前提

社員面談と採用向け撮影で表面化した親族経営の行き詰まり

採用や育成を進めたいのに社員の協力を得られないときは、施策の内容だけでなく、会社として依頼や指示が通る状態かを確かめる必要があります。

ある住宅関連の工事を担う建設会社では、採用に向けてホームページの整備や撮影を進める一方、社内の状況を把握するため、複数の社員への面談も行っていました。ところが、面談に応じない社員がおり、撮影でも十分な協力を得られない場面がありました。

背景にあったのは、会長・社長と、別の親族役員らとの対立です。外部支援を入れること自体に反対する関係者もおり、撮影について事前に知らせると話がこじれるとして、一部の関係者には伝えないまま準備が進められていました。

経営側には「このままバラバラでは、人の採用も育成も難しい」という危機感がありました。ただし、社員が何に不信を持ち、誰を頼りにしているのかは、経営側の説明だけでは捉えきれない状態だったのです。

課題

社員の非協力を解く前に必要な会社としての意思決定の立て直し

問題の中心は、社員の意欲だけではなく、経営陣の対立によって会社の方針と指示命令系統が機能しにくくなっていることでした。

社員面談からは、現経営陣への不信だけでなく、経営側が問題視している親族役員を高く評価する声も出ていました。長く勤める社員からは、「会社の立て直しには、その人が社長になるべきだ」という趣旨の意見も聞かれています。

一方で、面談に出席したからといって、経営陣を支持しているとは限りませんでした。面談を担当した側には、親族間の揉め事から距離を置き、自分の仕事を続けようとしている社員もいるように見えていました。

ここで「協力しない社員の意識を変えよう」と進めると、会社の問題が社員個人の姿勢の問題に置き換わってしまいます。採用向け撮影への参加を増やせても、経営陣が何を目指すのか、誰の判断で動くのかが曖昧なままでは、その先の育成や組織づくりにつながりにくいからです。

まず整理したいのは、誰が誰の味方かではありません。会社として決めたことを実行できない理由と、その状態を変えるために合意が必要な関係者を把握することが先です。

背景

主要取引先の担当変更をめぐって食い違った経営側と社員側の受け止め

対立を長引かせていたのは、過去の人事や担当変更について、関係者の間で共通の理解ができていなかったことです。

経営側の説明では、数年前から親族間で役職や取引先の担当をめぐる対立があり、その後、主要取引先の意向によって、ある親族役員が担当を外れたとされていました。しかし、その理由が本人に十分伝わったのかは明らかではなく、経営側が意図的に外したと受け止められている可能性がありました。

社員側の見方は、さらに異なっていました。面談では、その役員と取引先との衝突について、「職人を守るために意見を言った」という趣旨の説明がありました。経営側には取引上の問題と見えていた出来事が、社員側には現場を守った行動と映っていたのです。

また、ある施工管理担当者についても、経営側は多くの現場を抱えて頑張っていると評価する一方、社員側からは、仕事を処理しきれておらず、ほかの担当者にも影響しているという見方が出ていました。誰を評価するかだけでなく、同じ仕事の状態についても認識が分かれていました。

ただし、これらはそれぞれの立場から語られた内容です。「職人を守った」「意図的に外した」「処理しきれていない」という説明を、そのまま確認済みの事実として扱うことはできません。

主要取引先についても、経営側から「特定の役員が担当に戻るなら、取引を考えると言われている」との説明がありましたが、取引先自身の見解や、その発言の対象・条件は直接確かめる必要が残っていました。

同じ出来事に対する評価が逆転しているときは、片方の説明に沿って人事や改革の結論を急がず、何が確認できていて、何が未確認なのかを分けることが出発点になります。

解決

社員と主要取引先への確認を土台にした第三者進行の協議

採用や育成を本格的に広げる前に、事実確認、対立する関係者を含む協議、会社としての方向性の合意という順番を整えます。 外部の役割は、どちらかの主張を通すことではなく、関係者が同じ材料を見て判断できる状態をつくることです。

1.社員面談の内容を「出来事」と「受け止め」に分ける

面談結果は、賛成派・反対派の一覧にするのではなく、確認できた出来事と、それに対する評価を分けて整理します。この会社であれば、次の区別が重要です。

  • 面談への欠席や撮影で協力を得られなかった場面と、その理由についての推測
  • 取引先の担当が変わった経緯と、「経営側が意図的に外した」という受け止め
  • 現場の担当状況と、「頑張っている」「処理しきれていない」という評価

「社員がそう話していた」ことと、「話の内容が事実として確認できた」ことは別です。一方で、事実と一致するかどうかにかかわらず、その受け止めが経営陣への不信につながっている点は、会社として向き合う材料になります。

面談に応じなかった社員についても、欠席だけで特定の親族側に属すると決めつけないことが大切です。理由を確認できていなければ、未確認のまま残しておきます。

2.主要取引先の意向を経営側からの伝聞だけで判断しない

取引継続や担当変更に関わる話は、会社の方向性を左右するため、主要取引先に直接確認する必要があります。特に確かめたいのは、次の点です。

  • 過去の担当変更は、どのような事情と要請によるものだったのか
  • 当時の担当者個人への評価と、会社の施工体制への評価はどう違うのか
  • 現在、会社として改善を求められていることは何か
  • 今後の取引について、実際に示されている条件はあるのか

取引先の担当者と親族経営者との長年の関係もあるため、誰から聞いた、どの時点の見解なのかを明確にします。過去の評価を、そのまま現在の取引条件として扱わないためです。

目的は、取引先に社内の勝ち負けを決めてもらうことではありません。会社の施工体制と取引を続けるために、何を整える必要があるのかを確かめることです。

3.対立する関係者を含め、会社の今後を話す場を設ける

事実確認を進めたうえで、会長・社長だけでなく、対立している親族役員らも含めた協議の場を設けます。経営側だけで改革案を固め、相手に受け入れてもらおうとする形では、これまでの対立を繰り返しやすいためです。

進行は第三者が担い、まず会社の現状、次に現状を変えない場合の影響、そのうえで今後の方向性を共有します。社員の協力を得られていないこと、施工体制への評価が分かれていること、取引先から実際に求められていることを、確認できた範囲で並べます。

話し合う軸は「過去に誰が悪かったか」だけではなく、「会社と働く人たちのために、これから何を変えるか」です。過去の経緯を無視するのではなく、今後の判断につながる形で扱います。

当事者同士では席を設けにくい場合、主要取引先の意向と協力を確認し、協議への参加を働きかけてもらうことも選択肢になります。ただし、外部支援が誰の依頼で、何を目的に入っているのかは、実際の関係に沿って説明する必要があります。

4.人事変更は権限の有無だけでなく社員離脱への影響も踏まえる

この会社では、役員を外すことについて、「できないことはないかもしれないが、実行すれば会社が持たないのではないか」という懸念がありました。対象となる役員らが辞めるだけでなく、その人を支持する社員も離れる可能性があるためです。

これは、何もしないほうがよいという意味ではありません。人事変更を決められるかと、変更後も施工体制を維持できるかは、別々に判断する必要があります。 役職を変えれば指示が通るようになるとは限らず、社員が誰を頼りに仕事をしているかも踏まえて考えます。

そのうえで、協議に参加する意思があるか、現状を変える必要性を共有できるか、会社の方向性について合意できるかを確かめます。合意がない段階で、社員向けの意識向上や育成施策を広げても、社員個人の努力にとどまりやすいからです。

すでに決まっているホームページ整備などは、進められる範囲で区切りまで進める一方、組織改革とは分けて扱います。外部支援についても、一定の期間で合意の進み具合を確認し、支援範囲や継続の可否を見直す判断が必要になります。

まとめ

親族間の対立で社員の協力を得にくい会社では、採用・育成の強化より先に、事実を共有し、会社として意思決定できる土台を整えることが優先です。

社員面談は、経営側の説明を裏づけるためではなく、経営側からは見えにくい評価や不信を知るために使います。主要取引先の意向も直接確認し、確認できた出来事と、立場ごとの評価・推測を分けていきます。

その材料をもとに、対立する関係者を含む場を第三者の進行で設け、現状、放置した場合の影響、今後の方向性を話し合います。外部が経営陣の合意を代わりにつくることはできませんが、合意に向けて話すための材料と場を整えることはできます。

最初からすべての対立を解消しようとするより、まずは「会社の現状を同じ材料で見る」「今後について話す場に参加する」という合意から始めることが、次の一手になります。

採用を進める前に、社内の合意づくりから整理したい方へ

「採用の問題だと思っていたが、経営陣や社員との関係から整理したほうがよいのかもしれない」という段階でも、相談は可能です。

ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。親族間の対立が関わる場合も、最初から特定の人事変更を前提にせず、何が確認できているか、誰との協議が必要か、外部が担える範囲はどこかを一緒に整理します。

「うちの場合、何から確かめればよいか」というところからお聞かせください。無理に支援の導入をお勧めすることはありませんので、状況を整理する次の相談先としてご活用ください。

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