家族を中心に事務を担う専門工事会社で始まった後継者候補への引き継ぎ
後継者候補に事務を教える目的は、入力担当になってもらうことではなく、会社の仕事のつながりを理解してもらうことでした。
ある専門工事会社では、家族の若手が仕事を手伝い始めて、まだ数週間です。勤怠の確認や集計、見積書に関わるExcelの作成などを通じて、業務を覚えているところでした。
社内では、長年事務を担う家族が、お金に関する記録を今も紙に書いています。別の家族は、職人の配置や材料発注、工事台帳への入力を担当しています。そちらも忙しく、事務の引き継ぎに十分な時間を取りにくい状況です。
経営者は、若手に将来会社を継いでほしいという思いを持っていました。ただ、その期待は、本人にまだ明確には伝えていません。
「打ち込む作業を覚えてほしいんじゃなくて、なんでこれをここで打ち込んでいるのかを覚えてほしい」
そのため、操作だけなら短く説明できる仕事にも、時間をかけています。自分なら数十分で終わる作業を、一時間ほどかけて説明することもあるそうです。作業の速さより、その理由を共有する時間を大切にしていました。
業務を覚えてもらうことと毎日の入力を任せ続けることの混同
「理解してほしい業務」と「今後も本人が処理する業務」は、分けて考えたいところです。
経営者の考えは、はっきりしていました。
「外注するべき作業を今は覚えてもらっているけど、覚えたら外注したい」
若手には、仕事を理解したうえで、改善や仕組みづくりに進んでほしい。そのために、日々の定型作業は外へ任せたいのです。
ただ、教えている最中は、この切り替えが簡単ではありません。勤怠の確認を覚えれば、次の月も任せられます。台帳への入力ができれば、その担当として頼りになります。目の前の仕事は回りやすくなりますが、育成の目的とは別に、日々の作業が本人の役割として残る可能性があります。
一方で、最初からすべて外注すればよい、という話でもありません。業務の意味がわからないままでは、上がってきた集計表をどう確認するのか。予定と実績が違ったときに、何を確かめるのか。その判断が難しくなります。
悩みの中心は、外注するかどうかだけではありません。どこまで理解してもらえば日々の作業を手放せるのか、その区切りを決めることです。
自分ではできる仕事ほど説明が難しく仕組みに経営者の考えが残る事情
引き継ぎに時間がかかる背景には、操作手順だけでは伝わらない経営者の考え方があります。
「自分ではできるけど、人に説明するのは難しい」
この会社でも、若手に教え始めて、その難しさを感じていました。どこに何を入れるかだけなら説明できます。時間がかかるのは、その入力が何の確認につながるのかまで伝えようとしているからです。
たとえば勤怠では、フォームに届いた実績と、職人の配置予定を照合しています。単に回答を集計するだけではありません。予定と実績が合っているかを確かめる仕事です。
お金に関する業務も同様です。請求書の現場名、請求元、金額、日付を一覧にする作業と、その一覧を見て確認・判断する仕事は、つながっています。ただし、同じ人がすべて行う必要はありません。
経営者は、これまで自社に合う仕組みを自分で作ってきました。以前の仕組みを使わなくなっても、その試行錯誤が次の仕組みに生きていると捉えています。
「仕組みって、結局は会社の方針なんですよね」
若手に引き継ぎたいのは、現在の入力方法だけではないのです。なぜこの形にしたのか。何を見やすくしたかったのか。そうした積み重ねも含まれています。
だからこそ、作業を経験する時間は必要でも、経験した作業をずっと抱える必要はないと考えられます。
後継者が目的と判断を学び定型作業を外へ渡す二つの進め方
業務を学ぶ役割と、毎日処理する役割を分ければ、育成と外注化を両立しやすくなります。
進め方は、大きく二つあります。先に本人が業務を覚えてから外注する方法と、外注体制の立ち上げに本人も参加する方法です。どちらも、業務を理解したうえで改善へ進むという目的は同じです。
先に業務を経験し、理解できたところから外注する
今のように経営者が説明する時間を取れているなら、まず本人が作業を経験する方法が合いそうです。入力や照合を行いながら、その理由を確認できます。
ただし、習得の目安を「一人で入力できること」だけにしないほうが、次へ進みやすくなります。確認したいのは、次の内容です。
- 何のために入力・集計しているのか
- どの資料を見れば確認できるのか
- 結果が次に誰の確認・判断に使われるのか
- 食い違いがあったとき、誰に確認するのか
勤怠なら、フォームの実績と配置予定を照合する理由を理解できているか。請求書なら、一覧表の各項目が何の確認に必要なのか。そこまで共有できれば、定型的な処理を外へ渡す区切りを考えられます。
習得後は、作業担当として残すのではなく、外注後の確認や業務改善へ役割を移すことが大切です。
外注体制づくりに参加し、流れを整理しながら学ぶ
もう一つは、経営者と外部の担当者が業務を整理する場に、後継者候補も入る方法です。
何を任せるのか。資料はどこに置くのか。どの順番で処理するのか。どんな報告があれば社内で確認できるのか。これらを一緒に整理し、手順書づくりや立ち上げに参加します。
この方法なら、日々の作業をすべて自分で抱えなくても、業務の流れを学べます。外部とのやり取りにも参加すれば、任せる側として必要な説明も見えてきます。
ただし、立ち上げへの参加だけで、すべて理解できるとは限りません。経営者の考え方や重要な確認場面は、直接説明する時間も残したいところです。
手順書を、外注先への作業指示と、後継者が業務を理解するための共通資料として使う。この進め方が、繰り返し説明する負担の軽減にもつながります。
判断軸は、教える余裕と社内に残す確認の明確さ
どちらを選ぶかは、現在の教育状況と、担当者の負担で考えられます。
経営者が落ち着いて教えられ、本人も作業を通じて理解を深めているなら、習得後の外注化でよさそうです。別の家族が入力を抱え、引き継ぎに手が回らないなら、その業務から先に外注体制を作る方法もあります。すべてを同時に切り替える必要はありません。
共通して整理したいのは、社内に残す仕事です。
請求書なら、入力と一覧表の作成を外部へ任せ、社内ではその内容を確認・判断する形が考えられます。勤怠なら、予定と実績の照合を任せ、ずれがあった場合は社内に報告してもらいます。その理由の確認と修正内容の判断は、社内で行う形です。
また、外注先が変わるたびに経営者が一から説明していては、負担が残ります。手順書の作成に加えて、担当者への説明や作業品質の確認を誰が担うのかも、立ち上げ時に確認しておきたい点です。
外へ渡す処理、社内に残す判断、後継者に理解してほしい理由を、同じ業務の中で分けることが、進め方を選ぶ土台になります。
まとめ
後継者育成の区切りは、入力ができるようになった時点ではなく、その業務の目的と確認すべき内容を理解できた時点で考えたいところです。
この会社が望んでいたのは、事務を任せ続けることではありません。会社の仕事を理解し、その先の改善や仕組みづくりを担ってもらうことでした。
先に作業を経験してから外注する方法もあります。外注体制づくりに参加し、流れを整理しながら学ぶ方法もあります。今の教育時間と担当者の負担に合わせて、業務ごとに選べます。
まずは、教えている仕事について「何を理解してほしいか」「習得後に何を手放すか」「どの確認を社内に残すか」を整理するところからです。覚えることと抱え続けることを分ければ、引き継ぎを次の役割につなげやすくなります。
後継者に残す仕事と外へ任せる作業の整理から
後継者に何を教え、どこから外へ任せるかは、会社ごとの業務の流れで変わります。「うちの場合は、先に覚えてもらうほうがよいのか」「今の引き継ぎを続けながら整理できるのか」という段階でも、ご相談いただけます。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。後継者への引き継ぎでは、業務の目的、社内に残す確認・判断、外へ任せる作業を整理し、手順書づくりや運用体制の検討につなげます。
外注を先に決めるのではなく、後継者に担ってほしい役割から一緒に考えます。無理にサービスの利用をおすすめすることはありませんので、何から整理するか迷っている段階でも、お気軽にご相談ください。