若手の採用を続けながら、ベテランとの間をつなぐ中間層が薄い建設会社
若手の定着を考えるときは、採用の取り組みだけでなく、入社後に誰が何をどう教えているかを一緒に見る必要があります。
ある建設会社では、社員や知人を通じた紹介、高卒採用、求人媒体などを通じて、数名の若手を迎えてきました。採用に手をつけていない会社ではありません。企業理念や行動目標も掲げ、若手とのコミュニケーションにも取り組んでいます。それでも、人が思うように定着しないことが課題になっていました。
社内には入社から数年がたつ20代後半の社員がいる一方、その上の世代は40歳前後まで離れ、さらに50〜60代のベテランがいます。間をつなぐ中間層が薄く、経験も年齢も離れた相手に、直接仕事を教える必要がある状況です。
すでに外部の人事経験者とともに、経験年数に応じた成長の目安を整理し始めています。ただし、取り組みはひな型ができつつある段階で、まだ運用には至っていません。定着が改善した事例ではなく、受け入れ・育成の仕組みをこれから形にしていく段階の話です。
教えたつもりと、若手が理解して動ける状態との隔たり
問題の中心は、指導する側の「伝えた」と、若手の「理解して動ける」が一致していないことです。
経営者が挙げたのは、教え方と共通認識の課題でした。教える側が、若手に伝わる言い方を十分にできていないと捉えています。
その会社では、現場に出る前に数日間の座学を行っています。ただし、説明は口頭が中心です。図面の種類や役割を一通り説明しても、若手の返事を受けて、そのまま説明が終わってしまうことがあります。説明を聞いた直後の理解と、実際に図面や仕事を前にしたときの理解が同じかどうかは、確かめきれていません。
現場でも、何も知らないままでは、若手は何をすればよいか分かりません。一方、教える側には、その場で自分から動いてほしいという期待があります。ここに隔たりがあると、若手には動くための情報が足りないのに、指導する側には何もしていないように映ってしまいます。
もちろん、離職理由のすべてを教え方だけで説明することはできません。ただ、この会社が受け入れ体制を見直すうえでは、まず向き合いたい具体的な課題でした。
中間層の薄さと成長への期待が、説明の省略や強い言葉につながる構造
世代差そのものよりも、知識の前提と成長の目安が共有されていないことが、指導のすれ違いにつながっています。
ベテランと若手の間に経験の近い社員がいれば、説明の意図を補ったり、初めて聞く人が分からない部分を言い換えたりできる場合があります。この会社では、その間をつなぐ層が薄いため、長年仕事をしてきた人の説明を、若手が直接受け取る構造になっています。
対話では、作業のやり方だけでなく、用語を知ることの難しさも挙がりました。図面の名前や建設の仕事の流れを知らなければ、その後の説明を理解するための土台がそろいません。手順の説明を増やす前に、説明の中で使っている言葉が通じているかを見る必要があります。
もう一つは、成長への期待です。経営者は、若手の成長を期待しすぎることで、指導の言葉が強くなることもあると捉えていました。
「このくらいはできるはず」の中身が見えていなければ、若手は何を身につければよいか分からず、指導者もどこまで求めるかを判断しにくくなります。
ここで必要なのは、期待をなくすことではありません。経験年数に照らして今求めることと、これから教えることを分け、指導者同士でも同じ目安を持つことです。言葉を柔らかくするだけでなく、強い言葉が出る前の期待のずれを整理することが、育成の仕組みづくりにつながります。
経験年数ごとの知識・技能を見える化し、教える側の期待をそろえる進め方
採用と育成を二者択一にせず、採用を続けながら、迎えた若手が学べる道筋を整えることが判断の軸になります。
この会社も、人を採る必要性を認めたうえで、まず辞めずに働ける仕組みをつくりたいと考えていました。そのために着手したのが、経験年数ごとに求める成長の目安の可視化です。進める際は、目安を作ること、指導者間でそろえること、実際に学べる状態にすることをつなげて考えると整理しやすくなります。
経験年数ごとの目安を、知識と技能に分けて整理する
最初に整理したいのは、今ある指導内容のうち、どの段階で何を身につけてほしいのかです。経験年数だけを並べても、教える内容が曖昧なままでは使いにくいため、次の点を対応させます。
- その段階で知っていてほしい用語や基礎知識
- その段階でできるようになってほしい作業や技能
- 次の段階に進むために学ぶ内容
- 身についたかを確かめる内容
この会社であれば、口頭で説明している図面の種類や仕事の流れも、基礎知識として整理する対象になります。作業ができないときも、手順を知らないのか、その説明に使われる用語が分からないのかを分ければ、教え直す箇所を絞りやすくなります。
経験年数ごとの目安は、若手に要求を突きつける表ではなく、今教えることと、まだ求めないことを分けるための共通の目安です。
指導者同士で、今求める水準を確認する
ひな型ができたら、現場で教える人の期待と照らし合わせます。同じ経験年数の若手に対して、どの知識・技能まで求めるのか、その前に何を教える必要があるのかを確認します。
大切なのは、表を配るだけで終えないことです。指導する人によって期待する水準が異なるままでは、若手が受け取る要求もそろいません。目安と実際の指導内容に隔たりがあれば、表の記載か、教える順序のどちらを見直すかを整理します。
期待をそろえることで、できていない部分を一括りにするのではなく、どの知識や技能を補う必要があるのかという話に移しやすくなります。
成長の目安に、学ぶ手段と理解の確認を結びつける
目安が決まっても、学ぶ手段がなければ若手は次に進めません。そこで、各段階に必要な説明やマニュアルを対応させ、理解を確かめる簡単な確認も用意していく考え方です。
この会社では、毎回口頭で行っている基礎説明を、見返せる教材にする案も挙がっていました。動画はその選択肢の一つです。ただし、先に動画を増やすのではなく、どの段階の、どの知識を補う教材なのかを決めてから整えることが重要です。
説明内容がすでにあるものなら、その説明を録音し、内容を整理して教材化する進め方も考えられます。最初から育成内容をすべて作り込むより、繰り返し説明している基礎から整える方が、取りかかる範囲を定めやすくなります。
また、教材を見たことと、理解できたことは分けて扱います。返事だけで説明を終えるのではなく、学んだ内容を確認するところまでつなげて初めて、成長の目安を指導に使えるようになります。
まとめ
若手の定着に向けて整えたいのは、教える人の善意や経験だけに頼らず、何をどこまで教えるかを共有できる受け入れ体制です。
中間層が薄い会社では、ベテランと若手の知識の差を埋める役割も、育成の仕組みに持たせる必要があります。経験年数ごとの知識・技能を見える化し、指導者間で期待水準をそろえ、その段階に必要な教材と理解の確認を結びつけることが、具体的な進め方になります。
ひな型ができただけで、定着への効果が分かるわけではありません。まずは、教える側が同じ目安を使えるか、若手が次に学ぶことを把握できるかを確かめながら、運用につなげていく段階です。
採用を増やすことと、入った人が育つことは、別々に完結する話ではありません。今いる若手への教え方を整理することが、次に迎える人の受け入れ準備にもなります。
若手に求める成長と、現場の教え方を整理するために
自社では何をどこまで求めるかを整理するところから、育成体制の相談は始められます。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を現場の実情と合わせて整理し、実行まで支援しています。若手の育成では、経験年数ごとの期待水準、指導者間の共通認識、既存の教育内容をつなげ、受け入れ体制をどう整えるかを一緒に考えます。
「うちの場合は何から整理すればよいか」「作りかけの育成のひな型をどう使えばよいか」という段階でもご相談いただけます。無理にサービスの利用を勧めることはありませんので、自社の教え方を整理する機会としてご活用ください。