、会長や相談役の意向にも配慮が必要に見える状態です。
社員の消極姿勢に見える反応も、誰の判断に従えばよいかが定まっていないことと、切り離しては考えられません。
担当変更への説明不足と、相談役を含めない改革の進め方
不信感の背景には、人への好き嫌いだけでなく、判断の理由や改革の目的が共有されていない問題がありました。
社員面談で繰り返し話題になったのが、ある役員が主要取引先の担当を外れた経緯です。経営側からは業務遂行上の問題があったという見方が伝えられる一方、社員の中には、その役員の仕事ぶりを評価し、担当変更を納得できないと受け止めている人もいました。
担当変更の理由は、社内で十分に周知されていないようでした。そのため、業務上の判断だったのか、経営側の関係によるものだったのかについて、社員それぞれの解釈が広がっていました。
ここで大切なのは、社員の不信感を軽く扱わないことと、その解釈をそのまま事実認定にしないことの両立です。面談で聞かれた声は、社員がどう受け止めているかを知る重要な情報ですが、それだけで担当変更の妥当性までは判断できません。
もう一つ、相談役には外部支援が入っていること自体が伝わっていなかった、という話もありました。社長と会長が進めていた取り組みでも、社内に影響力を持つ相談役から見れば、目的も経緯も分からないまま始まったことになります。
相談役についても、支援側が接した際の印象と、以前から付き合いのある人が語る「面倒見のよさ」には違いがありました。これも、誰かの評価だけで人物像を固定しない方がよい理由です。
現経営陣の説明、社員の受け止め、旧経営者本人の認識を分けて確かめることが、改革の出発点になります。 誰が正しいかを急いで決めるより、どの出来事について認識が食い違っているかを捉える方が、次の話し合いにつながります。
相談役を含む認識確認から、担当業務と最終決定者の整理へ
社員への働きかけを広げる前に、経営側で「何のために変えるか」「誰が決めるか」「誰から指示するか」を揃える順番が必要です。 この相談でも、まず相談役本人と話す機会を設けることが、次の一手として挙がっていました。
まずは、それぞれの認識を確認する
相談役との面談は、改革案を受け入れてもらうためだけの場にしないことが重要です。現社長と会長が捉えている問題に加え、相談役が今の会社をどう見ているのか、現在の自分の役割をどう考えているのかを確認する必要があります。
担当変更をめぐる不信感についても、「変更があったこと」「経営側が説明する理由」「社員が受け止めている理由」を分けて整理します。未確認の話は未確認のまま扱い、一方の説明で埋めないことが大切です。
この段階で確認したいのは、主に次の点です。
- 社長、会長、相談役が、それぞれ会社の何を問題と捉えているか
- 担当変更など、不信感につながった判断にどのような経緯があったか
- 改革の目的や外部支援の役割が、誰にどこまで伝わっているか
全員が同じ人物評価になる必要はありません。まずは、経営上の出来事と、それに対する評価を分けて話せる状態を目指します。
改革の目的と、それを決める人を揃える
改革の目的は、特定の人を経営から外すことと、会社の意思決定を整えることを分けて確認する必要があります。この相談でも、会長が思い描く組織への変更と、社長が望む現状維持には距離がありました。
そこで、社員に何を求めるかを決める前に、経営側で「どの状態を変えたいのか」を合わせます。例えば、この会社であれば、共通の事務担当者が判断先に迷わないことや、改革に必要な判断が経営内で止まらないことが、整理の対象になります。
改革を求める会長が提案し、社長が最後に判断するのであれば、社長自身が改革の目的を引き受けていることが前提です。 その合意がないまま社員面談や意識改革だけを続けても、実行に結びつきにくくなります。
社長・会長の担当業務と、社員への指示系統を分ける
役割分担は、肩書きだけでなく、社員が実際の仕事で判断できる単位まで整理します。対話では、社長と会長で担当する業務を分け、互いの担当に直接口を出さない方法や、会長からの意見は社長を通す方法が挙がっていました。
取引先別に担当を分ける場合でも、共通の事務担当者が両方の業務を支えているなら、担当の線引きだけでは足りません。次の三つまで確認しておく必要があります。
- 取引先ごとの日常業務は、社長と会長のどちらが決めるか
- 共通の社員への指示は誰から出し、異なる指示があった場合は誰に確認するか
- 担当範囲を超える事項は、誰が集まって協議し、最後に誰が決めるか
相談役についても、助言を受けることと、社員に直接指示することを分けて話し合います。長年の経験や社員との信頼を否定するのではなく、それを現在の経営体制の中でどう活かすかという整理です。
旧経営者との関係を断つことではなく、経験を活かす役割と、現在の指示・決定の権限を区別することが要点です。
合意ができる範囲を見極めてから、社員への取り組みに戻る
経営側で役割と判断先が揃えば、社員に伝える内容も明確になります。反対に、相談役との認識確認ができず、社長と会長の改革方針も揃わないのであれば、社員への取り組みを広げる前に立ち止まる判断が必要です。
外部支援を入れる場合も同じです。一方の意向を代わりに通す役割ではなく、関係者の認識を確認し、経営側が決めるための整理を担う位置づけにします。経営側の合意が必要な問題を、社員面談の回数で解決しようとしないことが、進め方の判断軸になります。
まとめ
事業承継後の改革が進まないときは、社員の意識より先に、経営側の意向と権限を確かめる必要があります。 社長・会長・相談役がそれぞれ影響力を持つ状態では、現場が回っていても、会社全体の方向性を決めるところで止まることがあります。
社員面談で聞かれた不信感は、その構造を知る入口です。ただし、社員の声だけでも、現経営陣の説明だけでも判断せず、旧経営者本人を含めて認識を確認することが欠かせません。
そのうえで、改革の目的、最終決定者、担当業務、社員への指示系統、役員間で協議する事項を整理します。社員に変化を求めるのは、経営側が何を決め、誰の責任で進めるかを示せるようになってからです。
社員に改革を求める前の、経営体制の整理から
「社員の意識の問題なのか、経営側の役割の問題なのか」を分けるところから、相談を始められます。 社長と会長の担当が曖昧な場合や、相談役にどう話を持ちかけるか迷っている段階でも、整理できることはあります。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して捉え、実行まで支援しています。経営体制の整理でも、現場や事務担当者の仕事とのつながりを踏まえながら、何から確認するかを一緒に考えます。
「うちの場合は、まず誰と何を話すべきか」という段階でも構いません。無理に支援の導入をお勧めすることはありませんので、現在の状況を整理する機会としてご相談ください。