職人が20名弱まで増える一方、内勤は社長一人という専門工事会社
神奈川県を拠点に、大規模修繕の塗装・防水・シーリング工事を手がける、20名弱の専門工事会社があります。売上は4億円前後。施工エリアは東京・神奈川が中心です。
職人採用は好調でした。約4か月で40人ほどと面接し、半年ほどで6人を採用。営業にも力を入れ、社長自ら月3〜4件の面談に出向いています。
一見すると、会社は順調に成長しています。しかし、組織の内側では別の負荷が膨らんでいました。
「内勤は僕しかいないんです」
「事務、経理、営業、積算、面接まで全部僕です。パソコンを触れるのも僕だけなので、地獄なんですよ」
職人は増えても、内勤を担う人は増えていません。採用が進むほど面接や入社対応が増え、受注を伸ばそうとするほど営業や積算も増えます。
現場の人数が増えたことと、社長の仕事が減ることは別問題です。むしろ業務分担がないまま成長すると、社長の負担は売上と人数に連動して増えていきます。
経理・事務・営業・積算・面接のすべてが社長に集まる構造
この会社の課題は、単純な人手不足ではありません。社長以外に仕事を渡せる状態になっていないことです。
社長は事務担当者の募集も続けていました。しかし、応募してくるのは職人が中心でした。
「事務の募集はずっとしているんですけど、職人しか来ないです」
採用できるまで待つだけでは、社長の負担は変わりません。一方で、焦って事務担当者を採用しても、社長の頭の中にある業務をそのまま渡すことは難しいものです。やり方や判断基準が言語化されていなければ、確認や手直しが増え、かえって忙しくなる可能性もあります。
特にこの会社では、次の仕事が一人に集中しています。
- 経理
- 事務
- 営業
- 積算
- 採用面接
この中には、社長が担う意味の大きい仕事もあります。会社の受注方針を決める営業や、採否を左右する面接などです。
一方で、必ずしも最初から最後まで社長が抱える必要のない仕事も含まれています。問題は、それらが一つの塊になっていることです。
「事務担当者を一人採用する」という考え方だけでは、業務分担は進みません。まず必要なのは、社長の仕事を業務単位に分解することです。
採用と営業が伸びるほど社長の実務も同時に増える成長のねじれ
負担が増えた背景には、会社が停滞しているのではなく、成長に向けて複数の施策を同時に動かしている事情があります。
同社はそれまで7〜8人ほどで推移していましたが、採用支援を活用したことで応募と面接が一気に増えました。営業活動も本格化し、社長が自ら新しい取引先との接点を増やしています。
「仕事が来たら人を増やそう、必要になったら資格を取ろう、という感じでやってきました」
現場に応じて素早く動けるのは、中小建設会社の強みです。ただし、人員や受注が先に増えると、その裏側にある内勤業務も後から膨らみます。
採用が増えれば面接が増えます。職人が増えれば事務や経理の対象も増えます。取引先が増えれば営業と積算が増えます。それでも内勤が社長一人のままなら、増えた仕事はすべて同じ場所に集まります。
ここで起きているのは、社長の能力や頑張りの問題ではありません。現場組織は拡大しているのに、内勤の体制だけが創業時のまま残っている状態です。
さらに、「パソコンを扱えるのは社長だけ」という状況では、作業だけでなく情報も社長に集まります。誰かに任せようとしても、どこまで渡してよいかを判断しにくくなります。
社長しかできないから抱えているように見えて、実際には、社長しかやり方を知らないために手放せなくなっている仕事もあります。
売上への影響・専門性・属人性・頻度で社長の仕事を切り分ける方法
最初の一手は、事務担当者の採用ではなく、社長が担っている仕事の棚卸しです。
経理、事務、営業、積算、採用面接という大きな分類だけでは、まだ任せ先を決められません。それぞれについて、どのような情報を受け取り、何を判断し、何を完成させているのかを順番に書き出します。
そのうえで、次の4つの軸から整理すると、社長が残す仕事と任せる仕事を分けやすくなります。
1.売上への影響が大きいか
受注条件の判断や重要取引先との関係づくりなど、売上への影響が大きい仕事は、当面は社長が持つ選択肢があります。
ただし、「営業はすべて社長」と一括りにする必要はありません。社長が担うべき判断と、その前後にある準備・連絡・情報整理は分けて考えられます。
社長が残すべきなのは営業という職種全体ではなく、社長の判断や関係性が成果を左右する部分です。
2.高い専門性が必要か
積算や経理など、知識や経験が必要な業務は、誰にでもすぐ渡せるわけではありません。一方で、専門性が必要だからといって、社長本人が担い続ける必要があるとも限りません。
社内で育てるのか、経験者を採用するのか、社外へ依頼するのか。必要な専門性と業務量を見ながら決めます。
業務量がまだ一人分に満たないなら、正社員採用だけに絞らず、外部人材を必要な範囲で活用する方が合う場合もあります。
3.社長への属人性が高いか
「社長しかできない仕事」と「やり方が共有されていない仕事」は分けて考える必要があります。
取引先との最終交渉や採用の最終判断は、社長への属人性が高い仕事です。一方、社長が行っているという理由だけで属人化している業務は、手順と判断基準を整理すれば移管できる余地があります。
棚卸しでは、各業務について次の3点を残します。
- 業務を始めるために必要な情報
- 作業の順番と途中の判断基準
- 完了とみなす状態
標準化とは、立派なマニュアルを作ることではありません。別の人が同じ仕事を再現できる最低限の情報を残すことです。
4.どの程度の頻度で発生するか
毎日発生する仕事と、月に数回しか発生しない仕事では、適した任せ先が異なります。
頻度が高く、手順がある程度決まっている仕事は、既存社員への移管や内勤担当者の採用と相性があります。頻度は低いものの専門性が高い仕事は、外注を含めて考えやすい領域です。
反対に、発生頻度も重要度も高い仕事を社長一人に残すと、会社が成長するほど再び詰まりやすくなります。
4つの軸で整理した後は、次の3つに分けます。
- 社長が持ち続ける仕事
- 社内の既存社員または新しい担当者へ移す仕事
- 社外へ切り出す仕事
一度にすべて移管する必要はありません。まずは一つの業務を選び、手順を共有し、一定期間動かしてから見直します。
任せた後に確認が増えた場合も、すぐに「やはり自分でやった方が早い」と戻さないことが大切です。どの情報や基準が足りなかったのかを確認し、標準化の内容を更新します。
業務分担は、一度決めて終わるものではありません。移管して、確認して、やり方を整えるところまでが一つの流れです。
まとめ
職人採用が進み、売上が伸びていても、経理・事務・営業・積算・採用面接が社長に残ったままでは、社長の仕事は減りません。
この状態で必要なのは、すぐに事務担当者を一人採用することだけではありません。まず社長の仕事を棚卸しし、売上への影響、専門性、属人性、頻度の4軸で分けることです。
そのうえで、社長が残す仕事、既存社員や新しい担当者へ移す仕事、社外へ切り出す仕事を決めます。
会社の成長に合わせて現場の人数を増やすだけでなく、社長に集まる仕事の流れも組み替えることが、次の成長余地をつくります。
社長に残す仕事と任せる仕事を一緒に整理するために
「何を任せればよいかわからない」「事務を採用すべきか、外へ出すべきか判断できない」という段階でも、まずは現在の業務を書き出すところから始められます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。業務の棚卸しや役割分担、外部人材の活用を含め、自社に合う内勤体制を一緒に検討できます。
無理に特定のサービスをおすすめすることはありません。「うちの場合は、どこから分けるとよいか」を整理したい段階から、お気軽にお声がけください。