国土交通省は、令和8年熊本地震で煙突が倒壊する被害が生じたことを受け、高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突について調査した結果を公表しました。対象は全国で444本あり、そのうち180本、約4割で損傷・劣化が確認されています。今後、各事業を所管する省庁等を通じて、所有する事業所等に応急的な補修の取組が要請され、特定行政庁も補修方法等の相談や必要な指導を行う方針です。
公表日 | 令和8年10月23日 |
公表主体 | 国土交通省 住宅局 |
調査対象 | 高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突 |
対象本数 | 全国444本 |
損傷・劣化が確認された本数 | 180本(約4割) |
主な対象分野 | 廃棄物処理、製鉄、製紙、化学、セメント製造、電気、ガラス製造、製油、非鉄金属製錬、食品、医薬品等、下水道、製塩、その他 |
今後の対応 | 所管省庁等による応急的な補修の要請、取組状況のフォローアップ、特定行政庁による相談対応・必要な指導 |
今回のポイントは「古い大規模工作物の安全確認」が動き出していることです
今回の発表は、単なる調査結果の公表ではありません。建設業の目線で見ると、大規模な既存工作物について、点検・補修・行政対応が具体的に動き始めているという点が重要です。
対象は「高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突」です。一般の住宅や小規模建築物とは異なりますが、廃棄物処理施設、工場、発電関連施設、製紙・化学・セメントなど、地域の産業インフラに関わる施設が含まれています。
中小建設業にとっては、直接の所有者でなくても、次のような形で関係してくる可能性があります。
- 工場・処理施設・プラントを顧客に持つ会社への点検・補修相談
- コンクリート補修、防食、足場、仮設、解体、設備周辺工事の引き合い
- 行政や元請からの安全対策・施工計画に関する確認
- 高所・狭所・腐食環境での作業安全管理の見直し
特に、地域で工場営繕や公共・準公共施設の維持管理を担っている会社にとっては、「自社の営業範囲に該当施設があるか」だけでも確認しておく価値があります。
調査結果では、全国444本中180本で損傷・劣化が確認されています
国土交通省の調査では、高さ60mを超える鉄筋コンクリート造煙突が全国に444本確認されました。そのうち、損傷・劣化が確認されたものは180本です。
別紙では、業種別の本数も示されています。主なものを見ると、対象本数が多い業種は次のとおりです。
業種 | 対象煙突数 | 損傷・劣化あり |
|---|---|---|
廃棄物処理 | 128本 | 24本 |
製鉄 | 87本 | 31本 |
製紙 | 61本 | 36本 |
化学 | 56本 | 25本 |
セメント製造 | 44本 | 29本 |
電気 | 30本 | 13本 |
この数字から見えるのは、煙突の問題は一部の特殊施設だけでなく、地域の産業設備全体に広がる維持管理テーマだということです。
特に、製紙、セメント製造、化学、製鉄などでは、高温・酸性成分・排ガス・湿気など、コンクリートや内部保護材に厳しい環境が想定されます。今回の資料でも、ひび割れ、鉄筋のかぶり、中性化、内側保護材、頂部の腐食といった補修項目が挙げられています。
つまり、これは「地震で壊れたかどうか」だけの話ではありません。地震をきっかけに、経年劣化していた既存工作物のリスクが表面化したと捉えるべきです。
応急的な補修方法も示されています
別紙2では、損傷・劣化が確認された煙突について、応急的な補修方法の例が示されています。
主な補修項目は次の5つです。
- ひび割れの補修
- 鉄筋のかぶり厚さを増す補修
- 鉄筋の発錆や中性化の進行を抑制する補修
- 煙突内側保護材の補修
- 煙突頂部を切除して改修する補修
たとえば、ひび割れについては、ひび割れ幅が約0.3mm以下で発生が少ない場合、V字型またはU字型に溝を掘り、低粘度のエポキシ系樹脂などをパテ状にして充填する方法が例示されています。
また、ひび割れの発生が多い場合には、樹脂充填に加えて、耐食処理した補強バンドで締め付ける方法も示されています。
内側保護材については、表面に付着した硫酸分を水を使わずにブラシやほうき等で清掃し、耐酸性・耐熱性の大きいセメントモルタルを塗る方法が挙げられています。腐食が著しい場合には、損傷した内側保護材を取り除き、新しい保護材を施すとされています。
ここで大切なのは、国交省が示した補修方法は「誰でもそのまま施工してよい標準仕様」というより、特定行政庁や関係者が相談・指導する際の応急的な考え方として読むべきだという点です。
煙突は高所構造物であり、内部環境も特殊です。実際の施工では、構造安全性、劣化範囲、排ガス環境、足場・昇降設備、作業員の安全、施設の稼働状況などを踏まえた判断が必要になります。
中小建設業が見ておきたい実務影響
今回の発表から、中小建設企業が具体的に見ておきたいのは、次の3点です。
1. 既存顧客に該当施設がないか
工場、廃棄物処理施設、下水道関連施設、セメント・製紙・化学系の事業所などと取引がある会社は、顧客が高さ60m超のRC煙突を所有していないかを把握しておくとよいです。
もちろん、行政や所管省庁から所有者側に直接連絡が入るケースもあるはずです。ただ、顧客側では「どこに相談すればよいか分からない」「補修方法を聞いても施工側の段取りが見えない」ということが起こり得ます。
日頃から営繕や修繕を任されている建設会社が、落ち着いて一次相談に乗れるだけでも、顧客にとっては大きな安心材料になります。
2. 高所・特殊環境工事として安全計画を厳しめに見ること
煙突補修は、通常の外壁補修とは条件が違います。高所作業、狭所作業、腐食環境、粉じん、既存躯体の脆弱化などが重なる可能性があります。
そのため、受注を検討する際には、工事金額や工期だけでなく、少なくとも次の確認が必要です。
- 足場や昇降設備を安全に設置できるか
- 煙突内部に入る作業があるか
- 腐食物、粉じん、硫酸分などへの対策が必要か
- 施設を稼働しながら施工するのか、停止して施工するのか
- 劣化範囲が事前調査どおりか
- 構造的な安全性について、設計者・専門技術者の判断が得られているか
「補修工事」と呼ばれていても、実態は高度なリスク管理が必要な維持更新工事です。安易に通常単価の延長で見積もると、現場側に無理が出ます。
3. 行政対応を含む工事になる可能性を見込むこと
今回、国土交通省は特定行政庁に対して、調査結果と応急的な補修方法を周知するとしています。また、特定行政庁においても、事業者の取組状況を把握し、補修方法等の相談に応じ、必要な対応を指導するとされています。
つまり、今後の補修は、所有者と施工会社だけで完結するとは限りません。行政への相談、補修方針の説明、施工内容の整理、記録の提出などが必要になる可能性があります。
中小建設業としては、見積書だけでなく、調査記録、写真、補修範囲、使用材料、施工手順、安全計画を整理しておくことが重要です。
特に元請や所有者から相談を受ける場合には、最初の段階で「行政への確認が必要か」「設計者や構造の専門家を入れるべきか」を切り分けることが、後のトラブル防止につながります。
これは「維持管理の時代」に入ったことを示すニュースです
今回の煙突調査は、対象としては限定的です。しかし、建設業界全体への示唆は大きいです。
高度成長期以降に整備された工場、処理施設、インフラ関連施設の多くは、すでに長い時間を経ています。地震や台風などの災害が起きたとき、被害の大小を分けるのは、発災時の揺れや風だけではありません。その前から進んでいた劣化を、どれだけ把握し、補修していたかが問われます。
中小建設業にとって、これは新築需要だけではない仕事の広がりを意味します。
- 劣化診断
- コンクリート補修
- 防食・耐熱・耐酸対策
- 足場・仮設計画
- 工場営繕
- 行政対応を含む修繕計画
- 災害後の緊急点検
こうした領域は、地域密着の建設会社が力を発揮しやすい分野です。顧客の設備を知っている。担当者の顔が見える。急な相談にも現場を見に行ける。この距離感は、大規模案件とは別の価値になります。
一方で、専門性と安全管理が足りないまま受けると、会社にとっても現場にとっても負担が大きくなります。これからの維持管理工事は、「取れる仕事」ではなく「安全に納められる仕事」として見極める力が必要です。
自社の顧客・体制に置き換えて整理しておきたいこと
今回のようなニュースは、「うちは煙突工事をやっていないから関係ない」と切り離すよりも、自社の顧客の中に、老朽化した工作物や特殊な補修ニーズが眠っていないかを考えるきっかけにするとよいです。
たとえば、工場営繕をしている会社なら、煙突に限らず、タンク、架台、煙道、ピット、擁壁、屋上設備基礎などにも同じような論点があります。公共施設の修繕をしている会社なら、点検結果をどう工事化するか、行政説明に耐える資料をどう整えるかが重要になります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。今回のような維持管理・補修領域についても、「自社の顧客にどう提案すべきか」「安全管理や見積の考え方をどう整えるか」「工場営繕を今後の柱にできるか」といった段階から一緒に整理できます。
無理な営業はいたしません。うちの場合はどう考えるべきか、何から整理すべきか分からないという段階でも大丈夫です。建設企業がものづくりに集中できるよう、次の一手を落ち着いて考える場としてご活用ください。