従業員の退職で社長中心の運営に戻った、少人数の原状回復会社
売上を伸ばすために取引先を増やしたくても、増えた仕事を受けられる体制がなければ、新規開拓だけでは前に進めません。 首都圏で賃貸住宅の原状回復を手がける、ある会社も、その分かれ道に立っていました。
主な取引先は地場の不動産管理会社などで、単身者向けの住戸をスピーディーに原状回復できることと、丁寧な対応を強みにしています。工事は自社ですべて施工するのではなく、協力会社へ分離発注する形です。
目指しているのは、大人数の組織ではありません。将来も数名の社内体制で、協力会社と連携しながら売上を伸ばしていく姿です。ところが、在籍していた従業員が退職し、現在は社長が一人で業務を担っています。足元の仕事にも十分に手が回らず、採用の必要性を感じていました。
採用活動自体は外部の支援を受けて進めています。当初は営業事務に近い人材を求めていましたが、その後、実務を担うプレーヤーへ募集の方向を変更しています。新たな採用にはまだ至っておらず、まずは経験のある担当者を一人迎えたいという状況でした。
取引先を増やす意欲と、増えた仕事を引き受けられない体制のずれ
この会社の課題は、採用と営業のどちらも必要なのに、先に何を整えれば売上につながるかを決めにくいことです。 取引先を増やしたい意向は明確ですが、社長一人では現状の業務にも余裕がありません。
ここで新規開拓を先行させると、仕事の相談が増えても、社内で対応しきれない可能性があります。一方、採用を優先しようとしても、人を迎えるための費用をどこまで先に投じられるかという問題が残ります。
実際、この会社は採用に大きな費用を投じている状況ではなく、新たな支援を活用する判断にも、足元の売上と投資余力が関わっていました。人がいれば売上を増やしやすいものの、その人を採るための投資にも売上の裏付けが必要です。
さらに、分離発注で工事を進める会社では、社内の人員だけを増やせば受注を伸ばせるわけではありません。社長自身も、プレーヤーが増えれば協力会社も増やす必要があると捉えていました。
つまり、確認したいのは単純な従業員数ではなく、社内で案件を動かせる力と、協力会社が施工できる力の両方を含めた受注能力です。この二つを分けて見ないと、人を採っても工事を頼めない、協力会社を増やしても社長の手が空かない、というずれが生じます。
分離発注では、社内担当者と協力会社のどちらも売上の上限になる構造
施工を外部に任せる体制でも、受注した工事を進める社内の担当者は必要です。 協力会社がいることと、社長以外に仕事を任せられることは、別の条件だからです。
この会社で営業事務からプレーヤーへ採用方針が変わった背景には、単に補助してくれる人ではなく、実務を担う人が必要だという認識があります。経験者を求めていることからも、社長が多くの時間をかけて教える前提ではなく、業務を任せられる人材への期待が読み取れます。
ただし、プレーヤーという呼び方だけでは、採用する役割は十分に定まりません。分離発注を基本とする会社であれば、自ら施工する人を増やしたいのか、工事を進める担当者を増やしたいのかによって、求める経験も変わります。まずは社長のどの仕事を任せたいのかを、募集内容とそろえる必要があります。
もう一つの背景は、協力会社の対応力も同時に必要になることです。社内の担当者が増えて案件を動かせるようになっても、施工を依頼できる先に余力がなければ、受注の上限はそこで止まります。反対に、協力会社に余力があっても、社内で案件を進められなければ、その力を十分に使えません。
また、この会社が評価していた既存の仕事には、工事範囲が比較的明確で、進めやすいという特徴がありました。少人数の会社にとっては、売上額だけでなく、案件を動かすためにどれだけ社長の手が必要かも重要です。
新規開拓の優先順位は、仕事の多さだけでなく、自社の限られた対応力で無理なく進められるかによっても変わります。
業務量・任せる仕事・協力会社の余力・投資余力から決める着手順
この会社では、新規開拓を広げる前に、社長に集中している仕事と、それを任せる先を整理することが優先です。 ただし、それは採用への投資を一度に増やすことと同じではありません。既に進めている採用活動も生かしながら、受注能力を増やす順番を決めていきます。
最初に確認する四つの条件
判断の土台は、次の四つです。相談段階では詳しい業務量や協力会社の余力まで確認できていないため、ここを整理してから具体的な施策を選びます。
- 現在の業務量:既存の仕事だけで手いっぱいなのか、追加の仕事を受けられる余地があるのか。
- 社長に集中している仕事:何を任せられれば、今の業務が回り、次の受注にも対応できるのか。
- 協力会社の対応余力:既存の依頼先で追加の工事に対応できるのか、拡充が必要なのか。
- 採用への投資余力:採用活動と入社後の人件費を、足元の売上の中でどこまで負担できるのか。
大切なのは、四つを別々に判断しないことです。たとえば、社内担当者が不足していても、採用後に依頼できる協力会社が足りなければ、担当者を迎えるだけでは売上を伸ばしきれません。採用の見通しと協力会社の受け入れ余力を、同じ前提で確認します。
採用するのは「もう一人」ではなく、社長の仕事を任せる担当者
採用を優先する場合は、人数より先に役割を決めます。この会社であれば、営業事務からプレーヤーへ切り替えた理由を、現在の業務負担に照らして整理するところが出発点です。
経験者に何を任せたいのか、入社後も何は社長が担うのかを明確にし、その内容を既存の採用支援先と共有します。「経験がある人」という条件だけでなく、任せたい仕事を担える経験かどうかを見ることで、募集と採用判断の軸がそろいます。
採用の目的は、在籍人数を増やすことではなく、社長以外でも仕事を進められる範囲を増やすことです。 ここが曖昧なままでは、人を迎えても判断や対応が社長に戻り、負担が変わらない可能性があります。
協力会社の拡充は、担当者の採用と切り離さずに進める
協力会社を増やすかどうかは、現在のつながりの数ではなく、追加の工事を実際に頼めるかで判断します。既存の協力会社に余力があるなら、まず社内の担当者を確保する意味が大きくなります。施工側の余力が乏しいなら、採用と並行して協力会社の開拓を進める必要があります。
ただし、協力会社の拡充だけで社長の仕事が減るとは限りません。社内の担当者を確保する取り組みと、施工を頼める先を増やす取り組みは、補い合う関係です。どちらが今の受注能力を制限しているかを見て、力のかけ方を変えます。
新規開拓は止めるか進めるかではなく、受けられる範囲に合わせる
新規開拓を本格的に広げる判断は、追加の仕事を誰が動かし、どこへ施工を依頼するかが見えてからです。この会社のように既存業務にも手が回っていない場合は、まず対応体制の回復に重心を置く方が、売上につながりやすいと考えられます。
一方、採用への投資余力を確保するために、足元の売上も必要です。そのため、営業を一律に止めるのではなく、得意とする単身者向けの原状回復など、現在の体制で対応可能な範囲を確かめながら進めます。
採用が進んだとき、協力会社の余力が変わったとき、売上の見通しが変わったときには、開拓の進め方も見直します。採用・協力会社の拡充・新規開拓を一度に最大化するのではなく、受注能力の変化に合わせて順番と量を調整する進め方です。
まとめ
社長一人で既存業務にも手が回らない原状回復会社では、取引先を増やす前に、増えた仕事を受けられる体制を整えることが優先です。 ただし、採用だけに予算を振り切ればよいわけではありません。
分離発注の会社では、社内で仕事を進める担当者と、施工を担う協力会社の両方が必要です。現在の業務量、社長から任せたい仕事、協力会社の余力、採用への投資余力をそろえて見ることで、何から着手するかを決めやすくなります。
まずは、既に進めている採用活動の募集内容が、今の社長の負担を減らす役割になっているかを確認する。そのうえで、担当者が増えた後の工事を協力会社に依頼できるかを確かめ、対応できる範囲に合わせて新規開拓を広げていく。この順番なら、売上を伸ばす意欲を、実際に受けられる仕事へつなげていけます。
採用と新規開拓の順番を、自社の対応力から整理するために
採用を先に進めるべきか迷う段階でも、まずは社長に集まっている仕事と、協力会社を含めた対応力から整理できます。 人を採る方針や、新たな支援を使うことが決まっている必要はありません。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。原状回復会社の採用と新規開拓についても、足元の業務量や投資余力を踏まえ、どこから手をつけるかを一緒に考えます。
うちの場合は何が受注の上限になっているのか、今の募集内容でよいのか、といった整理からでもご相談いただけます。無理に支援の利用を勧めることはありませんので、次の一手を考える際の相談先としてご活用ください。