在宅スタッフが案件探しから落札後の書類対応まで担う公共工事の立ち上げ期
公共工事の経験がないスタッフに仕事を任せる際は、目の前の作業を覚えることと、案件全体を理解することを分けて考える必要があります。
ある電気設備工事会社では、住宅向け設備工事を主力としながら、収益のもう一つの柱として公共工事に取り組み始めていました。既存事業は補助金の開始時期や冬季の施工条件に左右され、仕事量に波があるためです。
公共工事では全国を対象に、月に二十数件の入札に参加しています。案件の探索、施工を依頼する協力会社の調査と連絡、見積もりの取得、落札後の提出書類への対応を担うのは、4名ほどの在宅スタッフです。既存の工事部門とは別に立ち上げた体制で、スタッフは全員、公共工事に初めて携わっています。
一つの案件について十数社に連絡し、少なくとも1社から見積もりを取得できるところまでは進んでいました。次は、1社で終わらず、2〜3社から見積もりを取れる状態を目指しています。
その中で経営者が大切にしていたのは、単に電話の件数を増やすことではありませんでした。
「総合的にやらないと、いろいろなものが身につかないんです」
案件を探す人、電話をする人、書類を処理する人に分けず、担当案件の流れを一通り経験してもらう。そこには、未経験者を育てるための意図がありました。
架電や書類処理だけでは協力会社に案件を説明する力が育ちにくい状況
課題は、電話や書類の作業そのものではなく、その案件について説明し、相手の問いに答えられるだけの理解がまだ浅いことでした。
経営者は、スタッフの出発点をこう話していました。
「みんな初めて公共工事の分野に入っているので、分からないことだらけなんです。一通り経験しないと、説明しても答えられない」
協力会社に連絡するときには、案件の内容を把握するだけでなく、なぜその会社に声をかけるのかも理解している必要があります。電話だけを担当すると、連絡先と案件情報は渡されても、その組み合わせを選んだ理由まで自分で考える機会が少なくなります。
書類対応も同じです。落札後の提出書類だけを扱えば、書類処理には慣れていくかもしれません。ただ、それだけでは、その案件をどのように選び、どの協力会社とやり取りし、見積もりを取得したのかという前段の理解は深まりにくくなります。
この会社では、見積もりを全く取れない段階はすでに越えていました。だからこそ、次に必要なのは作業量を増やすことだけではなく、担当者自身が案件を理解して動ける範囲を広げることだったのです。
協力会社への連絡先選びにも公共工事ならではの判断が必要な事情
この会社の協力会社対応は、施工できそうな会社を探して順番に電話するだけの仕事ではありませんでした。
対象案件は電気設備工事に限らず、対応できる工種を広く探していました。一方で、入札参加者が多い案件を一律に追うのではなく、競争が比較的限られる案件をどう見つけるかも、スタッフと一緒に考えていました。
協力会社候補の調査でも、過去の落札実績や入札参加資格を確認しています。施工実績があるからといって、必ずしも声をかけやすい相手とは限りません。同じ案件に入札できる会社であれば、協力を依頼するつもりが、相手に入札機会を知らせることにもなるからです。
「同じ案件の入札参加資格を持っていれば、その案件を教えてあげることになるので、そこは調べています」
ある発注機関には参加資格があっても、別の発注機関にはない。そうした違いも見ながら、連絡先を判断していました。
ここで育てたいのは、会社名を検索する力や電話をかける力だけではありません。案件の内容と相手の実績・資格を照らし合わせ、誰に連絡するかを考える力です。
経営者が、在宅スタッフを落札後の事務専任にする分業案を選ばなかったのも、このためでした。
「案件を一つ選んで、内容を精査して、どういう業者にアプローチするかを自分で考えてもらう。見積もりを取って、落札したら入金されるまで、一通りやってもらっています」
分業を避けていたのは、効率化に反対しているからではなく、判断のつながりを学ぶ機会を残したかったからです。
案件全体を経験する範囲と分業する範囲を習熟段階に合わせた設計
育成を優先する段階では担当案件の流れをつなげて経験させ、処理効率を優先する段階では理解度を確かめながら分業する、という考え方が役立ちます。 一気通貫か分業かを、会社全体で固定する必要はありません。
案件選定と連絡先の判断を切り離さない
まず育成の軸にしたいのは、案件を選ぶことと、その案件に対応できる協力会社を考えることをつなげる点です。
この会社のように、案件の内容を精査し、候補企業の施工実績や入札参加資格を調べたうえで連絡するなら、その調査は電話の準備であると同時に、案件理解の機会になります。
任せる範囲を考える際には、「電話をかけられるか」だけでなく、「なぜその会社に連絡するのかを説明できるか」を見ると整理しやすくなります。理由をまだ説明できない段階なら、連絡業務だけを切り出すよりも、案件の精査や候補先の判断まで経験する意味があります。
見積もり取得後の流れまで担当案件として追う
育成上の一気通貫とは、連絡して見積もりが取れたところで、案件との関わりを終わらせないことです。
この会社では、次の流れを担当者が一通り経験する方針でした。
- 案件を探し、内容を精査する
- アプローチ先を考え、実際に連絡する
- 複数社からの見積もり取得を目指す
- 落札した案件の提出書類など、事務対応を進める
- 入金を確認するところまで担当案件を追う
見積もりを取るまでの仕事と、落札後の事務を同じ案件で経験することで、個々の作業が案件全体のどこに位置するのかをつかみやすくなります。経営者も、スタッフについて「今、成長はしてきている」と話していました。ただし、この発言だけで、説明力や処理効率がどの程度改善したかまで断定することはできません。
一通り任せたという事実よりも、案件の説明や問い合わせへの対応がどこまでできるようになったかを、育成の判断材料にすることが大切です。
分業は理解度と処理効率のどちらを優先するかで判断する
分業には、架電や書類処理をそれぞれに集中させ、処理効率を追いやすくする利点があります。一方、一気通貫方式には、案件の前後関係を理解し、自分で判断する機会を持ちやすい利点があります。
今回の会社は、全員が未経験であり、協力会社への説明にも課題があったため、後者を優先していました。同じ取り組みをする会社の中には分業を選ぶ会社もあり、経営者自身も、それぞれの考え方があると受け止めています。
自社で決める際には、次の三つを整理すると、優先順位が見えやすくなります。
- スタッフは案件の内容と、連絡先を選んだ理由を説明できるか
- いま優先したいのは、処理量を増やすことか、判断できる人を育てることか
- 担当案件を入金確認まで追う範囲が、本人の勤務時間や習熟度に合っているか
この会社の在宅スタッフも、子育て世代を中心とした短時間勤務です。一気通貫で育てる方針があっても、担当案件数や任せる範囲まで一律にする必要はありません。全体を経験するという育成の目的と、実際に抱える業務量は分けて考えたいところです。
事務の一気通貫と現場管理の責任は分ける
案件全体を経験させることは、未経験の事務スタッフに施工や技術上の責任まで任せることではありません。
この会社でも、在宅スタッフによる案件探索や書類対応とは別に、有資格者や現地に対応できる人員の必要性を認識していました。現時点では、経営者自身が資格や現地対応を担う部分もあります。
育成のために案件を最初から最後まで追ってもらうとしても、事務担当が進める範囲と、有資格者・現場管理者が判断し責任を担う範囲は区別が必要です。配置や現場管理については、個別案件の要件に沿って確認するものであり、事務を一気通貫にしただけで満たせるものではありません。
まとめ
公共工事の未経験者を育てるときは、作業を細かく分ける前に、案件の流れを理解する機会が残っているかを確かめたいところです。
協力会社にうまく説明できない背景には、電話の技術だけでなく、案件を選んだ理由や、相手に声をかける理由を十分につかめていないことがあります。案件選定、内容の精査、連絡先の判断、見積もり取得、落札後の事務、入金確認までをつなげて経験する方針は、その理解を育てる一つの方法です。
ただし、一気通貫が常に優れているわけではありません。まず判断できる人を育てたいのか、理解のある人員で処理効率を高めたいのかによって、適した分担は変わります。
育成の目的、スタッフの習熟度、勤務時間、そして技術・現場管理上の責任を分けて整理することが、自社に合う任せ方の出発点です。
公共工事スタッフの育成と任せる範囲の整理
「電話だけを任せると理解が深まらない。でも、案件を全部持たせるのも負担が気になる」。そんな段階では、分業するかどうかを先に決めるより、スタッフに身につけてほしい判断と、実際に任せる業務を並べてみると整理しやすくなります。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。公共工事に携わるスタッフの教育体制や業務分担についても、現場側の責任との切り分けを含めて、一緒に整理できます。
「うちの場合、どこまで任せるのがよいか」「何から見直せばよいか」という段階でもご相談いただけます。無理にサービスをお勧めすることはありませんので、次の整理先としてご活用ください。