大規模修繕が中心で、未経験者を採用しても最初に任せられる防水工事が少ない状態
首都圏で大規模修繕の防水工事を手がける、ある専門工事会社では、未経験者の採用を進めています。一方で、採用後の育成に使える現場が限られていました。
主力となる大規模修繕は、工期も施工範囲も大きく、品質に対する責任も重くなります。経験の浅い職人に、いきなり一つの区画や工程を任せるのは簡単ではありません。
そこで経営者が求めていたのが、1週間から10日ほどで完了する小規模工事でした。
「若い子が入ってきたときに、いきなり大きな現場でやらせるのではなく、少し小さな現場で経験を積ませたいんです」
実際にイメージされていたのは、クリニックなどの比較的小規模な防水工事です。売上をつくるだけでなく、先輩と一緒に入り、部分的な作業を任せ、最終的には一人で担当できる状態へ進むための現場として捉えていました。
未経験者を採用するなら、求人だけでなく「入社後に何を経験させるか」まで含めて仕事を確保する必要があります。
若手に任せやすい1週間前後の工事が、通常の営業活動では安定して集まらない問題
小規模工事を増やしたいと考えても、単純に小さな建物へ営業すればよいわけではありません。
不動産管理会社や施設運営会社へ直接営業すると、防水だけではなく、足場、塗装、床などを含む一式工事を求められることがあります。実際、「一式で受けられるならお願いしたい」という反応もありました。分離発注をしていない発注者に対して、防水だけで入り込むのは難しくなります。
一方、戸建てや小規模改修を扱う工事会社では、付帯する防水工事まで自社で施工できる場合があります。工事の規模が小さくても、必ずしも外注されるとは限りません。
この会社でも、短工期の防水工事を外部へ出す会社との接点ができましたが、経営者は「今回のような出し方は、かなり珍しいと思います」と見ていました。発注元の人員配置や案件の重なり、品質への考え方など、複数の条件がそろった結果だったからです。
つまり、育成に使える小規模工事は、待っていれば安定的に入ってくる仕事ではありません。
さらに注意したいのは、小規模工事だからといって、若手に任せやすい工事とは限らないことです。施設が稼働したままの工事では、施工面積よりも臭気、騒音、施工時間などの制約が難易度を左右します。
必要なのは「小さい仕事を増やす営業」ではなく、「若手が段階的に経験を積める条件の仕事を選んで増やす営業」です。
大規模現場と単独作業の間をつなぐ、育成用の現場設計が不足している状態
大規模現場では、先輩の補助として現場に入ることはできます。ただし、補助を続けるだけでは、自分で段取りを考え、決められた範囲を完了させる経験が不足しやすくなります。
経営者が小規模工事に期待していたのは、その間を埋める役割でした。
「1週間で終わるような仕事があると、次の現場へ進むためのステップになります」
この発言から見えるのは、工事規模そのものより、若手が仕事の始まりから完了までを見通せることの重要性です。長期間にわたる大規模修繕では、自分の作業と工事全体のつながりを理解するまでに時間がかかります。短期間の工事であれば、先輩の指示を受けながらでも、一連の流れを経験しやすくなります。
ただし、小規模工事をそのまま若手へ渡すだけでは育成になりません。顧客の建物を「練習台」にすることはできないためです。どの作業を任せるか、誰が確認するか、どの状態をもって完了とするかを、受注前から決めておく必要があります。
また、営業先によって工事の性質も変わります。クリニック、保育園、幼稚園などの施設工事については、次のような懸念が挙がっていました。
- 材料や施工に伴う臭気をどこまで抑えられるか
- 利用者がいる時間帯に騒音が発生しないか
- 休園日や休診日など、施工可能な期間に収められるか
- 施設を運営しながら施工できる内容か
「できたとしても、臭いの問題があります。期間も限られますし、音が出る作業は利用者がいるときにはできません」
こうした現場は短工期でも、周辺への配慮や工程管理の難易度が高くなります。若手の育成候補にはなり得ますが、最初の単独現場として適しているとは限りません。
育成現場に必要なのは短い工期だけではなく、作業範囲が明確で、先輩が確認でき、施設運営上の制約を管理できることです。
営業先の選定から品質確認までを一つにつなげる小規模工事の育成設計
小規模工事を育成の場として確保するには、営業、受注判断、現場配置を別々に考えないことが大切です。次の順番で整理すると、自社に合う案件を見極めやすくなります。
1.工事の大きさではなく、若手に任せられる条件を決める
最初に、「1週間程度の工事が欲しい」といった工期だけの条件から一段掘り下げます。
確認したいのは、次のような点です。
- 作業範囲を明確に区切れるか
- 先輩職人が途中と完了時に確認できるか
- やり直しが発生した際に工程を立て直せるか
- 臭気や騒音、施工時間に厳しい制約がないか
- 若手へ任せる作業と、経験者が担当する作業を分けられるか
工期が短くても、夜間や休業日に作業が集中し、失敗が全体工程へ直結する現場は、初期の育成には向きにくくなります。反対に、10日程度かかっても、作業範囲を区切り、途中で品質を確認できる現場は育成に使いやすくなります。
「何日で終わるか」よりも、「途中で確認しながら任せられるか」を受注判断の軸にします。
2.防水工事を分離発注する会社を営業先に選ぶ
施設運営会社や不動産管理会社への直接営業では、一式対応を求められる可能性があります。防水工事だけで小規模案件を確保したい場合は、クリニックや教育施設などから改修工事を受けている元請会社へ、専門工事会社として入る方法が現実的です。
候補となるのは、戸建てや小規模改修から事業領域を広げている工事会社、塗装を中心に修繕工事を請け負う会社、施設改修の元請会社などです。
ただし、売上規模や業種だけでは、防水工事を外注しているか判断できません。営業時には、次の点を確認します。
- 防水工事を自社施工しているか、協力会社へ発注しているか
- 一式発注か、工種ごとの分離発注か
- 数日から10日程度の工事がどのくらい発生するか
- 既存の防水会社で対応しきれない場面があるか
- 価格と品質のどちらを重視して協力会社を選ぶか
相談先の会社と相性がよかった発注元は、価格だけでなく施工品質を重視していました。若手の育成を目的にする場合でも、受注先へ伝えるべきなのは「練習のために仕事が欲しい」という事情ではありません。経験者が品質を管理する体制と、専門工事会社としての対応力です。
営業先は、建物の種類ではなく「防水を分離発注するか」「品質を見て協力会社を選ぶか」で絞ります。
3.若手に任せる範囲を段階的に広げる
育成用の小規模工事では、最初から一人で現場を完結させる必要はありません。単独作業までの段階をあらかじめ設けます。
たとえば、進め方は次のように整理できます。
- 先輩と同じ現場に入り、決められた作業を担当する
- 限定した範囲を若手が担当し、先輩が途中確認する
- 若手が段取りと作業を担当し、先輩が完了確認する
- 制約の少ない小規模工事を、確認体制付きで任せる
- 経験した条件に近い現場から単独対応へ移す
ここで大切なのは、現場ごとに担当範囲を決めることです。「今日はできそうだから任せる」という運用では、指導者によって基準が変わってしまいます。
若手に任せる作業、経験者が判断する部分、途中確認のタイミング、最終的な承認者を着工前にそろえておくと、現場での指示も明確になります。
育成は年数ではなく、任せた範囲と確認結果を積み重ねて進めます。
4.品質確認の基準を、単独作業へ進む判断材料にする
「そろそろ一人で行けそうだ」という感覚だけで判断すると、本人にも指導者にも不安が残ります。小規模工事ごとに、少なくとも次の点を確認できるようにします。
- 指示された作業範囲を理解できていたか
- 決められた手順と時間の中で作業できたか
- 途中確認で修正が必要だった箇所は何か
- 完了時の品質に問題がなかったか
- 次回、一人で任せられる範囲はどこまでか
この確認は、若手を評価するためだけのものではありません。どの条件の仕事を営業で増やすべきかを判断する材料にもなります。
たとえば、特定の規模や条件の工事で経験を積みやすいと分かれば、似た案件を持つ元請会社への営業を増やせます。反対に、短工期でも臭気や騒音の制約が厳しく、経験者の付き添いが欠かせないのであれば、初期育成用の案件からは外したほうが進めやすくなります。
品質確認の記録を営業先の選定へ戻すことで、採用、育成、案件獲得がつながります。
5.クリニックや教育施設は、営業前に施工条件を確認する
クリニック、保育園、幼稚園などは、小規模工事が発生する可能性がある一方、施設ごとの制約が大きい領域です。営業先として検討するときは、案件数だけでなく、施工可能な条件を確認します。
特に見ておきたいのは、休診日や休園日に施工を収められるか、利用者がいる時間帯に臭気や騒音が発生しないか、工程変更の余地があるかという点です。
若手の育成に使う場合は、通常より確認や指導の時間が必要になります。施工可能時間が短く、工程に余裕がない現場では、経験者中心の配置が適しています。
施設工事は「規模が小さいから育成向き」と判断せず、臭気、騒音、利用時間、施工可能期間を先に確認します。
まとめ
未経験者や若手職人を採用しても、大規模現場しかなければ、補助作業から単独作業へ移る機会をつくりにくくなります。1週間から10日程度で完了する小規模工事は、その間をつなぐ有効な選択肢です。
ただし、工期の短さだけで案件を選ぶと、施設運営上の制約や品質リスクがかえって大きくなる場合があります。
整理したいポイントは次の4つです。
- 若手に任せられる作業範囲を区切れるか
- 経験者が途中と完了時に品質を確認できるか
- 防水工事を分離発注する営業先か
- 臭気、騒音、施工可能期間を管理できるか
小規模工事を育成の場にするには、案件獲得だけでなく、作業の切り分け、指導者の配置、品質確認まで一体で設計することが重要です。
この仕組みができると、「採用できたが任せる仕事がない」という状態を避けやすくなります。若手が経験を積める仕事を意識して確保することは、営業施策であると同時に、将来の施工体制をつくる取り組みでもあります。
若手に任せられる工事条件と営業先を一緒に整理したい方へ
育成向けの小規模工事を増やすには、自社の施工体制を見ながら、営業先、受注条件、教育の進め方をそろえる必要があります。「うちの場合、どの工事から任せるべきか」「どのような元請会社を探せばよいか」という段階から整理して構いません。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。若手の教育体制と案件獲得を切り離さず、ものづくりに集中できる施工体制づくりを一緒に考えます。
状況を伺ったうえで必要な整理先をご案内しており、無理にサービスを勧めることはありません。