設計者の住宅を数棟手がけても、協業先として声がかからない工務店
施工実績があることと、設計事務所から「自分の設計を任せられる」と思ってもらうことは、別の段階です。
栃木県にある、創業から40年以上の工務店。自社の新築住宅を手がけてきた会社です。一級建築士の設計による住宅も、数棟施工しています。意匠や収まりと、気密などの性能を同じ現場で両立した実績もあります。
一方で、地域の設計事務所から継続して声がかかる立場には、まだ入れていませんでした。
「設計事務所からよく声のかかる工務店が、地元に何社かあるんです。今、うちはそこには入っていないんですね」
手応えを感じているのは、最近施工した一軒の住宅です。経営者は、意匠と性能のバランスが、設計者にも関心を持ってもらえるのではないかと考えていました。
実績がないわけではありません。任せてもらえれば応えられる、という思いもあります。次に整理したいのは、その実績の「どこを、誰に、どう伝えるか」でした。
施工力や性能の説明だけでは、設計意図を形にできるかが伝わらない問題
設計者に伝えたいのは、自社の施工力の高さだけでなく、「相手がつくりたい建物に、どう応えられるか」です。
経営者が、設計事務所への働きかけで重視していた問いがあります。
「自分が設計したこの建物を、本当にお宅でつくれるのか。電話をかけているあなたには、その知識があるのか。そこを見られる気がします」
創業年数や施工棟数は、会社を知ってもらう材料になります。気密・断熱への取り組みも、大切な強みです。ただ、それを順に説明するだけでは、相手の設計への対応力までは見えません。
設計者が大切にした意匠を、どう理解したのか。施工上、どこが難しかったのか。収まりと性能をどう両立したのか。そうした説明があって、施工実績が「自分の案件も相談できそうだ」という判断材料になります。
この工務店で有力だった最近の住宅も、「設計者に好まれそう」という見立ての段階です。どの事務所にも響くと決まったわけではありません。実績の良さを一方的に語る前に、相手の設計と重なる点を確かめる必要があります。
不動産会社向けと同じ資料や話し方では届かない、設計者の関心
同じ工務店の紹介でも、相手が施工会社を選ぶ理由によって、伝える内容は変わります。
経営者は、営業先をひとまとめにしないことを繰り返し求めていました。
「不動産会社と設計事務所は、分けた方がいいと思います。考えていることが全く違うんです」
施主への紹介候補に加えてもらう話と、設計した建物の施工を任せてもらう話。この二つでは、相手が確かめたいことが違います。設計事務所向けには、設計内容と施工実績を結びつけた説明が必要になります。
その違いがよく表れていたのが、「収まり」という言葉でした。
「収まりは、設計者がすごく気にするところです。そこが分かっていると、『この人、分かっているな』と思ってもらえるので」
ただし、言葉を使えば伝わるわけではありません。実際の施工箇所について話せなければ、理解しているかどうかを判断してもらう材料にはなりにくいでしょう。
また、相手によって意匠と性能への考え方も異なります。この経営者自身も、自社の強みが響きやすい設計事務所と、そうではない事務所があると見ていました。
「設計事務所なら同じ訴求でよい」と考えず、相手が大切にする設計と、自社が説明できる施工経験の接点を探すことが出発点です。
相手の設計傾向に合う一軒を選び、意図・課題・対応を伝える準備
資料を広く配る前に、相手の設計傾向を見て、自社のどの実績なら会話ができるかを整理すると進めやすくなります。
この工務店には、設計者の住宅を施工した経験と、意匠・収まり・性能を両立した実績があります。それを、設計事務所ごとの関心に合わせて使う考え方です。
相手のホームページと、自社の施工実績を照らし合わせる
候補先を調べる際、経営者が強く求めていたのは、ホームページの情報でした。
「聞いたことのない会社だと、ホームページを見て判断したいんです」
設計事務所への働きかけでも、まず公開されている作品や設計方針を確認します。そのうえで、自社の実績と比較します。
確認したいのは、「有名な事務所か」だけではありません。相手の意匠や性能への考え方に対して、具体的に説明できる経験があるかです。
意匠と性能のバランスに接点があれば、その両立を説明できる住宅を選びます。収まりへの対応を伝えたいなら、完成写真だけでなく、施工上の判断まで説明できる事例を選びます。
優先する判断軸は、実績の見栄えだけでなく、相手の設計について具体的な話ができるかどうかです。
ホームページだけで相性を決め切る必要はありません。そこで立てた見立てを、会話で確かめていきます。
施工事例を「意図・課題・対応」の順で整理する
設計者向けの資料は、完成写真や性能の紹介に、施工の判断を添える形が考えられます。まずは、手元にある一軒について、次の内容を整理します。
- 設計者が意匠や収まりで大切にしていたこと
- それを施工するうえで課題になったこと
- 設計意図を踏まえて検討・調整したこと
- 意匠と気密・断熱などの性能を、同じ住宅でどう成立させたか
大切なのは、実際に行った対応だけを書くことです。代替案を検討したのであれば、何を守るための案だったのかを示します。性能を数値で示す場合も、記録を確認できる範囲にとどめます。
今回の工務店でも、最近の住宅を有力な入口と考えていました。ただ、具体的な収まりや調整内容までは、さらに聞き取る必要があります。
「意匠と性能を両立できます」という説明を、実際の一軒で何を考え、どう対応したかという説明に変えることが、資料づくりの要点です。
初回の会話を、施工実績の紹介から相手の課題確認につなげる
話し方も、会社概要を順番に読み上げる形とは切り分けます。相手の設計と接点のある事例を入口にし、どこに関心があるかを確かめます。
会話の準備は、次の順で整理できます。
- 相手の作品や設計方針と、自社実績の接点を確認する
- 関連する住宅の意匠・収まり・性能への対応を短く伝える
- 相手が施工会社に求めることや、困っていることを聞く
- 関心のある内容を、実際の施工に詳しい担当者との話につなげる
施工上難しい点があれば、「できません」で終わらせず、まず設計意図を確認します。そのうえで、成立させるための対応や代替案を検討します。設計者の考えを理解し、施工の課題に向き合えること自体が、伝えたい対応力です。
最初の連絡を担う人も、事例を理解しておく必要があります。経営者は「営業に必要なことがあれば、教えてほしいと聞いてほしい」と求めていました。分からない点を曖昧に話すより、事前に確認し、技術的な説明を誰につなぐか決めておく方が、会話を続けやすくなります。
まとめ
設計事務所に選ばれるための発信は、施工実績の量を見せることより、相手の設計意図に応えられる根拠を示すことが中心になります。
創業年数も、設計者の住宅を施工した経験も、意匠と性能を両立した実績も、大切な材料です。その材料を、相手の関心に合わせて組み直します。
まず候補先の作品や設計方針を確認する。次に、接点のある一軒を選ぶ。そして、設計意図、施工上の課題、実際の対応を整理する。この順なら、今ある実績から準備を始められます。
「うちは施工できます」から、「この設計で大切にしたいことを、一緒に確かめたい」へ。伝え方を少し変えることで、協業の可能性を具体的に話せるようになります。
設計事務所に伝える施工実績の整理から
自社のどの実績を、どの設計事務所に伝えるか。そこが決まっていない段階でも、整理から始められます。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。設計事務所との協業では、候補先と施工実績の相性、資料で示す内容、初回の会話や社内への引き継ぎ方を一緒に考えます。
「実績はあるけれど、何を強みにすればよいか分からない」という段階でもご相談いただけます。無理にサービスをお勧めすることはありませんので、自社の場合の進め方を整理する場としてお声がけください。