異業種から迎えた後継者に会社を託そうとする東海地方の建設会社
後継者に経営管理の知識があっても、職人との関係は入社後に育てていく必要があります。 三重県にある建設会社でも、異業種から迎えた後継者をどう育てるかが、事業承継に向けた大きな悩みになっていました。
住宅関連の施工に加えて公共工事も手がけるこの会社では、60代後半の社長が承継を考えていました。長く働く社員がいる一方、新しい人の入社は十数年途絶えており、後継者は、すでに関係のできあがった組織に入ることになります。
新たに迎えた後継者は、会計や労務に関わる支援会社の出身です。経営管理に生かせる経験を持っていることは、会社にとって心強い材料でした。ただ、建設現場で働いてきた人ではありません。
社長の悩みには、過去の承継の経験も重なっていました。以前にも異業種出身の親族を後継者として迎えたものの、その人は退職し、元の仕事に戻っています。今度こそ引き継いでもらいたいという思いが、育成方針にも影響していました。
※所在地や年齢などは、企業が特定されないよう一部調整しています。
現場を覚えさせたい気持ちと、負担をかけて辞めてほしくない気持ちの間での迷い
悩みの中心は、現場経験をさせるかどうかではなく、何を目的に、どこまで経験してもらうかが定まっていないことです。
以前の後継者には、「まず現場を覚えてほしい」という考えから、現場に出る機会を多く設けていたといいます。その後、本人は会社を離れました。退職の理由を現場教育だけに絞ることはできませんが、社長には、現場での負担をかけすぎたのではないかという受け止めがありました。
その経験から、次の後継者については、「今度は失敗できない。あまり現場経験をさせずに、社長を任せようと思う」という方向に考えが傾いていました。
一度、後継者が離れてしまった経験があれば、同じことを繰り返したくないと考えるのは自然です。ただ、現場との接点そのものを減らすと、今度は職人の仕事や考え方を知る機会まで少なくなります。
ここで分けて考えたいのは、現場作業を習得することと、現場を理解して職人との信頼を育てることです。前者の負担を調整しながら、後者を進める道はあります。現場に出すか、出さないかの二択にしないことが、育成方針を考える出発点になります。
会計や労務の経験だけでは引き継げない、長年の職人との関係
経営管理の知識と、職人から信頼されることは、重なる部分があっても同じものではありません。 会計や労務の経験は承継後の経営に生かせますが、それだけで職人が後継者の人となりを理解できるわけではないからです。
この会社の後継者は、入社したばかりでした。人柄や現場との関わり方についても、まだ十分に把握できていない段階です。経歴だけを見て「経営は任せられる」と判断することも、「現場出身ではないから難しい」と判断することも、早い段階でした。
現場経験の必要性については、「一緒に片付けをするなどしながら、職人とよく話をすることが大事」という見方が示されていました。求められていたのは、後継者を短期間で一人前の職人にすることではありません。現場に足を運び、同じ場所で動き、相手の話を聞く姿勢です。
長く働く職人にとって、新しい後継者は、これから関係をつくる相手です。後継者にも、職人が何を大切にして働いているのかを知る時間が必要になります。肩書を渡すことと、その人に会社を任せたいと思ってもらうことは、別の過程として捉えたいところです。
また、別の建設会社では、もともと会社員だった社長について、職人への理解があり、面倒見のよい人柄が評価されていました。異業種出身という経歴そのものより、入社後に現場とどう向き合うかが、関係づくりの重要な判断材料になります。
片付けや対話を現場理解の入口にし、本人に必要な経営教育と組み合わせる育成
現場での関係づくりと経営教育を分けて設計し、後継者の経験に応じて組み合わせることが、無理なく承継を進める方向です。 「現場を全部覚えてから経営へ」という一律の育て方ではなく、すでに持っている力と、これから育てたい力を整理します。
現場に行く目的を、作業の習得だけにしない
まず整理したいのは、社長が後継者に期待する「現場を覚える」の中身です。施工そのものをできるようになってほしいのか、職人の仕事を理解してほしいのか、職人と直接話せる関係になってほしいのかで、必要な経験は変わります。
この会社で挙がった具体策は、現場で一緒に片付けをすることと、職人とよく話をすることでした。作業の習得だけを目標にしなければ、現場に出ることを、相手の仕事や人となりを知る機会として位置づけられます。
現場経験を減らす場合も、職人との接点までなくさないことが大切です。 過去の負担を避けることと、現場から離して育てることは、同じではありません。一緒に片付けをし、話を聞くという関わり方なら、現場理解と関係づくりを目的として共有しやすくなります。
経歴だけで適性を決めず、実際の関わり方を見る
育成方針は、前職の肩書だけで決めず、本人の人柄や現場との接し方を踏まえて考えます。以前の後継者と同じ異業種出身でも、得意なことや、負担に感じることが同じとは限りません。
この会社でも、新しい後継者本人の人柄は、まだ十分につかめていませんでした。その段階で、現場中心か経営中心かを決めきるより、本人を知り、職人との関わり方を見ることが先になります。
整理する際には、次の三つを分けると考えやすくなります。
- すでに持っている経験:会計や労務など、経営管理に生かせる知識や実務経験です。
- 現場で育てたい理解と関係:職人の仕事を知ること、話を聞くこと、上からの目線にならずに関わることです。
- 経営を担うために補いたい学び:本人の経験だけでは足りない、経営の考え方です。
この区分であれば、「現場ができない」という一つの評価にまとめず、何を生かし、何を補うかを具体的に考えられます。
現場を知る人と、経営管理を知る人で学びの配分を変える
別の建設会社では、現場を理解している後継者候補に、月に一度、経営者向けの研修を受けてもらっていました。すでにある現場経験に、経営の考え方を加える育て方です。
会計や労務の経験を持つ後継者なら、経営教育だけを重ねるのではなく、現場理解と職人との関係を育てる機会にも目を向ける必要があります。一方で、管理業務の経験があることだけを理由に、会社経営全般を任せられると決めることも避けたいところです。
育成の配分は、後継者の不足を一律に埋めるのではなく、持っている力を生かしながら、現場理解・信頼・経営の学びを補う考え方で決めます。 過去の後継者にかけた負担をそのまま繰り返さず、かといって現場との接点をなくさない。その間に、自社と本人に合った育成の形があります。
まとめ
異業種出身の後継者を育てる際は、経営管理の知識と職人からの信頼を、別々に確かめながら育てることが大切です。
現場を覚えさせようとして負担が大きくなった経験があると、次は現場に出さない方がよいと考えたくなります。ただ、作業の習得と関係づくりを分ければ、片付けを一緒にする、職人の話を聞くといった形で、現場との接点を持つことができます。
最初に整理したいのは、「どれだけ現場に出すか」よりも、「現場で何を理解し、誰とどのような関係を育ててほしいか」です。そのうえで、本人の経歴や人柄を踏まえ、必要な経営教育を組み合わせると、育成の方向が見えやすくなります。
後継者と現場の接点を、自社に合う形で整理するために
「うちの後継者には、どこまで現場を経験してもらうべきか」という段階から、育成の進め方を整理できます。 現場経験を増やすか減らすかを決める前に、本人の強みと、職人との関係づくりに必要な接点を分けて考えることが、その一歩になります。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。事業承継に向けた後継者育成についても、現場との関わり方や経営教育を含め、自社に合う進め方を一緒に考えます。
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