既存顧客の工事で収益のほぼ全てを賄い、15名弱の現場職が埋まっている専門工事会社
首都圏で集合住宅の原状回復工事を手がける、15名弱の専門工事会社があります。屋内配線に加え、エアコン、レンジフード、換気扇、浴室乾燥機などの交換にも対応。送電申請まで自社で進められます。
一人が車一台で月30〜40件を回り、会社全体では年間2,000件近い施工実績があります。既存顧客から安定して仕事を受けられている一方、収益のほぼ全てを一社からの工事で賄っている状態でした。
社長の言葉は率直です。
「今の仕事で手いっぱいです。ただ、完全に一社依存なので、何かあったときが怖い。別の事業の柱をつくりたいと思っています」
原状回復工事には主力メンバーを配置し、別に4名ほどの修繕班があります。新しい仕事に動ける可能性があるのは、この修繕班です。ただし、年度末に向けて既存案件が増えると、その余力もなくなります。
一社依存を下げたい意向はあっても、新規事業へ一気に人を振り向けられる状況ではありません。ここが、第二の柱づくりを考えるうえでの出発点です。
継続案件を取りに行くほど、2〜3班を動かせる体制が先に必要になる矛盾
新しい取引先の候補として挙がったのは、セキュリティ工事や施設管理に伴う電気工事です。首都圏では施工業者が不足しており、登録後に実績を積めば、継続的な依頼につながる可能性があります。
しかし、継続案件には相応の対応力が必要です。依頼を受けたときにすぐ動くには、最低でも一人から二人。受注量が増えれば、2〜3班を回す体制が求められます。
社長も、そこを冷静に見ていました。
「今の体制で2班、3班を回すのは厳しいです。採用の仕組みを変えようとしているので、ある程度めどが立ったときには、かなりいい話だと思います」
継続案件は魅力的です。一方で、受注後に「今月は対応できません」が続けば、発注は別の会社へ流れます。紹介や業者登録によって入口をつくれても、その先は現場対応の積み重ねです。
仕事を取れるかどうかより、受け続けられるかどうかを先に見なければなりません。人手が足りない状態で大きな入口をつくると、既存案件と新規案件の両方が窮屈になるおそれがあります。
新しい仕事への関心はあっても、対応人数・教育・商圏が既存体制と合わない状況
新規事業を考えるときは、案件の有無だけでなく、現在の技術と体制に合うかを見る必要があります。
たとえば、家庭向けセキュリティ工事は一人または二人で対応できる案件があります。施工そのものも、既存の電気工事や在宅修繕と大きく離れているわけではありません。ただ、家庭内へ入る仕事では、登録や研修に時間がかかり、訪問時の細かなルールもあります。
「在宅中の修繕も行っているので、工事内容が違うだけという印象です」
技術面には近さがあります。一方で、同社はBtoCを積極的に広げたいわけではありませんでした。
「正直、今のところBtoCはあまりやりたくありません。BtoBでできることがあればと考えています」
また、継続案件を安定して受けるには、施工力だけでなく営業担当者からの信頼も必要です。最初の依頼へ素早く対応し、「あの会社なら任せやすい」と認識されてから、少しずつ件数が増えていきます。
対応エリアも重要です。現在の商圏から大きく外れれば、移動時間が増えます。少人数の会社では、その移動が一日の施工件数に直結します。
新規事業の候補は、少なくとも次の5点で見比べる必要があります。
- 既存の電気・設備技術をどこまで転用できるか
- 一件あたり何人が必要で、何班を確保すべきか
- スポット案件か、継続的に対応を求められる案件か
- 現在の商圏内で無理なく回れるか
- 登録や研修を含め、どれほどの教育負荷があるか
売上規模だけで選ぶのではなく、今の人員で約束を守れる仕事かどうかを見ることが大切です。
空いている修繕班で改修工事の実績をつくり、採用後に継続案件へ広げる段階設計
最初の一歩として現実的なのは、既存技術に近く、受注のたびに対応可否を判断できる改修工事です。
同社の場合、候補に挙がったのは照明のLED化などでした。
「スポットの改修工事なら対応できます。LED化であれば、比較的スムーズに進められると思います」
施設の改修工事は、毎日必ず発注される仕事ではありません。その分、案件ごとに既存工事との日程を見ながら判断できます。先に業者登録を済ませ、声がかかった段階で人員と工期を確認する進め方も可能です。
人手に余裕がない時期は、継続受注を急ぐより、断続的な改修工事で新しい発注先との実績をつくるほうが進めやすくなります。
進め方は、次の3段階に分けると整理しやすくなります。
1.既存技術に近いスポット案件から始める
屋内配線、機器交換、照明改修など、現在の施工経験をそのまま活かせる案件を選びます。新しい設備や施工手順の習得が必要な場合も、教育負荷が小さいものを優先します。
案件を受ける前には、必要人数、施工日数、対応エリアを確認します。4名ほどの修繕班から一部を出しても、既存案件へ影響が出ない範囲に絞ることがポイントです。
2.業者登録と発注窓口づくりを先に進める
大手企業や施設管理会社との取引では、業者登録や書類審査に時間がかかることがあります。仕事が必要になってから始めると、実際の受注までに間が空きます。
そのため、施工体制に余裕がない時期でも、登録条件や必要書類の確認までは進められます。ただし、登録先を増やしすぎると管理負担も増えます。まずは既存技術との相性がよく、現在の商圏で対応できる発注先に絞るのがよいでしょう。
3.採用・育成の進捗に合わせて継続案件へ移る
継続案件に移る目安は、受注量ではなく、固定的に動かせる班ができたかどうかです。
- 二人前後を継続案件へ配置できる
- 急な依頼にも代替要員を出せる
- 新しい工事の研修を受ける時間がある
- 既存顧客の繁忙期と重なっても対応できる
こうした条件がそろってから、セキュリティ工事などの継続案件へ広げます。採用した人材をすぐ新規事業へ単独配置するのではなく、まず改修工事で既存社員と動き、施工品質や訪問時の対応を身につけてもらう進め方も考えられます。
「スポット工事で関係をつくる」「採用と育成を進める」「専属に近い班ができたら継続案件を増やす」という順番なら、既存事業を守りながら第二の柱を育てられます。
まとめ
一社依存から抜けるために、最初から大きな売上をつくる必要はありません。むしろ、既存案件で現場が埋まっている会社ほど、新規事業の入口を小さく設計することが重要です。
今回のような会社であれば、判断の順番は明確です。
- 既存技術に近い改修工事を選ぶ
- 空いている班で対応できる案件だけを受ける
- 業者登録と発注窓口を整える
- スポット案件で施工実績と信頼を積む
- 採用・育成の進捗に合わせて継続案件へ広げる
「一社依存は下げたい。でも、今は何もできないほど忙しい」という状態は珍しくありません。社長自身が見積もりや既存案件への対応で手いっぱいなら、新規事業を一気に立ち上げるのは現実的ではないでしょう。
第二の柱は、新しい事業を突然始めることではなく、今ある技術と人員の延長で受注先を一つずつ増やすところから始まります。
自社に合う第二の柱を、現場体制から整理するために
新しい取引先を増やしたくても、「どの工事なら今の班で受けられるか」「スポット案件と継続案件のどちらから始めるべきか」は、会社ごとに異なります。採用計画や繁忙期、対応エリアも合わせて考える必要があります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の販路拡大、人材確保、組織づくり、原価管理、デジタル活用までを横断して整理し、実行を支援しています。
「うちの場合は何を第二の柱にできるのか」「まず何から整理すればよいかわからない」という段階でも構いません。現場の余力と既存技術を確認しながら、無理のない進め方を一緒に整理します。無理にサービスを勧めることはありませんので、検討材料をそろえる場としてご活用ください。