少人数で施工管理を担いながら、不動産会社から新築工事を一括受注したい地域工務店
北関東で注文住宅や改修工事を手がける、少人数の工務店があります。社長が案件獲得を担い、家族役員が現場を管理し、実際の施工は協力会社へ依頼する体制です。
これまで新築は一般顧客から直接受注するBtoCが中心でしたが、近年は設計会社などから新築工事を受ける機会も生まれています。その中で見えてきたのが、不動産会社との提携によるBtoBの新築受注です。
社長の構想は明確でした。
「不動産会社には営業に特化してもらい、積算も現場管理も協力会社の手配も、建築に関することは全部こちらで担いたい」
地域の不動産会社には、土地情報や顧客との接点がある一方、建築機能を持たない会社も少なくありません。自社ブランド住宅や戸建て賃貸を始めたくても、積算担当者、経験のある現場監督、施工ネットワークを一からそろえるのは簡単ではないからです。
そこで、不動産会社が営業と土地情報を担い、工務店が建築機能を一括で担う役割分担が選択肢になります。工務店にとっても、一般顧客からの問い合わせだけに依存せず、新築案件の入口を増やせる提携モデルです。
不動産会社へ「何でもできます」と伝えるだけでは、一括受注の提携に進みにくい状態
一括請負の提案で最初に整理したいのは、営業先の数ではなく、提案内容です。
地域の不動産会社を一覧化しても、「ここにどう営業すればよいのか、あまり想像できない」という状態では、名刺交換や挨拶で終わってしまいます。相手から見ても、工務店の施工実績を紹介されるだけでは、自社の事業にどう組み込めるのか判断できません。
不動産会社が知りたいのは、単に新築を施工できるかどうかではなく、次のような点です。
- 建築のどの工程まで任せられるのか
- 不動産会社側で用意すべき人員や業務は何か
- 見積もりから引き渡しまで誰が責任を持つのか
- 戸建て賃貸や自社ブランド住宅にも対応できるのか
- 継続発注した場合も品質と工程を維持できるのか
つまり、売るべきものは「工事」だけではなく、不動産会社が建築部門を自前で持たずに新築事業を進められる体制です。
一方で、工務店側が責任範囲を曖昧にしたまま「丸ごと任せてください」と提案すると、受注後に積算、設計調整、現場対応、追加変更の負担が集中します。案件が増えても利益が残らなければ、継続できる提携にはなりません。
土地と顧客を持つ不動産会社でも、積算担当者・現場監督・施工網まで内製するのは難しい事情
この提携モデルが成り立つ背景には、不動産会社と工務店が持つ機能の違いがあります。
不動産会社は、土地を探している顧客との接点や物件情報を持っています。地域内での認知度が高く、営業に強い会社もあります。しかし、建築事業へ進出するには、土地や顧客がいるだけでは足りません。
分離発注で新築工事を組み立てるなら、各工種の見積もりをまとめる積算機能、工程を組む現場監督、施工を担う協力会社の確保が必要です。発注先が増えるほど調整も複雑になります。
相談企業からも、次のような見方が示されていました。
「戸建て賃貸をやりたくても、分離発注は手間がかかります。積算ができる人や経験のある現場監督を入れないと、なかなか形になりません」
だからこそ、営業力はあるものの建築機能を持たない不動産会社には、一括して任せられる工務店との提携余地があります。
ただし、すべての不動産会社が対象になるわけではありません。原状回復や小規模修繕では、価格を最優先し、より安い施工会社へ発注先を切り替える会社もあります。実際、少額の見積もりを何度も提出しても受注につながらず、管理負担だけが増えるケースがありました。
一括受注の提携先として優先したいのは、次のような会社です。
- 自社ブランド住宅や戸建て賃貸を展開したい
- 土地情報や顧客との接点を持っている
- 建築部門や経験のある現場監督を抱えていない
- 分離発注の手間を減らしたい
- 単発の最安値発注ではなく、継続的な事業として新築を扱いたい
「不動産会社だから狙う」のではなく、「営業機能はあるが、建築機能が不足している会社」を狙うことが重要です。この条件を置くだけでも、提案先の精度は大きく変わります。
営業・土地情報と積算・施工管理を分け、受注前に責任範囲と採算条件を合意する提携設計
提携を継続受注につなげるには、最初から大きな枠組みを組むより、役割分担と採算条件を一つずつ明確にする進め方が現実的です。
1.不動産会社と工務店の役割を分ける
基本となる役割分担は、次の形です。
領域 | 不動産会社 | 工務店 |
|---|---|---|
土地情報の収集 | 主担当 | 建築条件を確認 |
顧客開拓・営業 | 主担当 | 建築面から提案を支援 |
積算・見積もり | 必要情報を共有 | 主担当 |
施工計画 | 要望を共有 | 主担当 |
現場管理 | 顧客窓口を調整 | 主担当 |
協力会社の手配 | 原則不要 | 主担当 |
品質・工程管理 | 進捗を確認 | 主担当 |
この表のように、不動産会社は「売ること」に集中し、工務店は「建て切ること」に責任を持つ形を提案の中心に据えます。
ただし、顧客との仕様調整、追加変更の承認、引き渡し後の対応などは、双方の業務が重なりやすい領域です。誰が窓口となり、どの時点で工務店へ情報を渡すかまで事前に決めておく必要があります。
2.「一括で担える内容」を具体化する
「建築は全部できます」という表現だけでは、提供価値が伝わりません。提案時には、少なくとも以下を具体化します。
- 対応できる建物:注文住宅、建売住宅、戸建て賃貸など
- 対応エリア:現場管理と協力会社手配が無理なくできる範囲
- 対応業務:積算、工程管理、協力会社手配、施工管理
- 受注条件:想定する棟数、工期、見積もり期間
- 先方に求める情報:土地条件、顧客要望、予算、希望時期
この整理により、不動産会社は自社ブランド住宅を始める際に、何を自社で用意し、何を任せられるのか判断できます。
提供価値は「施工力」だけでなく、建築担当者を新たに採用しなくても事業を動かせることです。積算担当者や現場監督の採用が難しい会社ほど、この価値が伝わりやすくなります。
3.受注件数より先に、採算が合う案件条件を決める
不動産会社との取引では、見積もり依頼の多さが必ずしも利益につながるとは限りません。少額工事を大量に受けるより、一定規模の工事を定期的に受けたいという工務店も多いはずです。
新築の一括受注でも同様に、次の条件を事前に確認します。
- 積算や現地調査にかかる工数
- 現場監督が同時に管理できる棟数
- 協力会社を安定して手配できるエリア
- 追加変更が発生した場合の費用負担
- 受注額から施工原価と管理工数を差し引いた利益
とくに少人数の工務店では、案件数が増えるほど現場管理が詰まりやすくなります。「受注できるか」だけでなく、「今の管理体制で利益を残して完工できるか」を案件選定の基準にすることが欠かせません。
4.最初の案件を品質管理のひな型にする
継続提携を目指す場合、最初の一棟は売上だけでなく、今後の標準をつくる案件になります。
積算から協力会社への発注、工程確認、検査、引き渡しまで、誰が何を管理したかを残します。不動産会社への進捗共有方法も決め、次の案件で同じ流れを再現できるようにします。
施工を協力会社へ流し、社内では現場管理を担う体制なら、品質を左右するのは職人個人だけではありません。工務店側が工程と確認事項を統一し、協力会社を管理できるかが重要です。
一棟目で利益、工程、品質、情報共有を検証し、再現できる形にしてから棟数を増やす。この順序なら、少人数の会社でも提携先を増やしやすくなります。
5.営業先は規模だけでなく、建築機能の不足度で選ぶ
対象企業を抽出するときは、売上規模や所在地だけで決めないことも大切です。地域内の移動距離を考え、施工可能エリアを絞ったうえで、各社の事業内容を確認します。
優先順位を付ける際は、次の順で見ると整理しやすくなります。
- 自社ブランド住宅や戸建て賃貸への意向があるか
- 土地情報や顧客基盤があるか
- 自社内に建築会社、積算担当者、現場監督がいるか
- 最安値だけでなく、一括対応や管理負担の軽減を評価するか
- 自社の施工可能エリアと合っているか
すでに建設子会社を持ち、指定単価で施工会社へ発注している大手不動産会社は、価格競争になりやすい場合があります。反対に、営業力はあっても施工体制を持たない地場企業は、工務店の一括対応が提案価値になりやすい相手です。
まとめ
不動産会社から新築工事を一括受注するには、単に施工実績を伝えるだけでは足りません。
不動産会社が営業と土地情報を担い、工務店が積算・施工管理・協力会社手配を担う提携モデルとして提案することが出発点です。
そのうえで、狙う企業を「営業力はあるが建築機能が不足している会社」に絞り、責任範囲、対応エリア、採算条件、品質管理の方法を明確にします。
最初から棟数を追う必要はありません。まず一棟で役割分担と収支を検証し、同じ進め方を再現できるようにすることが、継続受注への近道です。
工務店が提供するのは建物だけではなく、不動産会社が建築部門を持たずに新築事業へ進める仕組みです。この視点で提案を組み直すと、価格だけで比較されにくい関係をつくりやすくなります。
自社に合う不動産会社との提携条件を整理したい方へ
不動産会社との提携を考えていても、「どの会社を狙うべきか」「どこまで一括で引き受けるべきか」「今の現場管理体制で回せるか」は、会社ごとに異なります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、販路拡大、現場、組織、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。不動産会社向けの提案内容や対象企業の条件など、まだ構想段階でも一緒に整理できます。
無理に営業を進めることはありません。「うちの場合は、何から決めればよいのか」という段階でも、次の整理先としてご活用ください。