十数名に成長しても財務・総務・人事は社長一人という体制
社員が増えた今、必要なのは社長の作業を速くすることより、社長以外でも回せる事務体制への切り替えです。
神奈川県にある、公共インフラの塗装・補修を手がける専門工事会社の相談です。数名で始まり、現在は12名ほど。今後の入社を含めると14名ほどになる見込みです。
社員は職人や現場管理の担当者です。事務の専任者はいません。社長自身も現場に出ながら、財務・総務・人事を担っています。
「財務、総務、人事。全部、私一人でやっているんです」
仕事や協力会社には困っていません。売上も利益も伸びています。それでも、会社を支える事務の体制は、少人数で始めた頃のままです。
社長が求めていたのは、さらに仕事を増やす支援ではありませんでした。
「まずバックオフィスの仕組みをつくってほしい」
人が増えた会社を、これからどう運営するか。その土台を整えたいという相談です。
社長の作業時間を減らすだけでは残る引き継ぎの難しさ
目標は、一時的な事務負担の軽減ではなく、担当者が交代しても引き継げる状態です。
業務を効率よく進めたいのか。それとも、自分の手から離したいのか。社長の答えは明確でした。
「手放したいです」
事務担当者を新しく雇う意向もあります。ただ、人が入れば解決するとは考えていません。
「誰が辞めても属人化しないようにして、引き継いでできるようにしたい」
ここが、この相談の大切なところです。社長が抱えていた仕事を、そのまま新しい担当者に渡すだけでは、仕事を知っている人が一人替わるだけになりかねません。
また、入力を任せても、その都度、社長がやり方を説明する必要があれば、手離れは限られます。
任せる相手を決める前に、何を渡せば仕事が進み、どこで社長の判断が必要になるのかを整えることが出発点です。
少人数時代の運営と入力代行だけでは埋まらない役割
不足していたのは作業の担い手だけでなく、業務の進め方を組み立てる役割でした。
具体的な対象として挙がったのは、帳簿への入力や、月ごとの数字をまとめる仕事です。現場ごとの予算は見ている一方、月次の数字を定期的にまとめる運用はできていませんでした。
「数字に強くて、ちゃんとした数字を私に上げてきてくれるのが一番です」
求めているのは、言われた内容を入力する人だけではありません。必要な数字をまとめ、社長が確認できる形まで整える人です。
社長は、外部の事務支援についても情報を集めていました。そこで説明を受けたのは、たとえば領収書の内容を、指定されたExcelに入力するような支援です。ただし、業務をゼロから組み立てるものではないと理解していました。
一方で、財務の実務経験を持つ人から、仕組みづくりや助言を受ける方法も検討していました。こちらも、具体的な担当範囲はこれから確認する段階です。
入力を代行する支援と、入力の前後を含めて業務を設計する支援は、引き受ける役割が違います。
すでに手順が決まっているなら、入力代行は有効です。手順自体が社長の中にあるなら、その整理を誰が担うかも決める必要があります。
業務を渡せる形に整えてから採用・外部委託・AIを組み合わせる順序
先に業務と判断の境目を整理し、その後で担い手と道具を選ぶと、社長の手を離れる体制を考えやすくなります。
社長自身も、順序についてはこう話していました。
「まず仕組みをつくって、そこからAIを活用していきたい」
採用か、外部委託か、AIか。最初から一つに絞る必要はありません。それぞれに何を任せるかを決めるために、まず仕事の中身を整理します。
帳簿入力から月次の数字までを一つの業務として棚卸しする
「財務を任せたい」を、担当者が動ける仕事の単位に分けます。
今回であれば、帳簿に入力する作業と、月ごとの数字をまとめて社長に報告する仕事が対象になります。この二つを分けて書くだけでも、単純な入力支援で足りる部分と、経験のある人に任せたい部分が見えてきます。
整理したいのは、次の項目です。
- 何の情報がそろえば着手できるか
- どの手順で処理するか
- いつまでに、どの形でまとめるか
- 担当者だけでは決められず、社長に確認するのはどこか
最初から財務・総務・人事をすべて細かくまとめるより、社長が優先したいと話した帳簿入力と月次の数字から整理する進め方が考えられます。
手順と必要情報をそろえ、実務と承認を分ける
担当者には処理と報告を任せ、社長は内容を理解したうえで最終判断する形を目指します。
社長は、何も知らずに丸投げしたいわけではありませんでした。
「最後の決裁は私がするので、知らないで『いいよ』とは言えないです」
この意向を活かすなら、社長が毎回自分で処理する状態と、何も確認せず任せる状態の間をつくることが大切です。
担当者が行う手順、使う情報、報告する内容をそろえます。そのうえで、社長が何を見て承認するかを決めます。手順だけでなく、確認が必要になる条件も引き継げる形にしておくと、担当者が替わった際の説明も進めやすくなります。
自社に足りないのが作業者か、業務を組み立てる人かを見極める
外部支援を選ぶ判断軸は、経験や肩書だけでなく「どこからどこまで担うか」です。
比較するときは、入力作業の範囲だけでなく、次の点も確認したいところです。
- 現状の整理や手順づくりから関わるか
- 月次の数字をまとめ、社長への説明まで担うか
- 将来の事務担当者に引き継ぐところまで関わるか
今回の社長は、仕組みができれば事務担当者一人で回せるのではないかと考えていました。ただし、これは現時点の見立てです。採用人数は、業務の量と任せる範囲を整理してから判断する余地があります。
業務設計は経験のある外部人材に頼み、日々の処理は自社の担当者や事務代行に任せる。社長自身も、そうした組み合わせを検討していました。
AIは仕組みづくりの後に使いどころを決める
AI導入そのものではなく、誰が何を処理し、誰が結果を確認するかを先に決めます。
社長は、AIによる入力や振り分けにも関心を持っていました。ただ、まだ自社の業務で運用できている段階ではありません。
そのため、AIに任せたい処理と、使う情報、結果を確認する担当を、業務の手順と一緒に整理する必要があります。自社で使えるかを確かめながら、適用する範囲を決める進め方です。
社長が学びながら導入することにも意味があります。ただし、社長自身が新しい操作や処理をすべて抱え直しては、手放したいという目的から離れてしまいます。学ぶ対象は、日々の作業だけでなく、何を任せて、どこを確認するかにも置きたいところです。
まとめ
社員が増えた会社のバックオフィスは、人を足す前に「引き継げる仕事」に整えることが大切です。
今回の相談では、現場にも出る社長が財務・総務・人事を抱えていました。必要だったのは、入力の速さだけではありません。担当者が替わっても回り、社長には判断に必要な情報が届く体制です。
まず、帳簿入力や月次の数字をまとめる仕事を棚卸しします。次に、必要情報と手順、社長への確認事項をそろえます。そのうえで、採用・外部委託・AIに任せる範囲を決めます。
「誰に頼むか」の前に、「何を渡せば任せられるか」を整理する。そこから、社長一人で抱える体制を変える道筋が見えてきます。
社長の手から離したい事務を整理するところから
任せたい業務がまだ整理できていない段階でも、体制づくりの相談は始められます。
ネクスゲートは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場の動きや組織、デジタル活用とのつながりまで含めて整理し、実行まで支援しています。
バックオフィスについても、作業を代行する人が必要なのか、業務設計から担う人が必要なのかを一緒に確認します。そのうえで、事務担当者の採用や外部人材、AI活用の組み合わせを考えていきます。
「うちの場合は何から整理すればいいか」という段階でも大丈夫です。無理にサービスをおすすめするのではなく、自社に合う進め方を整理するところからお話を伺います。